第六十七話「災厄」
マリー達が北大陸の上級の魔物の巣の攻略を開始したのは星歴九百六十三年に入ってからだった。九百六十年の四月から攻略開始して既に三年弱が経過していた。下位はともかく、中級の魔物の巣の攻略が既にそれぞれ大体三十日、六十日、九十日程度それぞれかかっていて、そこに移動や下準備にかかる時間が加わるので既にこれだけの時が過ぎてしまったのだが、果たして上級はどの程度時間がかかるのか。
しかしその経過日数を考えるよりもこちらのギブアップが先だった。何故なら、北大陸に一つだけ存在する上級の巣の魔物があまりにも強すぎた為だ。どいつもこいつも極端にタフで全然倒れないし、敵からの一撃も重すぎる。これはきついなと判断して後回しにすることになった。西大陸の二箇所、南大陸の二箇所を先に回ることにする。
西大陸の二箇所は北大陸の一つだけの上級の巣と比較したら大分楽だった。敵の強さは中級上位よりもやや上、広さはかなり広く。西大陸の上級二箇所の攻略だけで、一年余りを費やす結果となった。あまりにも長い戦闘期間に娘達も辟易して、休息期間を一月設けたりもした。
大陸中央部に走る国道の長さは、首都から中央大陸へと繋がる天の橋までの距離が三百キロに対して当初は百五十キロまで伸びている状態だった。それが中級のクリアによりそれぞれ十キロ、二十キロ、三十キロと合計六十キロ伸び、更に上級二箇所のクリアにより四十キロと五十キロ伸びた。これで合計百五十キロ。西大陸中央の国道は、無事に中央大陸へと繋がる天の橋まで接続完了した。
マリー達は早速、その道が繋がった現場を確認しに向かった。もちろん俺もマリーの身体の中からその様子を見させて貰う。確かに現場では国道と天の橋がぴったりと接続されていた。
中央大陸と各大陸を繋ぐ、天の橋。見た目はなんというか綺麗な木橋なのだが……だがなんというか、ちょっと色々と待って欲しい。まず、橋の横幅が百メートルである。幅広すぎる。そして橋の長さは十キロである。あまりにも長すぎる。ちなみに明石海峡大橋は四キロ弱である。そんな巨大な橋が、橋脚も無し、吊り橋でもアーチ橋でもトラス橋ですらないのに存在しているのである。こんな代物俺の世界だったら絶対崩壊しているはずだ。間違い無い。
『こわぁ……』
『え、そうなの?おとーさん』
『ないわー、これ』
マリーに対してこの橋がどう怖いのか説明したものの、俺の世界の吊り橋の映像を知らない我が娘には伝わらなかった。ただ、構造の怖さは理解出来ないものの、立地の怖さは理解出来るらしい。
何故ならこの橋、とんでもなく海抜が高い場所に架かっているのである。大陸中央部の首都から三百キロだが、その三百キロはずっと緩やかな坂道になっていて最終的に天の橋の部分で海抜五千メートルに達しているのである。そんな高さに構造に無理が有り過ぎる見た目は木造の橋があまりにも巨大なサイズで架かっているわけだから、なんというか色々とおかしい。
そんな危険な橋の中央をマリーは渡り始めた。ブロントや他の娘達もそれに続く。皆が中央部を歩いているのは、さすがに端っこは危ないと意識しているからだろう。五千メートルも落下するのはさすがに無いからな。高所恐怖症とかそういうレベルじゃない。ただし、この世界に転落死があるかどうかは謎だが。
橋を進んでしばらくして、一キロほど行ったところで突然見えない壁に阻まれた。弾力のある空気の壁だ。これがいわゆる封印というやつだろうか。天の橋まで国道が接続されているにも関わらず、中央大陸の封印はまだ解けていないようである。その封印で進めないあたりには、一般人のハンターの方々が橋の上にキャンプを張っていた。
大勢でやってきた我が一族の軍に対して向こうは大分びびり気味だったものの、事情を話してくれる。このキャンプ地では橋を渡る野良モンスターを狩るハンター達が暮らしているらしい。
国道から離れている分回復は受けられないが、探さなくても様々な野良モンスターが通行してくれるからというのが第一の理由。何故か敗北時に死体を魔物の巣まで運ばれないというのが第二の理由らしい。通常魔物に敗北した場合死体は巣まで運ばれて美味しく頂かれてしまうはずなのだが、この橋の上ではそうならず置いていかれるのだとか。
天の橋の上は、中央大陸と魔物が行き来しているという話は前から聞いていた。中央大陸から橋を渡ってくる魔物。四大陸から橋を渡って中央大陸へと帰っていく魔物とそれぞれいるのだったか。以前は帰っていく魔物ばかりだったのに、最近は向こうからやってくるケースばかりになっているらしい。どうにも魔物の総数を調節するように働いているのだとか。
そういえば、娘達が魔物の巣を攻略している最中には外から何度も増援っぽい魔物が少数で定期的にやってきているのだった。巣の入り口をガッチリ警備して固めているので、少数の魔物程度なら巣に侵入する前に各個撃破出来てしまうわけだが。そいつらは巣の外に餌を取りに行っていた巣に元々いた魔物達と、中央大陸からはるばる増援として長距離を旅してきた魔物達とそれぞれいたわけだな。で、中央大陸から来る奴の一部は橋で出待ちされてそこで狩られていたと。
少人数のハンター達は魔物の巣のような一斉に敵が襲ってくる場所で戦うことは出来ないから、こうやって外で自らは襲って来ない野良魔物を狩って生計を立てているわけだ。
そんな話をハンター達から聞いていたら、丁度向こう側から魔物達の一団がやってくるところだった。強いのから弱いのまで一通りがバラバラに移動してくる。何故か律儀に左側通行だった。そんな魔物達をハンター集団は弱いヤツだけ選んで狩っていた。まぁ確かに、上位の魔物は一般人には手が出ないだろうしな。強いヤツはうちの家族で狩っておくべきなのだろうか。しかし少し様子を見ることにする。
倒されずにそのまま進む上位の魔物達。西大陸の中級下位で倒したベヒんもスの姿も見える。既にあれから三年以上経過していた為やや懐かしかった。そいつらが橋を渡りきろうとするところで、突然動きを止めた。キラキラと銀色に輝く国道の前で、何やら考え込んでいる様子。
そうしてしばらくすると、どの魔物も反転して来た時よりもゆっくりペースで来た道を戻り始めてしまった。今度もまた律儀に左側通行しているのがなんとも言えないが。一体どうしたというのだろうか。
そんな魔物達の中に一匹のスライムが紛れ込んでいたので、マリーに提案してみる。
『なぁ、マリー。そこにスライムがいるだろう?』
『え?うん、確かにいるね、おとーさん』
『ちょっとそのスライムを捕獲して、国道の上に運んでみてくれないか?』
『ええ?うーん、いいけども』
マリーは俺の指示に従ってスライムを確保する。わりとぷるぷるしてていやらしい感じもあるんだけど、残念ながらこの世界でそういう展開はあまり起こらないことは既に確認済だ。マリーは捕獲したスライムを少し運んでから国道の上にひょいっと軽く投げた。すると銀色の国道に触れたスライムがそのままじゅわじゅわと音を出しながら蒸発し、素材を残して消えてしまった。なんだったかなあの素材。確か脱水効果があった気がする。
それにしてもなんだ、スライムは国道に触れると死んでしまうのか。弱いスライムだから即死というだけなのだろうか。国道ってもしかしてわりとヤバイのか?よくはわからないがどの魔物も国道が繋がっている関係で橋を渡りきらずに引き返していくみたいだし、居残りで討伐をする必要はなさそうである。
のんびりペースで中央大陸へと帰って行くベヒんもス達を見送って、マリー達は南大陸へと向かった。
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南大陸への移動後マリー達が一ヶ月の休養期間に入っている最中、飛び込んできた情報がある。なんでも、西大陸に一つだけ残してきた下級の巣の魔物がどんどん弱体化しているらしい。
西大陸は上級の魔物の巣を攻略したことにより既に国道が天の橋まで完全に繋がったわけだが、下級の巣を一つだけわざと残してきたのである。ドワーフ族はあまり魔物を狩らないものの、狩り場をゼロにするとマズイだろうということで一カ所だけ残しておいた。その巣の魔物が随分と弱体化してしまっているのだとか。
それ以外の変化として、西大陸と中央大陸を繋ぐ天の橋に魔物が来なくなってしまったらしい。橋を渡ろうとしても国道が完全に繋がっているから魔物達が渡りきれないので、そもそも最初から橋を渡らなくなってしまったのだとか。橋をそのまま帰っていった魔物達が仲間と意志疎通したのかもしれないな。
なるほどそういう変化が起きるのだなという感想は持ったもののそのまま攻略は続行した。マリー達は南大陸の上級の巣二カ所の攻略を開始する。今度の巣もやはりデカイようで、攻略には長い時間を要した。
大雑把なイメージとして、中級の魔物の巣は某オンゲーの十一っぽかったけど上級の巣はオフゲーっぽかった。西大陸のは六と七のイメージで南大陸のは八と九のイメージ。入り口付近はともかく奥の敵からのダメージが一撃で数千程度にアップしていてなかなか被弾が激しかった。
そんなわけで、マリーもこれまでは乱用していなかった奥の手を使うことになった。いつも武器を出現させる為に消費している絆神力の別の使い道である。
この能力に何か名前を付けようかどうか迷ったものの、現在あまり良い名前が思いついていない。聖域とかそういうのもなんだか違う気がする。何故かというと、効果がわりと地味だからだ。
「フィールド展開!皆、いくよっ!」
上級の巣の中ボスやボスとの戦いにおいて、マリーの号令で絆神力をかなり消費し続けるフィールドが展開される。それと同時に黒髪で金の瞳のマリーの姿が、金髪金眼へと変化する。中に入っている俺からは良く見えないんだけどね。実家にいる時に何度か見せて貰ったことがあるのでそれで把握した。綺麗な黒髪が輝く金髪に変化して、尚且つ身体全体がピカピカ光るのである。見た目は派手だ、見た目はかなり派手なのである。
。彼女は元々生まれた時から瞳が金色だったのでこの変化はわりとすんなり受け入れられた。瞳だけ金色でずっと黒髪というのも、それはそれで不自然じゃないか?
しかし見た目の派手さとは裏腹に、マリーが絆神力をガリガリ消費して展開するこのフィールドの効果はわりと地味だ。何よりもまずマリー自身の能力のブーストがほぼ無い。普通スーパー化したら本人の戦闘力が大幅にブーストされるはずだろう。それなのに本人のステータスは一切ブーストされないのだ、これが。
では何が変化するかというと、効果範囲内の一族の最大HPが大幅に上昇して、現在HPも現在の割合分上昇する。HPの上昇値はコピー体の娘達にはマリーの最大HPの一割を上乗せし、夫に対してはマリーのHPの十割を上乗せする。そうした最大HPの上昇効果に加えて、状態異常の無効化の効果がある。
防御面は凄い。防御面ではマリー以外の家族達が大幅に強化される。だがしかし攻撃面のブーストが一切無いのだ。攻撃面のブーストが一切無しで、フィールドを張る本人には状態異常無効化の効果しか無いのである。だから正直、これは地味だと俺は考える次第で。
コピー体の娘達のHPは現在五万程度。マリーは一族全員の最大HPと最大MPをそれぞれ一パーセントずつ自分の数値に補正として加算出来る。補正無しの素のHPがいくつあるかわからないが、補正後のHPは以前から五百万を超えている。コピー体の娘達の人数は現在四万人以上いるので将来は二千万以上になるはずだが、幼少期はステータスを完全には発揮出来ない為今はまだ数値が低い。だが一割のHPが加算されるだけでもコピー体の娘達にとってはHP十一倍以上に相当するのでかなりタフになる。
敵からの攻撃はザコ相手でも千以上一撃で受けることがザラで、ボスからだと一撃で五、六千から九九九九ダメージを受けるようだった。どんなに痛い攻撃でも一万を超えることは無いようである。HP五万だとやや不安があるが、HPが六十万程度あればどうということはない。
しかしまぁなんというか、ややインチキ感はある。最大HP九九九九の世界にHP六十万で挑戦する行為なのではなかろうか。挑戦するこちらの立場としては国道を利用した蘇生手段こそあるものの蘇生魔法は無いし、死ぬのは怖いし痛いから絶対の安全を常に確保したいので仕方ないことなのだけども。
さらっと書いたが、蘇生魔法は実は存在していないようだ。国道で無償で復活出来る代わりに蘇生場所が限定されるってことかな。回復魔法の方は固定値回復の魔法がいくつもあったけれど、現在最大威力の回復魔法でも回復量は五千前後だった。
それに対して固定値ではなく最大HPに対する割合で回復してくれる回復魔法は、俺がいつも使っていた愛の治癒だけだった。どうにもこの魔法、直接手で触れて回復しないといけないものの消費MPを増やすことで回復量も激増させられるらしい。他の回復魔法は結構射程が広いんだけどね。
特殊な回復魔法である愛の治癒は、特定の相手にしかかけられない。恋人であったり家族であったり友人であったり。そして関係が薄いほど回復速度が落ちる。愛の治癒による回復速度と、くっついている時のMP回復速度は正比例するようだ。回復した際の消費MP量は回復量に比例する。そしてこの魔法、他人にはかけられるが自分にはかけられない。
HPが少ないうちは良いが、HPが多くなり過ぎると今後回復手段が限られてしまうのだろうか。
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南大陸の上級二つ目の攻略を開始したところ、南大陸の三国、ウサギの国、犬の国、猫の国からそれぞれ攻略を中止、延期しては貰えないかという旨を伝える使者達が定期的にやってくるようになった。何故中止しなければいけないのかと問い質したものの答えを濁されてしまった。
この世界を攻略しないとうちの一族は全滅してしまうし既に人口の観点から世界レベルの問題に発展してしまっているわけだが、何故そのあたりの事情を知っているはずなのに攻略を反対されるのか、よくわからなかった。
人の口に戸は立てられぬということわざがあるが、いつの間にやら百年の期限切れで一族全滅する件がまことしやかな噂として世界中に既に広まっているのである。で、その噂に対して誰も一切否定しなかったものだから、皆が事実として認識してしまっている次第。俺が六十年目にして突然魔物の巣を一斉攻略開始しだしたのも噂が真実であることの根拠にされているしな。
でも確か、随分と前に当時の猫族の女王がそんなことを言っていたはずだ。この世界を攻略する過程において災厄が起こり、その結果我々の面子が丸潰れになるとかならないとか。結局それが何のことなのか未だ判明していない。
よくわからない、どうしようもないことに対して悩むのもバカらしいので、マリー達にはそのまま南大陸の上級の巣二つ目を攻略して貰った。今回も上級の二つの巣を合わせて一年程度の期間を要した。南大陸の上級二箇所の攻略後は、東大陸と北大陸どちらに行こうか迷ったものの、北からやって貰うことにした。俺達一族にとってはお膝元である東大陸を後回しにしたかった為である。露骨に保険をかけたとも言える。
約二年前に挑んだ時よりはマシに戦えるようになっていたのでそのまま攻略することにした。北大陸にただ一つだけある巣の魔物は、イメージとしては某十三だろうか。あのゲーム、続編の方はまだしも最初の方のやつは敵のHPがバカみたいに高いんだよな。もっともこの世界の魔物はそこまで極端に堅いわけではないようだった。
元ゲーの方は確か、魔法攻撃によりダメージ倍率を上げてブレイクしないといけなかった気がする。この世界には攻撃魔法が存在しないわけだからそんなシステムを踏襲することも出来ないわけだな。
様々なモンスターがいたが、時折現れる十三版ベヒんもス達が特に厄介だった。最初は四足歩行で獣らしく角によるかちあげや腕による攻撃をかけてくるのだが、半分減らした時点で立ち上がって二足歩行のミノタウルスみたいになって攻撃してくるのである。出来れば変形させずに仕留めたいのだが、システムの不備によりどうしようも出来なかった。そんなわけでベヒんもスが出現する度に中ボス戦のような様相に。マリーもその度に金髪モードになって他の娘達のHPをブーストしていた。
二足歩行ベヒんもスは攻撃速度が速く、一撃が常に九九九九出ていた。本来の最大HPである五万程度ではかなり危険かと思われたが、ブーストにより得た膨大なHPと数の暴力で押し切った。
そうして北大陸の上級の魔物の巣の攻略を開始してから半年ほどが経過していた。二つある巣を攻略するのに一年程度かかったのだから、一つだけの巣を攻略するのも一年かかるのでは、という予想が既についている。攻略完了しないことにはどこまで奥が続いているのかはよくわからない。
魔物の巣は、中身がまるで異次元空間のような謎の代物である。基本的に薄暗く明かりの確保が必須なのだが、真っ暗ということは無い。どこから差し込んでいるのかわからない光でぼんやりと照らされている。現在の巣は、古代遺跡風の石造りの部屋が多い気がする。
それはさておき、北大陸の巣の攻略開始から半年ほど経過した時点で不思議な話を聞いた。なんでも今、世界中の魔物ハンター達が南大陸に大集結しているらしい。本来野良の魔物ハンターの人々は、魔物の巣の外のはぐれモンスターだけを少人数で狙って狩るだけだったのだが、最近は南大陸の下級の魔物の巣に集団で入って魔物狩りをしているのだとか。今までは各国の軍隊のみが魔物の巣に入り魔物狩りをしていたのだが、それは特に入場制限があったわけではなく戦力の事情から来る結果であっただけらしい。
国道が繋がったことにより魔物が弱体化した為、下級の巣の魔物が一般人でも狩れるようになったので、巣の外を移動するはぐれモンスターが激減したという事情もあり下級の巣にまで進出したのだとか。
現在南大陸の下級の魔物の巣では、南大陸の各国家の軍が攻略する予定の巣と一般人の魔物ハンター用の巣とが区別されているそうだ。このような状態になった原因は魔物の弱体化であり、西大陸に一つだけ残されていた巣は既に一般人の手により攻略されてしまったらしい。西大陸の巣の攻略に参加出来なかった冒険者も含めて南大陸に殺到したそうだ。
そんな話を聞いてから更に半年が経つ頃、北大陸の上級の巣の攻略が完了した。西大陸や南大陸の上級の巣の攻略時にはそれぞれ四十キロと五十キロ分国道が伸びたのだが、一つだけの巣を攻略した場合には九十キロ伸びた。
北大陸は中級下位の巣が敵が弱めで狩りやすく素材もおいしいということで、北大陸の国家軍に差し押さえされたまま残っている為、国道は残り十キロが足りない状態のままだった。少し悩んだものの、東大陸を最後に済ませてスッキリしたいので、そのまま流れで北大陸の中級下位の巣も攻略させて頂いた。既にかなりの部分の攻略が進んでいた為、残りの攻略は十日間で完了した。これにより北大陸の中央を走る国道も中央大陸へと続く天の橋まで接続された。
そうして最後に、東大陸の上級の一つだけの巣を攻略開始する。この巣を攻略するのも一年程度かかるだろう。攻略開始したのは星歴九百六十六年の一月だった。この世界の開始から千年近く攻略されていなかった魔物の巣を七年間程度で全攻略するというのなら、随分と早いペースなのではなかろうか。
このまま何事もなく終わるかと思っていたのだが。
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966/8/8 13:03
その日の昼食後、今日は団体さんがうちの屋敷を訪れていた。なんでも、南大陸や北大陸の各国家の大使さん及び、各国のハンターギルドのお偉いさん達だった。少人数の魔物ハンターさん達も、一応オマケ程度ではあるがそういった管理組織に届け出ぐらいはしているらしい。よくある冒険者ギルドのような大規模な組織では無いらしいが。
一体何をしに来たのかと思いきや、どうにも抗議であるとのこと。一体何が起こったというのか、そのあたりの事情も聞いてみるのだが。
なんでも彼らは失職したらしい。意味がわからない。意味がわからないが、詳しい事情を聞いてみる。
この世界において、軍隊は魔物の巣を攻略する為に存在している。何故ならこの世界ではPKは不可能であり、人間同士での戦争が起こり得ないからだ。だから軍隊の存在意義は魔物討伐のみであり、魔物の巣を攻略して魔物達から素材を得て、それを売却し市場に流すことで利益を得ているのである。
各国の王は神様及び教会からある程度の営業権を得ていて、それを頼りに資金を稼いで軍を維持しつつ、その軍によって魔物の巣を攻略し魔物由来の素材を市場に流すという役目を持っている。それが各国の王の権利であり義務というか使命なわけだな。営業権というのは特産品の生産及び交易権が主らしい。物流というか運送業というか。
とにかくそこらへんは職種が限られていて、それだけでは十分な利益は上げられないのだそうだ。メインの収益は、魔物討伐による素材の売却益であるらしい。
てっきり俺は、税金ぐらいは取っているものかと思っていた。この世界にも一応税金は存在する。五パーセントの消費税は存在している。そもそもほとんどの業種が教会の定める国家公務員のようなものだったので色々線引きが難しい。能力給、歩合給みたいな要素は存在しているしサボリがちだとすぐにクビになるので皆比較的マジメに働いているようではあるのだが。
問題はその税金の行き先だ。
税金の行き先は、各国家の王族ではなく世界政府である教会にいくらしい。通貨を発行するのも教会。多くの人々を雇い給料を支払うのも教会。そして人々の支払った税金の行き先も教会であるらしい。
いくらなんでもこれは色々おかしい気がする。なんというか、世界の構造に緊張感というか独立採算制が無いというか、不安にはならないのだろうか。
ともかくそんなわけで、各国の王とその軍隊は税金によってではなく各事業の利益と魔物の素材売却益によって生きているわけである。そしてメインの収益は魔物の素材売却益であると。
そして現在、西大陸は言わずもがな、南大陸と北大陸の魔物の巣が全て攻略されてしまい、新たに魔物が狩れなくなってしまったらしい。もちろんこの世界始まって以来の初めての出来事である。
つまりだ。魔物の巣が会社であり、国王や軍隊、一般魔物ハンター達が会社員だとしたら。会社である魔物の巣が全部潰れてしまったわけで。
その結果、国王も軍隊も全員無職化してしまったのである。なんということでしょう。魔物ハンター達は国を超えて活動可能だが、各大陸の国家軍はその大陸内の魔物の巣だけを攻略するという取り決めが存在しているらしい。そもそも他大陸に遠征する場合はその遠征費用が高くついてしまうので、十分な稼ぎにならないからダメなのだとか。
国王や軍隊が失職するなど、前代未聞である。一応は魔物討伐以外の業務もあるので完全な失職では無いといえば無いのだが、仕事が無く収入が激減したので結局大赤字状態であることには変わりないらしい。魔物の巣の弱体後に一気に魔物を狩ったのでその分は素材のストックがあり、それを少しずつ売却して今は食い繋いでいるのだとか。
一般の魔物ハンターが一気に各自で素材を売却したことが原因で一時的に魔物の素材価格が暴落しかけたらしいが、すぐに教会が個数無制限で買い支えして素材の放出を制限した為に価格は安定したそうだ。ちなみにうちの一族が狩ったモンスターの素材についても、自由に流通させることは許されずこれもまた教会が買い取って少しずつ流通させるということで全て差し押さえされていた。一応、対価は貰えるらしいんだけどね。あと、食材の類も流通させずに自分達で消費するのなら使用が認められていた。
ともかく、各国の大使さんの今日の訪問の最大の目的は抗議である。何故抗議かというと、うちの一族が魔物の巣を完全攻略して道を繋げたことにより、活動可能な魔物の巣がひとつも無くなってしまい失職したから抗議しているわけだ。
もちろんそれを聞いて、だったら完全には攻略せずに巣を残して魔物達の繁殖を待てば良いではないか、と俺は当然考えたのだが。
各大陸の国道が中央大陸まで完全に繋がった途端に、魔物達は弱体化するだけではなく繁殖まで止まってしまったらしい。完全には倒しきらずに繁殖して増えるのを待とうという考えは皆考えたそうだ。しかしそれまで凄い勢いで増えていた魔物達がぴたりと繁殖をやめてしまい増えなくなってしまったそうで、仕方なく最後までトドメを刺して素材を回収したとのこと。
結局国道を最後まで繋げた時点でこうなることは避けられなかったらしい。ならば仕方がないな。話はそのまま今後どうしたら良いのだろうかという話に発展して色々責任を追及されそうになったのだが、まぁ待て落ち着け、最後の上級の魔物の巣が攻略されるまで問題を保留しては貰えないかという風に説得することになった。
すんなりとは納得してくれない人も多かったが、ルナ達が一生懸命ご飯を作っておもてなしをしたところ、それなりに満足して溜飲を下げてくれた。
この事件、彼ら曰く「災厄」らしいが。この災厄は昔から予測されていたことだったらしい。災厄の内容があまりにもアレなのでずっと伏せられていたが、出来れば避けたい、けれど避けて通れない事項だということで語り継がれてきていたのだそうな。そんな災厄の名前はなんだったかというと。
「国王総無職」であったらしい。
エタらなかったと喜んで良いものかどうか。




