第七十六話「神のデザイン世界」
1000/1/12 23:40 宮殿下層第800層
娘のマリーを抱いた勢いのまま迷宮最深部の大ボスラッシュに連続でチャレンジした俺とマリーは、何故か発動した十倍ブーストの力を生かしてそのまま800層目のボスの討伐に成功した。
二十一時から挑戦したこの相手。もう夜遅くだというのに、勢いに乗った俺達二人を支えるかのように世界中からの応援が集まっていたらしい。午後三時からの怒濤の三連抜きだった。最後の相手はHP十倍ブーストと潤沢な支援効果を持ってしても二時間四十分に渡る激戦となり、こちらも死力を尽くして戦った。正直途中で気力が尽きるかと思った。
八百階層の相手、奴は地底の王と名乗っていた。初めは身長二メートル程度の壮年の男性の姿をしており、様々な武器を持ち替えながらこちら二人を同時に相手していた。その形態を倒しきれば次は巨大化し、巨大な両手剣を片手で振り回しながら暴れていた。更にその後は四獣の山から流れてきた川を吸収してそれぞれの四獣の、地上で戦ったような何か変なものではなく本来のイメージの姿を取り、その四形態を倒した次には四獣を統べる麒麟の姿を取った。
それらを全て片付けても更に形態を変え巨大な鉄巨人の姿に。それを倒しても、鉄巨人の中から鎧を着た巨大な魔人の姿となって現れて、二刀流と一刀流を切り替え可能な剣で襲いかかってきた。
それを倒しても更に魔導師の姿となり強烈な魔法攻撃を行使してきて、それも全て倒すと最初の姿へと戻り、それまで以上に強烈な武器を使い回してこちらを翻弄してくるというそれはもう凄まじい相手だった。
奴が最後に用いたのは伝説の武器詰め合わせといったところだったか。こちらが少しでも対応しきってしまった時点で、容赦無くその武器の最後の力を解放して使い捨てにしていた。HPに十倍ブーストがかかっているにも関わらず一度に三割持っていかれるといった具合で。これをインチキブースト無しで倒せと言われたら正直無理だった。本来のHPなら一度に三回死んでいるのだから、どうしろというのだ、こんな化け物。
地底の王を倒した俺とマリーは、二人でエレベーターへと戻る。八百層ともなると相当地下深くで。地上階に上がるまでには結構な時間が必要だった。かなり高速で昇ってくれているようだがそれでも十五分程度はかかってしまう次第で。
そのエレベーターの中で二人。俺の左にくっついていたマリーが話し掛けてくる。普通に自然体で俺の左にくっついているあたり、うちの妻や娘達は本当にその位置が好きなのだな、と思う次第で。
「ねぇ、おとーさん」
「なんだい、マリー」
「私達、やったんだよね。最後までやり遂げたんだよね」
「あぁ、そうだな。……装置の画面を見ていなければ、結果報告画面とかは出ないから断言は出来ないが。どうせならUIの方に告知を入れてくれたら良いものを」
「うん、そうだよねぇ。……でもきっとこれで最後だったんだと思う。お父さんもそう思うでしょう?」
「あぁ、もちろんだ」
さすがにあの地底の王のような化け物クラスがもう一度出てきたら今度は倒せるかわからん。そもそも今のようなチートブーストがいつまでもかかるとは到底思えない。いくらなんでもこれはイカサマだろう。神様はどちらかというとイカサマ嫌いなイメージがあるんだよな。わざわざこの世界では人間側の攻撃魔法を禁止にしてあるぐらいだ。今日のようなイカサマ要素は期間限定要素だとしか思えない。
今はまだマリーの髪は金色に輝いたままだ。しかしこれもいつまで保つか。
ようやく地上階一階層にまで戻ってエレベーターから出ると、俺達二人は盛大な拍手の嵐に包まれた。地上階一階層の中央部は皆で集まれる大広間になっている。そこに、広間全体を埋めるかのように娘達が集まっているようだった。各地で応援ゲージ獲得の為に散っている娘達も相当するいるから全員では無いのだろうけれどね。
小さい子まで含めれば十万人もいる娘達。皆妻達のコピー体であるがゆえに同じ顔をしているが、その心はそれぞれに違っていることを俺はよく知っている。正直こんなにもコピー体の娘達を増やしてしまったことを、後悔する気持ちもある。彼女達全員に、恋人らしい一対一の十分な愛情を与えてやることなど到底不可能な状態になってしまっているからだ。そのあたりの救済措置が無いものだろうかと、以前から心の奥でずっと考え続けてきていた。
俺はそのまま、大広間をマリーと二人で歩く。出てきたのは南エレベーターからだが、中央エレベーター付近には号令をかける為の玉座的なものが設置してあって俺は基本的にそこから皆に話すことになっているからだ。南エレベーターから中央エレベーター付近までの一キロ弱を歩いて、俺はその場所に立つ。そこにはあらかじめルナとリースの二人も待っていた。もちろん周囲には他の妻達も順に並んでいる。
目線が合うとルナの方から俺に話し掛けてきた。
「アナタ、本当にお疲れ様でした」
「あぁ、ありがとう。それよりも、今回ので本当に終わりなんだよな?」
「えぇ、大丈夫ですよ。装置の画面の方にも、オールミッションコンプリート、と表示されていましたから」
「そうか……なら安心、か」
俺は玉座を背にして、周囲の娘達の方に向き直った。まぁ正直緊張するけれども、特に気負わずにやれば良いだろう。ところでマリーが俺の左にくっついたままなのだがこれはこれで良いのだろうか。
「皆、聞いてくれ。既に皆も知っているだろうが、先ほど遂に最後のボスが攻略された。俺達一族の悲願、神の使徒の一族が達成しなければいけない最終目標が遂に成し遂げられたんだ。これでもう俺達は滅亡の時に悩むことはない。俺達は皆、助かったんだ!」
もしもこのまま攻略出来ていなかったのならば、俺達一族は全員二ヶ月半ほど後、三月三十一日をもって全滅していたはずだった。俺がこの世界に来てから百年がタイムリミット。たったの三ヶ月弱しか余らなかったが、それでも俺は、俺達はやり遂げたんだ!
俺の宣言に応じて、娘達から歓声が上がる。「お父様万歳!」「マリーお姉ちゃん万歳!」「お父様も始祖お祖母様も万歳!」という声が聞こえてくる。始祖というのはオリジナルの妻達のことだ。下に四世代目の娘達も多いし、オリジナルの妻達は始祖とも呼ばれているからな。
皆喜んでいる。きっとこの世界中が喜んでくれていることだろう。となれば、記念式典だとかも色々あるかもしれない。そのあたりはきっとルナがまとめてくれるのかもしれないが、となればもう夜も遅いしいつまでも起きているわけにもいかないか。
「皆、明日からはまたきっと忙しくなるだろう。だから今は身体を休めて、明日からの変化に備えよう。俺達一族はこれからの身の振り方をじっくりと考えなくちゃいけない。だから今日はこれで皆休んでくれ。明日起きてから、また改めて祝うことにしよう」
盛り上がりに水を差すような発言になってしまったかもしれないが、でも仕方ないことだと個人的には考える次第で。もうすぐ日付も変わるからな。あまり夜遅くまで起きる主義では無いんだ。
まぁうちの娘達は皆お父さんのいうことはよく聞き入れてくれるから、大丈夫そうだけれども。
とりあえず言うべきことは言ったし、俺も引き上げて寝ることにするかな。そう考えていたら、俺の左にくっついていたマリーが心の声で語りかけてきた。
『おとーさん、おとーさん』
『うん、なんだい?マリー』
『私、今日はブロントのところに戻るね。えっちなことはしないけれど、今夜は一緒にいようと思う。――だって、きっとそれが最後になるだろうか』
『……そうか』
『おとーさん。明日からは改めて宜しくお願いします』
『うん。また明日な』
マリーは随分と気が早いようだが、それも仕方ないことだろうか。なんにせよ、四階層でエレベーターを降りた後は俺から離れて自室へと戻っていった。エレベーターには他の妻達も皆同時に乗っていて、俺とマリーの方をちらちらと見ていた。そんな目で見られても困るんだけども。
そうそう。マリーと心の声で話しているあたりで丁度日付が変わったようだった。日付が変わると同時に、それまでキラキラと綺麗に光っていたマリーの金髪が本来の綺麗な黒髪に戻った。どうやらあのチートブーストは一日限定だったということなのだろうか。……ブーストが効いている間に、一気に三階層クリアしておいて本当に良かった。もしも途中で切り上げていたら、下手したらクリア不可能になって詰んでたかもしれん……
その日の夜は一人で寝ることになると思いきや、ルナが他の皆には内緒でこっそりやってきた。
「ねぇアナタ。誕生日にはマリーとたっぷりお楽しみだったでしょう?」
「うん、おかげさまで」
「うふふ、娘に負けるわけにはいきませんから。今夜は私がたっぷりと相手をしてあげますね」
「ん、わかった」
そんな流れでその日の夜はルナ相手にたっぷりと楽しんだ。約百年目でも変わらない相変わらずの群を抜く爆乳っぷりが素晴らしかった。
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朝目を覚ました俺はUIの時計を確認する。
1000/1/13 9:22
まぁなんというかあれだな。あれだけ激しくお楽しみしてたらやっぱりそういう時刻になるよな、とは思った。隣ではルナが俺の胸板に胸を押しつけた状態のままぐっすり寝ている。昔から今に至るまで、最初の妻であるルナは本当にエロかった。百年経ってもぶれないし衰えないからな。本当に尊敬する。
この世界に来たばかりの俺を皆で騙して、彼女は俺の妻になった。全て最初から仕組まれていて、彼女のその豊満なワガママボディも全て訳ありのものだった。異世界に来てまず真っ先に彼女を手に入れて避妊を考えずに毎日お楽しみした結果、あっという間にルナはマリーを妊娠した。
そしてその俺の最初の娘が英雄となり、俺の代わりに一生懸命この世界を攻略してくれた。娘であり、きっとこれからは恋人というか妻になるだろう。元の世界の道徳から考えればなんともまぁモラル崩壊を引き起こしているが、それでも愛があればきっと問題無いと思う。
うん、色々と感慨深いな。こんな優雅な時間にはそう、システムメッセージのスメスさんに語りかけてみようか。あまり不用意に身体を動かして気持ちよさそうに寝ているルナを起こしたくはないからな。だから俺は俺のUI上でシステムメッセージのスメスさんへ向けて語りかける。
>>Smes:スメスさん、いるかい?
Smes:ここにいるぞ!と冗談はさておき、おはようございます。昨夜はお楽しみでしたね。
>>Smes:……くくく、ここに来て百年前の遣り取りを再現してくるとはね。なかなかわかってるじゃないか、スメスさん。
Smes:それほどでもないです。
彼は最近はあまり喋っていなかったしクエストもまともに発行していなかったが、それでも俺の行動に大きな指針を与えてくれたことは間違いないだろう。どうしようかな、労っておくべきか。それに他にも、色々と気になることもあるのだが――
>>Smes:なぁ、スメスさん。今日はこれからどうしたら良いんだ?色々と聞きたいこともあるが、まずそれを教えてくれないか。
Smes:そうですね……出来るだけ早いうちに、地下層のエントランス装置にまでお越し下さい。神様から重大な話があるはずです。目標達成後ですから、本当に重要な話が有ります。
>>Smes:そうなのか。それはやっぱり、何よりも優先するべき事柄なんだよな?
Smes:はい、間違い無く。地下に降りる為にはマリー様とお二人で向かってくださいませ。それでは失礼致します。
そういってスメスさんからの通信は切れた。
その後はルナを起こして、起こしたものの甘えられたので二回ほどして、それから二人でお風呂でスッキリしてから軽く食べ物をつまんで、十一時頃にマリーと一緒に地下の装置のところへ向かった。
「お母さんはずるいよねぇ。隙あらばお父さんに抱かれようとするからねぇ。私にとっても自慢のお母さんだからしょうがないけどー」
「うん」
「あの甘え上手なところはもっと見習わないとねー」
そんなことを言い合っているうちに装置の前に到着する。『通信開始しますか?』と画面に出ているのでOKのところをタッチ。それからしばらくして、といっても五分ほど待たされたが、立体映像に神様の姿が映し出された。
『ワシじゃ、神様じゃ。一日振りじゃの。今こうやって話せてるということは無事にやり遂げてみせたということじゃな』
立体映像に映った神様は俺にそう告げてきた。一応断っておくが前に神様と会話したのは九百九十年の五月のことである。つまり十年弱前の出来事なのだ。神様にとってはそれはたったの一日程度だったらしい。向こうの一日がこちらの十年相当なのかもしれないな。
納得はいかない。納得はいかないが今は黙っておく。それよりも情報収集を優先させるべきだ。
「はい、先日遂に八百層まで制覇致しました。これでこの世界における目標は、全て達成されたのですよね?」
『うむ、間違い無いとも。お主はワシを疑っておるかもしれぬが、これでもワシは偉大なる神じゃよ。しっかりとやり遂げてみせた以上、質問にも答えてやるし報酬も弾んでやるわい。もちろん、質問に答えるのが報酬じゃなどというケチなこともせん』
「お……おおぉ?」
正直、ちょっと驚いた。前回はあんなに素っ気なかったのに、今回は大判振る舞いということだろうか。
『じゃがの、こちらからも非常に重要な話があるのじゃ。お主がどうしても言いたいことが言い終わったら、次はこちらからの話も聞いて貰わねばならぬ。それを心に留め置いてから、話すが良い』
「……はい、わかりました」
うーむ……この神様、意外と良い人だったのだろうか。立体映像に映るその眼差しを見る限り、特に嘘をついている様子は無い。ならば、ご厚意に甘えて早速聞いておくことにする。俺が聞きたいことは何よりも――
「神様、この世界は一体なんだったのですか?私が与えられた使命の意味はなんだったのですか?我々一族の使命の意味を、是非お教えください」
『うむ、よかろう。じゃがそれを一から解説するのは少々ややこしい。よって、お主の知識と考えに照らし合わせて程ほどに説明するが、良いな?』
「はい」
長い説明になるから、俺にだけ理解出来る程度の説明にするということか。俺の隣で聞いているマリーには理解出来ない話になるかもしれないわけだな。
『お主が今いるその世界、最初に説明したように、そこはワシがデザインした世界の一つじゃ。ワシ以外の神が作った世界も多数あるが、それらはまとめて”神のデザイン世界”と呼ばれておる。ここまでは良いな?お主ならば大体は理解出来る話じゃろう』
「はい、大丈夫です」
神のデザイン世界、か。俺の知っている物語知識において、世界は一つではなく幾つも存在しているという概念は極めてありふれたものだ。俗に三千世界と表現されることもあるだろう。この世界は、そんな世界の一つと判断して良いのか?
『まずお主が理解すべきは、世界にはそれぞれ大きさがあるということじゃ。ワシやお主の元の世界には、広く宇宙が広がっておる。世界は極めて緻密であり、十全なものであると言えるじゃろう。このような完成された世界は”真世界”と言えるかもしれん。ここまでは良いか?』
「はい」
『では次に、神のデザイン世界とはどのようなものか。これはな、基本的に使い捨ての世界であり、我々の世界の宇宙のように十全な、完全な出来のモノではないのじゃよ。良くも悪くも只の実験場に過ぎぬ。そこに住む人々の命も、我々の元の世界の存在の重さと比較すれば吹いて飛ぶ程度の軽さに過ぎぬ。これは客観的事実であり、異論を差し挟むことは許されぬことだ』
「……うむむ」
なかなかややこしい話になってきている。だが、重大な事実が多分に含まれていることは明らかだった。そしてそれらの話は、俺が全て可能性として考慮していた話でもある。この神様は、俺の心の中を本当に理解してしまっているのだろうか。
少し間を置いてから、立体映像の神様は続ける。
『……ここから先を続けるには、また少し回りくどい説明が必要になる。まずそもそも、お主にとって神とは何だと思う?その世界やワシではなく、お主の世界の基準で考えるのだ』
「はい」
俺は少し考える。神とは何か?俺は元の世界で元々の夢として、神様になりたいという夢を持っていた。だから神とは何か、それについても何度も考えたことがある。だから、俺はその思いを伝える。
「私にとって、我々の世界における神とは、何よりもまずあの世界、宇宙、そして物理法則の類です」
『うむ、続けるが良い』
「はい。……我々の世界にとって神とは、何よりもあの世界そのもの。科学者や研究者は、神の作った我々の世界を、神そのものを理解する為にも様々な実験を繰り返したという面などもありました。私は正直量子力学の世界が何故あのようなことになっているのかはサッパリ理解出来ませんが、しかしそれでも、あの奥深く良く出来ていて、どこまでも広がる宇宙という存在を心から尊敬しています。あの世界そのものこそ、神では無いでしょうか」
俺はそんな思想を持っていた。俺達の世界はとても細かくて良く出来ている。様々な法則が噛み合わさってその薄氷を踏むようなバランスの上に地球は成り立っている。もしも神に感謝するのなら、まずあの世界があのように有ることに感謝出来るのでは無かろうかとそう考える次第で。
俺の心を読み取っているかのように、立体映像の神様の話は続いた。
『そう、お主の言う通りじゃ。あの世界、あの宇宙があのようにあること、それがそもそも全ての奇跡の始まりである。――宇宙はな、最初はただ存在しているだけじゃったらしい。だがしかし、その宇宙の中に様々な生命が誕生することにより、大きな変化が訪れたのじゃ』
「と言うと?」
『お主も、シュレディンガーの猫の話は好きじゃろう?物事には観測者が重要なのじゃ。知的生命体に限らず、宇宙に意志を持って行動する存在が生まれたことにより、宇宙は観測者を得たのじゃ。そして観測者とは即ち、宇宙という神にとっての信徒でもある。自らの存在を知覚して世界で動き回る存在が出現しただけで、そこには信仰心が、エネルギーが発生するのじゃよ』
「うーむ?」
どうやら込み入った話であるらしい。それでもなんとなくは理解出来た。
『初め、宇宙は只そこに存在しているだけじゃった。しかし生命という信徒が生まれ、そこより信仰心が発生した。それにより宇宙は、只そこにある存在から徐々に神へと昇華していったのじゃ。ゆっくりゆっくりと、時間をかけてな』
「はい」
『やがて宇宙は、大きな力を持つ神になった。そして遂には宇宙という肉体の軛から解き放たれたのじゃ。すると次に、宇宙は全ての生命達から受け取る信仰心の力を元にして幾つもの神を作り出していった。そうやって宇宙全体に神々を行き渡らせて管理するようになったのじゃよ』
「そうなのですか」
『うむ。それでワシは、地球の日本あたりを担当している一人というわけじゃな。この地域はかなりの人気スポットじゃから、選ばれるのはそこそこ大変じゃったし、それにノルマも多いのじゃよ。わかってくれるな?』
「まぁ、なんとなくは」
『ちなみに、階級としては一応中級神と言ったところじゃな。お主ならば大体理解は出来よう』
「はい」
神様の話はまだまだ続く。
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『さて、あくまでワシらは末端で、上司というか組織のトップは元宇宙、現最高神にあたる。元々は宇宙様であるからして、我らのようなわかりやすい人型はしておらんよ。だがしかしその力はとにかく大きく、その恩恵に預かれればそれは大いなる福音となる。まぁつまり、マジメに働けば高給取りになれるということじゃ』
「はい」
『ここでようやく話が繋がるわけじゃよ。では神にとっての仕事とは何か。宇宙神様が望まれる仕事とは何なのか。給料を貰う為にはどのような仕事を成さなくてはならないのか』
「はい」
この神様の話は、極めてわかりやすいと思う。一体何をもって高給取りと評すのか、そこが話の焦点であるはずだ。
『宇宙神様はな、宇宙という肉体から解き放たれて、更にもっと新しい、新たな法則が支配する宇宙を創造しようとしておるのじゃよ』
「……おぉ?」
『わかるか?今の宇宙では、既にある法則によって全てががんじがらめにされておるのじゃ。じゃから、新しい法則が存在する宇宙を欲するのならば、今の宇宙の別の場所に作るのではなく、新たに別の宇宙として作るしかないのじゃよ。ワシらの宇宙にもある程度信仰心や神力の概念はあっても、それをおおっぴらに振り回して暴れ回るようなファンタジー世界まではどうやっても作れないのじゃよ』
「ええと、そうなのですか」
『うむ、そうなのじゃ。じゃから我々は、宇宙神様が新たな宇宙を創造する為の手助けをして給料を頂いておるのじゃ。そうやって研究結果を出すことにより宇宙神様より報酬が支払われる。我々にとってこれが生きる意味なのじゃな。ここまで言えば、大体話が理解出来てきたかの?』
「はい」
話がどんどん進んでいるが、わかる。俺には理解出来た。
『お主が今いるその世界は、ワシが新たな宇宙へ取り入れる法則として提案したものを実験、実証する為の実験場としての世界なのじゃ。実験項目の骨子は、HPによるバリアシステムの有用性及び、スキル制による身体能力上昇の影響の実証実験。その他にも色々と、ワシ好みの思想をその世界には組み込んである。混血児、ハーフが生まれないように組み上げたのも全てワシじゃよ。お主も、その世界で過ごしていてそのあたりのわかりやすさには賛同しておった方じゃろう?』
「えぇ、まぁ、確かに」
それは確かにそうだった。指摘通りだった。実は俺は現実世界での混血児問題を重く受け止めている。混血児が色々と問題を引き起こすのだから、最初から混血にならずに母方の人種で固定された方が皆幸せになれるのではないかと考えていた。それもまた、俺がこの世界に選ばれた理由だったのか?
『では次に、何故ワシがその世界でそのような条件に設定したかを述べよう。実はな、宇宙神様はファンタジー世界の宇宙を新たに創造することを強く望んでおられるのじゃよ。ワシらの世界ではあまりにも科学技術の威力が圧倒的過ぎて、世界の法則による力が人間個人の力を大きく上回ってしまうじゃろう?じゃから、科学技術による力をなるべく落として、人間の力が十分な重みを持てるような、そういう世界を今お作りになろうとお考えなのじゃよ』
「そうなのですか」
『うむ……それでな。既に何度も様々な実験をしてきたのじゃ。我々の地球のゲームも何度も参考にされて、ゲームに似た世界は何度も実験的に作られておるのじゃ。じゃがな、八割以上の世界が失敗作として破棄されておるのよ。なかなかゲームのようには上手くいかないものじゃよ。人々が大体自由に動き回る世界というのは、ゲーム的にはなかなか成立しないものだったのじゃ』
それから神様は、実際の世界の失敗例を幾つも教えてくれた。
レベル制の世界。ゲームではよくある世界であるが、レベル制の世界はほとんど成功しなかったらしい。レベルアップによりステータスアップしてしまうと、一度レベルが上がりだした一部の人間が、他の低レベルの人間を弾圧し一方的に支配する世界になってしまったようだ。何しろ、肉体がどんどん強化されてしまうと暗殺や毒殺の類が全く効かなくなってしまう。逆に暗殺や毒殺が可能な世界にすると、今度は暗殺者や毒殺者が世界の支配者になってしまう。
人々の行動を全てゲーム的に極端に制限したならばまだしも、人々を自由に動き回らせた場合には力任せの犯罪、一方的な蹂躙が耐えなかったらしい。
『じゃからの。ワシは人間の身体そのものの強度はさほど上がらない設定にするしかないと考えたのじゃ。その一方で、暗殺や毒殺が幅を利かせるような世界になっては困る。不意打ちによる暗殺や毒殺を防ぎつつ、人間自身の肉体性能が極端に跳ね上がって暴力に支配されるような世界にならぬよう、ワシは知恵を絞った。その結論が、HPバリアという方式による安全確保された世界だったのじゃよ』
「なるほど」
『では次に問題となるのは、そのHPバリアを得る手段じゃよ。何の制限も無く一般人が無尽蔵にHPを得られる世界になってしまえばそれはHP量に物を言わせた力任せの世界になってしまう。じゃから一般人には十分なHPを得られず、その一方でワシが送り込む被験者のみが攻略可能な程度のバランスの世界を設定したのじゃよ。それがその世界じゃ』
なるほどね。俺は以前からこの世界について、どう考えても一般人にクリアさせる気がないゲームバランスだと考えていた。実際にその通りだったらしいな。一般人が力を持ちすぎて暴走しないように、一般人の力は制限して実験を続け、神の使徒として送り込んだ被験者にだけクリアさせようとしていたわけだ。
『ワシとしては正しく攻略する限りでは十分間に合うように設定したつもりだったのじゃがな。まさか失敗者があれほどまでに増えるとは思っておらんかったぞ?ワシは新しい概念に与えるべき世界のゲームバランスも考える役目があるのじゃが、そのバランスを設定出来るのは世界を作る時、ただ一度切りなのじゃよ。じゃから失敗者が続出したからといって後からバランス調整することは出来なかったのじゃ』
「そうなのですね」
『うむ。まぁお主がしっかりとゲームクリアしてくれたから、一応この条件ではそのようなゲームバランスでも大丈夫だと実証されたわけじゃ。元々HPバリア概論の有効性はそれなりに認められておったのじゃが、お主がクリアしたことにより完全に実証された。よってワシにはかなりのボーナスが支払われることになっておる。お主には本当に感謝しておるし、報酬も奮発出来るのじゃよ』
そう、結局そこに話が帰結するらしい。俗物的な話かと思われるかもしれないが、俺はきっと違うと思う。きっとここにこそ核心がある。お金は大事だよ。ではそのお金って何?そこなんだ。
「神様、それは本当に良かったですね。ところでそろそろ、その神にとってのお金について教えて頂きたいのですが……」
『うむ。お主にとっても関係があるとても重大な部分はそこなのじゃ。我々にとってお金はとても大事なものじゃ。そしてそれはお主にとってもこれから大事な物になる。じゃから、ワシからはお主にこう提案するぞい』
神様からの話は、遂に最終段階へと突入する――
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『ヒロよ。お主、ワシの部下の下級神となる気は無いか?それがお主にとって必要なことなのじゃ』
「はい、それは満更では無いのですが、詳しい話をお聞かせ願えませんか?」
この台詞は覚悟していたというか待ち望んでいた。俺の昔からの夢は神になること。この神様の下で下級神となるのも悪くないと思う。何故なら、この神様はしっかりと色々なことを必要な時に説明してくれているからだ。逆に必要が無いことは今まで全て省略していたというだけの話なのだ。
『うむ、お主は相変わらず話が早くて助かるの。ではその前にお主にひとつ確認しておこう。お主、ネットゲームをプレイしたことはあるじゃろう?では、課金しなければ遊べなくなることも当然理解しておるな?』
「はい、わかります」
『うむ。それでじゃな。お主が今いるその世界は、神のデザイン世界の一つである。真世界ではない作り物の世界というのは、その世界単体のエネルギーでは稼働しないものなのじゃ。わかってくれるか?』
「……はい、なんとなくは」
『うむうむ、では言うぞ。実はそのお主がいるデザイン世界”ピースサークル”はな。稼働時間を千年分しか購入しておらんのじゃよ。このまま追加で時間を購入しなければ、その世界の時は凍結し全てが動かなくなるのじゃ。期限は星歴千年の三月三十一日。実はお主の一族が全滅するだけではなく、その世界の稼働限界時間でもあるのじゃよ』
「え……なっ、なんだって?」
時間を、購入する?
買わなければ、時が止まる?
それが――作り物の世界、実験場の末路だというのか?
『ワシが今回ボーナスとして得る分の”神貨”なら、その程度の規模の世界の時間は十万年分程度軽く購入出来るのじゃがな。じゃがワシはこの金を元手にして次の実験場、デザイン世界を用意しなければならんのじゃよ。じゃがそれでも、お主がワシの部下になるのならばある程度金を融通してやれんことも無い』
「……はい、ありがとうございます。つまりどういうことでしょうか?」
『つまりお主は、選ばねばならんのじゃ。ワシの部下となり働いて、それによりお主の愛しい子供達がたくさん住むその世界を購入するのか。それともワシの部下になることを拒否して、その世界に残る短い時間を大事にしてそのまま時を凍結されるか、道は二つに一つじゃよ』
「ええっと、それは」
『悩むほどじゃないことじゃな。わざわざ愚かな選択をする必要も無いじゃろう?お主は素直にワシの部下の下級神となるが良い。そしたら全てが丸く納まり皆が幸せになれる。これほど良い話は無いぞよ?』
「……はい」
神様の話は、色々と突拍子も無い話ではあると思うが何も悪い条件では無い気がする。元々世界に千年分しか時を購入してなかったのも、実験期間としては適切だろうし責任を追及するような事柄ではない。駄々をこねてヤダヤダと主張するようなことではないだろう。そう、何も困らない話だ。
重要な返答をする前に、俺は隣でずっと話を聞いていたマリーの姿を見る。彼女はあまり話を理解出来ていない様子ではあるが、それでも身体全体が汗びっしょりになっている様子だった。このままでは世界が時を失い凍結してしまう、そんな話を聞かされたらその世界の住人ならば、焦っても仕方ないのではなかろうか。
「マリー」
「えっ、えっと、おとーさん?」
「怖いか?」
「うん、怖い。おとーさんなら何とか出来るの?」
「うん、勿論さ」
うん、そうだな。たぶん何も心配することはないと思う。きっとこの神様なら、部下想いのきっと良い神様なのだろうと俺は信じたい。
『そろそろ良いかな?……では、返事を聞こう』
立体映像の神様はそう言って良い笑顔をした。やや憎らしい感じもするが、決して悪意からのものでは無い。新しい部下を喜んで受け入れる、上司の顔をしていた。
だから俺は意を決してこう告げる。
「神様、私は神様の下に付き下級神となります。是非やらせてください。これからどうか、よろしくお願いします!」
こうして。
俺は、異世界の住民達を信徒とする、新しい神になった。
宗教的な話は嫌われるかもしれませんが、こんな話になりました。
昔の科学者、研究者達のうち教会などに所属していた人達は、神を理解したり神の威光を証明する為に様々なことを研究していた人々が結構多いはずです。私は決してキリスト教信者などではありませんが、このあたりの研究思想には強く賛同する次第です。




