第七十二話「VS朱雀」
990/4/25 12:40
見た目が子猫で本体の戦闘力も子猫な謎の子猫型白虎を討伐して、一週間が経過した。俺が見た目上かなり非道いことを容赦なく実行していた件は黒歴史として葬り去られた。ただし、教会の記録の方にはバッチリと書き残されてしまうらしいが。
現在教会から派遣されている記録係は、初代であるスシネさんのひ孫に当たるコノハさん三十二歳がしてくれていた。娘さんが今七歳らしいけど、最後に少しだけその娘さんにも記録係の役目が回るぐらいだろうか。
俺がこの世界でやらかしたことは何から何までバッチリ記録されてしまっているらしい。一族の財政状況とかもね。
少しそこらへんの話もしておくことにする。
最初この世界に来た時に初期資金として所持していた一兆円は、その半分弱を各国の姫君購入に使い、残り半額以上を自宅周辺にハーレム学園を作った時点で使い切ってしまった。それより以後は、採算がある程度取れてくるまでは長い期間赤字状態で。わりと心臓に悪かったと思う。
この世界は、世界政府である教会によって全てが管理されている世界である。そもそも通貨を発行しているのが教会であるし、この世界のほぼあらゆる業種がとことん雇用管理されていて、労働者はほぼ全て国家公務員のようなものだ。
魔物ハンターの仕事に関しては自由に開始出来るし狩れば狩るだけ利益にはなるが、魔物の素材が極端に大量に流通して価格崩壊などが起こらないように教会が買い支えしたり、逆に値段が高騰しないように在庫がある限りでは在庫放出を行ったりしている。
まぁなんでもかんでも、とことん管理されているわけだな。
土地や建物の値段も、教会によって調整されてしまっていて。だからうちの一族が東大陸で自宅周辺地域の大規模開発を行ったり、また中央大陸の土地の大規模開発を行ったりした時でも、やはりそこには教会による調整が作用していた。
つまりはどういうことかというと、教会から無利息での大規模な資金援助を受けられる代わりに大きな利益も得られないのである。暴利を貪るような真似は一切出来なかったわけだ。
うちの一族は、息子の方の血筋の子孫に関しては完全に別家族で家計も別々になっていた。家計が別なわけだから、実家からの資金援助も出ないしそれぞれに働いているようだ。この際子孫達の雇用に関しては教会がかなり配慮してくれているらしく、皆しっかりと雇用されて十分な給料を貰っているらしかった。うちの一族だということでのコネ雇用なわけだな。
借金を返せる程度には儲けたはずだが、その後が大変で。大量の高額魔物素材を魔物の巣を回ることで手に入れたわけだが、これは全て教会に買い叩かれた。勝手に流通させると市場が大混乱になるからという理由でほとんど回収されてしまったし、日頃から色々と便宜を図っていることへの見返りとして安値で買い取りされてしまったという次第で。
だから我が家の家計は、一応借金状態ではないもののさほど資金が無い状態になった。一応資金として三千億円前後はある。あるにはあるが、戦闘要員の娘達だけで四万人いるのである。一人頭七百五十万になってしまうわけで、あまり裕福とは言えないだろう。
では毎日凄い勢いでお金を使い込んでしまうのかというと、実はそうではない。リースの実家のロンロンの牧場などを始めとして、色んな生産施設の権利を持っているからだ。どういう権利なのかはよくわからない、余剰生産物の自由裁量権とかそういうものだろうか。それがどう作用するかというと、息子筋の子孫が働いてくれている牧場や農場などから毎日たくさんの資材が送られてくるのである。
それらの資源を市場に流して売却することは出来ないが、自分達で消費するのは自由という次第で。だから、収入は少ないけれど支出も少なめという自給自足の状態が形成されたのだ。
毎日運び込まれる大量の物資は、全て娘達が加工して家族内に行き渡らせてくれている。食品だけでなく衣類なども糸の状態から作り上げているようだ。それらの仕事を金銭で評価するならそれなりの額にもなるのだろうが、家族内で流通させる限りは一切金銭で評価されない。難しいね、このあたり。
一日中スイーツ作ってる部署もあるらしい。戦闘要員だけで四万人、全体では八万人以上の女性を毎日満足させるだけのスイーツってどれぐらいの量になるのだろうか。
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990/4/27 12:15
白虎を討伐したので、さほど期間を空けずにそのまま次の目標へと進むことにした。東西南北の順なので、次は南の朱雀である。たぶん朱雀。名目上は朱雀。外側から見た山の見た目もほんのり赤かったからね。
とはいえ、当然警戒はしていた。前二つが、長すぎて鱗が堅すぎる青龍と、見た目完全に子猫で戦闘力も子猫な白虎だったからな。何かがおかしい四獣が来る可能性は考慮していた。考慮はしていたのだが。
その日は朝早くから娘達は南の赤い山脈に登山開始して探索を進めていた。山道には鳥系モンスターと水棲系モンスターが多数生息していて、鳥がカニを襲って捕食している姿がそこかしこで見受けられた。モンスターにもたまには捕食関係があるらしい。山道にはところどころの開けた場所で温泉が湧き出していて、そこにカニやタコが住み着いている様子だった。
モンスターは一部はこちらにも襲いかかってきたが、こちらを無視して鳥とカニが争っているケースが多かったかな。大体は鳥が勝利していた様子だったが。
そんな変な環境の山を登り、お昼休憩になって娘達がお弁当を広げた時、上空からソイツは現れた。
上空を飛ぶ巨大……というほど巨大ではない影。その姿は全然炎など燃えさかっておらず、雄麗という言葉とはほど遠かった。その翼は飛翔するというよりはハチドリのように動きその場に滞空していて、その容姿はオオハシに似ていた。というよりかは色もピンクでいやらしい。巨大ないやらしい鳥だった。
マリーが現地で探索して、それまでの情景を俺の意識に直接送信してくれていた。受信するのは少し頭が疲れたけどね。俺自身は宮殿四階の中央の部屋で、いつもの装置前で待機していた。応援ゲージの使用の選択はこの装置からしか出来ないみたいだしな。前回白虎相手では応援効果は何も無しだったが、今回もそうだとは限らないし。
さて、マリーの方でソイツに遭遇したと同時に、俺の目の前の装置の方はそれまで真っ暗だった画面が唐突に点灯し、敵の姿を表示していた。どうやらピンク色のソイツがやはり朱雀らしい。
画面には、朱雀などと表示されているけども。
『マリー、そいつが朱雀らしい。あまり朱雀という感じではないけれども』
『あ、やっぱりそうなんだ。どうしよう、今皆お昼休憩なのに。それにちょっと高くて届きそうにないよ』
確かに、ピンク色のハチドリっぽい自称朱雀のいやらしい鳥は武器が届かない距離をキープしていた。徐々に高度は下げてきているもののそれでも高度五メートル前後。近くで見ると随分と巨大だ。四メートル以上はあるんじゃなかろうか。そんな巨体なのによくハチドリのような飛行が可能なものだと思う。巨体ではそんな飛行は出来ないと思うのだが。
そんな朱雀がその長い嘴を大きく開き、細長い舌も思いっきり伸ばしながら大きな鳴き声をあげた。鳥らしく高い鳴き声。一瞬、音波攻撃か何かだろうかとも考えたのだが。
その朱雀の咆哮に応じるかのように、娘達の弁当箱の中身が空へと舞い上がっていくではないか。そのまま凄い勢いで、大量の食料が朱雀の口へと吸い込まれていく。
半径五十メートルほどの範囲にいた娘達のお弁当が、見事に朱雀に頂かれてしまったようだ。
口を閉じた朱雀はご機嫌そうに左右に揺れながらその尻尾を揺らしている。尾羽根というよりは尻尾という印象で、その先端にだけふさふさした羽根が生えているが。そんな朱雀が突然言葉を発した。
「ウマイ!ウマイ!モットイタダキマス!」
まるでオウムかのようにそう言葉を発して、朱雀は次は口を開きながら娘達の頭上を旋回しはじめた。旋回しながら飛ぶ朱雀の口へと、どんどん娘達のお弁当が吸い込まれていく。一体どれだけ食べるつもりなんだこのピンク鳥。
三割ほどの娘が被害に遭った時点で、朱雀は高度を上げて去っていく。去り際にこんな台詞を残しながら。
「ゴチソーサマ!ゴチソーサマ!オイシカッタデスシオスシ!」
そう言い放つや否や、山の向こうへとあっという間に飛び去ってしまった。いやらしい。凄くいやらしい。
ちなみにお寿司は愛姫達が主に好んで食べている。中央大陸では魚介類は基本手に入らないのだが、東大陸の外海で取れたものを共有インベントリ経由で仕入れている。その為だけに仕入れ担当として愛姫の娘が三名ほど遠い漁村に派遣されているとの話。そこまでしてお寿司が食べたいのか。気持ちはわからないでもないし俺もその恩恵に預かっているが。
被害にあった娘達の半数はお寿司所持だったことが後の調査で判明した。共有インベントリの中には三日分ぐらいは余剰に食糧が備蓄されていたので、お弁当を食われた娘達も予備のものを食べて事なきを得たのだが。それでも娘達には、食べようとしていたお弁当を目の前でかっ攫わう許せない鳥だと心に強く刻まれた様子だった。
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昼食後再び娘達は山の探索を再開したが、なかなか朱雀は見つからなかった。一度遭遇はしたので装置のディスプレイの方には表示されている。世界各地の映写機水晶の方でも山の様子が放送されているらしい。
とはいっても、相手がいないのに戦闘を応援するというのはどうにも無理なわけで。なので夜にでもまた来てくださいということで案内を出しておいた次第。誰に案内を出すかというと、応援の為に集まってくれた一般人の方々向けだ。応援の為というかなんというか、やや微妙なラインではあるのだが。
謎の応援ゲージシステム。青龍討伐の際には非常に有効だったそのシステムの運用に関して、どのように上手に用いるかという手法が既に話し合われていた。その結果考えられたのが「各地の映写機のある場所でお祭り騒ぎをする」ということだった。どうやってお祭り騒ぎをするかというと、うちが主催でうちの奢りで人々に騒いで貰って応援して貰おうという流れになったわけで。
出費の面でどうなの?と思わなくもないが、前述したようにうちの一族はお金は無いけど物資と人手は豊富にある状態になっている。なので酒や料理の類を全部自前で生産して用意して、それを現地で配布してお祭り騒ぎをやって貰うという流れになった。今はまだ実験段階なので規模は小さいが、既に噂を聞きつけた人が結構出待ちしている状態になっているそうな。
世の中にはそんなに無料で飲み食いしたい人々が溢れているのだろうか。気持ちはわからないでもない。
案内を出す方法としては、この世界には携帯電話やテレビなどが存在しないものの、重要な施設にのみ固定電話が設置されているので、その固定電話で各地に連絡を入れる次第。この世界、ところどころ便利だったり不便だったり落差が激しい。この世界を設計した神様も、移動魔法や攻撃魔法を禁止にする一方でさすがに電話は無いと不便過ぎると判断したのだろうね。情報伝達の遅延は、本当に大変過ぎるから。
そんな感じで各地のお祭り会場では夜までお待ちくださいという案内を出して、実際にその日の夜がやってきた。
それまでずっと探しても出てこなかった朱雀がいきなり見つかるというのは本来ならば望み薄だとは思ったのだが、もしやと思って夕食前にあらかじめ警戒させることにした。昼食の流れ再びということが有り得るからだ。
娘達に再びお弁当を用意させてそして時間指定で一斉に開封させたところ、再び朱雀が上空に姿を現した。
「メシ!メシ!イタダキマース!」
朱雀がそう宣言して高度を下げてきたものの、娘達は一斉に弁当箱の蓋を閉めて皆でインベントリにしまいこむ。娘達のお腹は空くだろうけれど、三時にあらかじめスイーツ食べてたからきっと大丈夫だと思う。
「ナンデ!?ゴハンナンデ!?イヤラシー!」
いやらしいのはソッチだと思うのだが。夕飯の強奪に失敗した朱雀は、しかし怒りでこちらに向かってくるということはせずにその場で揺れるように動いている。高度は下げるどころか徐々に上がっているようだ。このままでは逃げてしまうかもしれない。
しかしそのタイミングで、俺の担当している装置の画面右の方では応援ゲージが順調に伸びていた。青龍の時とは段違いのゲージ蓄積速度。あらかじめ根回しした成果はあったようだ。
「応援ゲージが貯まりました!支援効果を選んでください」
と表示がすぐに出て、支援効果の項目が出る。しかし項目は一つのみで「朱雀との戦闘開始」と出ていた。
応援による支援効果が無ければ、戦闘の開始すら出来ず必ず逃げ去ってしまう、そういう設定だったのだろうか。なんにせよすぐにその項目を選択し決定した。
決定ボタンを押した瞬間、陽も落ちて闇に包まれようとしていた山の景色が一変した。山のあちこちから火柱があがり、元々赤い山の岩肌を更に赤く照らし出す。更にその火の中から真っ赤に染まった巨鳥が何羽も姿を現した。どちらかというとこちらが朱雀に見える四メートルほどの鳥が複数箇所に出現する。空は飛ばずに二足歩行する巨鳥。ロック鳥という見た目のものが、十一体ほど出現しているようだ。
「ワレワレノケンゾクダ!カッコイイ!」
空中高くで留まったままの朱雀がそう叫んでいる。我々の眷属だ、であっているのだろうか。自称朱雀のピンク鳥もほんのり身体が光っているようだ。眷属の巨鳥の方がよっぽど明るく輝いているけどね。それにしても、戦闘開始したのに一向に高度が下がらないのだがどうしたものだろうか。
そんなことで悩んでいたら、すぐに応援ゲージが二段階目貯まっているところだった。再びアナウンスと共に支援効果のリストが表示される。
朱雀の物理攻撃力低下、朱雀の魔法攻撃量低下、朱雀の防御力低下、特殊一:朱雀の高度低下、特殊二:朱雀の魔法反射技能封印、特殊三:朱雀の捕食技能封印、特殊十一:朱雀の眷属の戦闘力低下、などが並んでいた。
”朱雀の高度低下”これを実行することで朱雀本体が高度を下げてまともに戦えるようになるということか。しかし他にも気になる項目が複数あるように見える。これは一体どれを選んだら良いものか――と悩んでるところで、マリーから心の声で通信が入った。
『おとーさん!ヤバイよ!後から湧いたヤツすっごく強い!』
『え?』
『なんか火の球をいっぱい吐きまくってるの!皆一撃でやられちゃってるの!このままじゃヤバイよ~』
画面中央に出ている支援効果一覧から目を外して、ちらりと左側を見てみる。画面左側には娘達の残り人数が表示されているわけだが、その人数表示がどんどん減っているのが目に入った。その人数の減りを詳しく見るよりも先に、俺は支援効果のうち朱雀の眷属の戦闘力低下を選んでいた。
項目を選んだ瞬間、娘達の人数表示の減少が一気に食い止められる。しかし完全には止まらずに、ちらほら減っているようだった。さすがに戦闘力が低下したからといって、被害ゼロというわけにはいかないようだ。それもまた仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。
「ロコツニワレワレヲジャクタイシテクル……イヤラシー!」
上空の朱雀が、メシを食いそびれた時と同様に抗議の声をあげていた。露骨に我々を弱体してくる、か。そういうの敵も理解しているんだな。さて次はどうしたものか。
戦闘はその後しばらく、周辺に湧いた朱雀の眷属達の処理の流れになった。朱雀の眷属達は火球こそ吐かなくなったもののその嘴と爪による攻撃は強力らしく、盾役のジゼルでも三発目でダウンしてしまうらしかった。朱雀本体はその様子を上空で見物しているだけかと思いきや、上空から地上へと火球を発射しはじめた。おそらくは魔法攻撃。朱雀の開いた口のあたりで出現した火球は、一度発射されると標的へとホーミングするかのように吸い込まれて炸裂していた。
『マリーは、朱雀本体の魔法を妨害した方が良さそうだな』
『うん、任せておとーさん』
マリーは全体の中央あたりにいたので、周辺を取り囲むように湧いた朱雀の眷属達には直接手が出せない位置にいるようだった。状況観察はしていたみたいで、既に魔法の迎撃準備に入っていたらしい。次からの朱雀の魔法はマリーがイージスを射出して当てることで妨害しはじめた。ただし、五回に二回程度は朱雀がひょいっと回避してしまう様子だったが。
最初はすぐに二回貯まった応援ゲージの方は、次貯まるまでが明らかに長くなっていた。どうにも回数を重ねるごとに、必要値がどんどん増えていくらしい。それでも以前と比較したら大分伸びは良く、三回目はさほど待たずにやってきた。
「応援ゲージが貯まりました!支援効果を選んでください」
並ぶリストは先ほどとさほど変わらない。特殊十二:朱雀の眷属の戦闘力低下二回目などと出ているが、これを選ぶ必要性は薄い気がする。確かにまだ強いし実際に何人も娘がやられているが、耐えられないほどではない。
ならば当然選ぶのは、特殊一:朱雀の高度低下だ。選んだ瞬間朱雀の身体がグラリと傾き、よろよろとその高度を下げた。地面から二メートルほどの位置だろうか。なんとか攻撃が届かなくもない。
「イヤラシイー!」
「ここまでだよコリちゃん。許さないんだから!」
マリーの真正面へと朱雀は降りてきた。マリーも何やら啖呵を切っているが、コリちゃんという呼び方は如何なものか。まぁでも、見た目は完全にピンク色のいやらしい鳥だからな。これが自称朱雀とかきっと許されないと思う。
そのまま朱雀を囲んでフルボッコタイムが始まる。しかし前二つの青龍と白虎がどちらもとんでもないHPを誇っていたのと同様に、この朱雀もちょっとやそっと叩いたところで全てHPによるバリアで受け止められてしまうのでいくら殴られても全然怯まない。そんな中、アンジェラが朱雀に弱体魔法を試そうとしていた。
『あ、やばいなコレ』
「パライズ!」
「イヤラシー!パライズ!」
アンジェラが実行したパライズに対して、朱雀が反射でパライズを唱える。単体反射ではなく全体化されており、周囲の全員を巻き込んで麻痺させた。唯一魔法防御盾のイージスを構えていたマリーだけが麻痺せずに済んでいたが。
「みんな!相手は魔法を反射してくるから、弱体魔法は使わないで!」
「そ、それは先に言っておいてよぉ~」
パライズを詠唱したアンジェラが、痺れながら抗議の声をあげていた。そんなこと言われてもな。実は朱雀と同じ容姿の魔物には以前遭遇したことがある。東大陸の中級下位の巣だったか。サイズこそ違うが見た目は同じだったし、アンジェラが弱体魔法をかけて反射で大惨事になったのも同じ。とはいっても今から三十年ほど前の話だし、たぶんこの娘も当時は参加していなかったに違いない。だから知らないのも仕方の無いことなのだが。
などと考えていたら、弱体魔法を唱えた当人はその後すぐに朱雀にオオハシのような長い嘴で連続で突かれて即死した。痛みを感じる前に光の粒子になって消えるからまだ良いものの、軽く連続でつつかれただけで即死とは結構極悪なのではなかろうか。マリーもちゃんとHP増幅フィールドを展開しているのに。酷いじゃないか、オイ。
パライズによる麻痺は三十秒程度。麻痺が解けた後は再び削り再開で。朱雀の高度が下がってから一時間ほど戦ったあたりで、朱雀のHPが二割ほど減り再び応援ゲージが蓄積された。どの効果を選ぶか迷うものの――
特殊二:朱雀の魔法反射技能封印は、これはそもそもボス相手に弱体魔法をかけても効果が薄いしこちらが魔法を使わなければ関係がないことだ。特殊三:朱雀の捕食技能封印は、かなり気になるものの次に回して良い気がする。なので朱雀の防御力低下を選んだ。
その結果、朱雀のHPを削る速度が五割増しになる。再び一時間後、朱雀のHPがついに半分を割った。中央で朱雀本体を叩いている一方で、周辺では朱雀の眷属との戦いがまだ続いている。周辺の朱雀はなんと数が増えてしまったらしい。最初に十一羽湧いた以外に、後から追加で十一羽出現していた。最初の集団の内三羽程度は既に倒されているが、眷属を倒すよりも先に次の集団が湧くので長引くと辛くなるかもしれない。
しかしそれでも、数の暴力は偉大だった。娘達は四万人いるのである。そのうち中央で戦っているのがせいぜい千人程度。残り全員を周辺に回せるのだ。
周辺に湧いた朱雀の眷属によって出現直後の襲撃で一分で五百人程度焼かれたみたいだが、その後二時間半の戦いでは一分間に平均二十人ペースで倒されて三千人あまりが光の粒になって宮殿に死に戻りしたようだ。しかしそれだけやられても、四万人という総数からしたらまだまだ少ない方である。被害を無視してこのまま押し切れるだろうと判断する。
しかしここで、朱雀が変わった動きを見せた。HP半分切ったことによる後半モードというやつだろうか。
「カニチャンカニチャン、タスケテータスケテー」
朱雀のその声に応えるかのように、広場のあちこちから温泉が吹き上がった。温泉である。この山を登ってくる際にも多数見かけたが、そこら中に突然温泉が湧き出した。そして次に、その温泉のある場所にカニが湧き出した。何も無いところから突然である。
「センリャクテキテッタイ!イヤラシー、イヤラシー」
それまでは一カ所で動かずに戦っていた朱雀が、戦闘を無視して娘達の頭上を飛び越えて移動をはじめた。当然マリーもそれを追って移動する。朱雀の行き先は当然、温泉に湧いたカニの元だった。
「イタダキマース、オドリグイー」
「……!」
朱雀がオオハシのような嘴でカニをつまみ上げて、そのまま丸呑みにしていた。捕まる寸前、明らかにカニは逃げようとしていたように見えたのだが……カニを丸呑みにした朱雀のHPが少し回復している様子だった。二パーセントぐらいだろうか。一時間で三割削ったものが一分間のカニ補食で二パーセント回復されるのではかなり厳しいわけだが。
そのままそこら中を飛び回ってカニを捕食する朱雀相手に追いかけっこしながらの戦闘が三十分ほど続いた。その間も周囲では朱雀の眷属達に娘が何人もやられ続けている。やっと再び応援ゲージが蓄積され、支援コマンドの選択が出来るようになった。当然次は特殊三:朱雀の捕食技能封印を選んだ。
すると同時に朱雀の動きが鈍くなる。心なしか、つぶらな瞳が気分悪そうにどんより濁っているように見える。
「オ、オナカ、ガ、ポンポンペイン」
「……!」
朱雀が調子悪そうにうなだれるのと同時に、捕食され放題だったカニが動いた。カニ達はそのまま湧き出した温泉の中に入っていく。そのまま温泉の底の方でじっと動かなくなった。正直その動きはよくわからない。ゆでガニになってしまいそうなものだが。
後は楽だった。そのまま朱雀を皆で囲んでボコボコにする。残り一時間半余りで自称朱雀のピンク色のいやらしい鳥は討伐された。朱雀討伐後も朱雀の眷属である見た目朱雀の巨鳥達は、消滅こそしなかったが周囲の火柱の中へと帰っていった。
朱雀は死に際にこのような言葉を残した。
「カニノ、ドクニハ、ショクアタリチュウイ……」
為の毒には食中り注意、か。美味そうに食べてHPを回復していたくせに、毒があったというのだろうか。
朱雀戦の勝利後に温泉の底に沈んでいったカニを調べたところ、どのカニも既に茹で上がっていて動かなくなっていた。なってはいたのだが、毒が怖いのでどれも食べずに家に戻るようにマリーに指示した。
『おとーさん、カニって毒があるの?』
『うん、スベスベマンジュウガニとか、毒で有名なカニは父さんの世界にもいたからな』
『そうなんだ?なんだか変な名前のカニだねぇ。そのカニの見た目は、さっきのカニと一緒なの?』
『いや、違うかな』
この世界のカニはなんというか、ずんぐりむっくりでやや可愛い感じがする。俺個人はかなり見慣れた形なのだが。ミナミコメツキガニだったかな、確かそういう名前のカニと形が似ていたはずだ。
何にせよこれにて朱雀の討伐は完了した。ふざけた見た目や言動の割には随分と厄介な強敵だった。眷属の強さでは丁度青龍白虎朱雀の順に強くなっている気がする。本体の強さでは青龍も朱雀もさほど変わらないかもしれない。鱗有りでのタフさは青龍の方が数段上だろうけどもね。
果たして次はどうなることやら。装置の画面には朱雀の実際の最後の台詞とは別のものが今回も表示されていた。「べ、別にアンタの為に負けてあげたわけじゃないんだから、勘違いしないでよネッ!次も頑張ってネ!」などという台詞が表示されている。ちょっと意味がわからないけれども、応援メッセージだと考えて素直に受け止めておいた。
この物語はもうダメかもしれない(´・ω・`)
でもめげずに完走目指してエタらず凌いでます。




