第七十三話「VS玄武」
この中央大陸の東西南北に聳える四つの山脈、そのうち三つに住んでいた東の青龍、西の白虎、南の朱雀を既に倒してきた。それぞれの山脈の色も四獣に対応していて、東は青っぽかったし西は白かった。南は当然赤く、そして北の玄武が住むと思われる山は黒っぽい色をしている。
何の為に四獣を倒しているのか、実のところ良くわかってはいない。ただ、この世界を攻略しきらなければうちの一族が全滅してしまうわけだし、中央大陸において攻略目標となるのは東西南北にそれぞれある山脈に住む四獣ぐらいだったというだけだ。他に目標が無さそうだから仕方なく選んで倒しているというだけの話で。
前にも話したが、中央大陸は中心部から五百キロごとに円状に国道が走っている。千キロから千五百キロまでの外周部が魔物の領域であり合計で十二区画存在している。四獣の住む山脈はあくまで四区画で、残り八区画は別の魔物達が住んでいるわけだが。それらの八地域に関しては、魔物の強さも弱くて明らかに初心者から中級者向けだった。この世界の住人向けの狩り場ということなのだろう。教会での無限復活の導入後はHPが少ないこの世界の住人も積極的に魔物狩りに参加しているので、当たればほぼ即死の世界でも頑張って魔物狩りに励んでいるようである。苦痛無き復活装置というものは、大きな意識改革を皆にもたらしたようだ。
それで、東西南北の四山脈が他地域と違う最大の点は、その四山脈からそれぞれ川が流れ出ているということで。この川はそれぞれ中央大陸中央部の五十キロ地点で円を描くように左右に分かれていて、そして北東、南東、北西、南西の地点で何故か国道の下へと流れ込んでいきその行方が知れていない。
だから、四獣を倒した際にこの川に変化が起こるのではないか、ということが問題になっていた。
実際にそれを調査したところ、どうにも四獣を倒した後の川から多量の魔力が検出されるようになったらしい。川の水を掬ってボトリングしておくだけでMP回復薬になるとかならないとか。この世界にはそれまで全くMP回復薬の類が存在しなかった為、この世界で初であり唯一のMP回復薬ということにはなるのだが、どうやら割合回復ではなく固定値回復であるらしく、MP量の多いうちの娘達にとっては焼け石に水だった。
一応成果は出ているはずだと判断して、俺達家族は引き続き北の山脈、おそらくは玄武の討伐を開始することにする。
玄武というのは、個人的にはよくわからない生き物だ。一般的には脚の長い亀に蛇が巻き付いた形をしているらしい。何故蛇が巻き付いているのか、それがよくわからない。尾が蛇になっているパターンもあるらしいが、それまたよくわからない。尾が毒蛇になっているキマイラは獅子のイメージだしな。ライオン頭のキマイラと基本が亀の玄武では、尾が蛇という共通項を設けるのはかなり無理があるのではなかろうか。
この世界において、青龍はひたすら長く、白虎は白い子猫で朱雀はピンク色のいやらしい鳥だった。元々よくわからない玄武が果たしてどのような姿で出てくるのか、なかなか興味深かった。
だからといって、まさか亀ですらないものが出てくるとは予想外だったのだが――
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北の山脈を登り始めてすぐに判明したことがある。山のはずなのに、何故か磯の香りがするらしいのである。
山道は随分と湿っぽくて、そして小雨が降っていた。そんな中、いくつかの広場で南の朱雀山脈でも見かけた温泉地帯が広がっていた。南の朱雀山脈ではカニを鳥が補食していたが、北のこの黒い山脈ではデカイナメクジ型モンスターをカニが捕食していた。そのうちカニ類は積極的にこちらに襲いかかってくるようで。
それらは、見た目は温泉ではあるのだが……何故かところどころに塩が見られる。いわゆる岩塩というやつなのだろうが、いくらなんでも色々おかしい気がする。つっこんじゃ負けなんだろうけれどね。岩塩というのは、そこが昔海であるだとか、なんらかの理由がなければ十分な量は発生しないはずなのである。この中央大陸は海面から標高五千メートルの崖の上にあるし、更にこの山脈は高度がプラスされるのである。こんな場所に岩塩があるのはかなり無茶があるのではなかろうか。
しかしそれでも目の前の現実は変わらないようで。どうやらこの山脈に湧き出す温泉は、どこも塩分を含んでいるようだった。そしてそこに海草が生えていて砂場も広がっているという始末。山なのに海っぽい環境というのはどういうことだろうか。何やら魚モンスターも住み着いているようだし、近づくのは危険だ。
カニ、魚、ナメクジ、蛭などの魔物が生息している様子で、そんな中にちらほら亀も混ざっていた。ただ、亀は亀でも魔物かどうか判断がしにくい。動物っぽい小型の亀がいたので近づいてみたところ、魔物っぽくは襲ってはこなかった。ただしスッポンみたいなやつに噛まれる娘もいたようで。HPバリアのおかげで噛まれても食い込まずに引き剥がすことが出来たが、HPバリア無しで噛まれていたらと考えると少々恐ろしい。スッポン怖いよスッポン。
しかしそれでも、亀がいるのなら玄武もきっと亀だと思っていた。…昼過ぎの三時頃に到達した、広場に着くまでは。
マリー達が朝から登山して七時間。その広場の中央には、巨大なカニが聳え立っていた。カニが聳え立つというのも随分戸おかしな話だが、事実なのだから仕方がない。この世界では何故かよく見かける、ミナミコメツキガニのような見た目の巨大な為。側面をこちらに見せつけているが、背中側は何かゴツゴツとロッククライミング出来そうな様子になっていた。
ただ、そのサイズがちょっと……なんだろう、凄く遠くにいるはずなんだけどな。体高百メートルぐらいありそうなんですけど。どういうことなの。
そんな情景を、マリーから直接頭の中に流して貰っていたのだが。ぼんやりと実際の俺の身体の方の視界を見てみると、例のディスプレイの画面が点いていて、そいつが玄武だと教えてくれた。青龍以来の登場画面も表示されている。
「余は北辺を護りし、玄武なり。砂と塩と毒の絶妙な味わいがわからぬ人間共よ。己の知る世界の小ささ、身をもって知れい」
……うん、なんというか台詞も微妙な感じに改変されている気がする。なんというか、何かがおかしい。そんな印象だ。画面の方では自称玄武の巨大な為が宣戦布告しているが、実際のマリーの方ではまだ玄武に動きは……と思っていたら、玄武の天辺が噴火した。
噴火?噴水?どっちかわからないが、紫色の物が発射されて、こちらへと落ちてくる。更にはこちらに元々側面を向けていた玄武が、凄い勢いでこちらに向けて走ってくるではないか。広場はどうやら全面に砂地が広がっているようだが、玄武の一歩一歩により大量の砂が巻き上げられている様子が画面に映っていた。
『うわこれどうしようヤバイな』
『おとーさん、助けて!』
『えーと、んーと、とりあえず広場に入ってきてない子は避難。カニはブロントが受け止めるしかないだろう。何か飛んで来たヤツは後から考える』
とりあえずそのように指示しておいた。ブロントは一応皆の中では一番堅いからな。あいつが耐えられないなら誰にも無理なわけだから、カニの突進をそのまま防がせるしかないだろう。
画面の中でマリーから指示を受けたブロントが、マリーの前に出て盾オハンを構える。物理盾だから受けきれるはずだ。マリーは既にHPブーストフィールドを展開していて髪の色が金色に染まっていた。娘達は、マリー直属のある意味近衛ともいえる二百五十人程度の中隊のメンバー以外は、まだ広場に侵入していなかったらしく何も言わずとも一度下がったらしい。そんな中であっという間に玄武との距離が詰まって、激突した。
このあたり、この世界におけるHPバリアの高性能っぷりを感じさせた。凄まじい勢いで衝突した玄武に対して、周囲の砂が吹っ飛んだにも関わらずブロントとその後ろのマリーを含めた娘達は無事だった。無事だった角度は三十メートル程度で、その範囲外にいた娘達は砂ごと空中へ巻き上げられていた。しかしそこはなんというか、一応HPは十分にあるので落下ダメージも吸収しきれたらしかった。十メートル以上の高さから落っこちた気がするのだが、それでも大丈夫なあたりこの世界は本当にセーフティだな。
しかしそれに遅れるようにして、空から紫色の球体が落ちてきた。その球体はマリーやブロントの立ち位置よりも後方二十メートルほど位置にいた娘達に直撃した。球体そのものによるダメージで即死ということは無かったようなのだが、その場には一時的に毒沼が発生しており、十人前後の娘達が毒沼の範囲に巻き込まれていた。
毒沼に浸かった娘達は、最初のうちは平気そうだったが突然ふらふらとその場に崩れ落ちてしまった。一体何の毒かはわからなかったのだが、画面から様子を見る限りどうにも息をしていないように見える。胸が上下に揺れてないからな、乳揺れ的な意味ではない。そうしてしばらくすると光の粒になって消えてしまった。死亡処理により宮殿の装置で復活が確定したということだろう。HPが残っていたかどうかはわからなかった。
Smes:フグ毒ですよ。
突然、最近向こうから話し掛けてこないシステムメッセージの黄文字がUI左下のログウィンドウに躍った。フグ毒て。カニなのにフグ毒なのか。
Smes:フグ毒といっても、フグだけが持つわけではありません。スベスベマンジュウガニなどもフグ毒を持つことがあります。フグ毒は神経を麻痺させて呼吸停止を引き起こしますから、それにより窒息死します。とはいえ、HPが半分を切るまでは毒には感染しないのですが。あの毒は、毒沼に浸かり続けた際の継続ダメージがかなり高いようですね。発生した毒沼からすぐに逃げるようにしてください。
何やらやや複雑な説明だった。すぐに毒にかかって毒で死んだわけじゃなく、まず毒沼に浸かり続けた事によりHPが半分を割って初めて毒にかかり、その毒で死んだってことなのか。毒を浴びた瞬間毒にかかって死亡というわけじゃないんだな。状態異常の阻止効果まであるという点ではHPバリアは高性能だけれど、そのHPをガリガリ削ったうえで毒にかけるという点では敵の毒液の効果が強すぎるようだ。
最初に飛んできた毒沼は、犠牲になった娘達が消えるより前ぐらいのタイミングで下の砂地に吸い込まれて消えていた。大体持続時間は十五秒ぐらいだろうか。十五秒も毒沼に浸かり続けたら、毒に感染して死ぬというのもそれは仕方ないことなのかもしれない。とりあえず今の情報をさっさとマリーに伝えておく。
『マリー、玄武が紫色の毒弾を発射したら、着弾した場所に毒沼が出来るらしい。毒沼からすぐに退避してから毒に触れて減少してしまったHPを回復したら、無事に乗り切れるみたいだ』
『ええっと?うん、わかったよ、おとーさん』
さて、玄武の動きはどうなるか。最初猛烈に横歩きで突進してきた玄武は、ブロントに盾オハンで防がれて突進が止まった。その後ゆっくりと全ての脚を使ってブロントに正面から向き直った後、前脚の爪を使って攻撃を繰り返していた。しかしそこはなんというか、オハンは物理攻撃に対しては滅法強い盾だから、ブロントは全部軽々と防ぎきっていた。
盾で防いだからといってノーダメージではないから、後方からティターニア達が一生懸命回復してるんだけどね。
体高百メートルのカニの巨大な爪攻撃を全部防ぎきったものだから、玄武はかなり驚いた様子で目をキョロキョロと動かしていた。カニなので、目のところだけが尖っていて先端に目がついているらしい。人間で考えるとちょっとキモイかもしれない。カニだからなんとなく可愛く見えるけれど、でもそれにしてはサイズがでかすぎである。背中も何か山みたいにゴツゴツしてるからね。
そんな玄武が、口元をあわあわさせながら何かを地面に吐いた。その地点から何か砂の中を少しだけ盛り上がりがこちらに向かってきている気がする。
『マリー、あの向かってくる砂の盛り上がりにイージスを』
『りょーかい!』
うちの娘は素直で助かるなぁと思いつつ。微妙に盛り上がりながら進んでくる盛り上がりに対して、マリーがイージスを発射した。そのまま砂の中につっこんだ直後、その場から大きな噴水が上がる。
『水属性の攻撃魔法だったみたいだな』
砂の中から突き進んで、目標にこっそり直撃コースか。マリーやHPブーストした状態のブロントならば、ボスの単体攻撃魔法でも数発は耐えられそうだけど、不用意に食らわないにこしたことはない。
果たしてこれは奥の手だったのか。玄武がまたのそのそとこちらへと横向きになるように回転した後、来た時と同じ速度で猛烈に横歩きで撤退していった。とはいえ、大きな広場の中から出ていくわけではないらしく。五百メートルほど先で立ち止まったかと思うと、再び天辺が噴火して紫色の毒弾が発射された。
距離をおいての毒弾という手段まで用いてくるとは、こいつはまた厄介な相手だな。
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玄武が厄介な相手だということはつまり、それに対応した弱体支援効果が存在するだろうということでもある。
戦闘開始時刻が三時だった為、現場にはあまり人が集まっていなかった。いくら無料で飲み食いして騒げるからといって、最近この世界では雇用枠が多いから無職が以前より激減しているんだよな。だから三時時点ではすぐには人が集まらなかったのである。
それでもなんとか、玄武が一度撤退していった時点で応援ゲージが最初の一つ貯まったようだった。支援効果一覧が表示される。
玄武の物理攻撃力低下、玄武の魔法攻撃力低下、玄武の防御力低下。このあたりは基本三セットということなのだろう。問題はその次からなのだが……特殊一:玄武の弱点露出、特殊二:玄武の逃げ足制限、特殊三:玄武に登り口を設置する、特殊四:玄武の噴火間隔を長くする、特殊十一:玄武の眷属の戦闘力低下、となっていた。
なんだか項目がややこしくなってきている気がする。前回の朱雀戦でも感じたことだが、どうにもこの応援効果というのは全発動させるのは相当苦しそうだ。回数が増えるほど必要ゲージ量がどんどん伸びていく為、全部を選ぶ余裕は無いみたいだし。それにしても眷属の戦闘力低下があるということは、これは途中からまた援軍が出現するということなのか。
全てを選ぶ余裕は無い、それにしたってまずはコレだろうと考えて特殊二:玄武の逃げ足制限を選んでおく。体高百メートルの巨体で逃げ撃ちをされたのでは、追いつけないし一方的にやられてしまうだけだ。まずは足を止めなければどうにもならないだろう。
一度離れて毒弾を発射した玄武は、更にまた離れて毒弾を撃つ気だったらしい。毒弾を撃つ際には腹を地につけた状態で撃つようだが、玄武は既に腹を持ち上げて更にまた距離を開けようとしていた様子だった。その玄武の腹の位置が大分下がり、それから玄武は動き出したものの先ほどまでとは雲泥の差のゆっくりペースの移動になった。逃げ足制限の支援効果は効果を大いに発揮したらしい。
本来の亀の玄武であれば、動きが鈍重なのだからわざわざ足を遅くする必要は無いんじゃなかろうか。ところがこの玄武はカニであり、その横歩きの速度は巨体のこともありかなり高速だった。カニの玄武ではまず逃げ足を止めないとどうにもならないというのは、なかなかシュールな気がする。
玄武の動きが鈍くなったことで、横歩きの爆走で轢き殺される心配も無くなった。通路に退避させていた娘達もそのまま広場の中へと投入する。玄武の放った毒弾が着弾したが、長時間毒液に浸かる前にすぐに退避させた。それでも中心あたりで直撃を受けてしまった娘達数人が逃げ切れずにそのまま毒により呼吸困難に陥ってしまった。
フグ毒というのは、実は毒により呼吸が止まってしまっても人工呼吸などで支えてやればそのうち毒が分解されて息を吹き返すものであるらしい。だから救出出来ないことも無いらしいのだが――そこはまぁなんというか、死んでも自宅で復活するというこの世界特有の事情があるのであえて助けないことにした。中途半端に一命を取り留めて障害が残るような事態が起こっても対処に困るからな。もっとも仮にそんな障害が残ったとしても、神の作った不思議な国道に触れたら不思議パワーで回復しそうなものだが。
逃げる玄武と、追いかける娘達。逃げ切れないと観念したのか、玄武はその身を一カ所に落ち着けて連続で毒弾を放ってきた。その度に何人もの娘達が逃げ切れずに毒に罹り光の粒になって消えていくが、それでも徐々に玄武を囲んで広場を埋めていく。やはり四万人というのは少々多すぎる気がするな。全て俺が仕込んだことで生まれた娘達だというのに、命があまりにも軽く感じる。我ながら少々酷い話だ。
玄武を大体囲んだ時点で、二回目の応援ゲージが貯まった。かなり悩んだものの次は玄武の眷属の戦闘力低下を選んでおく。弱点露出を選びたい気持ちが強いがここはぐっと我慢である。
娘達に囲まれた玄武は、何やら足を忙しなく動かして砂地を叩き始めた。その震動が徐々に周囲へと伝わっていく。そうして砂の中から何かが次々と湧き出してきた。
湧き出してきたのは、亀だ。大量の亀が砂の中から突然出現してきた。ただしそのサイズはやや小さく、体高一メートル程度だった。見た目としては随分とガッシリとした甲羅を背負っていて手足も随分と立派な陸亀であり、まさに玄武といった外見。朱雀戦において朱雀本体よりも朱雀の眷属の方がよっぽど朱雀っぽかったのと似ているが、サイズが小さかった。
もしやとは思うが、先に弱体をかけておいたことにより出現した時点でのサイズまで縮小されたということなのだろうか。先読み万歳ってことか?それにしても亀の数が多い気がする。ざっと見た感じ、広場中にどんどん湧いていて、その数は軽く百体を超えているのではなかろうか。
玄武本体をマリーとブロント、そして回復役のティターニア達が維持して、周囲の玄武の眷属を相手にする流れになった。玄武本体の攻撃頻度は少なめで、眷属の召喚の為に忙しなく足を動かし続けていた。玄武の体が大きすぎて攻撃がまともに届かない為、ブロントは殴りつけてくる玄武の爪にのみエクスカリバーで斬りつけて、マリーは剣は届きそうにないので玄武のとんがった先についている目の部分へとイージスを射出してぶつけていた。
玄武の眷属達の方は、これは元々娘達は組み分けされていてそれぞれ別パーティーに分かれることが出来る為、四十人前後の小隊ごとに一匹を担当して各個撃破していた。小さいながらも堅い甲羅を持っているようだが、ジゼル達の盾に仕込まれたパイルバンカーとキャラット達のスファライで装甲破壊してしまえば簡単な相手である。そこに加えてリースが防御力ダウンの弱体魔法を篭めた槍の一撃を突き込んでやればあっという間に無力化可能な様子だった。
そんな戦況が三十分ほど続く。
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そうして三十分後、再び応援ゲージが貯まった。となれば当然選ぶべきは玄武の弱点露出だろう。支援効果を湯水の如く使えるのなら他の物を選んで外堀を埋めていく選択肢もあるだろうが、生憎今はそんな余裕は無い。次のゲージが貯まるのは一時間後という可能性も十分にあるので、この選択で最後まで攻略しなければ。
早速支援効果の特殊一:玄武の弱点露出を選択する、とそれと同時に玄武の天辺の方が爆発した。選択肢が消えた後の画面を眺めてみると、どうにも玄武の頂上付近の殻が一部吹き飛んで中身が露出しているらしい。中身の見えちゃってるカニとか、わりとホラーだな。
『おとーさん、今の爆発は?……ええと』
『ん、画面の方見えるか?背中側の上の方の殻が吹っ飛んだみたいだ』
『ほんとだ。なんだか痛々しいね』
マリーが心の声で俺に確認してきた。一応彼女は俺の五感を常に読み取ることが出来るのだが、さすがに戦闘中は実際の自分の体で読み取る意識の方に集中していて俺の方の情報を読み取ってなかったようだ。
それにしても、弱点が露出したにせよこの位置は……画面中央には現在玄武の背中が映っているが、デカイ玄武の足下にはマリーを含めてうちの娘達が随分と小さい姿で大勢ひしめいていた。玄武の体高が百メートルだからな。超巨大カニの玄武の体高が百メートルで、カニ脚の長さも十五メートルぐらいあるからな。玄武の背中側が随分とゴツゴツしていてここからなら背中を登れそうではあるが、そんな登れそうな場所は地上から三十メートル程度あるように見える。
なるほど、確かにこれは通常ならば登り口が確かに必須であるらしい。特殊三:玄武に登り口を設置する、なんて支援効果が設定されているのも当然だ。あまりにも常識外れの巨大生物が出現した場合、人間の身でまともな手段で対抗出来るわけがないんだよ。サイズ無視で全部破壊し尽くすような攻撃魔法で仕留めるか、弱点狙いで遠隔武器で仕留めるかぐらいしか出来ないだろう。
近接武器で云々というのはかなり無理がある話なわけで、弱点を露出させたうえで登り口と登りルートを設定でもしなければ勝ち目がないというわけだ。
しかしここで、うちの娘達ならズルをすることが出来る。
『マリー、リース達にジャンプで直接玄武の背中へ登らせようか』
『うん、やっぱりそれが良さそうだよね』
『リース達六千人のうち千人ほど上に登らせよう。回復役も必要だろうから、二人で担ぐなりして二百人ほどティターニアも連れて行くように』
この世界、本来飛行技術や飛行魔法などは存在しないわけだが、膨大なMPを身体強化魔法につぎ込むことでジャンプ攻撃を編み出したのがリースの功績である。俺の無茶な提案に対して長年の研究の末ようやく可能になったからな。六十年経過時点では十メートル強ほど飛ぶのが限度だったような気がするが、九十年経過した現在では三十メートル強の高さを飛ぶことが可能になった。その分消費MPも極悪らしいけどね。フルパワーだとMPマンタンからでも三回程度が限度であるらしい。
しかしこの際、それで丁度良かった。体高百メートルの玄武に対してささっと三回跳躍してほぼ登り切ってしまえばすぐに露出されている弱点部分に到達可能なのだから。
『マリーとブロントはそのまま玄武の注意を足下で引きつけておいてくれ。後は湧き続けてる玄武の眷属達の対処もそのまま継続で』
『うん、任せて』
そんな流れで玄武の攻略は進むことになった。玄武の弱点を攻めてトドメを刺すという花形の役目を他の娘達に取られることにはなるが、マリーやブロントはあくまで盾役である。盾役は敵の正面で注意をがっしり引きつけておくのが役目であり、敵にトドメを刺しにいくことではない。むしろ、がっしり引きつけておくその役目こそが花形だと考えるべきだ。
玄武の背中にまで到着したリース達が露出した弱点を槍で突き始めると、玄武はかなり慌てた様子で脚を忙しなく動かしていた。しかしそれでも、玄武の正面にまで回ったマリーとブロントの二人で玄武の目に焼き付けるようにフラッシュの光をカニの飛び出した目に向けて何度も放ってやると、正面の二人に対して大きなハサミを振り下ろして叩きつけていた。
避けることなど到底出来ないサイズ差の暴力のようなハサミが何度も振り下ろされていたが、全てブロントが盾オハンによって受け止めていた。物理攻撃特化で魔法攻撃に対して役に立たないとはいえ、やはりその盾はインチキだと思う。俺がマリーに伝えたイメージによって作り出されたものではあるのだが。
それまでは全然減りそうになかった玄武のHPだが、弱点を攻撃しはじめてからは五分に一割程度のペースで削られるようになった。三割程度削れた時点で玄武の背中の上にまで玄武の眷属が出現するようになったが、数も少なかったので上にいたメンバーだけで対処出来た。六割削れる頃には背中の上に湧く玄武の眷属の数が増え始めていたが、その頃には他のリース達が追加で他の娘達も上に連れてきて増員していたので問題無く対処出来た。
体高百メートルの巨大カニの背中の上に、うちの娘達が大勢乗っかっている様子はなんとも言えない光景だった。このカニの背中って広さどれぐらいだろうか、四千平方メートルぐらいだろうか。その背中に二千人ほどうちの娘達が乗っているわけだから、人工密度はかなりのものである。
そんな戦闘が一時間ほど続き、遂に玄武のHPが尽きた。HPが尽きた玄武の弱点にはそれまではバリアによって弾かれていた槍の穂先が深々と突き刺さり玄武の身を解体していった。毒が無ければカニ身をおいしく頂くところだが、毒を吐き出していたカニの身だからさすがに食べない方が良いだろう。フグ毒で死んでしまう。
HPが三割切ったぐらいからカニの玄武は口から泡を吹いていたが、トドメを刺されてついにその泡も止まっていた。体のサイズに対してあまりにもあっさりとした幕切れに、やはり喋ることが出来ない生き物というのはやられ役としてはイマイチだな、などと俺は考える次第だった。
宮殿にある装置の画面の方には謎の台詞が表示されるけれど、実際の実物が喋るかどうかは無関係みたいだからな。一体なんなんだ、この台詞。
装置の方の玄武の討伐後の画面の方には「これで勝ったと思うなよ……」などと書かれていたが、俺は「もう勝負ついてるから」と心の声でツッコミを入れる次第だった。
24日の午後18時までに完結させたいと考えております。難しそうですが。




