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第七十四話「神との再会」

 四獣玄武の討伐後、これで何か変化が訪れるはずだと思いきや、その変化はすぐには起こらなかった。起こるには起こったのだが、変化が起こるまでに十日以上を要した次第。


 その理由は何故かと考えた場合、原因は川の流速である。ゆっくりとした流れの川なので、北の玄武山脈に変化が起きてもその変化が中央に届くまでに時間がかかるのだ。川の流速を時速四キロ程度と仮定した場合、北の山脈から千二百キロ前後の距離を十日以上かけて流れてくるわけで、北から流れ込む川の水に魔力が含まれるようになったとしてもその水が届くまでに結構な日数がかかったのだ。


 玄武山脈からの魔力がようやく中央にまで届いてから、変わったことは二つ。


 一つは、今住んでいる宮殿の四階中央部の装置部屋。それまでは四獣との戦いの最中にのみ稼働していた装置が、常時起動するようになった。もっともアーケードゲームの筐体のような装置の方には「待機中」などと表示されているが。

 一方で部屋中央の水晶玉の方には、以前は立体映像による周辺の地図が表示されていたが、今は上下に伸びる細長い筒のような立体映像が映し出されていた。


 もう一つの変化は、この宮殿内のエレベーターだ。円状に広がるこの宮殿には、東西南北及び中央に合計五基のエレベーターが存在している。一階層から五階層まであって、広い二、三階層目に娘達が住み、四階層目に妻達が住み五階に俺が住んで毎晩お楽しみしてる次第なわけだけども。この宮殿の南エレベーターにのみ、一階層よりも更に地下に行く表示が元々あったのだ。今までは押しても一切反応しなかったが。


 その下の階層行きのボタンが、今すぐ押してくださいと言わんばかりに点滅表示で自己主張するようになった。でもそのわりには皆が押してもほとんど無反応なままで。エレベーターは十人乗り程度のそこそこは大きいが極端に大きくはないというサイズだから、その中に入れ替わり立ち替わり皆で検証することになった。

 検証した結果、マリーが一人のみかマリーを含めて二人だけがエレベーター内に乗り込んでいる場合にだけ、下行きのボタンを押せることが判明した。扉が閉まっている状態で無ければ作動せず、横入り防止措置がされているらしい。


 条件の検証の最中何度も下層に実際にエレベータのカゴが動いては、そのまま下では降りずに上に戻ってくるということを繰り返していた。そんなことを繰り返してマリー+他一名という条件がほぼ確定した時、てっきりブロントと一緒に行くだろうと予想していたのだが、彼女は一緒にエレベーターに同乗していた俺をそのまま下層の部屋の中へと連れ込んでしまった。


 そんな流れで、唐突に俺が現場に引きずり込まれたわけだが――



 ---



 990/5/21 13:13


 その空間は、広い円状の大広間だった。エレベーターはその広間の南部分についている。天井の高さはどれぐらいだろう、三十メートル以上ありそうな気がする。


 床も壁も石造りだが、ところどころに照明がついていて発光していた。何が発光しているのかと思ったら、水晶玉のようなものであるらしい。更によく見れば水晶玉周辺がガラス張りになっているらしく、水晶玉の周りには水の流れがあるらしかった。まるで水により水晶玉が光らされているような……もしやこの水は、四方の山脈から流れてきた川の水なのではなかろうか。魔力が含まれる水となると、この世界ではそれぐらいしか該当するものが存在しない。国道の下へと流れ込んだ川の水がどこにいくのか謎だったが、どうやらこの中央の宮殿の地下部分へと流れてきていたらしいな。


 部屋の中央部には何かあるのが見える。ざっと見る限りではこの部屋全体に明かりが確保されているし、魔物もいないようだから危険はなさそうだ。


「突然エレベーターから連れ出された時はどうしたものかと思ったが、ここは安全そうだな」

「えへへ、ごめんねおとーさん。たまには二人で一緒に初めての場所に乗り込みたいなー、と思って」

「うん、気持ちはわかる」


 初めての場所に二人で一緒に。そういう体験の共有というのは親しい人間関係を築く為にはとても有効だと思う。有効ではあると思うのだが、そんな時間が十分に取れた相手は本当に少ないな。この世界に来た最初の年にリースと一緒に世界を回った時ぐらいか。


 冒険、か。新しい場所を探検するのは俺も好きではあるのだが、俺はリスクを背負うことを極端に嫌う方だからな。ゲームのように安全な探検が約束されているのならばいくらでも大歓迎ではあるのだが、リアルなリスク大の冒険はどちらかというと大反対で。

 極端な安全マージンを得る為に六十年かけて魔物の巣の攻略部隊を編成し、必要以上の大量のHPを確保したのもその為だ。娘達がグロテスクに死ぬ場面なんて見たくなかったからな。ヌルゲーになろうがそんなこと関係ねー!って具合にかなり安全第一に動いたつもりだ。


 この世界のHPによるバリアというシステムは、HPを得る手段こそ大問題ではあるがバリア自体は超便利で本当に助かった。どれだけ体を鍛え上げても体を切り飛ばされたり首を斬られて即死などがある世界だったら、いつまでたっても安心出来ないからな。スリルこそ無くなるかもしれないが、俺個人としてはこの謎のHPバリアシステムを断固支持しておく。

 逆にこちらからも敵のHPを削りきるまでは一向にトドメを刺せないし、首を刎ねて即死させることも出来ないという面はあるけれども。でもゲームでも敵の首を刎ねて即死させられるゲームなんてほとんど無いし、特に問題無く感じてしまう。


 ゲーム、ゲームね。もう九十年以上経ってしまったが元いた世界のゲームはどうなってしまったのだろうか。新生十四楽しみにしてたんだけどな。こちらの世界にはゲームの類が無いし娯楽が随分と少ない。娯楽が少ない分どうしたかというとほぼ毎日子作りに明け暮れていたわけで、それはそれでとても充実していたのだが。


 ……少々話が逸れすぎてしまったな。今はこの部屋がどうなっているのか、中央の祭壇っぽいものは何なのかということが問題だ。


 俺とマリーは二人で部屋の中央の方に小走りで近づいていく。部屋が広いせいで、部屋の中央まで随分と距離があるのだ。エレベーターから部屋の中心まで大体一キロほどだろうか。ちょっと遠すぎる。もう少しエレベーターから近くしてくれたら良いのに。


 元々上の層の南エレベーターの位置が、宮殿の中心部分から南に一キロ離れているのだ。この部屋の中央は、この中央大陸の中央、この宮殿の中央エレベーターの真下に当たる部分に存在しているのかと思われる。理屈はわかるのだが、それにしたって随分と歩かされる。動く歩道でも付けておいてくれたら良いものを。あるいは中央エレベーターを地下にまで伸ばしておいてくれたら良いものを。何故地下に行けるのが南エレベーターだけなんだ。


 なんだかんだで部屋の中央に辿り着いて、その様子を見る。そこにあるのは八本の柱とその柱に囲まれた位置の地面に埋められている大きめの水晶玉、そしてその水晶玉の手前に置かれている画面付きの装置だった。装置の画面はしっかりと点灯していて、早く操作してくれとでも自己主張しているかのよう。

 特にその装置の文字が古代文字で読めないということなどもなく。その画面にはこう書かれていた。


『この場に到着したら、装置を起動した後通信を待ってください』


 画面の下の方には、枠で囲まれて『OK』の二文字が書かれている。装置には特にボタンやスティックの類が見当たらないのでタッチパネルなんだろうと判断してOKの部分をタッチする。すると画面が切り替わり『通信待機中…』となった。


「おとーさん、なんだろうね、これ」

「うーん……」

「どうしたの?」

「いや、なんつーか。こういう場面ってすぐに何かしらの反応があってとんとん拍子で話が進むものだと思うんだけどさ」

「うん」

「まずそもそも、通信するということがおかしいというか。普通は通信とかが必要無いように、大体の仕掛けがあらかじめ組み込まれていてそれを作動させるとかそういうものだと思う。いきなり外部と通信させるとかはちょっと、無いなぁ、と」

「そうなんだ?」

「うん、それにそうだな。もしもこの通信がすぐに繋がらないようだと最悪の流れだと思うんだが」


 少しは危惧した。さすがにそれは無いよなぁと危惧した。しかし装置の画面は、通信待機中のまま十分以上変わらなかった。何これ、ヒドイ。


 あまりにもヒドイので、インベントリから家具を取り出して装置の前で寛ぐことにした。ベッドを取り出してそのまま娘のマリーと二人でゴロゴロして暇を潰す。さすがにエロイことをするのはやめておく。通信が繋がった時に困るからな。


 結局通信が繋がったのは、装置の起動から五時間後だった。五時間待たせるとか。この装置の前に来たのが午後一時半頃で通信が繋がったのが午後六時半である。もうすぐ夕飯の時間ではないか。この対応の遅さは、ちょっと犯罪的だと思う。どこのネトゲ会社のサポートデスクだよって感じ。


 通信が繋がって、変化が訪れる。装置の画面が何か変わったような気がするが、それよりも部屋の中央部の水晶玉が画像を投影しはじめた。……微妙に見覚えがある容姿。正直忘れかけてた気がしなくもないが、それはこの物語の全ての始まりの。


『ワシじゃ、神様じゃ。お主元気にやっとるかの?ようやっとその装置にまで辿り着いたようじゃがの』


 白髭の老人の姿を取る、神様の姿だった。



 ---



 九十年ぶりに見かける神様の姿。あくまで仮に取っている、俺にとっての神様っぽい姿の一つに過ぎないだろうとは思うのだが。それでも俺はとりあえず居住まいを正してから、話し掛けることにした。


「お久しぶりです、神様。確かに私は、この中央大陸中央部の宮殿地下にある装置の前にまで辿り着きました」

『うむ、見事じゃ。ところで今そちらは何年になっとるかの?』

「今ですか?今は……星歴九百九十年の五月二十一日ですが」

『そうかそうか、なるほどのぅ』


 そう言いながら、水晶球により投影される立体画像の神様が髭をのんびりといじっている。大昔にそんな光景を見たな。段々ヒゲをいじる速度が加速することに危惧を覚えて、全てを即断即決せざるを得なかった気がする。


 俺は、神様というのはなんだかんだで絶大な力を持っていると考えている。何しろこんな世界をデザインして作ってしまうだけの力があるのだから、あまり不用意に煽って不興を買うような真似をしようとは思わない。尊敬に値する人物かどうかはわからないが、その力に関しては畏れ敬うべきではなかろうかと考える次第で。


 立体画像の神様は、こう続けてきた。


『お主にとっては随分と久しぶりなんじゃろうな。ワシにとってはお主を送り出したのはつい先日の出来事よ。お主を選び出したワシの設定した魂のフィルタリングの調整はバッチリだったようじゃ。一発でクリア目前まで辿り着けるのじゃから、ワシの設定したゲームバランスもそうそう間違ってはおらんかったということじゃろう。部下共は猛反発しておったがな』

「……ええと」

『今が九百九十年だと申したな?ならばペースもバッチリじゃ。お主はそのままその宮殿の更に地下を目指して敵を倒し続けるが良い。特にそこに意味はないが、お主にとっての課題がそれじゃよ』

「はい、わかりました。ですが神様、詳しい話はお聞かせ願えないでしょうか?」

『それをわざわざ聞いてくるということは、つまり最初から期待していないのじゃろう?報酬の前払いはしない主義じゃよ。詳しい話ならばその世界のクリア後にたっぷりとしてやろう。まずはやり遂げてみせることじゃよ。これでも大いに期待はしておるぞ、ヒロよ』


 神様がそう言って、それで神様との通信は切れた。中央の水晶玉の立体映像は完全に消滅し、手前の装置の画面には『次のフェーズに移行中、しばらくお待ちください』と表示されていた。


 神様と会話を交わしたのは、この世界に来た初日以降九十年振りのことだった。その久しぶりの邂逅もたったの三分未満程度。それも五時間待たされてからの三分間だけだった。正直それはどうなんだ、とは思う。だがしかし、神様ならばそれも仕方ないのかもしれないな、などと納得してしまう俺もいた。しかし納得しなかった娘もいるようで。


「おとーさん、おとーさん」

「なんだい、マリー?」

「おとーさん、今のが神様だったんだよね?おとーさんをこの世界に送り込んだ、アーゼス神様なんだよね?」

「まぁ、そうなるだろうな」


 俺がそう肯定すると、マリーは少し哀しそうな顔をする。少し目尻に涙を溜めながらこう続ける。


「神様ひどいよ。おとーさん、九十年間も一生懸命頑張ってきたのに」

「頑張ったといっても、父さんは毎日楽しく子作りしてただけだけどな」

「確かにそれはそうなんだけど、でもそれでも普通の人には到底出来ない偉業であることは間違い無いもの。もっと評価されるべきだよ!」


 そう力説してくるマリー。俺はその顔をじっと見つめ返してみる。母親譲りの綺麗で長い黒髪、髪と一体化するかのように頭頂部から左右に飛び出している可愛い猫耳。大きな瞳は今日も綺麗な金色に輝いていて。こんな可愛い娘や妻達に囲まれていて、俺としては何の不満も無いんだけどな。


 それに――


「父さんは、どちらかというと今の話で少し希望を持てたんだけどね」

「え、どうして?」

「だって、神様が言っていただろう?ワシにとってはつい先日の出来事だって。一応可能性としては考慮していたが、元の世界ではまだ数日しか経過していない可能性もありそうだからな」

「えっと、それってつまり」

「単に時間の流れる早さが違うというだけの話なのかはわからないが、父さんは元の世界の元の時間へ帰れるかもしれないってことだな。もっとも、その際何を持って行けるかはわからないが」

「そっかぁ……」


 マリーは少しこちらから視線を外して何か考えていたようだったが、すぐにこちらに視線を戻してくる。


「おとーさん、約束」

「ちゃんと憶えてるよ。元の世界に戻るなら、マリーは連れていくから」

「うん。他の皆はどうするの?」

「それは状況次第かな。あまり大勢は連れて行けない気がするけれども」

「そっか、そうだよね。今はまだわからないよね」


 そうだ、今はまだ何もわかっていない。俺はぬか喜びするようなことは嫌いなんだ。こちらで期待を膨らませすぎてその期待を裏切られるような状況は避けたいところ。だから今は、状況把握に努めるべきなのではなかろうか。


 特に、水晶玉の前の方の装置が作動しているようだからな。早速画面の表示を読む。そこには『準備完了』の文字と、その下にOKというボタンが出ていた。早速そのOKの部分をタッチする。


 そうして表示されたのは、いつも俺が見ているUIのような画面だった。普段は時刻の確認ぐらいにしか使っていないけどね。その画面に映る左下のログウィンドウに、システムメッセージの黄文字が躍る。


 Smes:どうもこんばんは、ヒロ様マリー様。私です、いつものシステムメッセージです。今回は意識化のUIの方ではなく、こちらの装置の画面より失礼致します。

「君か。色々聞きたいことはあるけれど、とりあえずこれからやるべきことを教えてくれないか?」

 Smes:はい、わかりました。それでは画面中央の方をご覧下さい。既に四階中央の装置よりご覧になったかもしれませんが。


 そこに映し出されたのは、細長い筒のような立体映像である。構造がわかるようにワイヤーフレームで表示されているのと、画面に表示する関係上立体映像を二次元の画面に映すことになっている。と思っていたら、中央の水晶玉の方にも立体映像で表示された。まぁそりゃそうするか。


 Smes:この映像は、この宮殿の地下の構造を表示しています。ご覧のようにこの宮殿の地下にはいくつもの階層が連なっており、そこにはそれぞれ強力なボスモンスターが配置されています。特に地下迷宮というわけではなく、各階層にはボスだけがいます。これらを上層から順に全て倒していってください。

「なるほど、しかし少し気になるのだが、あのエレベーターにはマリーと残り一人しか乗り込めないんだよな?」

 Smes:その通りです。つまり各層のボスと戦えるのはマリー様ともうお一方だけ。たった二人で全てのボスを倒さなくてはならないのです。

「うちの四万人の娘達の軍団が役に立たなくなるわけだが」

 Smes:そのご指摘は全くもって正しいですが、四獣討伐時には役に立ったはずですから平にご容赦くださいませ。戦力として以外の使い道を模索してください。

「なるほどな」


 なるほど、確かに四獣討伐は人数勝負だった。青龍はその長い体を大勢で囲んでフルボッコしなければ削りきれなかったし、白虎も虎穴の数が多すぎて少人数ではどうにもならなかった。朱雀だって複数湧いた朱雀の眷属が強すぎて人数が十分いなければ朱雀本体を攻撃する時間が確保出来なかっただろうし、玄武もなんだかんだで大量の眷属の亀が湧いていたから少人数では無理だっただろう。


 マリーと二人でボス討伐、か。となるとその役目は――


「マリーと一緒に二人で戦う候補者は、俺かブロントの二択だよな。でも実質一択になるんじゃないのか?」

 Smes:はい、その通りです。ヒロ様は四階の装置を操作して頂き、ブロント様が戦われることになるかと。

「私は、おとーさんと一緒の方がいいな」

 Smes:マリー様、残念ながら我慢してくださいませ。四階の装置は誰にでも扱えるものではないのです。魂の波長により操作可能な人物が限定されてしまっている為、ヒロ様以外が操作することは難しいでしょう。あの装置を操作することにより十分な支援効果を得なければ、勝利はおぼつかないはずです。

「そうなんだ、がっかり」


 他人の目が無いので今日のマリーは割と露骨だと思う。普段はそれなりに周囲に配慮して行動しているはずなんだけどな。


 Smes:説明を続けます。今後は地下の階層のボスモンスター達に挑戦して貰いますが、これをチャレンジと呼ぶことにします。チャレンジの開始時には開始十五分前までにこの装置の前にきて申請してください。その後時間に合わせてチャレンジ開始です。可能な戦闘開始時刻はそれぞれ、九時、十二時、十五時、十八時、二十一時となっています。四獣戦同様各地の映写水晶により戦闘の様子が映写されますし、申請した時点で各地に予告が入るようになります。

「なるほど。応援ゲージを集める為の措置なのだろうが、世界中で見世物にされるわけだな」

 Smes:その通りです。必要なことですから仕方ないでしょう。また、映写水晶は生産により増やすことも可能です。各地の教会だけでは応援が足りなくなるでしょうから、早めに生産しておくことをオススメします。製造方法は、直径十センチ以上の水晶玉を四獣の山から流れ出た川の水全てを混ぜたものに一日漬けておくことです。魔力の豊富な新鮮な水を掛け流しにしておく必要はございますが。

「ふむ」

 Smes:この部屋の中央部、先ほど映像を映していた水晶のあたりには仕掛けがございまして、そこに四獣の川の水全てが集められるようになっています。是非お役立てくださいませ。

「わかった」


 とりあえずわかったことにした。とりあえず今日はやめておこう。色々と考えないといけないことも少しはあるのだろうし。


「帰るか、マリー」

「え?うん……そうだね、おとーさん」


 時間を潰すために出していたベッドをインベントリに片付けて、遠い場所のエレベーターまで二人で戻った。



 ---



 990/5/21 19:11


 その後夕食の席で、俺は地下を探索した結果を大雑把に妻達に説明していた。今後はこの宮殿の地下のエレベーターから戦いに行くこと、戦闘開始がそれぞれ九時、十二時、十五時、十八時、二十一時と定められていること、応援ゲージによる支援効果が重要らしく、その為に映写水晶を作って増やせることなどを説明した。

 その一方で、最初に現れたのが俺をこの世界に送り込んだ神様だったことやその会話の内容などは伏せておいた。


 夫婦だけでの集まりでいつも食事を取っているので、この場にはマリーやブロントは普段参加していない。今日もいつも通り参加はしていないが、しかし俺の知覚は常にマリーが受信しているので、わざと話さなかったことなども全て彼女には筒抜けである。だからといって特に困ることは無いが。しかしその様子を見ていたマリーは、心の声でこう語りかけてきた。


『おとーさん、神様とのこと、皆には話さないんだね』

『あぁ』

『話しちゃっても良いと思うの。皆九十年夫婦やってるんだから、今更隠し事なんてする必要無いよ。おとーさんだって本当は、悔しくて悲しかったはずだよ。どうしてその気持ちを皆で共有しようとしないの』

『そうは言ってもな……』

『それにね。そもそもおとーさん、隠し事が下手なんだよ。全部顔に出ちゃうから。あ、何か隠してるなーってもう皆に気付かれちゃってるよ。おとーさんは隠せてると思ってるみたいだけど』

『なんだって?』


 さすがにその指摘は少し驚いた。テーブルを挟んで対面に座っているルナの顔をじーっと見てみる。ルナはいつも俺の魂を吸魂の瞳でちゅーちゅー吸って魂の味から色々読み取っているのだったか。

 俺に見つめられたルナは……こちらをじっと見つめ返してから、少し意地悪そうににっこり微笑んでこう告げてくる。


「どうかしましたか?アナタ」

「いや……その」

「また私達に隠れてマリーと相談でもしていましたか?それとも何か諭されましたか?いい加減白状してしまえと言われただとか」

「……」

「アナタは隠し事が苦手ですからね。嫌いな相手ならまだしも、好きな相手には嘘がつけない人ですから。そもそも私の瞳を前にして隠し事をしようなどと考えることが烏滸おこがましいです。全部まるっとお見通しなんですよ?」

「ぐぬぬ」

「それに、今日は特にわかりやすかったですし。ねぇ、皆さん?」


 ルナの言葉を肯定するように、他の皆もうんうんと頷いていた。そんなバカな、そこまでわかりやすかったというのか。


 いつも俺の左に座っているリースも横から話し掛けてくる。あまり説明してこなかったが、妻達とは毎日三食一緒にこうやって食事を取っているし、四獣との戦闘の無い日は必要十分なぐらいにはちゃんと交流して過ごしてきていた。リースと二人で過ごす時間も他と比較すると十分過ぎるほど取っていた方である。娘達の作品を集めた陶芸展とか、何度も行ったことがあるし。


「ヒロが隠し事をする時って、大抵ろくでもない事情があるのよね」

「それほどでもない」

「何自慢してるのよ。ほら、さっさと吐いて楽になっちゃいなさいよ」

「ううむ?」


 いや、話すには話すのだがその言い方はどうなんだろうねうん。それでもとりあえず説明しておいた。地下に行ったら装置があったが、まずそこで五時間待たされたこと。待たされた後に俺をこの世界に送り込んだ神様と九十年振りに再会したこと。俺にとっては九十年振りだった一方で、神様にとっては数日の出来事であったこと。ここまで到達したことはさほど褒めて貰えず、むしろ俺を選んだ自分自身のことを神様が自分で高く評価していたこと、などを話した。


 その結果、皆も俺と一緒に怒ってくれた。ただし怒り方がちょっと特殊だったが。


「アーゼス神様がこの世界の創造主だということは知っているけれど、確かにそれは酷いわね。皆で頑張って来たからこそここまで来られたのに、その努力を予定調和だなんて考えるのは失礼よ」

「うん、そうだよね」

「特に、五十人も子供を生む母親の苦しさがわかっていないことが許せないわね。そんなバランスに設定する方がおかしいのよ。皆でお腹を痛めて頑張ったからこそやっとここまで来られたのに」

「あの、リース?」

「そりゃね、いっぱい生めた方が嬉しかったし、気持ち良かったかどうかで言えばすっごく気持ち良かったんだけれど、でも私達母親の努力ももっと認めて欲しいわ」

「……俺の努力は?」

「ヒロは、皆がいっぱい赤ちゃん生んでくれて嬉しかったでしょ?頼まれなくても毎日子供作っちゃう人なのに、今更本当はイヤだったとは言わないわよね?」

「うん、それはそうなんですけど」


 ちなみに星歴九百六十年時点から現在の九百九十年までで、娘の人数は五万人以上増加している。これは一日平均五人程度は子供が増えていたという計算になる。その日抱いた全員が妊娠するというわけではないので実際にはそれ以上の人数を毎日種付けして過ごしていた。もうなんというか色々とごめんなさい。だがここで、功績を認めてくれる嫁さんもいた。愛姫だ。


「しかし、旦那様の功績はこの世界の民には高く評価されておるのじゃ。大勢子を成しておることも神様なのだから仕方ないと皆に理解されておるし。決して卑下することは無いと妾は思う」

「そうなの?愛姫」

「なのじゃ。特に最近では、この中央大陸の開発を円滑に行えた功績が高く評価されておるし、魔物関連の素材と商品の流通や加工がスムーズになったことなどもじゃ」

「前半はともかく、後半はよくわからないんだけれど」

「それはどちらかというと、わたくしと娘達の功績ですわ」


 愛姫との会話を引き継ぐようにジゼルが説明してくれた。ジゼルと娘達は鍛冶を筆頭に生産関連技術をとことんまで追求して高めたわけだが、そこを更にマリーがサポートしていたらしい。どこをサポートしたかというと、魔物素材の使い道や武器防具のデザインに関して、俺から受け取った情報をマリーが絆神力によって具現化させて実際に披露してみせることであらゆる素材の消費と需要が加速したのだとか。

 以前から武器関連において似たようなことをして貰っていたが、どうやら防具に関しても同じことをしていたらしい。魔物素材はどちらかというと防具に消費されることが多いので、俺の持っていたゲーム知識が大いに役立てられたのだそうな。


 他にも色々なことを説明された。俺がこれまでの日々で気まぐれにやってみたことなどを娘達がしっかりと引き継いでいて、その芽を育てたことで大きな産業に発展したものが数多く存在しているらしい。一番大きな産業は、今も昔も宝石事業みたいだけどね。今のこの世界では皆誰もが指輪を填めて生活しているような状態になっているのだそうだ。


 それらのことが積み重なってどうなったかというと。


「ですから今のアナタは、この世界の人々にとっては本物の神様扱いです。以前から子作りの神とされていましたが、最近は子作りと繁栄の神様ですね。ちなみに私は結婚と巨乳の女神様なんですよ」


 俺の方を見ながらルナがそんなことを言う。結婚と巨乳の女神って、ちょっとそれはどうなんだとは思うもののルナにはぴったりだな。……ところでそれって、皆にあるのだろうか。


「ええと、他の皆もそういう神様扱いになってるのかな?」


 と軽い気持ちで聞いてみたのだが。


「妾は戦と育児の女神なのじゃ」と愛姫。

「わたくしは鍛冶と盾の女神ですわ」とジゼル。

「政治と商売の女神です」とフリマ。

「治癒と献身の女神です」とティターニア。

「美と芸術の女神よ-」とアンジェラ。

「農業と運動の女神だよ」とキャラットが言った。


 ではリースはというと。


「私は愛の女神ね」

「ひとつだけなのか?」

「一応はね。他のは色々と有り過ぎて未確定なのよ。他の称号はこちらからお断りしているわ」

「リースお姉様は、もう一つの属性が独占だとか情欲だとか本人にとって不本意なものが多いので辞退しているのです」

「ちょっと、ばらさないでよティターニア!」


 どうにもそういうことになっているらしい。なるほど確かに。ちなみに多産の女神だとかそっちの方は全員らしい。皆五十人ずつ子供生んでるからね。そりゃそうだよね。


 そんなこんなで。例え俺をこの世界に送り込んだ神様が俺のことを評価してくれていなくとも、この世界に住む人々皆が認めてくれているのだから良いじゃないか、ということで話が落ち着いた。気持ちも落ち着いたのでその日の夜もいつも通りに子作りを楽しんでおいた。これ以上子供を作っても戦闘面での意味は無いが、俺も気持ち良いし娘達も喜ぶのでやめる必要もきっと無いと思う。娘達の中には、今夜もルナやリースが普通に操作しに来ているようだったが。


 残された期間は十年弱。あまり気負わずに進めていこう。

本当の神様ってこんな感じだと私は思います。

力があり多忙な方なら仕方ないんじゃなかろうかと。

目標完遂時にしっかりと応えてくれるだけまだマシな方なんじゃないでしょうか。

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