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第五話「銀髪ドリル」

 愛姫ちゃんを手に入れた俺はさっそく自分の屋敷へと戻ることにした。


 今住んでいる屋敷は後から場所を確認したところ、ユーロ国とニッポンポン国を繋ぐ国道からやや逸れた場所にあった。

 500億円などという金額で買ったわけだが、結構広い土地がついているとのこと。

 アーゼス教会直轄領だったか?屋敷というよりは領地といってしまっても良いのだろうか。買った領地というのはあまり実感が湧かないのだが。


 この世界は日本の金銭感覚で作られているそうだし、土地もきっと高いだろうからそこまで広くないだろうと考えていたのだが実際には首都近郊などの重要地以外の土地は驚くほど安いらしい。

 ユーロ国首都近辺が高いのもそうだが、首都から内海貿易の拠点となる港までを繋ぐ地域の土地は高くなっていて、ユーロ国とニッポンポン国を繋ぐ方面はある程度離れてしまえば一気に値段が安くなる。

 土地の値段が安くなって広く安く取れるところを買ったということになる。


 しかし国と国を繋ぐ道の周辺が安いというのはこれもまた不思議なことだ。ある程度人の行き来があれば宿場町などが発展してもおかしくないはずだろう?

 確かにこの世界の国道は神の加護によるチート性能で馬が潰れず全速力でかっとばせるとはいえ、全ての人が個人で馬車など持っているわけがない。

 ニッポンポン国まで向かうのに12時間も車内にいたのだ。当然周囲の状態は確認していた。単純にヒマなので見ていただけだが。

 しかし大雑把に見る限りでは(馬車は高速でかっ飛ばしていたからな)ユーロ国とニッポンポン国間にはほとんど誰も住んでいなかった。


 これはつまりこの区間を往来する人々がほぼいないということになる。何故だ。

 屋敷まで戻る間、新しく妻になった愛姫ちゃんにこのあたりのことを聞いてみる。

 愛姫ちゃんは巫女服に着替えていた。

 巫女服は普段着らしい。着物よりは窮屈じゃないしいつもこの格好だからそちらの方が好きなのだとか

 腰のところでキュッと締めているから愛姫ちゃんの胸のボインが強調されている。うん、十分デカイ。


「旦那様、ニッポンポン国とユーロ国は割と仲が悪いのじゃ。貿易の必要性は確かにあるのだが、ニッポンポンはユーロよりもトルッコ経由で商品をやりとりしているのじゃ。それがまた仲を悪くする原因にもなっておる。正直なところ妾は今すごく恐ろしい。妾は旦那様にとって二人目なのじゃろう?しかも一人目はユーロ国の姫ではなく買ってきた猫族の娘なのだと。別にそこは不満ではないのじゃ。だが…あぁ、恐ろしくてこれ以上は言えんのじゃ」


 そういってガクガクブルブルしていた。んん?何か話がおかしい気がする。

 昨日ニッポンポン国へと向けて出発する際、筆頭執事のジェームズ氏に確認したよな。国王に挨拶するのは姫が欲しい時だけで良いという話だった。


 ジェームズ氏は見た目で言えばお約束なベテラン執事に見える白髪やや長身の男性である。おひげも立派。執事服もバッチリ決まっている。

 いやまさかそんな見た目だけベテランで中身がわりといい加減だとかいくらなんでもそんなはずは無いだろう。


 今後の予定を考える。現在発行されているクエストはニッポンポン国にある魔物の巣の攻略のままである。

 ニッポンポン国のお殿様が軍を強化しておいてくださるそうだが、それにしたってすぐに終わるわけではない。

 当分は愛姫ちゃんとラブラブちゅっちゅして愛姫ちゃんのステータスを引き上げておけば良いということになるはずだ。

 うん、何か色々気になる点はある。特に問題なのは、愛姫ちゃんをこのまま妊娠させても良いのだろうか?


「妊娠時は全力で子供を守る為に自然と体が動くそうじゃ。妾とてその状態で魔物の巣に行くのはいやじゃ。されど、話に聞くところによると子供を守る為の生存本能が働いていつも以上の回避性能が発揮されるそうじゃ。じゃから一度はその状態で魔物の巣に挑んでみたいという気持ちはある。次ぐらいは丸ごと食われずに済ませたいところじゃ…」


 ちなみに愛姫ちゃんの死亡回数は100回を超えているとのこと。既に数えるのがイヤになってしまったらしい。

 食物的な意味で食われ慣れてる姫ちゃんとは前代未聞なのではないだろうか。

 これからは俺に性的に食われることになる予定だが。


 何故そこまでして魔物の巣に挑むのか聞いてみた。なんでも魔物を倒すことにより得られる素材は命がけな分そこそこ高く売れるのだそうな。

 また、魔物を戦うことによって攻撃系スキルがアップするらしい。

 しかし体力系のスキルが育ってないのでHPが低く、攻撃されるとあっという間にやられてしまうんだと。

 ふむ。ちゅっちゅするのとは別系統のスキルが育つのか。


 愛姫ちゃんは何度もほぼ全身食われまくりだが一応処女らしい。性的な魔物とかはいないみたいだ。

 よくわからないねそのあたり。丸ごとバックリ食われてもしっかり全部直される仕組みはスゴイ。

 ちなみにクロちゃんもちゃんと処女でした。この世界は基本的に処女厨らしいから未婚女性は皆基本処女だ。素晴らしいことじゃないか。


 ついでに未亡人についても愛姫ちゃんに聞いてみた。皆が処女厨なこの世界において未亡人ってどうなるの?

 あとついでにちゅっちゅすることで体力アップするのなら軍の兵士さんとかはどうなってるの?


「それはじゃ。未亡人というのはそれはもうヒドイ扱いを受けるのじゃ。旦那様は既に知っておろうか、この世界は♀の数が多い。特に猫族とウサギ族の女性がたくさん、この人族の住む東大陸にやってくる。じゃから相手さえ選ばなければ嫁には困らん。じゃからムリに未亡人を狙う必要性が無くなってしまうのじゃ」

「ふむ。じゃああの兵隊さん達にも奥さんはいるの?」

「おらんおらん。命がけで兵士になるのは嫁を養うことすら出来ない貧乏人ばかりじゃ。ある程度金のある男共は嫁が可愛いあまりに戦場に出るのをいやがるのじゃ。未亡人の立場が無いので夫が絶対に死ぬわけにはゆかぬことも関係しておる。特に猫族の女は男共に受けがいいからの。猫妻と一日中イチャイチャしよるものばかりで、それはもうヒドイものじゃ」

「そっかー」

「嫁のおらん男どもばかりじゃから、当然体力スキルも育っておらん。体力スキルが育っている嫁持ちは戦場に来ず猫妻とずっとイチャイチャしよる。コレでは魔物の巣の攻略が進むはずもない。まったくもって腹立たしい限りじゃ」


 愛姫ちゃんがプンスカ怒ってた。

 ついこの間まで半月以上猫の新妻のクロちゃんとイチャイチャちゅっちゅしていた俺には、男達の気持ちがあまりにもよくわかるのでそれ以上つっこめなかった。



 ---



「ヒロの正妻のクロです。これからよろしくお願いしますね、愛姫さん」


 屋敷に着いて、愛姫ちゃんを皆に紹介する流れになる。馬車から降りた俺はすぐにクロちゃんに抱きつかれた。

 次にキスされた後左手と右手、両方の手を繋がれる。

 なんだろうと思っていたらもしやアレか、例の獣人の特殊能力の愛情値チェックか。

 しばらくしてチェックが終わったらしく、クロちゃんが一気にいつもの幸せそうな笑顔になった。


 どうやらクロちゃんへの深い愛は変わっていなかったらしい。

 いやしかし、これはもしも数値が下がっていたらどういうことになったのだろうか。

 ちょっと想像するのはやめておこうか。


 そして次に愛姫ちゃんを見たクロちゃんが言い放ったのが先ほどのセリフである。そのセリフを受けて愛姫ちゃんが答えた。


「ニッポンポン国の第三姫、愛でございまする。クロ殿、よろしくお願いしまする。…そ、その、別に私は正妻の座を狙ってはおりませぬゆえ、出来るだけ仲良くしていただけるとありがたい」


 なんだろうね。愛姫ちゃんは見た目はすごくキリッとしていてカッコイイのだけども内面は割とビビリ屋なのかもしれない。ブルブル震えている。

 150センチの黒髪猫娘のクロちゃんにびびる165センチの巫女服美少女の愛姫ちゃんの図。


 時刻は900/04/28の夜18時。

 昨日愛姫ちゃんを買った後は前日に続いて城に泊めてもらった。

 しかしそこはなんというか、殿様がさすがにこの城の中で娘に手を出されるのは気に食わぬということで一人で寝ることになった。

 翌日の朝6時に出発して来るときと同じく12時間かけて屋敷に戻ったという形になる。


 さてこれからどうしようと考えていたらクロちゃんにご飯に誘われた。俺がいない間もちゃんと料理修行していたから一緒に食べようとのこと。

 愛姫ちゃんは住む場所を選んだり色々するからということで辞退していた。

 確かにそれもそうなのだろうが、クロちゃんと一緒の食卓を囲むのが怖かったのかもしれん。


 クロちゃんと一緒に晩御飯を食べる。

 割と洋風な食事だった。クロちゃんいわくユーロ国の一般的な食事からまず挑戦しているそうだ。

 食事の合間にクロちゃんが言う。


「ヒロ、私がヒロの相手を出来ない間は他の女の方のところに行くのは仕方ありませんし、それを咎めるつもりもありません。ですが、ご飯はちゃんと三食、私のところに食べにきてくださいね!」


 うん、うん。

 なるほど、そういうことになるのか。

 クロちゃんの料理はこの短期間のうちに随分と上達しており既に十分食べられる領域に入っていた。今後はもっと良くなっていくのだろうし断る必要も無いだろう。

 俺は素直に了承しておくことにした。


 それに、俺だってクロちゃんを遠ざける気は無いしな。

 クロちゃんの独占欲は随分と強そうだが、俺のクロちゃんに対する独占欲も十分過ぎるほど強いのだ。

 食事の後にぎゅーっと抱きしめてちゅっちゅしておいた。

 ちょっとおっきしたらクロちゃんにめっ、された。

 うん、それはダメなんだねクロちゃん。

 仕方ないので愛姫ちゃんのところに向かうことにする。



 ---



 愛姫ちゃんは、正面のデカイ建物から向かって右へ三軒目の家に住む事に決めたようだ。担当メイドはついこの間まで有給休暇を謳歌していた20代前半の若いメイドさんが二人。

 ちなみにクロちゃんは正面向かって右一軒目である。クロちゃんと一軒空けて右のところになる。

 家の中に入ってテーブルを挟んで話をする。そういえばここも洋式の家だがそれについては特に問題はないらしい。何故ここを選んだのか聞いてみた。


「うむ、ひとつはクロ殿が多少苦手なこともある。また妾は別に一番でなくとも良いし、二番目や三番目より下でも良いのじゃ。一国の姫じゃからなめられてはいけないという面もあるにはあるのじゃが、何せ妾はニッポンポン国のスッポンポン姫じゃからな。ゾンビ姫と呼ばれることだけはイヤじゃったからそれだけは避けられたのじゃが実態は結局変わらぬし、あまり目立ちとうないのじゃ。嫌われるのも困るが、ゾンビ扱いされて忌避されるのはもっとイヤじゃ」

「ふーむ」


 愛姫ちゃん、やはり色々と気にしているらしい。


「じゃからといってクロ殿と極端に離れるのはダメじゃ。わざとらしくなってしまうし失礼にあたるだろう。色々と考えた結果この位置にしたのじゃ。それにおそらくは旦那様にとってもこの配置がいいはずじゃ」

「ふむ、どういうこと?」

「妾の知る限りでは、神の使徒というのは様々な種族を一人ずつ妻にしていくものらしいのじゃ。クロ殿の隣は同じ獣族であるウサギ族の娘を住ませるのが良いじゃろう。犬族の分まで更に1つ空けておくという考えもあるのじゃが…旦那様はその、そっち系もいける口なのかの?一般的には犬族の女性はあまり好まれぬのじゃ」

「よくわかんないけど、たぶんそっち系の趣味はないです」


 俺はこれまでに犬族の女性を見かけたことはない。だが男性だけなら見たことがある。例のユーロ国首都パパリの高級ホテルのフロント担当の狼さんである。彼は思いっきり獣だった。犬族の女性は同レベルの獣娘である可能性が高い。さすがにそれはかなりハイレベルのケモナーで無ければ厳しいのではなかろうか。

 なるほど納得。犬族の娘も平気で食えるなどと公言したら逆にドン引きになるかもしれない。

 それに俺自身のケモナーレベルはほぼ最低ランクである。猫耳としっぽだけあればそれで満足だし。


 さてそのあたりの事情を聞き終えたところで愛姫ちゃんがこう切り出してきた。


「それでその、旦那様はどっちが良いじゃろうか?」

「ん?」


 何の話だろうか。


「旦那様の好みは、巫女服じゃろうか?それとも着物じゃろうか?」

「んんん?」

「そ、その…妾はこれから旦那様に抱かれるのじゃろ?好みを聞いておいた方が良いかと思って」

「うん、巫女服で」


 愛姫ちゃんの今の服装は既に巫女服だった。なのですぐに抱きついてみた。

 既にお風呂上がりで準備が出来ているらしく、いい匂いがした。


 俺は愛姫ちゃんをそのまま抱え上げてベッドまで連れていった。そして愛姫ちゃんをおいしくいただくことにする。

 ちなみに愛姫ちゃんははいてなかった。巫女服だからこのあたりまで徹底してくれたらしい、普段は普通につけているらしいが今だけは特別ということだ。



 ---



 Smes:愛の体力スキルが0.5アップ!

 Smes:愛の体力スキルが0.5アップ!

 Smes:ヒロの体力スキルが0.1アップ!

 Smes:愛の性交スキルが0.5アップ!


 行為の最中、やはり今回もというかシステムメッセージのスメスさんが荒ぶっていた。

 スメスというのは俺が勝手に名付けているだけだけども。

 それにしてもコレはアレだな。一目でいつもとの違いがわかった。


 Smes:ヒロの精力スキルが0.1アップ!

 Smes:ヒロと愛の絆値が0.5アップ!

 Smes:愛の精力スキルが0.5アップ!

 Smes:ヒロと愛の絆値が0.5アップ!

 Smes:愛の愛がアップ!

 Smes:愛の愛がアップ!


 愛の愛がアップ!やだー、字面が被ってるじゃないですかー。

 いやいやそうじゃない。上昇値が問題なのだ。


 前にスキル制のゲームをやっていた際の話だが、スキルアップ量は相手と差があるほど大きく相手と差が小さいほど小さくなる傾向があった。

 俺はクロちゃんと半月ぐらいやりまくっていたわけだが、そのことで高レベル扱いになっているということだ。

 だから愛姫ちゃんのスキルがそれはもうすごい勢いでグングン上昇していくのだ。


 しかしその分愛姫ちゃんの消耗も激しいようだった。二回目が終わった時点でバタンキューしてしまった。

 仕方ないので今夜はこのぐらいにして愛姫ちゃんと一緒に寝た



 次の日の朝。いつも通りUIで時間を確認する。

 900/04/29 7:03

 もうすぐ月末か。この世界の暦はどうなっているのだろうな。

 4月はやはり30日までなのだろうか、果たして5月は31日あるのだろうか。

 元々地球の神様がデザインしたみたいだし、完全に地球と一致している可能性も十分にあり得そうだが

 時刻の次はクエスト欄を眺める。


 クエスト:魔物の巣を攻略しよう

 目的地:日本本国、魔物の巣


 クエストは発行された時から変わらないままそこに表示され続けている。

 他にはクエストが増えていないな。クエストが同時発生することはないのだろうか。

 今後の流れを再確認する。

 既に再確認した通りこのまま愛姫ちゃんとイチャイチャちゅっちゅして愛姫ちゃんのステータスを引き上げてやれば良いだろう。

 妊娠することで強くなるみたいだし、妊娠中のハートマークが出るまでイチャイチャしておけば良いはずだ。

 このまま何の問題も無く日々が過ぎてゆくことだろう。


 愛姫ちゃんも起きたようだ。おはようのキスをしておく。愛姫ちゃんはクロちゃんと同様に呆けた顔で少し待機する。

 クロちゃんに既に確認したのだが、実はコレ、起きてからまずUIを確認しているのだそうだ。

 俺も起きた際はいつもUIを確認しているわけだが、なるほど、大体皆そうしている人が多いのかもしれないな。


 愛姫ちゃんと一緒にお風呂に入ってスッキリした後は一人でクロちゃんの家の方に出かける。

 愛姫ちゃんはついてこなかった。

 食事ぐらい一緒に食べたら良いと思ったのだが、愛姫ちゃんいわく各自の家はプライベートスペースとして他の嫁とその家族は一切入れないのがマナーらしい。

 一緒に何かしら食事をするのならば、ちゃんとそれ用の場を用意するべきなのだそうだ。

 俺はクロちゃんの家にいってご飯を食べた。料理は朝だというのに随分と気合が入っていた。

 クロちゃんなりに俺を他の子に取られないように必死に努力しているみたいだ。クロちゃんを安心させる為にも日中はなるべく多くの時間をクロちゃんと過ごすことにした。



 ---



 そんな日々が一週間続いた。

 愛姫ちゃんはまだ妊娠していない。最近はスキルアップ値が0.5から0.4に下がってきている。


 うん、一週間。この世界の暦は完全に地球と一致していた。今は900/5/5 9:00、日曜日である。

 この世界の年代が900年に設定されているというのにカレンダーは2013年のものと一致するようだ。

 なんだか色々とヒドイなここらへん、と感じた次第。


 ゴールデンウィークは無いのかと尋ねたが、無いらしかった。しかし5月5日は端午の節句だということを愛姫ちゃんが教えてくれる。

 男子の健やかな成長を願う行事として端午の節句という名称で全世界で祭りが開かれているらしい。

 神様はそのあたり割と尊重しているらしいな。やはり神だとそちら方面は重視するのだろうか。

 何か理由はあるのか?

 お菓子としてのチマキを食べるのが通例だそうで、家からほど近い広場のベンチに座ってクロちゃん、俺、愛姫ちゃんで並んで一緒に食べる。

 白くて太いものを3人で囓る図になる。うんそれほど卑猥というわけでもないな、チョコバナナとかと比較したらの話だが。

 ちなみに俺自身はその感覚が良くわからなかったりする。他の人は皆想像力が豊かなのだろうか。


 こういう季節物は普段さほど仲良くしていないからといって皆で食べるべきなのだそうだ。

 今日は珍しく両手に花になったなーなどと考えていた。

 するとそこに、筆頭執事のジェームズ氏がやってくる。

 何か顔色が悪い。手に何か持っていた。


「ヒロ様、ユーロ国国王より手紙が届きました。どうぞお読みください」

「そうか」


 とりあえず答えて受け取る。受け取るが…おや、何故この手紙は開封済なのだろうか。

 おそらく王国の紋章入りだったであろう封蝋が既に割れている。

 こういうものって普通開封せずに主人に渡すものなんじゃないのか?


 ジェームズ氏がすごい滝のような汗をかいている。既に書いたがジェームズ氏は見た目はとてもベテランに見える白髪の執事である。おひげも立派。

 そんな彼が滝のような汗を流している。そして開封されている手紙。まぁいいとりあえず手紙を読んでみるか。



「我はユーロ国国王、シャルルン3世である。

 我が国に降臨された神の使徒、ヒロ=アーゼス殿に伝える。

 既に一月以上が経過するというのに我が王城に挨拶にすら来ないとは何事か。

 しかも聞くところによれば隣国ニッポンポンを訪ねニッポンポン国の愛姫を娶ったという話すらある。

 我が国に挨拶もせず我が国の姫よりも先にニッポンポンの姫を娶るとは全くもってけしからん。

 可及的速やかに王城へとはせ参じることを命ずる。


 900/5/4 ユーロ国国王シャルルン3世」



 …どういうことだ。

 ジェームズ氏、大丈夫だとか言ってなかったか?

 ジェームズ氏は必死に頭を下げながら弁明していた。


「申し訳ありませぬヒロ様。私の考えは間違っていたようです。決して嘘をついたのではありません。私はただ本当に知らなかっただけなのでございます」


 そういってジェームズ氏は平謝りしてた。

 見た目ベテラン執事なジェームズ氏が滝汗流して謝っている姿はなかなかシュールだった。

 俺の隣では愛姫ちゃんが真っ青な顔でガクガクブルブルしていた。なるほど愛姫ちゃんはこの流れが予想出来ていたってことだったんだな。



 ---



 まずジェームズ氏の件について。

 ジェームズ氏は見た目こそベテラン執事ではあるが、実際には教会から一年ほど教習を受け執事資格を取ったというだけの新米さんだったらしい。ちなみに他の従業員さんも似たようなものだということ。

 まぁそうですよね。給料貰っているのに一切働かず有給休暇状態でものほほんと過ごしてる人達いっぱいとかちょっとスゴイ状態ですよね。

 ジェームズ氏は一応働いているだけまだマシな方なのかもしれない。


 次に国王訪問の件について。クロちゃんと軽めのお昼ご飯を取りながら聞いてみる。

 なんでも今日は大事な祝日なので今日は行かない方が良いらしい。可及的速やかにはせ参じろとはいっても祝日は別ってことだ。


「まぁ確かにこの世界ではほぼ全ての政治の中心は教会ですからね。国王様に会いに行く必要性を薄く感じてしまうのも仕方が無いと思いますよ、アナタ」


 うん、そうなんじゃないかと思っていた。教会で何でもかんでもやってくれるわけだし、この世界はPK禁止なのだから戦争も無い。

 しかしそうすると国王っていうのは何の為に存在しているのだ?


「各国の王は、魔物の巣を討伐するのが神様から与えられた仕事なんですよ。その為に資金を稼ぎ軍隊を育て上げ、魔物の巣を攻略するのです。各大陸の中央部、この東大陸でしたらニッポンポン国にしか魔物や魔物の巣は存在しないので、定期的にニッポンポン国の一部の土地をレンタルして魔物の巣討伐をしているのです」


 なるほど神様から与えられた仕事なのか。危険な仕事をするからこそそこそこの地位を維持できているのだな。

 では愛姫ちゃんのような戦う姫ちゃんが一般的かというとそうでもないらしい。魔物の巣の攻略を行うのは主に王と王子の仕事であり、その理由は明白で王や王子は複数の妻を娶りイチャイチャすることで体力スキルを上げることが出来るからだそうだ。

 この世界は処女厨なので姫であれば当然貞操は守らねばならず、夫が出来た後は子供を優先しなければならない。

 体力スキルを上げられない姫が魔物の巣討伐を積極的に行うのはかなりムリがあるってことだ。

 とはいってもある程度は鍛えている王女も多いらしい。


「ニッポンポン国には貿易港がありませんからあまりお金を稼げず金欠なんですよね、だから装備が悪いです。ユーロ国やトルッコ国ならば貿易によってかなりの資金を稼げますから、装備をガッチガチに固めて万全の状態で魔物の巣に挑みます」


 貿易港についてちょっとおさらい。この世界の外海は潮の流れがなく貿易にはほぼ使えない。

 この世界の内海には世界に対して逆時計回りの海流がありそれを利用して進行方向一方通行の内海貿易が行われる。

 大陸中央部のニッポンポン国などの内海接続部は全て高い崖になっておりそこから天の橋で世界の中央の魔大陸と繋がっている。

 よって大陸中央部の国には直接の交易手段がなく他二国に頼ることになる。

 そしてニッポンポン国の場合はユーロ国ではなくトルッコ国を頼っているからユーロ国との仲が悪くなると。


 たびたび出てくるトルッコ国についてもクロちゃんに聞いてみる。


「トルッコというのはニッポンポンよりも向こうにある、東大陸南部の国の名前ですよ。雰囲気は割と独特なんですかね?ニッポンポン料理も変わっていておいしいですが、トルッコ料理もおいしいんですよ。今度作ってみましょうか」


 うん、大体予想はついた。トルッコというのはおそらくはトルコなんだろう。中東というほど中東では無いと思う。

 トルコ料理は地球でも有名だったな。大体そこらへんの設定からきた国なんだろう。


 猫族の国はトルッコから海峡を挟んで向こう側にあるらしい。猫族の国に戻りたいかとクロちゃんに聞いてみたが全然そんなことは無いと言われた。

 それよりも俺が他の猫族の娘に目が移らないかそちらの方が不安なのだそうだ。そんなクロちゃんの頭をなでなでしておいた。


 その日の晩御飯はさっそくと言わんばかりにクロちゃんがトルッコ料理を作ってくれた。

 ケバブという肉料理にヨーグルトソースをかけていただいた。

 クロちゃんと晩御飯を食べた後は愛姫ちゃんを訪ねる。

 朝は青くなってガクガクブルブルしていたが既に立ち直っていた。

 その夜も愛姫ちゃんのステータスアップの為にハッスルした。

 昨日は十分に出来なかったのでその夜は愛姫ちゃんが失神するまで彼女のなかにたっぷりと愛を注いでやった。



 ---



 次の日の朝。愛姫ちゃんの寝室でいつも通りUIで時間を確認する。

 900/5/6 7:02


 地球だと振り替え休日な気がするのだがこの世界に振り替え休日はないらしいということは昨日の時点でクロちゃんに聞いておいた。

 なので今日普通に訪ねたら良いらしい。とそのタイミングでUIに動きがある。


 Smes:新たなクエストが発行されました。クエストリストよりご確認ください。


 既にクエストが1つ発生したままだが、やはり同時に発生することもあるらしいな。

 さて今度はなんだ。


 クエストリストのところを見てみる。確かに二つクエストが並んでいた。

 下の方のクエストが以前受けた「魔物の巣を攻略しよう」になっていた。

 はて、後から受けたクエストだとか難しいクエストだとかが下に来るのかとばかり思っていたのだが

 では上のクエストはなんだ?



 クエスト:国王を訪問しよう

 目的地:開始国の王城(ユーロ国)


 …ん?


 クエスト:国王を訪問しよう

 冒険の開始国の国王を訪問してください。

 この世界における国王の存在はさほど重要ではないのですが、それでも訪問しないのは失礼ですしなるべく早めに済ませておきましょう。

 国王は訪問された順番を非常に気にします。

 まず最初に開始国の国王を訪問するようにしましょう。


 他の国を初めて訪れる際もまずはその国の国王を訪問することをオススメします。

 国王様に認められれば王女様を娶るチャンスもありますよ!是非頑張ってください。



 …なんだろう。どこからつっこむべきか。このクエストの発行順が間違っているようにしか思えない。

 国王様に認められれば云々って、既にニッポンポンを訪問して愛姫ちゃんを娶ってきているではないか。

 このチュートリアルクエストの発行時期はいくらなんでもおかしすぎるのではないか?

 そう考えていたらUIのログウィンドウに変化がある。


 Smes:このクエストを発行するのを忘れていました。テヘペロ。

 >>Smes :絶対に許さない。


 やはりこのシステムメッセージのスメスさんは色々とおかしい気がした。



 ---



 その日の8時半に屋敷を馬車で出発した。


 最初は新妻二人に色々着付けを手伝って貰っていたのだが、愛姫ちゃんがやたらとニッポンポン寄りの仕込みをしてしまうので、それではユーロ国王が怒ってしまうということでクロちゃんだけが担当することになった。

 クロちゃんは正妻の貫禄を見せつけてやりましたという印象だった。テキパキと動いてささっと済ませ、新妻二人に見送られてから王城に向かった。


 王城に着いたのは10時半頃。この世界の馬車はチートな国道のおかげで随分と早い。

 国道から屋敷までの道も既に業者に頼んで整備しておいたので、行き来はスムーズになっている。


 王城の入り口で個人カードを兵士に提示して、非常にスムーズに謁見まで段取りが進んだ。

 向こうも既に準備していたらしい。


 謁見の間へと通される。

 玉座に座る国王らしき人物と、その脇の小さめの椅子に座る女の子が目に映る。

 女の子の髪は銀色?な感じだった。あまりそういう色の名前とかは詳しくない。

 それよりも髪型だ。ドリってた。ドリルドリル。

 左右二つドリルを付けていて攻撃力が高そうだ。いや頭にドリルだと防御力が高くなるのだったかな?


 女の子を観察していると、国王らしき人物が咳払いをした。こっちを見ろということだ。まったくもってその通りでございます。


「我がユーロ国国王、シャルルン三世である。神の使徒ヒロ=アーゼスよ、よくぞ我が召喚に応えここに参った。そなたの活躍は既に聞き及んでおる。隣国ニッポンポンの愛姫のその蘇生の様子をしかと見届けたそのうえで妻にし、今は魔物の巣の攻略の為に力を蓄えておるとな、間違いないか?」

「はい、間違いありません。その通りでございます」


 うん、確かにその通りではあるのだが。

 しかし全部筒抜けとはこれいかに。そういうものなのだろうか、あまり深く考えないが。


 国王様は金属製の長杖をいじりながら続ける。

 ふむ、杖か。

 そういえばこの世界で魔法とかどうなってるんだろうね。

 この世界にはエルフがいるらしいし、やはり魔法といえばエルフの担当なのだろうか。


「しかしだ。神の使徒として魔物の巣を討伐しようというその姿勢は立派なものだが、だからといって我が城への挨拶も済ませぬままニッポンポンを訪問した件を見過ごすわけにはいかぬ。訪問するだけならいざ知らず姫まで娶ってしまわれた。その事情は知っている、軍資金としての意味もあるのだということはな。だがこのままそうですかで済ませては我が国の沽券に関わる。ヒロ殿にはしかるべき責任を取って貰わねばならぬ」

「はい」


 うん、やっぱりそういう流れになるのね。

 しかしこの世界PK不可ルールが絶対であるから無礼討ちなどということにはならない。

 またクロちゃんにも確認してきたのだが神の使徒の行動の自由は神が保証しており、国王訪問などは全てマナーの範疇なのである。


「ヒロ殿には我が娘ジゼルを高額で購入していただこう。しかしヒロ殿にはまだ各国の王女を無条件で購入するだけの資格が無い。よってその資格を得る為に軽く試練を受けて貰う必要があるのだが…」


 王様がそこまで言った時点で、王の隣に座っていたドリル娘が立ち上がる。

 うん、ちっちゃいね。155センチぐらい?

 胸も無いとまではいかないがささやかなものなんじゃなかろうか。

 そんないやらしい目で観察していたら、王女様…ジゼルちゃんだったか?は突剣を抜き放ってこちらにビシィッ!と突きつけてきた。


「勝負よ!ヒロ様!」



 ---



 銀髪ドリル娘の王女ジゼル嬢。正直あまり好みのタイプではない。

 俺はこう基本おっぱいボインボインの子が好きなのだ。

 貧乳気味のワガママ娘もそのドリル髪型もあまり好きではない。

 しかし俺の好みには関わらず、嫁にするしかない流れなのだから仕方ない。

 仕方なく購入するのに、購入する権利を得る為に努力しなければならないとはなんだか理不尽な気がする。


 試練の内容は、ジゼル嬢…いや、ジゼルちゃんと呼ぶことにしよう。

 そのジゼルちゃんと戦って1回だけで良いから勝利することだった。

 何度負けても良いらしい。うん、なんとかなるんじゃなかろうか。


 この世界のPK禁止ルールは絶対である。なので勝負となるとなかなか不思議なルールになる。このあたりのことについて詳しく聞いてみた


 十分な威力の攻撃を相手に当てることにより、まずHPが減っていく。攻撃を当て続けHPがゼロになると、最後の攻撃で吹っ飛ばされた後にHPが再び満タンで全回復する。これは魔物の巣など以外での通常エリアの話で、魔物の巣ならばこのHP減少すらも一切発生しないらしい。

 通常エリア内で人間同士が訓練として腕を磨く為のシステムのようだ。


 一定時間攻撃されずに回避し続けた場合も、通常エリアでは一定時間の経過によりHPは全回復するらしい。魔物の巣の内部ではこのようなサービスは一切無いとのこと。格闘ゲームのプラクティスモードのような状態だろうか。


 体力スキルが十分に伸びていればHPは豊富にあるが、体力スキルがなければHPはほぼゼロに近いらしい。

 ジゼルちゃんはまだ処女なので当然HPはほぼゼロ。かすり傷程度は防げても斬撃は防げない一般生活用レベルのHPとのこと。

 よって俺はジゼルちゃんに一撃入れたらそれで勝負が決まる。逆にジゼルちゃんは俺のHPを何度も削って最後に残HPに対してオーバーキルしなければ勝利にはならない。


 つまり俺が圧倒的に有利なはずなのだが 。


 城の広場でジゼルちゃんと対峙する。

 ジゼルちゃんは突剣をこちらに向けていた。斬る要素のない突のみの剣である。

 フルーレとかいうんだっけ?まぁいいやそこらへんは。


 俺の得物はどうしようかなと考えていたが、そういえばこの世界に着た時に剣を装備していたな。

 PK不可で指が切れないことだけを確認した鉄の剣である。それ以来全然使っていないので存在を忘れかけていた。

 だって別の剣ばかり活躍していたしな、ナンチャッテ。


 よし、ここはひとつその鉄の剣を使ってこの生意気ドリル娘におしおきしてやろうじゃないか。

 頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来るもっとやれるって!気持ちの問題だ!

 うおおおおおおお!


 結果:フルボッコにされました。


 いやもうとんでもないね。俺のHPはかなり上がっているのだが、とんでもない勢いで猛烈に突かれて削られるんですよ。この世界の剣士さんマジぱねぇ。HPによるバリアが全て衝撃を受け止めてくれているのにこちらから一撃も当てることが出来ないんですよ。

 そうやってどんどんHPを削られて最後にフィニッシュされて吹っ飛ばされる。体は痛くも痒くも無いんだけど心が折れそうな気分。


 モンスターを倒すことで戦闘スキルが上がるのだったか?

 話を聞いてみたが、なんでもジゼルちゃんは魔物の巣攻略には一度も行かないものの討伐隊には同行し、お供を連れて周辺のはぐれモンスターを討伐しているらしい。

 体力スキルは伸びていないものの攻撃力は十分ってことだな。


 十一時から勝負を開始して、既に十二時になっていた。

 ジゼルちゃんに一発当てさえすればそれで勝ちなのに、ジゼルちゃんに全て回避された挙げ句三十発ぐらい突かれて削りきられてしまう。

 既に五回負けていた。うん、なんというかココまでヒドイとは想定外だったよ俺も。色々と格好悪いじゃないか。


 既にお昼なので一旦ご飯を食べる流れになった。その際に国王様のシャルルン三世に言われる。

 それにしてもシャルルンとはまたヒドイ名前だ。元ネタはきっとシャルルだったんだろう。

 俺はそういう歴史とかまったくさっぱりわからんが、おそらくその人の娘の名前はジゼルなんだろうな。


「ヒロ殿はまだ戦闘経験が無かったのだな。すまぬな、確かに経験がゼロでは娘のジゼルに勝てぬのも仕方ない。しかし今回の試練はジゼルが言い出したのだ。自分を倒せる相手なら文句は無いということだろう」

「そうでしたか。しかし面目ない、まさかここまで強いとは予想外でした」

「残念ながら剣の腕はいくら練習しても根本的解決にはならぬのだ。やはり魔物を倒さぬことにはな。しかし今から魔物を倒して修行するというわけにもゆかぬ、今すぐにでもヒロ殿にはジゼルを娶って貰わなくてはならぬのだ」


 コレは困った話になった。この世界において修行はほぼ無意味で魔物を倒すことが全てなのか。となれば俺が剣の腕を磨くとか工夫するだとかそれはムリってことだ。


「そこでだな。こういった勝負事の類は全て家族による代理が可能という決まりになっておるのだ。ヒロ殿の家族の者を代理で立てるが良い。…とはいってもヒロ殿にはまだ子供がおらぬだろう、妻を代理にするしかあるまい」

「な、なんと」

「ジゼルはそれでは納得せぬかもしれぬがこの際仕方なかろう。ジゼルには秘密にしておくので、使いの者を出して今すぐ愛姫を代理として連れて参るのだ」


 そういう話になったのか。しかし使いの者を出す?俺が直接迎えに行くわけではないのか。


「そうだ、ジゼルにはあくまで秘密にするのだからな。ヒロ殿には愛姫の到着までずっと挑戦していただこう」



 ---



 それから四時間半が経過した。試合は十二時半より再開され、既に試合開始より四時間が経過していた。

 一時間で既に五回倒されていたのだ。再開から更に既に十九回倒されている。二十回目、通算二十五回目の敗北もすぐそこだった。


 ジゼルちゃんは相変わらずこっちを突きまくっている。

 うん、スゴイね彼女。貧乳銀髪ドリル娘キャラだけどココまで強いキャラってそんなにいたっけかな?

 そんなことを考えていたらまた負けた。


 ジゼルちゃんの表情は最初の頃より大分緩くなっていた。最初はこう、弱い者を見下すヒドイ目してたんだけどね。

 負けても負けても諦めず挑戦し続けたことで、その姿勢だけは評価されたみたいだ。今だって、倒された俺が起きるのを手伝ってくれている。

 手伝われるほどでもないんだけどね。なかなか可愛いじゃないか。

 と、そのタイミングで愛姫ちゃんが到着した。城の人に案内されて広場までやってきた。


「お初にお目にかかります。ヒロ殿の妻、愛と申します。この度はヒロ殿の戦闘代理としてこの場に参上致しました」


 そういって深々と礼。今日も巫女服である。

 ちなみに普段はしっかり下着をつけているらしい。うん、そりゃそうだ。


 愛姫ちゃんの登場でジゼルちゃんの表情が硬くなる。

 おおぉ?おこなの?激おこなの?激おこプンプン丸?

 しかしそれでも立場というものがあるのか、割と冷静を保っている。


「承りましたわ。…ニッポンポン国の愛姫様、お噂は聞き及んでおります。しかし噂を頼りに人を評価するのはわたくしも好むところではありません。純粋に、ここは力の勝負といたしましょう」


 そういってジゼルちゃんが愛姫ちゃんに突剣を向ける。

 おぉ、愛姫ちゃんの噂はスッポンポン姫という実際にはゾンビ姫なのだが、そこらへんの単語を一切出さなかったねこのコ。

 実はこのジゼルちゃん中々良いコなのでは無いだろうか。

 個人的には好みではないのだが、良い子かもしれないということは認めなければいけない。


 愛姫ちゃんが得物である薙刀を取り出す。インベントリにしまってあったようだ。

 少し表情が柔らかくなっている。あれこれ言われなかったことが嬉しかったのかもしれない。


「ご配慮、感謝いたします。勝負であるからには妾も全力を尽くさせていただきます」


 愛姫ちゃんが本気になった。愛姫ちゃんが戦う姿はまだ見たことがない。

 さて、どれぐらい強いのだろうか。


 審判役の騎士が出てきて、その合図により二人の勝負が始まった。


 その勝負は一瞬である。というか今更なんだけど薙刀はずるいんじゃないだろうか。

 ジゼルちゃんの武器は突剣なのである。あまりにもリーチが違いすぎるでは無いか。


 開始と同時に愛姫ちゃんが一気に踏み込んで会心の横薙ぎを放つ。

 あまりにも速い目で追えない一撃、それで詰みである。

 攻撃が早すぎてガードどころではないが、それでもジゼルちゃんはしっかりとガードしていた。

 しかしガードの上からそのまま吹き飛ばされて一瞬で決着がついてしまった。

 軽く十メートル以上吹き飛ばされる。PK禁止世界で痛みがなければ酷いことになっているだろう。


 審判役の騎士が一本、の判定の白旗を挙げた。

 もしこの世界がPK可能だったのなら、愛姫ちゃんの攻撃一発でジゼルちゃんは一瞬でまっぷたつにされていたことは間違いなかった。


 先ほどまで俺相手に二十五連勝していたところに一撃である。ジゼルちゃんが涙目で言った。


「ううぅ、もう1回!もう1回!」


 完全に立場が逆転している。愛姫ちゃんは無言で頷くと再び勝負の為の位置についた。

 二回目は今度は開幕縦振りである。速すぎる。

 またしても一撃でジゼルちゃんが吹き飛ばされ一本取られた。地面をすごい勢いでゴロゴロ転がっていた。

 この世界の仕様のおかげでさほど痛くはないだろうが心に痛いと思う。


「もう1回!もう1回!」


 ジゼルちゃんが何度も愛姫ちゃんに挑んでいく。

 開幕一撃はヒドイと考えたのか、愛姫ちゃんは少しは攻撃を捌いてからトドメを刺す方針に変わったようだ。

 彼女は巫女服だというのにジゼルちゃんの攻撃をささっと回避する。数回の回避の後、再び一撃でジゼルちゃんを吹き飛ばした。再び十メートル以上吹っ飛んでいく。


 その後も何度も挑戦するがジゼルちゃんは全てあっという間に敗北していた。

 何度も何度も吹き飛ばされて、ジゼルちゃんはついに心が折れたようだ。

 ふらふらとこっちに近づいてきて、抱きついてきた。


「うー、酷いよぅ、あんまりだよぅ、こんなのってないよぅ…」


 うん、すごかったね。正直化け物だったね。

 でも化け物っていうと愛姫ちゃんが深く傷つきそうだよね。

 そのアタリの言葉を一切出さなかったあたり、やはりジゼルちゃんは良い子なのかもしれない。

 とりあえずなでなでしておいた。


 愛姫ちゃんはせっかく俺の為に頑張ったのに俺がジゼルちゃんの方をなではじめたのですごくショックを受けていた。顔が青くなってブルブル震えてる状態になった。

 うん、こんなに強いのに何故かビビリ屋なんですね。

 今度は愛姫ちゃんをなでなでしておいた。



 ---



 というわけで、ジゼルちゃんの購入の運びになった。玉座の間に戻り、手続きをする。王様が語り出す。


「うむ、ジゼルの値段についてなのだがな。この姫の値段というのもやはり難しいものだ、後から色々と問題になるのだよ。本来は購入という形ではなく普通に婚礼の儀を行い盛大に祝う習わしなのだがな。これが神の使徒相手となると、そのあたりを全て省いて金銭購入により処理する形になってしまうのだ」


 うん、そのあたりは愛姫ちゃんの時点で気になっていましたよ。どうにも神の使徒というのはそのあたりも特殊な扱いになるらしい。使徒は複数の嫁を持たねばならず、その嫁に順位をつけさせない為にも全て金銭による購入という形を取るのだそうだ。本来はその購入額によって順位をつけることもないのだが、そこはそれ、神様のルールとはいえ金額を比較して気にしてしまうのは仕方ないとのこと。


「出来ることならば愛姫よりも高く買って欲しいというのが親心なのだがな。しかし値段に差をつけてしまうとこれまたニッポンポン国と更に仲を悪くする原因になってしまうだろう。よって愛姫と同じ500億円で買って頂くことにしよう。代わりと言ってはなんだが、ヒロ殿の魔物の巣討伐に我が方も軍を出させていただこう」


 おおぉ、そういう流れになるのか。

 これはなんともありがたい話だ。


 少し考えてみる。

 もしもこの国で国王に普通に訪問していたらどうなっていただろうか?

 モンスターの巣クエが後に発生していた場合だ。

 国王には訪問するとして、ジゼルちゃんを購入する流れにも、魔物の巣討伐の軍隊を出してもらう流れにもなっていなかったのではないか?

 だってジゼルちゃんの購入条件は決闘での勝利だったのである。俺ではジゼルちゃんに勝利することはムリだっただろう。

 結果からいえばこの流れで良かったのだろうが、これは全てスメスさんが仕込んだことだったのか?


 そう考えたとたんUIのログウィンドウに黄文字が躍る。今度はなんだ。


 Smes:それほどでもない。

 >>Smes :すごいなー、憧れちゃうなー。


 やはり確信犯だった。謙虚なのかどうかは知らん。



 ---



 ジゼルちゃんを購入して屋敷に帰ってきた。時刻は夜19時を回っていた。


 馬車から降りると再びクロちゃんにお出迎えされる。

 開幕ハグからのキス、そして愛情度チェック。

 チェックが済むとニッコリ笑う。うん、セーフだよね、セーフ。


 その様子を見て、ジゼルちゃんが固まっていた。

 うん、まぁ確かに色々と酷いのはわかる。わかってる、たぶん。


 愛姫ちゃんが次に降りて、軽くクロちゃんに会釈してから自分の家に帰っていく。

 愛姫ちゃんは修羅場的なものは相当苦手そうだしな、ささっと退散していった。


 ジゼルちゃんが馬車から降りる。そして降りてきたジゼルちゃんに対してクロちゃんが挨拶。


「ヒロの正妻のクロです。これからよろしくお願いしますね、ジゼルさん」


 またしても堂々と正妻宣言である。

 クロちゃんのこの自信はスゴイ。おそらくは例の愛情値チェックのせいだ。

 俺の愛情値900オーバーがクロちゃんの自慢だと語っていた。決して正妻の座を他に譲る気は無いようである。


 対するジゼルちゃんはかなり真っ赤になっている。何か言おうとしているようだが言葉にならないらしい。


 うん…なんとなーくわかる気がするのだが、つっこんだら負けな気がした。

 ジゼルちゃんはひとつお辞儀をして「よろしくお願いします」とだけ言った。

 そしてそそくさと退散していった。


 俺はクロちゃんに手を引かれてクロちゃんの家に行く。

 既に晩御飯の時間である、クロちゃんは今日はニッポンポン料理を作ってくれたらしい。

 つまりは和風料理ってことだ。

 なるほど懐かしいなーと思いながらクロちゃんと一緒に食事をすることにした。



 ---



 ご飯後しばらくしてジゼルちゃんの様子を確認しにいく。

 ジゼルちゃんは愛姫ちゃんの隣、正面の大きな建物から数えて右に四番目の家に入居していた。

 よくわからないがこの場所を選んだことも色々と理由があるのだろう。


「まったく、あのクロって子はなんなのですの!?わたくしよりも小さいというのに、その…胸とか、おしりとか…あんまりですわ!」


 ジゼルちゃんがこの世の不条理に対して憤慨していた。うん、わかるよーわかる。ジゼルちゃんは貧乳キャラとしては非常に高い完成度だと思う。

 バランス良く未発達で好きな人は好きなキャラだ。俺の好みではないのだが。


 それにしても、今夜はどうしたものだろうか。このままジゼルちゃんとエッチしたら良いのか?うーん?

 悩んでいたら、ジゼルちゃんが両手でバッテンマークを作る。おや?どういうことだろう。


「悪いですが、お断りですわよ」

「おぉ?」

「ヒロ様には確かに購入されました。しかしまだ心を許したわけではありません。とはいっても別れる気もありませんし、そもそもこの世界のルールとして購入された場合は夫婦どちらからも離婚が出来ない仕組みですからね」


 うん、そうなのである。購入した場合は双方が離婚に合意していたとしても離婚出来ない仕組みなのである。


「そもそもヒロ様も、わたくしのことをまだ好いてはおられぬでしょう?好きでも無い相手を抱く必要はありませんし、わたくしも好きでもない、更には私を好いてくれていない夫に抱かれるなど、絶対にお断りですわ」

「うん、なるほど、それは俺もそう思う」


 ジゼルちゃんは結構色々ハッキリしてるみたいだなー。

 うん、俺のことを好きになってはくれていないけどそれもそうだ、ジゼルちゃんに一太刀すら浴びせられなかったしな。

 逆にコレで好かれていたら俺の方が困る。


「そういったことをするのは、もう少しお互いに仲良くなってからにいたしましょう?愛姫様がまだ妊娠していないことはUIでわたくしも確認しています。しばらくは愛姫様をお相手になさいませ」

「そうか、それじゃあジゼルちゃん、またね」


 そう告げてジゼルちゃんの新居から退散する。向かう先はお隣の愛姫ちゃんの家である。

 愛姫ちゃんは今日はどうなるのかなーと迷っていたらしく俺が訪ねるとビクッとしていた。

 一応可能性は考慮していたらしく、準備は出来上がっていた。

 ようははいてないってことだ。


 その晩は愛姫ちゃんの慰労も兼ねて昨夜以上にハッスルしておいた。

 愛姫ちゃんはその日の夜は心も体も喜んでいるという印象を受けた。

 エロくて強い巫女さんをこんなに早く妻に出来たことが本当に嬉しかった。

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