第六十四話「×:ベヒーモス」
星暦九百六十年の六月初めから、俺の娘達はマリーをリーダーにして中級の魔物の巣の攻略を開始した。
下級の魔物の巣は最大HP四百程度の国民的RPGのバランスの世界。中級の魔物の巣は最大HP千から千五百程度のMMOの世界のバランスになっている。
下級の巣が平均五日程度で攻略可能だったのに対して、中級のうち最小規模の魔物の巣の攻略を開始してから既に二十日以上が過ぎていた。
960/6/24/18:50
その日ルナが作ってくれた晩御飯はカレーだった。しかしなんというか、ルーが赤い。この身体になってからというもの胃は頑丈で健康なことこのうえないのだが、なかなか辛そうだよな。
しかし、赤いカレーか。なんとなく予感がするのだが。もしやアレなのだろうか。
食べる前に制作者のルナが解説してくれる。
「今日の夕食は、龍の肉を使ってみたカレーライスですよ。お米はいつものニッポンポン産のコシヒカリですが、お肉の方は先日ダンジョンで取れた龍の肉を使っています」
「竜の肉自体は前にも食べたよな、下級の巣のドラゴンを倒した時の肉でステーキが出てきたが」
なんとなくはわかっているけど、一応そうつっこんでおく。
たぶんドラゴンの見た目が違うのだろうけれども。
俺のツッコミに対して、ルナが少し意地悪そうな顔をした。ついでに左に座るリースもこちらをちょっと残念そうな顔で見つめてくる。
「ヒロは、現地に来ていないからわからないのかしらね。見ればすぐにわかるわよ?」
「ええ、そうです。この肉はドラゴンはドラゴンでも、巨大でカッコイイ方のウィルムから取れたものです。字面も、竜じゃなくて龍なんですよ。とはいっても口頭ではわからないかもしれませんが」
「いや、わかるよ、わかる。とりあえず早く食べないか?せっかくの料理が冷めてしまう」
ルナがリースに続けて解説してきたが、大体予想通りだった。
何故なら俺は、実際にMMOの中で何度もウィルムとやりあったからだ。
竜と龍、龍といえば長くて細い和風ドラゴンのイメージもあるが、ウィルム、真龍はどちらかといえば西洋の竜の姿をしている。それなのに龍なんだよな。
国民的RPGの竜の方は良いデフォルメがされていてやや可愛い感じだと思うが、ウィルムの方は普通にカッコイイ。形としては結構同じだと思うんだけどね。どこが違うのだろう。やはり顔だろうか。
とりあえず早速食べる流れになった。辛い。辛いけどウマイ。ゴロゴロ入っている龍の肉がジューシーでウマイ。もっとも、普段から食べている牛肉も十分過ぎるほど美味いんだけどな。
龍の肉がレアものなのはわかるがだからといって普段の食事に不満があるわけでもないし、あまり手放しに褒めるのはやめておこう、うん。
カレーそのものは普段から食卓に出てくる。ルナは色んな料理を一通り作ってくれるからな。
料理スキルは母親と娘で共有可能らしく、娘達も学校で調理実習を受けたり普段から料理をする関係でうちの妻達は皆料理が得意なんだけどね。
たまにはルナ以外も作ってくれるものの、基本的にはルナがやってくれている。
それにそうだな。東大陸が西洋、日本、中東と一通り揃っているとして、南大陸が確かベトナム料理だとかそっち系なんだよな。だからもしかするとルナからしたら一応地元料理になるのかもしれない。とはいってもルナは生まれてすぐに東大陸に移住したみたいだからあまり故郷って感じではないだろうけども。
インドや東南アジア関係の料理はどうにも南大陸に揃っているらしい。気候もあのあたりは熱帯な感じだからな。その割には砂漠はないんだけどね。砂漠は何故か、東大陸と同緯度の西大陸にあるっていう。後東大陸の南部のトルッコにも一部砂漠はあるみたい。
食後のデザートを食べながら、ダンジョン攻略の話を聞くことになった。
「ウィルムですが、先日は大騒ぎでしたよ。まるで龍の巣みたいなフロアがあって、様々な色のウィルムがたくさんひしめいていましたからね。狩り放題でした」
「なんかすごいね。ブレスで焼かれたりしたの?」
「ええ、それはもう。あちらこちらでブレスに包まれる子が出ていましたね。それでもHP分で受け止められました。確か千二百ダメージほどでしたか」
うちの娘達はHP五万あるからな。確かにその程度ならなんとか受けきれるだろう。本来某十一とかのHPは千から千五百程度しかないので、正面からブレスが直撃すると即死することも割とあったのだが。
とあるウィルムと戦うバトルとかだと、開幕のドラゴンブレスで全員焼かれるという呆れた事件もあるな。ブレスは真正面だと大ダメージだというだけで、多少横に逸れるとダメージが激減するんだ、うん。
「それにしてもドラゴンブレスか。やっぱり複数人一気に焼かれたりしたの?」
「うーん、よくわかりませんでした」
「え?」
「見た目上は巻き込まれていたケースもあったんですけどね。正面の一人だけしか攻撃を受けていないような気がしました。乱戦だったのでちょっとはっきりとは言えませんけどね」
よくわからないがそういうことらしい。
それからしばらくウィルム退治の話を聞いた。一体ずつとかじゃなくかなりの数が一度にやってきたらしい。とはいえ、マリーの率いる部隊も人数は七百人である。ウィルムの同時攻略だって出来たみたいだ。まぁHPが五万もあればな。
三十体ほどのウィルムに対して、それぞれ盾役のジゼルと回復役のティターニア、弱体魔法役のアンジェラちゃんのコピー体の娘達が三人ずつついて維持したらしい。
攻撃役のリースや愛姫は数体に集中攻撃で沈めていったとのこと。
「HPを削るとですね、ウィルムが飛んで逃げるんですよね」
「うん」
「それでリーチの短い通常攻撃が届かなくなるのですが。愛姫さんの薙刀やリースさんの槍、私の矢は普通に届くので大丈夫でした、それに……」
「それに、天井が高かったから例のルーンダイバーで仕留めてあげたわよ。飛んでいる相手に上から襲いかかって墜落させるのも、なかなか味な物だったわよ」
ルナから引き継いで隣のリースがそう話す。薙刀や槍が届くみたいだし、飛ぶといっても四メートル程度のホバリングだったのかもしれないな。リースは十メートルほど跳躍可能だから、確かに余裕で上から強襲可能ということになる。
「マリーはアナタ仕込みの盾投げで戦っていましたね」
「あぁ、アレね」
「確か、イージスでしたか?投げても投げても次の盾が出てくるだなんて反則も良いところです。何度も当てているうちにHP切れした真龍の頭にカーンと当たって、墜落していましたよ」
俺がいつぞや打ち上げたブロントに対して用いた盾投げ攻撃。正式名称はシールドロブといい、某十四の新生の方を参考に取り入れたものだ。ゲームのように盾が手元に戻ってこない問題点は、投げたイージスの盾をそのまま消去して次のイージスを出現させるということにより達成した。
ちなみに、左手で一つ、右手で一つまでしか武器は出せないらしい。マリーはいつも左手にブルトガングを出しているから、右手にイージスを出して投げるわけだな。一応両手にイージスとか両手にブルトガングも出来るみたいだがそれはやめといた。
やはり剣+盾が基本だよ。二盾も悪くはないが、ブルトガングには防御効果もあるし装備しておくべきだろう。
他の妻の活躍も聞いた。
ジゼルは盾役として常時ウィルムを引きつけていたし、チャージごとにパイルバンカーを起動させて重い一撃を加えたとのこと。衝撃が強いので、敵の特殊攻撃を止めるスタン技としても機能したらしい。
愛姫は飛んでいるウィルムを追撃するだけではなく、尻尾斬りも頑張ったとのこと。ウィルムは尻尾に凶悪なスパイクがついているからな。しっぽのHPは本体とは別換算らしく、比較的早めに斬れたらしい。
ティターニアは回復役だから地道に回復。あとはウィルムのスパイクに毒付与があったので毒治療も頑張っていたのだとか。俺の知ってるゲームには尻尾に毒なんて無かったんだけどな。微妙に他ゲームと混ざってるのかもしれない。
アンジェラちゃんは強化魔法のシートを配ったり弱体魔法をかけたり。ただ、同じ敵に同系統の弱体魔法を連発すると耐性がどんどんついてしまうので、なるべく系統をばらけさせる必要があるのだとか。
キャラットちゃんはウィルム相手にはあまり活躍出来なかったらしい。でもその代わり、今日先ほど戦ってきたばかりの大亀に対しては大活躍だったのだとか。もともと硬い相手用の格闘武器だからな。そこらへんは役割分担だ。
それらの話を聞いた後に、ルナがこう切り出してきた。
「中級の魔物の巣ひとつめですが、そろそろ攻略も大詰めですよ。アナタもマリーの身体を通して見に来てはどうですか?」
「うーん」
「もうそれほど抱く必要性も無くなったのに頑張って娘達を抱いていることは知っています。でもそれって既に、仕事というよりは楽しみとしてやっていますよね?抱く相手も随分と偏っているみたいですし」
「うん」
「今夜は良いですから、明日からは戦場に出てきてくださいね、アナタ」
なんだかんだで釘を刺されてしまった。
抱く相手の偏りか。うん、それは確かにある。
俺好みでチョイスしてるからな。リースが一番多めで、次点がティターニアのうち二十歳になっている子だ。
理由は明白で、二十歳のティターニアはオリジナルのルナの次に胸が大きいからな。爆乳ちゃん万歳。
同じ理由でジゼルも二十歳になった子中心、胸が育っているから。
でもルナコピーを抱く比率は三番目に高い。他の娘ほど巨乳ではないがなんだかんだで十分胸はデカイし可愛いからな。
ただ、どうしてもオリジナルと比べると小さいのでちょっと比率が下がっているというだけだ。
リースの比率が一番高いのは……好みの問題もあるが、それよりもちっちゃい娘からおっきい娘まで妻達の中で一番エロ娘だからだ。ルナも相当エロなんだけどな、何故かリースが一番エッチ好きだった。
ダークエルフのアンジェラちゃんよりも凄いのだから相当なものだ。
ルナも相当のエッチ好きなのだが、妻達の中では四番目だった。二番がキャラットちゃんで三番目がアンジェラちゃん。でもこの二人はなんというか、キャラットちゃんは本人は良い子なんだけど娘の方は比較的ワガママさんであまり献身的ではなく、アンジェラちゃんは本人含めてエッチの際の乱れっぷりは凄いけど終わった後の冷めっぷりが酷い。
それに対してリースは本人も娘もエッチ好きだけど極めて献身的だし行為の後もラブラブイチャイチャだから満足度が高い。ルナも同様で、娘も含めて献身的だからやる気が出る。だからそう、愛情が偏るのは仕方ないんだ、うん。
ちなみに他の妻達はというと。
愛姫はエッチだしとても可愛いんだけど体力があまりなくてわりとすぐにぐっすり寝てしまう。ジゼルはどの娘も仕事熱心であまり誘ってこないんだけど、盾役な分も含めてなのか体力が一番あって逆に終わりがなくて大変。ティターニアは極めて献身的で一生懸命頑張ってくれるのだけど、愛姫同様体力不足で比較的すぐにぐっすり寝ちゃう。
よって、体力があってエッチで献身的なのはリースとルナだ。大体そんな感じ。
フリマさんはそもそも娘の人数が少なすぎるのでなんともいえない。平均的です。
だから偏るのは仕方ない。うん、仕方ない。
一応最低一人ずつはキャラットちゃんやアンジェラちゃんも入れるのだけども、最初から分身に相手を任せちゃう。そうして俺自身は、俺好みの子を一人ずつ頂いていく。それぞれ一度頂いてから続きを分身に任せる。
一人一人を丁寧に抱いているから、どうしても手が回らなくなる。何人もローテーションしてずっと待っていて貰うというのはストレスが溜まりそうだし、最初に本体で抱いた後は分身任せにするということで納得して貰っている。
レッドカレーを食べた夕食後のその日の夜は。
ちっちゃいリースとおっきいリースと二十歳のコピールナを用意したら、それぞれオリジナルの妻が中に入っていた。おっきい方とちっちゃい方のどちらにリース本人が入っているのかわからないが、どうせ好きな時にスイッチ可能だろうから背の低いちっちゃい方を後に回した。
そうして最後にちっちゃい方のリースとルナを同時に抱いて楽しんだ。
ルナもなんだかんだで愛情二位キープしてるからなぁ。
俺に秘密でこっそり魂をちゅーちゅーしていた件に始まりルナは色々とやらかした感はあるが、それでもなんだかんだで今でも二番目に愛している。
なんだろうねこれは。惚れた弱みとかそういうものだろうか。それに関しては皆に言える気がするが。
ルナに関しては、やはり最初の一人目だったのが大きいと思う。
マリーに対してルナよりも好きだと言ったことがあるし、それはおそらく間違っていないとは思うのだが妻じゃない関係で順位が表示されない。仮に順位が出たとしても、子供が増えないと愛情値上限にひっかかるだろうから表示上は最下位になってしまうだろうな。
娘のマリーは母親のルナと背丈や胸やおしりのサイズ以外は大分似ている。内面も好きではあるのだが、結局のところ容姿が母親のルナも娘のマリーも両方好きだって面はあるだろうな、うん。
そんなことを考えながら眠りについた。娘のルナとリースを左右に抱きかかえながら。
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960/6/25 8:22
翌日、朝食後。
マリーの身体の中に意識を飛ばすには結局朝っぱらから二度寝することになるわけだが、今俺のベッドにはルナとリースが来ていた、寝間着姿で。
「どうせ寝るなら、たまには添い寝でも構いませんよね」
とはルナの言。彼女は白いネグリジェ姿であまり透けてない。単純に胸やおしりがでかすぎてパジャマを着るのが難しいのでネグリジェを着ざるを得ないらしい。なるほど納得。
「ちゃんと来るかどうかっていうお目付役なら、私とティターニアだけで十分なのに」
「うふふ、いいじゃないですか。私が愛情二位なんですから、私にだってくっつく権利はあるんです」
一応は抗議したリースの方は、若草色というか薄い緑色のパジャマ姿だった。確かに、パジャマだと胸やおしりが窮屈だというのはリースを見るとよくわかる。
監視してないとちゃんと現地に来るかどうかわからないので、俺が大人しく寝るように妻二人に左右から拘束されるらしい。何もそこまでしなくても。
近くの別のベッドの上からは、今日は睡眠薬を盛られていないティターニアが抗議の眼差しでこちらを見ていた。ティターニアは俺と寝起きのタイミングが基本同期しているから、ここ最近は朝食後に毎回睡眠薬で強制的に寝かされていた。ちなみにそうやって寝かされたお母さんティターニアは、毎回自宅待機のコピーティターニアの娘達が複数で一生懸命自室まで搬送していた。別に俺がお姫様抱っこして運んでも良いのだが、それはそれで不公平感があるからダメらしい。本人が寝てるのにどういうことなんだ。
とりあえず今日はさっさと寝て、現地に意識を飛ばすことになった。
左にリース、右にルナにくっつかれた状態でさっさと寝てしまう。意識を飛ばす場合は、いつもの寝付きとは別に即入眠可能らしいので問題無い。
そんなわけで、ささっとマリーの身体の中に到着したのでとりあえず挨拶することにする。どうやら今は前線まで移動中だったらしい。キャンプ地から魔物の巣の入り口に入ったところだった。既に巣の内部奥深くまで安全地帯が確保されているかと思われるので、まだ移動時間が続くだろう。
『おはよう、マリー。様子を見にきたよ」
『おはよー、おとーさん。ルナママとリースお姉ちゃんにくっつかれて両手に花で寝るなんて良いご身分だねぇ』
『いや、そんなこと言われてもな。すぐに寝入ってるからあまり実感は無いのだが』
それになんというか今更過ぎる気がする。昨夜も寝る時はそんな感じだったし。
それはさておき、今日は現地を見にきたわけだが。
『なぁ、マリー。これまでの戦いについて軽く聞いてもいいか?』
『え?いいよ。どうしたの、おとーさん』
『確か、一昨日はウィルムの集団を倒したんだよな?』
『うん、レッドカレーおいしかったね、おとーさん』
『あぁ、確かにおいしかった。それで昨日はキャラットちゃんいわく大きな亀を倒したんだよな?』
『うんうん、あってるよ。おっきな亀さんがいっぱいだった。確かログウィンドウにはアダマンタスって出てたかな。どの素材も硬くて、ちょっと食べられそうに無かったねー』
戦闘の際、通常のログウィンドウには出ないのだが、ウィンドウのタブを切り替えるとバトルログというものが流れるようになっている。
ルナが昨日の夕食の際にドラゴンブレスのダメージを知っていたのは、ログウィンドウにダメージログが残ったからだろう。あと技名に関しても、ウィルムのドラゴンブレス→ジゼルに千五百のダメージとかそういう風に出たから特定出来たのかと思われる。
このあたり、この世界の住人全員がUIを持っているというのは便利だな。
VRMMOではない現実世界なわりに、共有インベントリだとかUIだとかで便利になっている。神様さまさまというべきなのか、それともそもそも神様のお遊びで作った世界なのだから感謝するだけムダと考えるべきなのか。俺は感謝している方だけどね。特に子作りしまくりでたくさん子供が出来たし。育児は放棄してるけども。
と、今はその話じゃない。ウィルムにアダマンタスが出たわけだ。となると次はアレだろう。あるいはもう倒した可能性もあるが。
『マリー、ベヒーモスは既に倒したか?』
『ベヒーモス?何それ』
『知らないか。ならまだ出てきてないんだろうな。紫色のデカイ獣でな、大きな角とか立派なたてがみとかがあるモンスターなんだ。もっとも、元々はカバか象のイメージという説もあるんだけど』
『えっと、おとーさんが何言ってるかわからないよ。ベヒーモスもわからないし、カバとかゾウって生き物も私知らないよ?』
『あー……そうか、ごめん』
この世界は動物の種類が少ない。猫族がいてもネコがいなかったり、ウサギ族がいてもウサギがいなかったりする。牛とか豚とか鶏とか羊とか、そこらへんの家畜は一通りいるんだけどね。
だからもしかすると、カバもゾウもこの世界にはいないのかもしれない。
俺が謝るとマリーはこう言ってくれる。
『まぁまぁおとーさん。そのあたりのおとーさんの世界の動物のことはまた今度直接イメージで教えてね。それで、次はベヒーモスっていうモンスターが出そうなの?』
『うん。ウィルムとアダマンタスとベヒーモスはセットだからな』
『そうなんだー?』
『うん、だから気をつけてくれ。どんな攻撃をしてくるかというのは結構幅があるんだけど、角での突き上げが特に危険かもしれないな』
しゃくりあげるで即死、とかもゲームではよくあったことだからな。それよりもサンダーボルトで広範囲にスタンさせられる方がキツイんだけど、ちょっとそのあたりは気になることがあるので黙っておく。
そのあたりのゲーム知識をマリーに教えながら、前線に着くまでの時間を過ごした。
マリーの右側では今日もブロントが歩いていた。最近は敵の攻撃がやや強くなってきたので、ケーニヒシールドではなく絆神力で顕現させた対物理用の盾、オハンを使用しているらしい。武器はまだブロントソードを使用しているみたいだが。
マリーがいつも使っているイージスは、シールドバッシュやシールドロブこそ強いものの、対物理防御はイマイチなんだよな。魔法防御に特化しているから、この世界でどのぐらい出番があるかは微妙かもしれない。これまでに純粋な魔法による攻撃を受けたことはないみたいだし。
一応ウィルムのドラゴンブレスによる火攻撃や、ホバリング中のウィルムのウィルムの火球攻撃、他にはアダマンタスのアクアブレス等には効果があったという話を移動中にマリーから聞いた。
ゲームではブレス攻撃は魔法攻撃とは別枠扱いだった気がするのだが、この世界では魔法攻撃扱いになるらしい。ジゼルのパイルバンカー内蔵の盾籠手では軽減出来なかったそうだ。
強化魔法にも、防御力を上げるプロテクションがあるが、魔法防御力を上げる魔法は存在しなかった。人間が使える攻撃魔法が存在せず、これまでもモンスターが攻撃魔法を使ってきた例は無い。
この世界において攻撃魔法は相当特別扱いされている気がする。果たして攻撃魔法は存在するのかしないのか。もしも存在するのならば相当えげつない存在かもしれないな。
とりあえず今は属性攻撃に対抗する唯一の手段がマリーのイージスのみらしいので、これからも有効に活用することにしよう。
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前線に到達し元巨大亀の群生地だった場所からやや細めの通路、とはいっても大型の獣が余裕で通行可能な通路を抜けていくと、やがて大きな広場に出た。
広場に出るとただちに娘達が部隊を展開する。盾役のジゼルが前に、その後ろに槍のリース部隊と薙刀の愛姫部隊が続く。マリーとブロントの二人も中央最前列だ。マリーのHPはぶっちぎりで高いから前に出ても何も問題無い。
広場の中はなんとも薄暗い。遠くの方からは低い唸り声が聞こえてくる。どうするのかと思いきや、ここらへんの手順は既に決まっているらしい。マリーの右に立つブロントがマリーに向けて話し掛けてきた。それを俺はマリーの身体の中で聞いているわけだが。
「マリー、いつも通り俺のフラッシュ開始で良いか?」
「うん。お願いねブロント」
「任せておけ」
ブロントの左手には既にマリーの絆神力で顕現されたオハンが身に着けられている。マリーの答えを受けたブロントは自らの黒い刀身の剣を右手で顔の前に立てしばし集中した後、刀身から放つようにして前方上空へ射出した。
そうして前方の上空に光の球が出現して広場を照らし出す。それに大分遅れるようにして、後ろのティターニア達の放った多くの光球も広場を照らし出す。ブロントの放った一発目の照明弾の時点で複数の足音が鳴り響いてきた。明かりに照らされて明らかになったその魔物達の姿は。
俺の良く知るベヒーモスそのものだった。
紫色の体表、巨大な二本の角、立派過ぎる黒いたてがみ。体の方はやたらとムキムキだ。獣がこんなゴツゴツした体をする必要があるのかは結構謎なのだが。
そんなベヒーモスが複数、こちらに向かって地響きを立てながら走り込んでくる。一体何体いるのか一目では把握しきれない。最初にフラッシュを放ったブロントの方目がけて殺到しているようだが。
ルナのうち左右に展開している子が左右から矢を放ち命中させる。そうやって後続のベヒーモスの狙いを左右へと向けさせている。全体にばらけさせないと乱戦になって効率は悪くなるかと思われる。仮に一カ所を集中突破されても、十分なHPが有る分余裕ではあるんだろうけどね。
後続のベヒーモス達を周囲が剥がしてくれた為、マリーとブロントの正面に来たのは一体のみ。そのベヒーモスに対し、マリーが右腕に取り付けていたイージスをシールドロブにより投擲する。それを受けてベヒーモスの狙いがマリーへと移り、マリーに向けてベヒーモスの角が突き出される。
その角をマリーの前に出たブロントが左腕のオハンで受け止めた。ブロントの足が衝撃で幾分か押し出されるものの、ヤツは攻撃を見事に受け止めきってみせた。
「ありがと、ブロント」
「なに、これぐらいお安いご用だ」
突進の止まったベヒーモスに対して、すかさず周囲から支援がかかる。アンジェラちゃんはすかさず複数の弱体魔法をかけて拘束し、リース達がジャンプによって上空から奇襲する。リースのジャンプには防御力低下の効果が含まれているわけだが、その命中後にジゼル二名がベヒーモスの角に対してパイルバンカーを打ち込む。角の部位破壊狙いだと思われるが一撃では貫けなかったようだ。
マリーとブロントも攻撃を加えていたが、その間にベヒーモスの紫色の体が光り二本の角の間に電撃が走る。二本の角の間に電気の球のようなものが現れた後に大規模な放電が起こり、周囲に電撃が走った。おそらくはサンダーボルト。厄介な長時間スタン技だ。ゲームでは射程も広い範囲技でかなり凶悪だったのだが、この世界ではどうなのか。
一瞬走った光に対してマリーは思わず瞳を閉じた。そして紫色の電撃光の後に目を開けると、目の前のブロントが電撃で痺れていた。周囲の味方は誰も痺れていない模様。
これはもしかして、そういうことなのだろうか。マリーは一応心配してブロントに声をかけている。
「ブロント、大丈夫?すっごい痺れているみたいなんだけど」
「……このままでは俺の寿命が、電撃で、マッハなんだが」
「もう!寿命ぐらい大丈夫でしょ?痺れが切れるまで下がっててね」
ブロントにそう声をかけてからマリーが前に出た。今度はマリーが左手に持つブルトガングからフラッシュを射出してベヒーモスのターゲットを取る。敵に狙われやすい行動を取れば、モンスターの注意を引きつけることは可能だ。フラッシュにはそういった効果がある。とはいっても、狙われやすくなるというだけで全て完全に引きつけることは出来ないらしいが。
と、そこで少し気になったことがある。
『はて?』
『どうしたの?おとーさん』
『いや、こいつ、なんか俺の知ってるベヒーモスと比べたら随分とつぶらな瞳だな、と思ってさ』
『ふーん?そうなんだ。でも今は戦闘中だから、後でね』
フラッシュでターゲットを取ったマリーに対してベヒーモスが角を振って攻撃してくるが、マリーはカウンターでイージスによりバッシュして逆に角を痛めつけている。ブルトガングによる斬撃も角狙い。まずは厄介な角を部位破壊しようという狙いだ。
リース達はジャンプ後に更に背中からざくざくと槍を突き立てていて、愛姫達は薙刀で側面を斬りつけていた。ジゼル達はパイルバンカーを角に打ち終わった子は前足狙いで突剣で攻め立てている。キャラットちゃんは一人だけベヒーモスの頭の上に飛び乗って、たてがみにしがみつきながら角をスファライで一生懸命叩いている。
なんというか、皆で囲んでフルボッコ状態。
それでもベヒーモスはめげずに再びサンダーボルトを放とうとしてきた。角の間が光り、放射前の電撃が蓄積されてゆく。そこで俺はマリーにすかさず指示を出した。
『マリー、角の間に向けてシールドロブを』
『え?』
『俺がやるか』
少しだけマリーの身体の操作を借りて、右腕に装着していたイージスをベヒーモスの角の間に射出する。腕の先を向けて軽く念じるだけで超回転で高速発射されるのだから随分と操作が楽だ。溜められていた電撃がイージスがヒットした瞬間霧散して、イージスはそのまま突き進みベヒーモスの額に命中した。当たった次の瞬間には発射したイージスは光となって消え去り、新しいイージスがマリーの右腕に出現した。
『なるほど、中断可能なんだな』
『うわ、ちょっとびっくり』
『次からは、父さんが狙っていいか?』
『うん、いつでも好きなだけ動かしていいよ、おとーさん』
そこから更にベヒーモスを追い立てていく。とはいっても、次のサンダーボルトが来る前にベヒーモスの角は折れた。角が折れたベヒーモスは攻撃を腕によるものに切り替えるが、そちらはジゼル達がガッツリと守りを固めている。
マリーが正面からベヒーモスの顔面を何度も斬りつけているうちにベヒーモスのHPによるバリアが切れて、肉体へのダメージが通るようになった。パイルバンカーの再チャージが完了したジゼル達がベヒーモスの前足の肘部分にパイルバンカーを打ち込んで破壊し、しっぽや後ろ足の方は愛姫達が斬りつけて完全に無力化させた。そうして動けなくなったベヒーモスに対して、トドメのジャンプをリースが心臓がある位置に目がけて強襲し深く槍を突き刺してトドメを刺す。
なかなかえげつない仕留め方だと思うが、魔物狩りは基本容赦無しだ。始末されたベヒーモスは角や皮などの素材を残し消滅する。残された素材は娘達のインベントリへと回収されていく。
一匹目を始末した後は順に回りの別のベヒーモス達も仕留めていく。ジゼル達が盾をしていたが、やはりサンダーボルトにより一人ずつスタンさせられていた。スタンした後無防備に殴られ放題だった娘もいたが、豊富なHPのおかげで傷を負うものは出ずに済んだ。
その日は長時間かけて全てのベヒーモス達を掃討後、その広場の照明や安全を完全に確保して活動が終了した。一部の子豚のような子ベヒーモスは回収されて家畜化が試みられるらしかった。
マリー達のキャンプへと帰路につくのに合わせて、俺も元の身体に戻ることにした。
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さて、今回の一件で分かったことがある。
夕食の前に椅子に座りながら、俺はジゼルに質問してそのことを確認した。
「なぁジゼル。今日の戦いのことなんだけど」
「ええ、なんですの?」
「ベヒーモスのサンダーボルトは、見た目はどう考えても電撃の広域放射だった。それなのに被弾したのは常に一人だった。間違いないよな?」
「ベヒ……?え、ええ、間違いないですわ」
何かひっかかったらしいが、一応は肯定して貰えた。
そう、俺の知っているゲームにおけるベヒーモスのサンダーボルトは広域ダメージで長時間スタンなのだが、この世界のベヒーモスのサンダーボルトは効果対象が単体のみだったのだ。それなのに技の見た目は全く同じだった。
ドラゴンブレスの巻き込み人数が一人のみだった件もある。つまりこの世界には範囲攻撃が存在しないということなのかもしれない。攻撃魔法が存在しないというだけでなく範囲攻撃まで存在しないというのか。どれだけフェアプレイな世界なんだ。
ところで今日の夕食は特に変わった食材は使われていなかった。昨日のアダマンタスも今日のベヒーモスも、食べられるような素材は落とさなかったみたいだからな。まぁ確かになんでもかんでも魔物を食べるというのはちょっとイヤな感じがする。食べる前にいつも通りというか、ルナが軽く一声かけていた。
「皆さん、今日も一日お疲れ様でした。今日討伐したベヒんもスも随分と変わった生き物でしたね。食事の方は、いつも通りのユーロ風で、ワインの方は港町ポルポルの……」
何やら一瞬聞き逃せない単語が聞こえた気がするのだがどうしよう。
ルナの今日の食事の説明はそこそこ長かったので結局聞けなかったのだが、食事の最中にマリーから心の声で通信が入ってきた。
『おとーさん、おとーさん』
『なんだい?マリー』
『あのね、おとーさん。おとーさんが自信たっぷりに言うから私、言い出せなかったんだけれど』
『うん?』
『あのモンスターの名前、ログウィンドウに出ていたけれど、ベヒーモスじゃなくてベヒんもスだったよ』
『……ふむ』
『落とした素材の名前も、ベヒんもスの角、ベヒんもスの毛皮だったよ』
『そうか』
この世界はたまに意味がわからないな、などということを改めて感じさせられる次第だった。そういえば今日のベヒーモスの中にはキングは一匹もいなかったな、などと思い返す。もしもキングがいたらメテオを使ったのだろうか。
そんなことを考えながら夕食の豚肉のステーキを口に放り込んだ。じゅあわと肉汁が広がるこの豚の種類をルナに聞くかどうか迷ったが今日はやめといた。
感想とか無いと書く意欲がですね(´・ω・`)
エタらないように頑張ってはいますが、やや辛いです。
もっと尖った話を用意するべきなのでしょうか。




