第五十七話「スパイクバックラー」
愛姫の息子の政宗くんやジゼル二号など三名が高校三年生の夏に魔物狩りに出かけた件だが、実際そのタイミングぐらいしか魔物狩りを経験させる余裕は無い。何故かというと、なんだかんだで皆勉強に忙しいからだ。
この世界の教育機関は現在俺が設立したこの学園しか無い。教会の教育は高額だしあまり本格的なものではない。
なので受験勉強の必要は無い。試験により人を篩い落とす意味が無いからだ。
幼稚園から大学まで全部持ち上がりだからな。他の教育機関から転入して来られないのだからどうしようもない。
高校の授業は現代日本と大体同じ内容だ。ただしこの世界特有の事情による差は生まれている。
何しろこの世界は、わりと狭く、日本語しか存在せず、歴史も短いのだ。
この世界について少し語ろう。俺は知らなかったのだが、マリーが授業で聞いた内容を教えてくれた。
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この世界のサイズについての話をする。
ゆっくりと進む内海貿易船は、六十日間でこの世界の内海を一周可能だ。実際には各港に六時間ずつ停留するのでこの限りでは無いが。
そして内海貿易船で十日間かかる角度を、この世界の馬車は四十時間で走りきることが出来る。とはいえこの世界の馬車はとんでもなく高速なのだが。
元いた世界の馬車はせいぜい時速二十キロメートルらしいが、この世界の馬車はなんと時速五十キロで走る。競馬の馬より少し遅い程度の速さで走り続けるのである。
幅百メートルの銀色の国道の左側を、時速五十キロで馬車が走る世界である。ちょっとシュール過ぎて意味がわからない。ちなみに俺の個人所有の高速馬は時速七十五キロで走り続ける。ちょー速い。世界記録クラスである。
ともかくそんな世界なわけだが。時速五十キロの馬車が、この円状の世界の各大陸の中央に走る銀色の国道を、船で十日かかる分の角度を四十時間で走るのだ。四十時間分なので二千キロ。そしてこの世界は船で六十日間で一周するので全長は六倍の一万二千キロである。
実際には海峡により隔てられているが、もしも海上にも国道が走っていれば全長一万二千キロのサーキットになるのだ。そしてその円に対しての直径は三千八百二十一キロ程度。大体約三千八百キロといったところか。半径は千九百キロメートル。実際にはここに、中央を走る国道より外側の部分の距離を加算する必要があるが。
四大陸の幅は、これについても計算が可能だ。内海貿易港から首都まで六時間。外海側漁村から首都までも六時間。この馬車も時速は五十キロ程度。つまり大陸の幅は約六百キロである。外周までのこの世界の半径は二千二百キロメートルになる。
海峡を抜いた場合、各大陸の国道は三千キロ分ある。なので各大陸の面積は大雑把に言えば約百八十万平方キロメートル弱といったところだろうか。一国あたりの面積は約六十万平方キロメートル程度だろうか。日本の面積よりもデカイな。フランスの面積に近いようだ。一国のサイズは幅六百キロで中央の国道が一国千キロだ。
地球の赤道の全周長は四万キロほどらしい。なのでこの世界の直径の二千二百キロメートル、直径にして四千四百キロというのは、もしもこの世界が地球サイズならば十分の一強の長さにあたるわけだ。
小さくはないが大きくもない、そんな世界ということだな。
内海の幅だが、これについては既に計測されているらしい。
内海の幅は十キロメートルだ。そして内海の左右を挟む岸壁の高さは一番高いところで海抜五千メートルだ。
つまり、内海の中央を走る船から対岸を見ると、仰角四十五度で岸壁がそびえ立っているという話だ。四大陸側の崖の高さは中央大陸上部のみ最大の五千メートルに達するが、中央大陸側は全外周が五千メートルの岩壁に囲まれている。
中央大陸は、果たしてどんな世界なのか。
サイズについては既に推測が可能だ。この世界の外周までの半径が二千二百キロ。そして周囲の大陸の幅は六百キロで狭い内海の幅は十キロだ。内海の幅は元々のこの世界の想定が大陸中央部の国道まで直径三千八百二十一キロだったので、その誤差分と上手い具合に相殺する。
つまり、中央大陸は半径約千六百キロの円状の大陸だ。その面積は八百三万と八千四百、平方キロメートル程度だろうか。オーストラリア大陸の面積は約七百六十二万平方キロメートルであるらしい。つまり中央大陸の面積は、オーストラリアよりもややデカイ。
オーストラリアサイズの中央大陸の周囲を、フランスサイズの各国家が十二個取り囲んでいる、それがこの世界のスケールだということだな。
地球全体から見れば小サイズの世界だが、日本人が日本のサイズから考えれば大分大きな世界である。
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この世界の歴史は、UIに表示されているこの年代分しか無いらしい。元々神がデザインした世界だからな。突然この世界や大陸が生まれたのかもしれない。年号は星歴だ。
星歴一年時点で、各国の人口は百人の男女のみだったらしい。その時点で主要な国道は存在しており、言語は日本語として存在し、城や教会が存在していたのだとか。
百人の男女といっても男女五十人ずつではなく、男二十五人に女七十五人だったのだとか。つまりこの世界は最初から一夫多妻だった。
人々は皆神よりその役割を決められており、王は最初から王であったし農民は最初から農民であったのだとか。人々は教会で神に祈りを捧げることにより役割ごとに必要な知識を得ることが出来た。食料にも初めから困ることはなく、生めよ増やせよでどんどん人口は増え続けたという。
だからこの世界の歴史は人口増加の歴史にもなっている。昔の偉人の話はほとんど絶倫自慢になってしまっているらしい。
神は人々にこの世界に住む他種族のことについても教えたのだが、最初のうちはその交流についてはさほど積極的に勧めなかったらしい。食料も十分で土地も十分、女も十分ならばそれもそうかもしれない。
転機が訪れたのは最初に神の使徒が派遣されはじめた星歴百年程度のこと。食べて寝て子作りするだけのこの世界の様子に、初期の神の使徒はそれはもうガックリ来たようだ。神に直訴してなんとか少しは交流するように進言した結果、ようやく人々は大陸の他隣接国と交流するようになったという。
しかしそんな神の使徒達がその後どうなったかというと、子作り大好きなこの世界の住人により性的に吸い殺されたらしい。腹上死ってやつだな。
というかこの世界の昔の死因の大半はほとんど腹上死らしい。どういう世界だ。
次に転機が訪れたのは三百年あたりで、この時期に内海貿易が開始されたようだ。木工が盛んだった北大陸のエルフ達の手により貿易船が建造され、それにより内海貿易が開始した。神の使徒も関与していたかと思われるが詳細は不明。
三百年も経つ頃には、各種族ごとの男女比率による影響が既に表面化していた。女性の出生率が高すぎる南大陸の獣族が既に人口爆発を起こしていたらしい。稀少な男性が多すぎる女性に過剰に求められた結果腹上死してしまい、更に男不足になるという状態に。
そんなわけで、内海貿易において獣族は最初からウサギ族や猫族の女性を輸出しはじめた。既に深刻な男不足の女余りだったからだ。人族の男性は彼女らを大いに気に入り、獣族の大陸に行こうとする者も続出したらしい。
しかし人族に気に入られた一方で、北大陸のエルフ達には受け入れられなかった。エルフ達は昔からスキンシップが苦手で、性欲と精力が足りていなかったらしい。流入した猫族やウサギ族の女性によりエルフ族の男性の腹上死事件が多発し、とんでもない事態になったとのこと。
そんな事件を発端に、この世界の構図が形成されていったようだ。隣の大陸と仲が良く、接しない遠くの大陸との仲が悪いという構造が。
内海貿易を開始したと思われる北大陸スタートの神の使徒の行方は不明になっている。おそらくは南大陸に渡った結果、獣族の娘に吸い殺されたという説が有力だとのこと。またそんな死因か。
魔物が狩られ始めたのは星歴五百年頃かららしい。人口が増えて、魔物を狩らないと仕事が無い人が出現しはじめたわけだな。特に人口爆発が著しかった南大陸の獣族が、武器もまともに使わずに素手で挑み始めたようだ。しかしそれはもう凄い勢いで死者多数になったとのこと。
これはマズイということで、倒した魔物や野生動物の毛皮を利用して防具を作り始めたらしい。探鉱や鍛冶の技術については神から教えられていたものの、それまでは生活用品しか作っていなかったとのこと。
そうやって徐々に魔物と戦う為の体勢が整えられていき、今のこの世界があるということのようだ。
星歴六百年から八百年の時期は、かなり大勢の神の使徒が頻繁に投入されていたらしい。武器があるのだからなんとかなるだろうという判断だったのだろうか。もちろんなんともならなかった。
神も諦めたのだろうか、星歴八百年を境に神の使徒はぷっつりと派遣されなくなった。
星歴八百年までに派遣された神の使徒達は、そこそこには足掻いたらしい。俺のように子供を増やしてなんとかしようとした者もいたのだとか。しかしその使徒は、一族を率いての大規模な魔物の巣攻略時に、一族郎党の過半数が完全に食われ蘇生不可能になってしまったようだ。神の使徒本人を含めて。
その原因についても調べた。
原因は純粋な戦力不足。HP量も人数も、兵士の質も不足していた。俺のように、妻一人を狂ったように何度も何度も孕ませたりはしていなかったのである。
妻の数が三十人、子供の数が七十人程度だったらしい。そんな総勢百名程度で魔物の巣に挑んだようだ。その結果が、神の使徒本人を含めた過半数の蘇生不可能な壊滅。
使徒の代わりにリーダーとなる存在がいなかったことも原因だ。俺にとっての娘のマリーのように、代理で前線で戦う存在がいなかったらしい。息子達とのスキル共有があったにせよ、人数不足と質の不足で十分な力とはならなかったのだろう。
妻一人に二、三人子供を生ませる程度では、一般人と戦力は大して変わらないかと思われる。
俺が現代日本の常識を無視して、妻一人に五十人最大まで生ませようとすることがレアケース過ぎたわけだ。
這々の体で逃げ帰った生き残りの子孫達は、その後各自で幸せな家庭を築いたらしい。のだが……
俺がこの世界に派遣されるより少し前の時期に、百年の時間切れにより神の使徒の一族の全滅が発生した。それまでは時間切れによる神の使徒の一族の全滅はあまり目立っていなかったのだそうだ。それまでも一斉の大量変死はあったのだが、それが神の使徒に関連した変死だとは特定されていなかった。
星歴八百年から神の使徒が一切派遣されていないことは、皆が既に知っていた。新たに派遣されないが故に、人々はこれまでの神の使徒達の行動を歴史としてまとめあげ、語り継ぐようになった。
この百年間派遣されなかった神の使徒。そして発生した前の神の使徒の子孫達の全滅。人々は、星歴九百年に再び神の使徒が派遣されるのではないかと薄々期待していたらしい。
そして選ばれたのが、俺だった、ということだ。
もしかすると俺が選ばれた最大の理由は、妻一人を何度でも繰り返し孕ませるという人間性だったのかもしれないな。
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話を戻そう。
マリー達の通う高校は、受験戦争こそ無いものの全員が大学への持ち上がりを前提とした構成になっている。
この世界では日本語以外の言語が無い他、歴史や地理についてもかなりわかりやすい。
よって英語の授業が存在せず、日本史、世界史、地理も存在せず中学まで同様の社会科になっている。
国語関連も現代国語、古文、漢文に分ける必要が無く国語の授業のみになる。
そうやって現代日本の高校の授業に比べて空いた授業枠に対して数学、化学、物理等の授業枠を振り分けて余裕を持たせる他、家庭科や道徳の授業も多めに入れてあるといった状態。
道徳の授業は、実質子育て授業になっている。ちゃんと子供を愛して育てなさいだとか、押しつけで勉強させず本人が望んで学習するように誘導するようにとかそういう話だな。
この世界は現在受験戦争が無い分随分と気楽だが、子育てに関しては……俺にとってもなかなか耳が痛いな、うん。
三年の時期になると、授業に大分余裕を持たせているにせよ、どうしても向かない生徒さんも出てくる。誰もが数学や物理、化学を高校三年生範囲まで完全に理解しろというのは無茶な話だろう。
三年の夏前の時点までにそのあたりのことに実感を持って貰い、その後夏休みに魔物狩りを経験させて、それで将来進む道を考えて貰おうという狙いがある。
なので夏休み以降は選択授業が大幅に増える。数学と物理化学全捨てで、それ以外の授業だけ取っても良いことになっている。高校二年までの範囲はきっちり習得しておいて欲しいが、それ以降は別に強制必修でなくとも良いだろう。
大事なことは、高校では魔物狩りは三年生の夏休みのみということだ。これは全員が強制参加になっている。
大学の範囲からは、戦闘方面に進む子は二月に一月、年の半分が現地戦闘実習にしてある。高校とは違い強制参加では無い。魔物狩りが無理だと判断した子は参加しなくても良い。なんだかんだで魔物狩りはグロイからな。
死ななければ安いとは言え、戦っている最中は魔物の血の臭いがわりととんでもない。
ただこの世界の魔物は、完全にトドメを刺してしまえば主要な素材を残してそのまま消滅してくれる。戦っている最中はとんでもなくグロイけどね。倒した後の処理は楽な分、まだ救いがある。
ブロントと練習試合をしたのは、マリー達が高校二年生の夏のことだった。
あれから一年が経過して、マリー達の高校三年生の夏、魔物狩りの時がやってきた。
それまでに子供達の為の武装をある程度用意した。ブロントにはグラっトン、ではなく黒鉄で再現したブロントソードを渡しておいた。後は、あいつ用にちょっとカッコイイ、ケーニヒシールドという名前の手頃な大きさの盾を用意してやった。
たぶん元ネタのブロント氏も使用していただろうと予想される、そこそこ有名な盾だ。外側を囲むように金色の縁取りがされていて、盾の色は青。そこに金色の文様が施されているという代物だ。
素材はかなり複雑なようだ。ミスリルにプラチナ、金に黒鉄で下地の盾を作り、その上に金とアダマンの金属板を重ねてあるらしい。ここまで上等な盾なのに伝説の盾の足下にも及ばないのだから酷い話だ。
マリーには、絆神力を常時使うというわけにもいかないので代用としての剣と盾を用意した。
剣の方はオートクレールという名称。エクスカリバーと同形の色違いの剣であり、材質はオリハルコンで用意した。なんというか金ピカだ。そこそこレア物で多少は人気な剣であるが、伝説武器というほどのものではない。
盾の方は小型盾で、スパイクバックラーという名を付けてある。その名の通りトゲ付きだ。マリーにはこの盾でシールドバッシュしてこいと指示してある。
俺の中では、盾は防具であり武器でもある。ただし常に武器というわけではない。用途に合わせるというかそういうことだ。
盾を武器として扱う場合には、三通りある。
一つ目は盾そのもので殴りつけるシールドバッシュだ。比較的どの盾でも行えるだろうが、その為に特化した盾の方が、扱いやすく効果は大きいかと思われる。
二つ目は、盾そのものを武器化するもので有名な物はブレードシールドだろう。盾の先に剣の刃が付いている。ただしこの場合は剣として扱える一方で盾としてはかなり微妙になるかと思われる。だからバッシュの方がマシだと俺は思う。
そして三つ目は、盾に完全に別な攻撃装置を内蔵するものだろう。これにも色々と種類はあると思うが、盾に内蔵するのならばやはりアレだろう。ジゼルにはその盾を研究開発することをお願いしておいた。
俺は盾をブロントに向けてぶん投げたが、あの使い方はあまりオススメ出来ない。ブーメランみたいに盾が手元に戻ってくるのはゲームだけだからな。リアルだとぶん投げた盾を回収しにいかないとダメなわけだが。
実はこのあたりには秘策があったりする。まだ秘密だ。
マリーには既にそのあたりの秘策も伝授しておいた。俺の良く出来た娘である彼女ならば必ずやり遂げてみせるだろう。というか、俺が直接中から代理で身体を動かしてやれば良いだけの話なのだが。
旅立ちの日の朝、マリーは俺の所に挨拶に来た。いつも通りの高校の夏服姿で。今回戦場でも、防具は基本無しだ。HPが身体を保護してくれるし、下手に重い防具を身に着けると重くて動けないだろうから、剣と盾のみで戦ってもらう。
「おとーさん、おかーさん、行ってきます!」
「うん、気をつけて頑張って来るんだぞ、マリー」
「うん!」
「ジタンは別クラスだけれど、お姉さんとしてたまには相談に乗ってあげるのよ、マリー」
「はい、おかーさん」
マリーの見送りは俺とルナの二人でしておいた。リースの方は、ブロントとリース二号の二人を見送りしていた。現地での行動はクラス別で、マリーのクラスはマリー、ブロント、リース二号、愛姫二号の四人とブロントのハーレムのお嫁さん三十六人だな。それぞれ武器は、オートクレール、ブロントソード、バルキリーフォークと名付けた竜の髭、巴って名前の薙刀だ。
マリーの弟のジタンがいるクラスの方は、ジタン、ジゼル三号、アンジェラ二号、キャラット二号の四名だ。ジタンは片手剣、ジゼル三号は母親と同じミュルグレス、アンジェラ二号は片手杖、キャラット二号は格闘武器だ。
ジタンはオリハルコンという名前のオリハルコン製の剣。アンジェラ二号は金と銀を混ぜたエレクトラムで作った杖にサファイアを嵌め込んだエレクトラムセプター。キャラット二号は鋼鉄製の爪をミスリルで強化したミスリルクローを装備させた。
フリマさんの息子だけ別クラスだけども、確かメフメトくんだったかな。彼にはトルッコ風の曲刀を二本用意しておいた。アダマン製の刃で、名称はアダマンキリジ。剣の柄にはアクアマリンが嵌められていて、柄頭にはペイナイトというわりとレアな黒色の宝石が嵌め込まれている。
金による装飾部分も多く、実用剣というよりは見た目重視っぽい印象のあるなかなかカッコイイ剣だ。
子供達に配布する武器は、全て俺の記憶をマリーに再現して絆神力で具現化させ、それを元に武器防具工場に製作させたものだ。あれこれカッコイイ物が出てくるのでわりと褒められた。まぁ確かにな。異世界のデザインを直接持ち込んだのだから驚かれるのも当然だ。
それぞれの武器を手に、子供達はニッポンポン国の魔物の巣周辺地域へと旅立っていった。
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919年夏、夏休み。
夏休み期間中、マリー達は魔物の巣外のはぐれモンスター相手に挑み続けていた。俺も暇な時にはその様子を見せてもらった。
魔物達の姿は、なんというか色んなゲームがごちゃ混ぜである。良いとこ取りのでたらめ世界という印象が強い。どこかで見たようなスライムやどこかで見たようなトロール。別ゲームのどこかで見たような巨大なカブトムシっぽい何かや丸いカニ。これまた別ゲームの、背中に水晶っぽい塊を背負った触手で歩き回る生き物や、丸々と太ったデカイ鳥。
後はそうだな。これまた別ゲームというか、口からリングビームを吐いてくる謎のハニワ生物とか浮遊するツボに入った猫とかもいた。なんというか、たぶんそこらへんの容姿について詳しく描写すると絶対に怒られる感じしかしない。ヤバイ。
そんな謎生物達を、マリー達のクラスは必死に倒していた。
戦闘スキルが特に低いのは、マリーとリース二号だ。マリーはスキル共有出来る相手がいないから初戦闘である。マリーのHPは、なんだかんだでブロントとの行為での上昇分と、更に一族全員から1%ずつ分のHPとMPがステータスに加算されているらしい。
一族の人数が少なければ意味はほとんど無いのだろうが、既にうちは大所帯だ。なかなかの数値が確保されている。
「せやっ!」
マリーが浮遊する猫壺モンスターをスパイクシールドではじき飛ばした。哀れな猫壺はこなごなに砕けながら吹き飛んで消滅する。猫壺のドロップ素材は小判らしく、吹き飛んだ先に一枚の小判が落ちる。猫に小判か。
『猫壺を破壊する猫耳女子高生の図だな。しかも盾で』
『うーん、可愛いけれど手加減するわけにもいかないから。おとーさん、少し交代する?』
『ん?うん』
マリーは左利きで俺が右利き、なので本当は左手の剣と右腕の盾を持ち替えたいのだが。盾は手に持つのではなく腕にくくりつけてあるし、剣の鞘も腰の右につけられている。
なので仕方なくそのまま戦うことにする。
しかしその場合はなんというか、どうしても右腕がメインになってしまうわけで。
「ええいっ!」
どこかで見たような為……いや、カニを上からスパイクバックラーで叩き潰す。
「うりうり」
背中に水晶を背負った触手生物の身体に剣を突き立てながら、水晶部を盾でゴリゴリしてやる。
「せいっ!はあああぁっ!」
たまたま出会った左利きのトロルの攻撃を、盾で全力でパリィしてから致命の一撃を取ってやる。
そんな感じであからさまに盾メインな戦い方をしていたらリース二号に怒られた。皆から少し離れた場所でひそひそ話。
「ちょっとおとーさん、なんでそんな右腕の盾メインで戦っちゃってるのよ。いくらなんでも不自然でしょうに」
「う、やっぱり?ごめんね、リース」
リース二号の中にはリース本体が来ていたようだ。リースは昔は箱入り娘で魔物との戦闘経験が全く無かったからね。なので魔物との戦闘にはかなり興味があったらしい。
戦闘の基本の流れは、ハーレムのお嫁さん達が一通り豆を投げつけた後に、ブロントがメイン盾として最初に攻撃をしかけ、それから他の皆が攻撃する。愛姫二号は基本見学。愛姫二号は愛姫の戦闘スキルを共有しているので超強かった。
リースはリース二号の身体で強化魔法をばらまいている。例のルーンダイバーと名付けた必殺ジャンプの技はまだ完成していない。さすがに超ジャンプするような技術は初級の強化魔法では無理らしい。
リースは俺と交わることで魔法スキルをかなり稼いでいるわけだが、本来はMPを消費しすぎたら、そのままではMPの自然回復の速度は遅い。なのでMP回復手段が問題になるのだが。
どうにも俺がマリーの身体の中にいる間、マリーの身体にくっつくことでも恋人同士という判定がされてMPが高速回復するらしい。恋人同士でくっつくとMPが高速回復するのがこの世界のルールだからな。
そんなわけで、身長百七十センチの黒髪猫耳女子高生のマリーの身体に、身長百六十センチの金髪女子高生のリース二号、中身リース本人がくっついてMP回復をするという図になった。二人とも夏服だ。
傍目から見るとレズっぽくなるかもしれない。ブロントのお嫁さん達がひそひそいっている気がする。というか完全にこっちのことを見ている。
「あの、リースちゃん。あんまりくっつかれると周りの目がちょっとね?」
「そうはいっても、まだMPがー」
ちなみにこのMP回復速度は恋人以外にくっついた時にも上昇する。恋人にくっついた時の効率を百として、父母とその兄弟姉妹間が三十、その他の親戚が二十、友人が十とかそんな感じになっているらしい。
なので本来、リース二号のMPは異母姉のマリーにくっつくよりも、母親が同じ兄妹の関係であるブロントにくっついた方がMP回復が早い。なのでブロントはわりと複雑な表情をしている。
妹にくっつかれても兄はそんなには嬉しくないものだろう、他にお嫁さんがいるのなら。
しかしだからといってマリーの方にリース二号がぴとーっとくっついている様子は、かなり奇異に映るはずだ。
何度も続けていたら、さすがにブロントの方から声をかけてきた。
「あの、リース?別に俺の方にくっついてきても構わないんだが?」
「お兄ちゃんは、お嫁さん達の相手をした方が良いと思うわ。だからマリーお姉ちゃんを貸してね」
「それは構わないんだが……なぁ、今は妹なのか母さんなのか、どっちなんだ?」
「妹の方だよ、お兄ちゃん」
リース二号に入ったリースはそう答えるが、もちろん大嘘である。妻達本人がコピー体の娘達の中に入れることは公開情報だ。その一方で俺がマリーの身体の中に入れることは秘密だ。だから何故リース二号がマリーに抱きついているのかは周囲から見れば謎だ。レズにしか見えないかもしれん。
何やら疑問に感じたらしい愛姫二号がこちらの方に近づいてきた。愛姫二号は夏服ではなくお母さんと同じ巫女服を着ている。わずかに体つきが違うものの、既に母親と区別がつきにくい。
身長百六十五センチの愛姫二号が百七十センチのマリーの身体に抱きついて……何故かよだれを垂らした。そしてひそひそとこちらに話し掛けてくる。
「不思議と良い匂いがするのじゃー」
「そ、そうなんだ」
「マリー姉様、妾もリースちゃんのように抱きついて良いじゃろうか?」
「……うん」
『ちょっ、おとーさん!』
マリーが心の声で抗議してきたがそのまま抱きつかれておいた。愛姫二号の中には愛姫本人は入っていないかと思われる。なんだろう、父親大好きなコピー体の娘の本能で気付いたのだろうか。くっついてきた愛姫二号が幸せそうによだれを垂らしている。あぁー、マリーの夏服に愛姫二号ちゃんのよだれがつくわー。予測可能、回避不可能。
『おとーさん……替えの制服はいっぱいあるけれど、だからってよだれまみれは私もイヤだよ?』
『うん。ごめんね、マリー』
『それにしても本能で気付かれちゃうんだねぇ、ビックリだよ。でもだからってよだれは……あっ!』
『えっ?』
マリーが何かに気付いたらしい。
マリーの身体を操作していた俺も気付いた。
リース二号に入っていたリースもちょっとよだれ出てた。
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その後、マリーの身体を出てから俺の本来の身体に戻って、リース本体を問い詰めた。さすがによだれを垂らしたことはまずかったと反省しているのか、俺が向かう前に向こうからやってきた。
「あはは、ごめんねヒロ。娘の身体に入ってる時って、どうやら入っている私もお父さん大好き特性の影響を受けちゃうみたいなのよ」
「そうなのか」
「そうなのよ。だからエッチの時も普段より割増しで気持ち良いみたい。ルナがルナ二号の中に入るのもそれが理由だったのね」
そう。確かにそういうことになるのはわかる。確かに娘との行為の際、ルナは最初から毎度のごとくルナ二号の中に入っていた。全然自重せず毎晩。そうか、本体で抱かれるよりも割増しで気持ち良いのか。
しかしな。
「でも、リースも娘の身体の中に入ってたよね」
「えっ」
「リース三号の初めての時も入ってた。UIで確認した」
リース三号は現在中学三年生で十四歳である。十四歳から抱けるようになるので中学二年生の誕生日に即座に抱いたのだが、その際UIの名前表示はリース=アーゼス3ではなくリース=アーゼスLだった。リーダーのL、遠隔操作をしていたという何よりの証拠だ。
この判別方法についてはシステムメッセージのスメスさんに教えて貰ったが、俺だけの秘密にしていた。のだが、リースにも今回教えることにした。教えた結果リースの顔が真っ赤になった。
「えっと……そんな確認方法があったなんて知らなかったわよ。意地悪ね。知っていたら我慢していたかもしれないのに」
「それで、どうだったの?娘の身体での初体験は」
「うぅ、すっごく、良かったわよぅ」
その後詳しく話を聞いたところ、なんでも娘の身体のお父さん大好き特性の関係で、父親に純潔を散らされるという背徳感も相まって、とんでもない快感に包まれるらしい。
なんとも倒錯的な快楽だが、そういうことらしいから仕方ない。次から自重するのかどうか一応は確認してみたが、一度知ってしまうと到底自重出来ないらしい。
ちなみに実はリースだけでなく、ルナもリースも、ティターニアと更には愛姫まで初体験の際に娘の中に入ってきていた。愛姫は娘の身体で初体験した翌日に既に俺に謝ってきていた。謝る際に少しよだれが出ていた。てっきり気のせいかと思っていたが気のせいじゃなかったようだ。
ティターニアはいつも近くの小サイズのベッドから行為を観察しているのに、娘の身体が抱かれる際にだけ本体の意識を落としてぐっすりと間近で寝ている。距離が近すぎるせいで番号表示もリーダー表示もされず本体の表示が優先されるのだが、行動があからさまなのでさすがに気付いた。
翌日本人に確認したところ、あっさりと容疑を認めた。ティターニアはわりといつもニコニコしているのだけれど、その日はいつも以上にニコニコしていたかもしれない。
まぁなんというか。
娘の身体に入ることを自重しないエロ妻達に囲まれて、俺は幸せです。
実際のゲームでは攻撃力がアップするだけで、シールドバッシュの威力は上がりません。謎ですね。




