第七十五話「キングベヒんもス」
この世界に俺を送り込んだ神との再会の日以降、マリーとブロントの二人は幾度も宮殿地下のボスバトルへとチャレンジを繰り返していた。チャレンジ開始後徐々に判明していったこととして、階層が極めて多いこと、そして敵の強さが本当に容赦の無いことがわかった。
それに加えて応援ゲージによる支援効果、これもまた攻略の前提条件となっていた。
全ての階層がボス戦だが、そのどれもが大ボスというわけでもない。どうやら五層か十層に付き一度大ボスが設定されているらしかった。大ボスを初見突破出来ることはかなり稀で、大抵初見では敗北、その後も敗北を重ねることが多い。敗北後は蘇生装置により三十六時間程度かけて娘のマリーは蘇生されていた。どうやら戦闘により強くなれば強くなるほどに、蘇生に必要な時間もやや延びていくらしい。
「おとーさん、負けちゃった」
「うん、見てたよ。最後までめげずによく頑張ったな、マリー」
「うぅ……ぐすん」
こんな遣り取りが何度繰り返されたことだろうか。負けパターンにも色々ある。いわゆる初見殺しにより何もさせて貰えずにやられるパターン、何かしら特殊な処理が必要で、その処理が追いつかずにじり貧になってそのままじわじわ追い詰められて殺されるパターン、戦闘があまりにも長期化した挙げ句、絆神力ゲージ切れによりブロント向けのHPブーストフィールドが消滅してブロントが先に落ちることでマリーもやられるパターンなどなど。
全ての戦いを説明することは無理だが、印象的な戦いを取り上げることにする。
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990/7/1 12:01 第十層 キングベヒんもス戦 挑戦六回目。
第十層目へと到着したエレベーターのドアが開く。それと同時にマリーとブロントの二人はすかさず飛び出して、部屋の中央に佇むヤツを目がけて全力で走り出した。既にHPブーストフィールドは展開済であり、マリーの髪は金色に染まって輝いている。
その様子を四階中央の部屋にあるいつもの装置の画面で見ながら、俺は応援ゲージ蓄積による支援効果をすぐに発動させる。既にあらかじめ各地には娘達が派遣されているし、お祭り騒ぎの準備も万端。うちの奢りで世界中が二人の戦いを応援してくれている。応援ゲージの蓄積も順調だ。最初はすぐに支援効果三回分が貯まるようになっている。
俺はその支援効果三回分を、全てキングベヒんもスの魔法攻撃力低下に投入する。こうしないと詰むからだ。
奴との距離を詰めたマリーは、広間の上空へと向けてイージスを投射する。一方でブロントはキングベヒんもスに向けて連続でフラッシュを何度も放って敵の注意を引く。そうこうしているうちに、広間の上空に禍々しい隕石が出現して徐々に落ちてきた。その隕石にマリーが先読みで投射したイージスが命中すると同時に、そのサイズが半分以下になった。
放ったイージスはすぐに消して、マリーが再び右腕にイージスを顕現させる。それからブロントの前にマリーが立ち、イージスを正面に構え、ブロントはその後ろに隠れる。
サイズの小さくなった隕石が広間に落ちる。そして広がる暴力的な爆風。耳の壊れるような轟音まではこちらにまでは響いてこないが、現地のマリーとブロントはあらかじめ耳栓装備だ。威力こそ弱まったが、暴力の塊のような魔法の威力。キングベヒんもスの得意とする開幕メテオによるものだ。あからさまな初見殺し。部屋に入った瞬間から詠唱開始していて、止めなければ詰んでしまう。
この宮殿地下の戦闘においてまず気付いたことは、これまでの戦闘では範囲攻撃が存在せず被弾人数は常に一人までだったのに対して、この宮殿地下の戦闘は全て範囲攻撃を二人ともしっかり被弾してしまうことだった。更に加えて、地形ダメージや環境ダメージの概念が存在する。これが厄介だった。
イージスは魔法ダメージを完全にカットする最強の魔法盾だ。よってキングベヒんもスのメテオの威力が如何に高かろうが全てゼロダメージにすることは出来る。出来るのだが、メテオが完全な威力で広間に炸裂すると室内環境がとんでもなく悪化する。部屋の温度は灼熱地獄になり、息すらまともに出来ない状態になる。だから開幕のメテオの対策をしなければその時点で詰むのだ。
メテオの着弾後、マリーとブロントは互いに左右に分かれる。マリーは左へ、ブロントは右へ。キングベヒんもスの様子はしっかりと観察しながら。奴はその顔をブロントの方へと向けると、肩を大きく怒らせながら豪速で角を突くような素振りを見せた。
それに対してブロントは奴に対して正面から向き直り盾オハンをしっかりと構える。その構えた盾に対して、目には見えない空気の槍が突き刺さっていくが、オハンの護りが破られることはない。
攻撃を防いだブロントは、再びフラッシュをキングベヒんもスへと何度も放ちその注意を引いてから、奴に追いつかれないように距離を取りつつ広間の外周を回り始める。一方マリーは奴の顔の斜め横あたりの位置をキープしつつイージスを投射して攻撃する。向かって左、奴の顔の右側から奴の左角へ向けて何度も何度も繰り返す。
そうしている内に、キングベヒんもスがその足を止めたかと思うと角の間で電気がスパークしはじめた。そこにあらかじめマリーが投げ続けていたイージスが命中する。イージスが命中したことにより貯まっていた電気が掻き消され、キングベヒんもスは再びブロントを追いかけて走り始める。一方ブロントは後ろの様子を観察しながら、追加でフラッシュを二発放っていた。マリーの方を狙わせるわけにはいかないので、定期的にフラッシュを撃っておく必要がある。
今の技は広範囲のスタン技サンダーボルトの前兆だ。以前魔物の巣でノーマルのベヒんもスと対峙した際には範囲内の一人だけを麻痺させていたが、この宮殿地下では範囲攻撃を全員が被弾してしまい動きを止められてしまう。射程も広く逃げ場が無いので、発動前にイージスを投射して潰すしかない。
再びキングベヒんもスがその動きを止めた。今度は角で突いてくる様子も角の間に電気を溜める様子も無い。それを確認するとマリーとブロントはキングベヒんもスとの距離を一気に詰めていく。距離を詰める為に走りながら、マリーはブロントに回復魔法の愛の治癒を施す。割合でHPを回復する魔法でなければ、回復に時間がかかりすぎるのだ。今回復しているのは、キングベヒんもスの遠隔角攻撃をオハンで受け止めた際に受けたダメージ分。オハンで防いでも何割かのダメージはそのまま通るからだ。
キングベヒんもスの顔の前まで来た二人はそのまま奴の角を剣で斬る。マリーが右角を、ブロントが左角を叩く。いくらか叩いた時点でマリーは下がってキングベヒんもスより上の空間を狙う。やがて再び広範囲攻撃魔法メテオによる隕石が出現し落下を始める。この時点でブロントも奴の顔に向けてフラッシュを何度も放ちながら後方に下がり始めている。
戦闘開始時からここまでで、応援ゲージは更に貯まり五回目の支援効果が発動可能になっている。その五回目までをキングベヒんもスの魔法攻撃力ダウンに全投入。これにより奴の魔法攻撃力は大幅に弱体化している。マリーがイージスを上空のメテオに向けて放てば、その一撃で隕石は消滅し跡形も無く霧散した。
ここまでが前半戦、ここから中盤戦に入る。まだここまでなら話が早かった。問題はここからだったのだ。その為何度も苦渋を飲まされてきた。
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マリーとブロントは、このままキングベヒんもスを追い込むことはせずに三十分以上キープしてマラソンを続ける。マラソンとは敵を引きつけたまま、殴られないように逃げ回ることを指す。そうやって時間を稼ぐ必要があった。
その間に貯まった支援効果は更に五回分。そのうち四回をキングベヒんもスの物理攻撃力低下につぎこんだ。更なるプラス一回はそのまま温存し、マリーに向けて俺は心の声で合図をする。
『マリー、こちらの準備はOKだ。次へ進んでくれ』
『了解!それじゃあちゃっちゃと角折っちゃうからねー』
それまでマラソンして引き回していたのを止め、キングベヒんもスと正面から対峙する。そうしてあらかじめ十分にダメージを溜めておいた両方の角を折ってやる。角を折ってしまえばキングベヒんもスはその得意の遠隔角攻撃やサンダーボルトを使えなくなる。最初はそれで勝利確定だとばかり考えていた。
だがしかし、両方の角を失った奴の体が変色する。元々濃い紫色だった奴の肌は黒色に染まり、黒色だった奴のたてがみは銀色に染まっていく。そうして変色しながら奴はその体を持ち上げていき、四足歩行から二足歩行へとチェンジする。そしてその右腕をたてがみに伸ばしたかと思うと、たてがみ全体を引きちぎって右手に構えた。
十一から十三へ、奴は作品の壁を超えた進化を遂げる。そしてそれと同時に支援効果に新たな項目が加わる。特殊十一:キングベヒんもスの斬撃の特殊効果封印――この項目を即座に選ばなければ、奴の斬撃には極悪な追加効果が付与されている。それぞれ麻痺、石化、そして即死の効果となっていて、この支援効果はその全てを一度に封印してくれるのだが、しかしこの支援効果がリストに出現するのは支援効果の十回目以降なのだ。
銀色のたてがみの剣で斬りかかってくるキングベヒんもスに対して、こちらはブロントが前面に立ち全て攻撃を防いでいく。ブロントの背中からはマリーが愛の治癒をかけて彼を癒し続けた。一応は夫婦ということになっているので二人がくっついていれば十分な速度でMPは回復し続ける。後ろに立っているマリーまで巻き込むような攻撃が飛んでくると駄目なのだが。
この立ち上がった形態のキングベヒんもスは、魔法攻撃を使うことはせずひたすらに物理で殴りかかってくる。では距離を取った方が安全かというと、そうではない。距離が離れると全員を貫通する地走りのような斬撃を放ってくるうえに、空いている左腕で相手を引き寄せる魔法を行使してくるのだ。引き寄せられた挙げ句背中から斬撃を受けようものなら、致命傷は免れない。
この間にも応援ゲージは溜めて行使しておく。十一回目から十四回目はキングベヒんもスの防御力ダウンに当てて、十五回目の蓄積を待つ。十五回目を待ちながら俺はマリーに心の声で指示を出しておく。そろそろ最後の詰めに入るぞ、と。
十五回目の支援効果が貯まったのを確認して、マリーとブロントの二人は二足歩行のキングベヒんもスを徐々に削って追い詰めていく。装置の方に表示されているキングベヒんもスのHPも残りわずか。そしてそのHPが遂にはゼロになるが――
HPがゼロになると同時にキングベヒんもスが咆哮をあげ、再び広間の上方に隕石が出現する。その隕石に対してマリーがイージスを投射して打ち消す。見事にメテオによる隕石は掻き消されこれで全てが終わったかのように見える。
前回はここで油断した。画面上のHPもゼロになっているしな。誰だってこれで終わったと思いたいところだったが。
イージスを投げたマリーは、再びイージスを右腕に作り出すことはせず、右手に今度は槍を作り出す。ブロントの方もそれまではエクスカリバーとオハンを装備していたが、それは一旦消してマリーから新たな武器を受け取る。今度の武器は両手剣だ。両手剣ラグナロク、これもまた伝説の武器の一つ。
そうやって準備をしているうちに、倒れ伏していたキングベヒんもスの背中が割れ始める。亀裂はどんどん広がって、キングベヒんもスの中から新たな存在が飛び出した。その存在は全体的に紫色で大きな翼を持ち、上空に浮かんでいる。
元来ベヒーモスとバハムートは同一の存在とされている。これが明確に二つに分かれることは少ない――そう、奴はキングベヒんもスからバハむぅトへと進化したのだ。元がベヒんもスだけに、変化後の名前もひらがなが混じっているらしい。
「乾坤一擲!ブレージングアンゴン!」
マリーがその右腕に用意していた投げ槍を、思いっきりバハむぅトへと投擲する。この投げ槍はリースが扱う槍が防御力ダウンの弱体魔法をその穂先に篭めているのと同様に、大きな防御力ダウン効果を秘めている。ただし有効な相手はドラゴン関係のみだ。相手が限定される代わりに、与ダメージが三倍になるという大きな効果を持たせることが出来ている。
ブロントは両手剣ラグナロクで、そしてマリーの方は両手槍ゲイボルグでバハむぅトへと向かっていく。どちらの武器も俺の持っていたゲーム知識のイメージからマリーが作り出したものだ。対するバハむぅトは、最初から大技でトドメを刺す為にその力をどんどん口の部分へと溜めていた。以前の挑戦ではその部分に必死にイージスを投げ続けたのだが一向に力がおさまる様子は無く、更にその後の攻撃をイージスで防いでも部屋が灼熱地獄になってしまいどうしようもなくなってしまった。しかし前回は十分に時間を取ってゲージを貯めて進めていた為、支援効果の選択肢自体はしっかりと確認済だ。
キングベヒんもスがこの形態になった時に現れる支援効果。それが特殊二十一:バハむぅトの不死特性解除、だった。つまりコイツはこの支援効果を選択していなければ死なないということだ。項目が存在していることさえ知っていればどうとでもなるのだけれども。ちなみにこいつを選択可能になる条件は支援効果十五回目以降だと思われる。ちなみにキングベヒんもスの初期形態には、五回目以降にサンダーボルトの使用封印なんて項目もあった。もちろんそんな項目は役に立たないので使用しなかったわけだが。
最終形態は、最初から大技でこちらにトドメを刺そうとしてくる一方でそのHP量は少ない模様だった。とはいっても二人でいつもの片手剣で殴っていても全然削りが間に合わないということも既に確認済。だから今回はブレージングアンゴンで与ダメージを増やして、更にいつもの片手剣よりも攻撃力が上の両手武器を用意している次第。
マリー達二人は一生懸命武器を振り回し続けた。俺の見ている画面の方にはバハむぅトの大技のカウントダウンが始まっていたが、10カウントが3にまで減った時点でバハむぅトのHPは尽き、体全体が光の粒になって消え去った。
これが十階層目の、二度目の中ボスのあらましである。五階層目にも中ボスに相当する存在はいた。既にこの時点で相当きつかったということはお分かり頂けただろうか。
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そんな戦いの日々が、いつまでもいつまでも続いていた。
最初は一年につき百層弱ぐらいのペースだっただろうか。まだ序盤はマシだったかもしれない。深部に進むほどにいやらしさは確実に上がっていたが、こちらも支援体制を整えて対抗していた。
軍人として戦っていた大勢の娘達だが、これを皆各地に散らばらせて各地で応援団というか、接待役として整備したというか、そんなところだ。あまりにも大量に資材を消費するものだから、食料の生産部門に回った娘達も多い。皆で全力で、昼間っから酒を飲みながら大騒ぎして世界中の人々がマリーとブロント二人の戦いを毎回応援するようになった。そうやって応援ゲージを貯めてどんどん湯水のように連打しなければ、到底勝てそうに無かったのだ。
しかしそれでも何度も負けた。それはもう心が折れそうになるぐらいに。勝つための糸口すら見つからない戦いも多かった。それでも皆で知恵を振り絞って、場合によっては人々から何か有効なアイデアが無いか公募したこともある。そんなことを繰り返しながらどんどん地底奥深くの階層まで進んでいった。
だがしかし、現在その攻略が行き詰まっている。そして何より、残り時間が足りなくなってきていた。まさかこんなに深くまで続いているとは到底信じられなかったのだが――
星歴千年一月七日。時間切れまで残り三ヶ月を切っていた。現在の攻略層は七百九十八層。この階層で既に一ヶ月間も足止めを食らってしまっている。
それまでは五層、十層だけが大ボス層だった。それが七百五十層目を超えたあたりから全てが中ボスクラスになり、七百九十層目からは全ての敵が大ボス級のややこしさになっていた。
そして今日が十回目のチャレンジだった。マリーの蘇生にかかる所要時間が以前よりも延びており、現在失敗後の再挑戦は三、四日後からになっている。支援効果が充実しはじめた頃には一日に複数の通常層を攻略出来る日もあったし、初見で中ボス、大ボスを突破出来た日もあった。しかしここに来てあまりにも苦戦している為、マリーの心が折れかけてきていた。
おそらくは八百層でクリアなのではなかろうかと俺は考えている。そうでなければここ最近の階層の難易度が極端に高くなっていることへの説明がつかないからな。だから本当にあともう少しなんだと思う。けれど、それが難しかった。このまま時間切れになってしまうのでは……という絶望の影がもうそこまで押し寄せてきていた。
先日調査して貰ったところ、現在この世界の総人口は千二百万人。そのうち百五十万人が俺の血を引く子孫で、そのうち十万人が俺の直接の子供であるらしかった。その全員が時間切れになれば全滅。ハッキリ言って洒落にならない事態である。百年で子孫増えすぎだなとは改めて思うが、その子孫達を時間切れにより全滅させるわけにはいかない。俺自身もまだ死にたくは無いからな。百年もこの世界で生きてきてそんなことを言えたものではないが。
星歴千年一月十日。蘇生されたマリーが装置からいつものように射出されてきた。ゴロゴロ転がってくる彼女をクッションを使って受け止めてやる。最近はいつも俺がお世話して蘇生後の彼女を慰めているから、他の皆は空気を読んで出てこなくなっていた。ブロントの奴はわりと食い下がっていたんだけどね。アイツの方が蘇生時間は短いから先に出てくるんだけれど、それでも最近はどうやったら勝てるかと自室で頭を悩ませているらしかった。戦闘の映像記録を記録水晶とかいうものに撮影して貰って、何度もその映像を見返しては攻略の糸口を探しているらしい。
最近負け込んでいるので、元から甘えがちだったマリーの甘えっぷりが加速していた。蘇生装置から丸裸で射出されて来た後の彼女を、俺が全部着替えさせてやったりその後お姫様抱っこで部屋まで運んでやったり。だから今日もしっかりと服を着させてからお姫様抱っこしてやった。この娘は背が高い割には、母親同様に比較的可愛らしい服装を好むからな。今日はフリフリのフリルつきの服を着させてやった。うん、背は百七十センチで高めだけど、今日も我が娘は可愛い可愛い。
「さて、今日はどこに運ぼうか、お姫様」
「おとーさんの部屋がいい」
「そうかそうか」
相変わらずマリーとは本番プレイはしていないのだけれども、それでもベッドでごろごろイチャイチャするだけでもそこそこ満足するらしいのでスキンシップは続けていた。本番以外のプレイもそこそこ重ねていたし。まぁそのベッドは、普段はマリー以外の娘達を何人も抱いて数え切れない人数分孕ませてきているんだけどな、うん。そこらへんの事情を全部俺の知覚を通して知っているのに、それでもその場所でイチャイチャ出来るのはなかなか凄いことなんじゃなかろうかと常々思う次第で。
そんなわけで普段通りにベッドの上で抱きしめながら頭を撫でてやって慰めることにした。時刻は丁度夕飯ぐらい。少し悩んだけれど、ルナにお願いして俺とマリーの分だけ用意して貰って部屋で食べることにした。マリーが自らルナの所にご飯をお願いしに部屋から出かけていっていた。
その後出てきた食事が、何故か普段通りというかいつも通りに精が付く料理ばかりだった。そりゃまぁ普段はそうですし食べ慣れてはいるんだけどさ、うん。
食事の後、再びベッドの上でマリーと二人まったりとした時間を過ごす。そうしている間に彼女はそのまま俺の腕の中で寝てしまった。食べたから寝るのか。まぁ食後に眠くなるその気持ちはわかるけれども。そんなわけで俺もそのまま寝てしまう。おやすみなさい。
そうやって寝たら……その後、深夜に起こされた。
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1000/1/11 1:03
「おとーさん、おとーさん」
「ぐぅぐぅ……」
「おとーさん、起きて-!」
「……んあ?」
俺の腕の中で寝ていたマリーが暴れた為、俺も起こされた。起きた後にUIで時計を確認して深夜だということを知った次第。
「夕食後にすぐ寝ちゃったからな、こんな時刻に起きちゃったか」
「うん」
「それで、どうする?ここで寝直すか自分の部屋で寝直すか」
「寝ないよ!寝ちゃ駄目だよ、おとーさん。そんなことよりほら、今日は何の日か覚えてる?」
「何の日かって、そんなの」
それぐらいは事前にこちらも準備済なのだが。
「今日はマリーの誕生日だろう?プレゼントも他の皆に頼んで調達済だ。服もあるしリボンもあるしアクセサリもある。そこらへんのことは、マリーも俺の目を通して既に知っていることだろうに」
「それは知ってるけれど-、でも、そうじゃないの」
「そうじゃないって、何がだ」
全くもってわからん。プレゼントは毎回事前に準備するのだが、マリーは俺の意識を全てほぼ常時読み取っているのでなんでもバレバレだ。隠し事とか基本不可能なので既に色々と割り切っている。
マリーはベッドの上で、俺のすぐ隣からこちらをじいっと見つめてくる。深夜ではあるが、この部屋の中はぼんやりとそこそこ明るいので近ければ相手がはっきりと見える。彼女の金色の瞳は今日も爛々と輝いているようだ。
「あのね、おとーさん、真剣に聞いてね」
「うん」
「他のプレゼントも嬉しいけれど、それよりも今日の私は欲しいものがあります」
「うん」
「それは、おとーさんです」
「そうか」
どうやらそういうことらしい。どういうことだ?と白を切っても良いのだが、実は既に他の娘達からも似たような台詞を数千回聞いているので驚くに値しない。娘達とお誕生日プレイをした回数とか既に覚えていないという。これはこれで随分と酷い話なのではなかろうか。
つまり、今日は初めての本番プレイをしようというお誘いのようだ。
……正直なところ凄く悩む。一応以前からずっと約束はしていたんだ。いつかとっておきの場面でだけ本番の相手をするという約束をだ。しかしなぁ、それでもやはり悩むというか……
「うーん……」
「おとーさん。おとーさんが処女厨なことはよく知ってるよ。だから私、ここ一ヶ月以上ずっとしてないんだよ。それに昨日だって死に戻りで蘇生してきたところなんだから、身体だってすっごく綺麗なんだよ」
「そ、そうか。というか以前から計画していたのか」
「うん!皆には内緒にしていたんだけどね。でもルナお母さんにだけは伝えておこうと思って、昨日夕食を取りに行く時に相談したの。そしたら、今日は一日おとーさんを独占してもいいよ、ってお墨付きを貰えたの!」
「そうなのか」
今日一日って、まだ深夜の一時なわけだが。つまり今から二十時間以上たっぷり楽しむわけなのか。その為に夕食がいつも通りの精力バリバリの食事で、すぐに寝ておいてからこんな時間に起きたわけか。なるほど納得。
ここまでお膳立てされているのなら俺だって覚悟を決めよう。しかしその前に、一つだけ確認しておくことがあった。
「マリー、あのな」
「なーに?おとーさん」
「最近ずっと連敗していただろう?……辛かったよな。ごめんな、その重荷を一緒に背負ってやれなくて。一緒に隣で戦ってやれない父さんでごめんな」
「……うん、すっごく辛いよ。きっとあともうちょっとでゴールなのに、不安に押し潰されそうになるよ。ブロントにはいつも助けて貰って、守って貰っているけれど、でも本当はお父さんに隣にいて欲しい」
「だから、今日はずっと一緒にいてね、おとーさん」
「あぁ、わかった」
俺がそう答えると、マリーはあちらから軽くキスをしてきた。それからまた顔を少し離してから、こちらの瞳をじっと見つめながらこう告げてくる。
「おとーさん。私に、勇気をください」
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それから俺とマリーは丸一日以上ずっと交わり続けていた。いたのだが。
何やらその最中おかしな変化が起きていた。HPブーストフィールドの展開中は彼女の黒髪が金髪に変化して光り輝くのだが、それと同じ変化が起きていた。しかし本人は特にHPブーストフィールドを展開しているわけでは無いらしい。そういう割には、俺のHPにもしっかりブーストがかかっているわけだが。フィールド展開中の絆神力ゲージの消費も発生していない様子だった。
金髪も悪くないな、などと声をかけながら、そのまま特に気にせずお楽しみし続けた。最初にチラリと確認した以外はUIは確かめずにそのまま続けていた。これまでずっとお預けしていた行為を長時間続けたことで、マリーは随分と満足な様子だった。
結局次の日の朝三時頃に、さすがにやりすぎたかなということで反省して二人で抱き合って眠った。体力が有り過ぎるというのもこれはこれで問題だな。止め時というのがわからなくなる。一応は満足して貰えたらしかったので問題無いだろう。そもそも日付が変わってしまっているので誕生日プレゼントとしては過払いなのではないだろうか。そりゃ俺も十分過ぎるほど楽しんでいたけれども。
それで、三時頃に寝て昼十二時前ぐらいに二人で起床したところ、マリーの髪が金髪のまま輝きっぱなしだった。
ゲージも減らずに輝きっぱなしで。それどころか今まで真っ白に染まっていたゲージが、金色に輝いていた。昔真っ黒、最近は真っ白、そして今日になって金色である。一体全体これはどういうことなんですかね?
随分おかしな現象が起きているなと感じつつも、まぁ戦うのは俺じゃないし、などと考えていた。
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1000/1/12 14:52
今俺とマリーは二人で、宮殿地下のボス層チャレンジの出場受付の装置の前に立っていた。マリーの髪は金色に輝いたままである。腕を引っ張られて強引にここに連れて来られてしまった。何をする貴様-!
「おとーさん!これはきっと神様の思し召しだよ!私とおとーさんの愛のパワーでボスぐらい全て吹き飛ばしてってことなんだよ!」
「そ、そうなのかなぁ」
「そうだよ!だって今の私のブーストフィールドの効果が出ているの、おとーさんだけでしょ!」
「うん、それはまぁ、そうだったんだけども」
そう、今回の状況は色々とおかしかった。
マリーの通常のHPブーストフィールドは、マリー自身にはほぼ効果が無く、他の娘達にマリーの最大HPの一割を上乗せ、一応夫であるブロントには最大HPの十割を上乗せという効果だった。それがまぁなんというか、今はマリーの最大HPが十倍になっていて俺のHPもマリーの本来の最大HPの十倍分が上乗せされていた。つまり超堅いってことだ。具体的には元のHPが八千万あったのが八億になった。ちょっとHPの単位がおかしい。この世界のバランスは本来HP三桁か四桁程度の世界だったはずなんだ。何故ここまで数値がふっとんでしまったのか。
普段の十倍のHPがあるんだからいけるよね、ということで俺が来ることになってしまった。どうしよう、支援効果の装置の方を動かす人がいなくなりそうなものなのだが。
いやそれもあるけども、ブロントの奴が凄い表情でこっちを睨んでいたわけだが。完全に恨まれてる。父親なのに。むしろ父親だからこそか。
ちなみに七百九十八層のボスは、ファイナル神竜だった。文字通りファイナルな神竜で。ノーマルの神竜は確か五百層あたりで一度出てきた気がするのだが、こっちの神竜は伊達にファイナルと付いているだけあって、十一形態ぐらい変化が続くのです。しかもそれぞれの形態に必殺技付きで支援効果により逐一封印しないとダメな仕様になっている。だからといって基本の弱体効果を十分に入れなければ、強すぎて必殺技以外で普通に倒されてしまうジレンマ。だから、例えHP十倍だとしても支援効果無しでは安易に勝てるとは言えない相手だった。
マリーと一緒にファイナル神竜と対峙して、いつも画面で見ていたブロントの動きをなぞるように俺も戦う。違いといえば、右手の剣がエクスカリバーではなくマリーと同じブルトガングであることぐらいか。俺はゲームの方でもブルトガング一筋だったからエクスカリバーは持ってなかったし馴染まないんだよ。
しかしそれにしても……戦っている最中、何か違和感を感じた。なんというか、普通に相手に弱体がかかっている気がする。弱体しなければオハンで受け止めても一撃はもっと重いはずだし、それに敵の守備ももっと堅い気がする。HPのブーストだけではなく、攻撃力のブーストまでかかっているような気がする。だがそれを差し引いても、ファイナル神竜に弱体支援効果がしっかり発動しているように感じられた。
それに加えて、封印しなければ必ず使ってくるはずの必殺技も使用して来なかった。ちなみに第一形態の必殺技はエターナルフォースブリザードである。効果は、回避不可能で空間ごと凍らせて相手は死ぬ。つまり発動される前に封印一択。第一形態のHPが半分を切ってから使ってくる為、それまでに支援効果を五回目まで発動させないと必殺技の封印が選択出来ず負け確定だった。それなのに第一形態が終わるまで一切使って来なかった。これは一体どういうことなのか。
疑問に思いつつも、俺とマリーは二人で最終形態まで倒しきった。明らかにペースが早くなっており、これまで四時間かかって敗退していた戦いが一時間で決着した。凄まじいペースだった。討伐後すぐに上に戻って、誰かが装置を操作していたのかどうか確認したのだが。
装置を操作していたのはどうにもティターニアであるらしかった。魂の波長が一致しなければ操作が出来ないとシステムメッセージのスメス氏が解説していたが、ティターニアはピンクダイヤモンドのリングを填めたことにより俺と魂が少し混ざっていたわけで、そのおかげで装置を操作可能になっていたらしい。
何にせよ、今日のこの現象は凄まじかった。十倍パワーってヤバイね。攻撃力まで十倍かどうかはわからないけれど。今日は凄い日だったなぁ、と締めくくろうかと思っていたのだが。
「それじゃあアナタ、十八時のチャレンジと二十一時のチャレンジもよろしくお願いしますね」
「え?」
「え?じゃないでしょう、ヒロ。その状態がいつまで続くかわからないのだから、善は急げよ、そのまま続けて攻略してきなさいな」
「……はい」
とルナとリースに言われてしまったというわけで。午後三時のチャレンジのみでは終わらず、三連でやらされる流れになったのだった。
すみません。完結させる為に巻きでいきました。明日中に完結予定です。




