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第四話「ニッポンポンのスッポンポン姫」

 朝起きるとまずUIユーザーインターフェースを確認する。

 UIの右上には今日も変わらず時刻表示が出ていた。

 900/04/22/8:12


 クエストはまだ発行されていない。


 ノーセックス状態にはなってしまったがクロちゃんとは引き続き一緒のベッドで寝ている。とはいえ何もしなければ性欲が色々とヤバイ。

 奴隷商人のザンギ氏に以前頂いた「賢者になれる薬」を融通して貰うことになった。

 なんでもあの薬はこのような事態に対応する為にザンギ氏が開発したものらしい。

 エロエロラブラブ状態から突然のノーセックス状態へ突入する苦しみを和らげる目的だったそうだ。


 とはいえ高かった。なんとこの小ビン、1本1万円もするらしい。

 そして1本で一晩しか持たない。これはとんでもない浪費だろう。なんとか対策を考えなければ。


 UIを改めて眺める。

 左上に並ぶ俺の名前とクロちゃんの名前。家族なのでどちらも同じ苗字「アーゼス」になっている。

 アーゼスって苗字はなんだろうな。地球のアースと何かをかけたのかもしれない。

 クロちゃんの状態表示欄には今日も変わらず「妊娠中」のハートマークがついている。


 と、そこで気づいた。

 何故クロちゃんは妊娠中マークがついてすぐにそのことがわかったのだろうか?

 こういった異世界モノでは、主人公である俺だけがこのような機能を所持しているのが通例なのでは?

 普通妊娠がわかるのは軽く1ヶ月以上はかかるのではなかろうか。

 いくらなんでも受精直後からつわりが開始したなどという話は聞いたことがない。


 どうしようか迷ってみたものの、本人に聞いてみるのが一番だと判断した。

 クロちゃんからはいつもラブラブオーラを感じている。

 出会ってからまだ一月すら経過してないが、この愛の深さには割と自信を持っているしな。何の問題も無いだろう。


 聞いてみれば答えは簡単な話だった。


「ユーザーインターフェース、ですか?はい、私も持っていますよ」


 そう素直に答えてニコッと笑顔。なんだクロちゃんもUIを持っていたのかー。それですぐに妊娠に気づいたってことだったのか。


 クロちゃんからユーザーインターフェースについて聞いてみる。この世界の人々は皆俺と同じようにUIを持っており、だから時間には正確らしい。

 そういえばこの世界で時計に該当するものを見かけた覚えが無い。UIに常に正確な時間が表示されているのだから、時計が不要なのだ。


 クエストについても聞いてみた。どうやらクエストについてもこれは誰でも発生するらしい。

 それでは一体使徒とは何なのだろうかという話になるわけだが、どうやらクエストの難易度に大きな差があるそうだ。

 とはいっても俺は今までチュートリアル的なクエストしか受けていないわけだが。


 それではクロちゃんが今までに受けてきたクエストはどのようなものだったのだろうか。それを聞くととても恥ずかしそうに顔を赤らめながら答えた。


「えっとですね、子供の頃のクエストはしっぽの動かし方を覚えようだとかお使いをしてみよう、みたいなものが多かったです。最近ですとその…素敵な旦那様を見つけようですとか可愛い赤ちゃんを作りましょうですとか…やだ、恥ずかしいです」


 なるほどそれは確かに恥ずかしいかもしれない。しかしクロちゃんもなんだかんだで神様からのクエストをこなしているということがわかった。

 恥ずかしがってるクロちゃんも可愛いのでなでなでしておいた。


 一方でUIの違いについても聞いてみた。なんでも、クロちゃんのUIにはTIPSの機能などは無いらしい。

 更に、俺との行為の最中にシステムメッセージのスメスさんが大暴れすることも無かったのだそうだ。システムメッセージ自体は存在するとのこと。

 全ての情報が告知されるわけではなく、どうやらシステム側の気まぐれで通知するものが変化してしまうそうだ。

 最近は料理の修業を頑張っているが、料理スキルの上達はスメスさんがしっかり通知してくるので、上達の実感を得ながら頑張れているという話だった。


 更には驚きの秘密能力まで教えてくれた。


「獣人の特殊能力なのですけれど、直接肌で触れている相手からの好意のおおよその数値がわかるんです。無関心が100、好きが300、大好きが500程度でそこから先は愛情の領域に入っていきます。ヒロはその、最初に触れた時から500を超えていて初夜の時には既に800台に突入していましたから、すごく愛されていることが嬉しくて、いっぱい甘えちゃいました」


 なるほどそういうことだったのか。ちなみに現在は既に900を超えていてそれがクロちゃんの自慢なのだとか。

 猫族の女性はこの数値を高く保つ為にサービス精神が旺盛で、だから男受けが良いということだ。また素肌で触れ合わないと数値がわからない為いつも身体の接触をはかるらしい。

 手を繋ぐだけでも良いので皆手を繋いでいるとのことだ。


 いやしかしある意味恐ろしいね。愛が冷めるとあっという間にバレてしまうわけか。

 コレは数値の維持が大変そうだ。とはいってもこの数値は絶対のものではなくあくまで目安値に過ぎないらしい。

 感情には波があるので、そのうち比較的高いところの数値を計測するのだそうだ。


 そんなわけでこの疑問は解決した。



 ---



 ノーセックス生活に苦しむ俺。

 ココはあれだ、二人目の嫁を手に入れようだとかそういうクエストが発行されないものだろうか。

 そしたら後はクエストに従って二人目の嫁を手に入れれば良いだけの話だ。神様からのクエストだし、俺の良心も痛まない。


 クロちゃん自身は妊娠した当初から、俺がノーセックスで苦しむのは可哀想だから次のお嫁さんを手に入れて良いですよ、なんなら若いメイドさんを襲っても良いんですよなどとすごく優しく俺に諭してくれていた。

 しかしそれはなかなか苦しいところだった。

 現在のこの家の担当は中年おばさんメイド2名になっている。半月担当されているのでかなり動きは最適化済のようだ。メイドさん自体は他に18人もいるのだが、供給過剰になるという理由で勝手に有給休暇を謳歌している状態になっている。

 クソ、働いていない俺がいうのもなんだがもうちょっと働いても良いのではなかろうか。

 他の18人のメイドさんのうち10人ぐらいは若いメイドさんだった。とはいっても年齢幅は20-28歳ぐらい

 そこそこ可愛い子もいるのだが、どうにも食指は伸びないのである。

 既にこの可愛すぎるクロちゃんという猫耳新妻がいるのでどうしても比較してしまうのだ。

 え?クロちゃんの年齢?それはちょっというとマズイことになるんじゃないですかね色々と。直接聞いてはいないが見た目十五歳程度にしか見えない。

 実際のところ何歳なのだろう。十五歳以下だなんてことは…さすがに無いよな、あの胸で。


 そんなわけでクエストの発行を待っていたわけだが、その日は突然やってきた。


 Smes:新たなクエストが発行されました。クエストリストよりご確認ください。


 来た、ついに来たぞ!

 内容はきっと二人目の嫁に関連するものに違いない。さぁこいこい、新たな美女よ!



 クエスト:魔物の巣を攻略しよう

 目的地:日本本国、魔物の巣


 えっ?

 いやいや、きっと詳細を見れば二人目の嫁に繋がる話だろうきっと。


 クエスト:魔物の巣を攻略しよう

 日本本国に点在する魔物の巣のうち、好きなものを1つ攻略してください

 その際手段は問いません

 ハンター達とパーティーを組むなり、軍隊を派遣するなり好きなやり方で良いです

 神の使徒として用意された資金をフル活用してください。健闘を祈ります



 えーっと…なんだコレは。

 どこがどうなったら美女に繋がるのだろう。二人目の嫁の話はどこにいった?

 どういうことなの。わけがわからないよ。魔物って何?痛いの?ケガするの?命がけ?

 わけがわからないのでクロちゃんに泣きつくことにしました。


「アナタ、落ち着いてください。ちゃんと伝えてくれたら一緒に考えますから」


 クロちゃんに泣きついたらそんなことを言われる。ちなみにクロちゃんは俺のことを、アナタと呼ぶ場合とヒロと呼ぶ場合の二通りがある。

 何故?って以前聞いたこともあるのだがそういうものなんですっ、て赤くなりながら言われた。名前で呼ぶのは少々恥ずかしいのだそうだ。もちろんその後なでなでしておいた。


 それはさておき今の話だ。


「えーとクロちゃん。日本本国(ニホンホンゴク)ってどこのことかな?知ってる?」

「ニホンホンゴク、ですか?ちょっとどんな漢字なのか、紙に書いてくださいな」


 む、読み方を間違えているのだろうか。紙に「日本本国」と書いてみる


「えっとコレはですね。ニッポンポンコク、と読みます」


 思わず噴出してしまった。なんだって?ニッポンポン?NIPPONPON?

 随分ご機嫌な名前である。すっぽんぽんという言葉も連想してしまう。


「ニッポンポン国はこのユーロ国のお隣さんですよ。武士と呼ばれる片刃の両手剣使いや、巫女と呼ばれる白赤の服を着た薙刀使いさんなどが住んでいます。ニッポンポン国は大陸の中央部なので、魔大陸から天の橋を通って魔物が往来しています。ですから魔物の巣が結構な数ありますし、ニッポンポンにはたくさんのハンターさんがいたり騎士団が派遣されたりするんですよ」


 なるほどなー。名称こそ随分ご機嫌で軽い感じの名前だけれど、和風テイストの比較的わかりやすい国家なのかもしれない。


「ニッポンポンには高い山などもいっぱいあって、山の傍には温泉などもあるみたいです。いつか一緒に行ってみたいですね。今はちょっと妊娠中なので旅は避けといた方が良いので残念です」


 子供が最優先なので我慢我慢らしい。残念そうにいうクロちゃんの頭をなでなでしとく。温泉ですっぽんぽんという繋がりだったのだろうか。


「クロちゃん、魔物とか魔物の巣についてはわかる?」

「んっと、魔物についてはちょっと説明が難しいです。私もよくは知らないんです。ヒロの言っていたTIPS?とかには書いてありませんか?」


 クロちゃんにもやはりわからないことはあるようだ。これ以上クロちゃんに色々聞いていると、以前のようにまたスメスさんが大事なことなので三回警告してくるかもしれん。

 別にあのサーディン村のスシネさんみたいなこっちを狙っている部外者じゃなく、獲得済のラブラブな新妻に聞いているのだから、咎められる筋合いはどこにも無いはずなのだが。



 TIPS:魔物

 この世界では中央の魔大陸から定期的に魔物が供給されています。

 魔物は倒すことでスキルアップしたりドロップした素材が色々と役に立ちます。

 通常エリアの魔物は絶対に向こうから襲ってくることはありません。

 ただしこちらから攻撃をしかけた場合はその限りではありませんのであしからず。


 通常エリアではノンアクティブ(襲ってこない)ですが、魔物の巣の中では全ての魔物がアクティブ(襲ってくる)になります。

 通常エリアよりも多くの敵が密集しているので狩りの効率は良いですが大変危険です。


 魔物との戦いで負けると死にます。

 死んでしまったらどうなるか?魔物のエサです。どこかに戻っての自動復活などはありません。

 通常エリアで敗北すると魔物の巣までずりずりと運ばれていきます。

 魔物の巣に引きこまれる前、または魔物の巣内で敗北した場合でも両方において、

 肉のついた死体を一部でも良いので回収し神の作った道である国道の上に乗せることが出来れば

 例えそれが腕の一部などであったとしても死者は完全復活します。

 死者が復活した場合死体の他の部位は全て消滅しますので、同じ人間が複数に増えることはありません。


 完全に魔物に食い尽くされてしまうと復活の可能性は無くなります。

 骨だけでもムリです。必ず肉のついた部位を国道上に捧げてください。


 死体の復活とは異なりますが体の一部を欠損してまだ生きている場合も同様に、国道に触れることにより欠損した部位を修復することが出来ます。


 補足:装備品は復活しません。着る物ぐらい用意しましょうね。



 ガクガクブルブル。なんだか怖い話だ。PKが不可能なこの世界だが、魔物に負けると容赦なく死んでしまうのか。

 しかし死んでしまっても復活の条件自体はかなり緩くなっているようだ。

 あの例の銀色の道、国道と呼ばれる神様が作ったアレは回復装置も兼ねているらしい。

 魔物の巣についてのTIPSも確認しておかねば。



 TIPS:魔物の巣

 魔大陸からやってきた魔物達が大陸中央部各地に形成する自分の住処が魔物の巣です。通常エリアの魔物は巣への移動中であるか、巣を作り始める前段階であるか、巣にエサを運ぶ作業中であるかなどの理由で忙しい為、人を襲うことはありません。

 しかし魔物の巣に生息する魔物は非常に危険です。フリーであるがゆえに全ての個体が人を襲います。


 複数種の魔物が形成する巣と単一種の魔物が形成する巣がありますが、大半は単一種族が形成する巣になっています。

 単一種とはいえ同種の魔物であれば下位から上位まで幅広く生息することがあるので油断は禁物です。


 魔物の巣の内部で死者が出た場合、絶対に肉のついた体の一部を持ち帰り脱出してください。

 全滅せず死体を持ち帰りさえすれば完全に命を落とすことはありません。

 もし死体を回収しなければ魔物達は人類の肉をキレイさっぱり残さずに食べてしまうので復活の道は閉ざされます。

 肉つきの死体さえ国道に届ければ復活することが出来ます。


 補足:装備品は復活しません。着る物ぐらい用意しましょうね。



 なるほどなぁ。とにかく完全死だけは回避するようにということが書かれているようだ。

 それにしても、魔物の項目と魔物の巣の項目、両方に同じ補足が書かれているんだな。

 コレは一体どういうことなのだろうか。


 TIPSに書いてある情報をクロちゃんに伝えた。ついでに補足の件も伝える。

 いつも幸せいっぱい笑顔で答えるクロちゃんが珍しく苦笑い。おや、なにかあるのかな?


「アナタ、ニッポンポン国のことは何も聞いたことが無いんですよね?」

「うん、ないなー」

「それでは、ニッポンポン国のオテンバ王女様の話も聞いたことがありませんよね?」

「ん?うん」


 まぁそれはそうだ。聞いたことがあるはずもない。ということはその王女様に何かあるってことか。


「ニッポンポン国は魔物の巣の攻略に力を注いでいます。ニッポンポン国の第三王女の愛姫様も巫女として魔物の巣攻略に挑むのだそうです。しかし愛姫様は頻繁に壊滅を繰り返し、魔物に何度もほぼ全身を食われては腕や足のみになることが多いそうです。もちろん部下の方達はその腕や足をすぐに大事に持ち帰って愛姫様を復活させるのですが、何しろ腕のみだったりしますとその、当然復活した際には裸で復活するんです」

「うわぁ…なんだかグロいのかエロいのかよくわかんないなんともいえない話なのか」


 ちょっと想像してみた。魔物に食われて腕のみになるとか正直絶対に勘弁して貰いたい。

 しかしそれでもまだ生きてるだけマシなんだろうか。すごく恐ろしい話だ。


「それでその…裸で復活することを繰り返す愛姫様についたあだ名がですね。スッポンポン姫、なんです」



 ---



 ニッポンポンのスッポンポン姫。


 実際には腕や足のみの状態に何度もなっては復活するという非常にグロイ話なのだが、そのグロさを少しはなんとかしようということで考えられたあだ名なのかもしれない。

 ゾンビだのなんだの言われるよりはまだ大分マシなんじゃないだろうか。


 俺はこの時点でほぼ確信した。今回のこのクエスト、最寄の魔物の巣がある地域とはいえわざわざニッポンポン国が指定されているのは、きっと二人目の嫁に関係しているからに違いない。


 そして今回クロちゃんからこの話を聞いたことも無関係だとは思えない。これはもう間違いないだろう。そのスッポンポン姫はきっとすごく可愛いに違いない。

 しかしあまりにも話がグロイので、それがマイナス評価になってフリーなのではないだろうか?


 クロちゃんにも聞いてみたが、そのスッポンポン姫といわれる愛姫の容姿についての話はあまり出回らないらしい。やはり腕や足だけになって復活するという話のグロさが酷すぎて容姿にまで話が向かないのだろう。

 愛姫は巫女ちゃんらしいから、きっと可愛いに違いない。うん、間違いない。


 俺は思い切ってニッポンポン国に行ってみることにした。

 もちろん妊娠中の愛しい新妻のクロちゃんは置いていくことになる。

 とりあえず様子を見に行くだけにしてなるべく早めに帰ろう。

 別に一人で行くわけじゃないんだ。従業員さんもちゃんとついてきてくれるらしいからね。


 どのような流れで行くかは筆頭執事のジェームズ氏と相談した。

 神の使徒なので、まずはニッポンポン国の首都に行き、愛姫の父である国王に挨拶すると良いかもしれないらしい。

 国王様に挨拶か。そういえばユーロ国の国王様にもまだ挨拶に行ってないのだが大丈夫なのか?

 多少疑問に思ったがジェームズ氏いわく大丈夫とのこと。

 国王に挨拶するのは、姫が欲しい時だけで良いのだそうだ。


 なるほど確かにそういうことになるのか。

 国王だから会いに行くのではなく、嫁にしようとする相手の家族だから会いに行く。

 お姫様を嫁にするという流れは今後どの程度起こりえるのだろう。

 そういえばクロちゃんの家族ってどうなってるんだろうね?

 クロちゃんは家族のことを全く話さないけれども、そのうち話すこともあるのだろうか。



 出発したのは900/04/26の朝6時だった。

 今度は少人数なので、4頭立てで馬車は小型にして速度を出すことにした。

 以前の長距離移動では外海沿いのサーディン村から首都パパリまで6時間かかったのだったか。今度はどの程度かかるのだろう。

 クロちゃんに見送られながら、馬車は早速出発した。


 国道には死者蘇生の力があるという話だったがそれだけではなく通常の回復効果もあるらしい。

 なので馬車を引く馬は常に国道からの回復効果を得るので疲れ知らずで走れるということだ。

 馬車はそれはもうスゴイ勢いで走り出した。全力疾走を続けても馬が全く潰れないというのはなんともスゴイ。

 もしも国道がデコボコしていれば馬車の揺れも激しくなると思うのだが、国道は滑らない程度の凹凸がある以外はまさに一直線に伸びているのでガタゴトなることも無かった。

 厳密に言えば緩やかな弧を描いているのだがほぼ直線だった。


 ニッポンポン国首都についたのは12時間後だった。距離について聞いてみる。

 ユーロ国のサーディン村と首都パリリ間の3倍程度の距離を、連絡馬車の1.5倍の速度で駆け抜けたのだそうだ。

 確かにその勢いで飛ばせば12時間で着くのかもしれない。かなりの無茶な飛ばし方だとは思ったが馬は涼しい表情をしていた。

 国道の回復効果は本当にハンパ無いみたいだ。死者を蘇生するだけのことはある。


 首都の王城の門番に個人カードを見せて取り次いで貰う。既に午後6時だったのでもうすぐ撤収準備だったそうな。

 しかし神の使徒という肩書きは大分でかかったらしく、こんな時刻でもしっかり取り次いで貰えた。

 随分とスゴイなー。神の使徒なのにニート的生活をしていたらやっぱり世の人々に怒られるんでしょうかね。



 ---



 900/4/26 19:26


 国王、あるいは殿様の名前は実はよくわからなかった。

 なんでも「との!」と呼ぶのが礼儀らしい。何故だろう。何かこう色々と日本史ファンに対する配慮でもあるのだろうか。


 愛姫ちゃんの名前についてだが、読みは「あい」で良いらしい。

 実は日本史だと愛姫という人物は「よしひめ」か「めごひめ」になるらしいが、どうもそこらへんまで細かくはなってないようだ。

 ちなみにここらへんの知識もTIPSに書かれていた。お前はウィキペディアか。


 お殿様には用件は既に伝えてある。神の使徒である俺が、愛姫が欲しいので訪ねてきたということになっている。


「なるほどのぅ。使徒殿の出現の報は既に届いておったが、うちの愛が欲しいなどと訪ねてくるとはのう」


 とこれは愛姫の父のお殿様のセリフ。愛姫はクロちゃんの説明にもあったが第三王女とのことだった。二人の姉は既に他国へと嫁いでいったらしい。

 愛姫はスッポンポン姫などと言われているがその実態は何度も繰り返し復活しているゾンビ姫だ。ギャグっぽいあだ名をつけてもマイナスイメージを払拭するには至っていないらしい。

 使徒ならば、一応愛姫を娶る資格はあるらしかった。ただしやや不足しているらしい。


「しかしだな、使徒殿はやはりまだ名声が足りておらん。その現在受けているクエストである魔物の巣攻略を成功させれば資格としては十分になるのだろうがな」


 お殿様は色々と話してくれた。魔物狩りで生計を立てるハンターはいるが、それはほぼ全てフィールド上のはぐれ魔物狙いらしい。

 魔物の巣攻略となるとこれはもはや軍隊を投入する以外無く難易度は跳ね上がる。

 愛姫が手足しか残らない悲惨な状態に陥るのも、愛姫の弱さよりは魔物の巣の手ごわさが原因とのこと。


「しかしここはこうしよう。使徒殿にはある試練をやって貰う。そしたら愛を購入する権利をやろう。タダではやらんぞ?使徒殿には愛を高額で買って頂くことにする。その代金は愛の率いる軍の強化資金に充てる。使徒殿には愛自身の強さを引き上げて貰おう。これでどうじゃ?」


 うん、悪くない話なのでは無いだろうか。今回は愛姫を手に入れることもそうだが、魔物の巣の攻略も進めなければならない。

 しかしなんだ。「愛自身の強化」ってまさかそういう意味なのか。


「使徒殿が既に妻を娶ったという話は聞いておる。ならばもうわかっておるじゃろう。生娘は弱いのじゃよ」


 やはりそういうことになるのか。クロちゃんとの行為の最中にスメスさんが大暴れしていたことも合点がいった。この世界においてはそれがルールであり非常に重要だったということなのだ。

 大体は理解したが、お殿様のいう試練とはなんなのだろうか。そこを尋ねるとお殿様はやや沈んだ表情で言った。


「愛が蘇生する一部始終を見るのだ。それが出来ぬ者に愛の夫たる資格はない」



 ---



 お殿様からの書状を携えて、馬車で国道を走る。

 東大陸中央部における魔物の巣は、やはり世界の中心側、魔大陸方面に点在しているらしい。

 国道は魔大陸方面に延びてはいるが途中で道が切れてしまっている。

 その道の切れているあたりは貴重な回復拠点とされており、各方面から死体が運び込まれるのだそうだ。


 一夜を王城で過ごした次の日に馬車を走らせた。

 馬車は3時間程度で到着した。時刻は900/4/27の朝10時。

 国道の終着点にはテントが設営されていた。周辺にはニッポンポン国の軍が待機している。


 そこそこ偉そうな武将さんにお殿様からの書状を渡す。

 そこには愛姫の蘇生を見届けることが出来たら共に首都の王城に帰れという命令が書かれている。


 肝心の愛姫だが、今日も既に魔物の巣へ向けて出発済らしい。

 最近出現した比較的難易度が低めの魔物の巣の制圧を目指しているが、ほぼ最低ランクの巣でもやはり非常に厳しく何度も壊滅しているそうだ。

 あまりにも連続でボロボロになっている為全体の装備の補充も追いついていないらしい。


 今度もまた壊滅するかもしれないという話を聞いて待っていたら、やがて一人の兵士が悲壮な顔をして茶色の布袋を抱えて走ってくる。

 もしかしたら、あの中に愛姫の一部が入っているのだろうか。


「うぅ、例のモノです、よろしくお願いします」

「ああ、確かに受け取った。お前はもう休め。全て忘れるんだ」

「ううぅ…私の目の前で姫様が魔物に無残に食い散らかされて…助かるとわかってはいても到底忘れられません」


 相当凄惨な状況で逃げ帰ってきたらしい。兵士さんは少し行ったところでゲーゲー吐いていた。

 うん、俺が自分で魔物の巣に突入するとか絶対ムリだわ。マジ勘弁だわ、心が死ぬわ。


 少し話を聞いてみることにする。


「魔物の巣って、どの程度の人が生還出来るのですか?」

「うむ…実は生還だけならば近年ではかなり対応を迅速にしているのでほぼ100%なのだ。死体の回収と死体の安全確保をとにかく徹底させているからな。しかし五体無事で帰ってくるやつはほぼおらん。3割程度は死体の状態で戻ってくるのだよ。後のものは死体を守って生還する為に死力を尽くしている」


 なんとも不思議な話だ。死体の一部さえ持って帰れば蘇生可能な世界だからこそなのだろうか。

 このある種チートな神の加護がなければやってられないだろう。


 袋を受け取った武士はそれを持ってテントの中に入っていく。テントは大分狭い。愛姫の蘇生専用のテントらしい。

 武士さんがこちらを振り返って告げてくる。


「お主は蘇生を見るのは初めてなのだな?神々しいものではないぞ。蘇生の様子を見て心に傷を負ってしまう者も少なくは無い。だが愛姫様を娶るのならば見届けるべきだというのは私も同感だ。それならば誰も文句は言うまい」


 武士はそう言いながら袋から中身を取り出した。それは右腕だった。

 テントの中にまで伸びている国道の上に愛姫のものと思われる右腕が置かれる。


 そして愛姫の蘇生が始まった。



 ---



 蘇生というと、俺も始めは光に包まれて一瞬で蘇生するのだとばかり考えていた。

 しかしトラウマになるレベルだという。なので、覚悟は決めておいた。


 国道の上に捧げられた腕がまず宙に浮く。

 腕から一気に何かが再生していく。これは骨だ。

 腕からどんどんと骨が伸び、骨格標本を形作った。


 次の再生は内臓だ。

 骨の中にどんどん内臓が湧いて出る。

 全て宙に浮いたまま再生が進んでいく。

 ペースは早いが、ほとんど光っていなかった。

 光っていないがゆえに、再生の様子が丸見えなのである。


 骨と内臓が一通り揃ったら、次は血管が形作られていく。

 血管の図とかも見たことはあるな。

 指先の毛細血管まであっというまに形成された。


 間を埋めるようにどんどん再生が始まる。筋肉の繊維が高速で張られていく。

 骨格標本や人体模型だとかを見た経験がないとコレは色々ヤバイかもしれん。

 だがしかしある程度知識さえ事前に持っていればなんだかんだで耐えられる内容だった。


 筋肉の次は肌が再生されていく。うん、なかなかハイペースだ。

 知識さえあればなんとかなるレベルだろう。


 最後に爪や髪などそういったものが再生される。

 一通りの再生が終わると徐々に浮いていた体が降りていき、国道の上にそっと置かれた。


 改めて眺めてみる。コレがニッポンポン国のスッポンポン姫、愛姫ちゃんか。

 髪は藍色でストレートロング。なんとも俺の中の和風姫ちゃんイメージそのものだった。

 いやあるいは巫女さんイメージかな?お約束キャラな感じ。

 クロちゃんと容姿被ったりしないだろうなコレ。でも背がかなり違うから大丈夫かな?。


 背はやや高めだろうか。165ぐらい?うん、許容範囲。

 スタイルも普通に良い。出るところは出てるし締まるところも締まっている。

 クロちゃんのワガママボディが規格外過ぎるだけで愛姫ちゃんも十分過ぎる巨乳のナイスバディである。


 じーっと観察していたら、愛姫ちゃんが目を覚ました。うー、っと唸りながら頭を左右に振っている。

 目は開けてない。蘇生直後はしばらく目を開けたくない状態になるのかもしれない。


 目を閉じたまま愛姫ちゃんが語りだす。武士が近くで応対している。


「うぅ、食われる寸前の記憶が残っておるのはなんともいえん。食われる感触まで残るよりはマシとはいえ何度あってもこればかりは慣れないな。まずは服を用意して貰えぬか?」

「姫様、今日はお客人が来ておられますぞ」

「…客?」

「えぇ、殿様に言われてやってきたお客人です。姫様の蘇生の一部始終をご覧になっておられました」

「…あ、あはは、冗談であろう?まさか父上がそのようなことを承諾なさるはずがない」

「いえいえ、本当のことでございます。噂の神の使徒様が来ておられるのですよ、ここに」


 愛姫ちゃんの体がビクッと震えた。恐る恐るという様子で徐々に目を開いていく。

 よし、ここからの展開はアレになるはずだから、是非とも裏をかいてやりたい。


「い、いやああァー!」


 愛姫ちゃんが全力でビンタしてきた。

 俺は愛姫ちゃんの懐に飛び込んだ。

 そのままぎゅーっと抱きしめてちゅっちゅしておいた。



 ---



 900/4/27 17:11


「はっはっは。使徒殿もなかなかやりおるのぅ」


 愛姫ちゃんと一緒に首都の王城に帰る。王城とはいってもその外観は完全に和風の城である。


 ちなみにこの世界は相変わらずPK禁止ルールのままである。

 俺に抱きしめられた愛姫ちゃんは必死の抵抗を試みた。

 バシバシ叩いてきたし金的だってガシガシやろうとしていた。

 しかし全てムダなのである。PK禁止ルールのせいで一切肉体へのダメージが通らないのだ。

 せいぜいちょっとした衝撃を与えるだけが精一杯。

 HPは一時的に減るのだけど、ゼロになったらちょっとだけ飛ばされてすぐに満タンに戻る。


 何をしてもムダなので愛姫ちゃんは抵抗を諦めた。

 一生懸命なでなでしておいたので少し気持ち良さそうな顔をしていた。

 その後係の人が服を持ってきたので、それを愛姫ちゃんに着せて一緒に首都まで戻ってきたのである。



 今回の件でわかったことがある。この世界、レイプに対する対抗策が無いということだ。

 だからこそ世界のルールとして、男性から女性への巨額の罰金システムがあるのだろう。

 スシネさんの件で調べたことだが、男性から女性への罰金額として1000万円、5000万円という額が設定されていた。

 しかもこれは職種によって倍率がかかる。王女様を同意無しで襲おうものなら100倍以上の倍率がかかるらしい。

 王女様の処女を奪えば10億円以上の罰金、孕ませようものなら50億円以上の罰金である。これらのペナルティは全て個人カードに記録され絶対に逃げることが出来ない。


 ちなみに逆レイプはどうなるのかというと、逆レイプだということが個人カードに記録されてしまうらしい。

 逆レイプならば男性側に罰金の支払い義務が発生しないので安心設計ということだ。冤罪対策もバッチリだとはなんともすごい話である。


 スシネさんの場合はどうだったんだろうね。彼女の場合は仮に逆レイプの形になったとしても、お手つきになったことによる報酬ボーナスが別枠で設定されていたみたいなので問題無かったのだろう。

 ついでに言えばこの罰金はあくまで娶らない場合限定である。最初から相手の嫁に選ばれる自信があるなら全然気にしないことなのかもしれない。


 話を戻す。殿様との約束も果たしたし、これで愛姫ちゃんを購入する権利を得た。

 さっそく愛姫ちゃんを買うことにするか。殿様が語りだした。


「では使徒殿、早速本題に入ろうか。使徒殿には愛を高額で買ってもらう。例えいくら悪評が立ってるとはいえこれでも一国の姫じゃ。決して安く売ることなど出来ぬ。ワシの自慢のこんなに可愛い娘じゃからな」

「父上…」

「500億じゃ。使徒殿ならばムリではないはず。その資金を持って約束通り魔物の巣を攻略出来るだけの軍を用意しておこう。今更イヤだとは言わぬじゃろう?」


 500億か。この世界に来た当初は一兆円なんていう馬鹿げた金額の大金をどう使えというのかまったくわからなかった。

 最愛の新妻のクロちゃんだって1億だったし。でも今ならば少しはわかるかもしれない。

 この金はきっと世界を動かす為に必要な額なのだ。もしかしなくても全然足りないのかもしれない。

 殿様は500億と言っているが、おそらくはそれでもかなり下げているのかもしれない。

 壊滅しまくりの魔物の巣の攻略ともなれば、とんでもない犠牲を払うことになるはずだろう。


「喜んで、払わさせていただきます」



 殿様の間に、神主さんが来ていた。

 俺の個人カードと、愛姫ちゃんの個人カードの2枚を重ねて持っている。

 祝詞のような呪文を唱えた後、聞き取り可能な文言が流れてくる。


「病める時も、健やかなる時も、死が二人を分かつまで…ハッ!」


 神主さんの魔法が発動する。前回のザンギ氏の魔法を思い出した。大体同じ感じのようだった。

 重ねられた二枚の個人カードが光り、そしてUIに見覚えのある変化が起きた。


 UIのパーティー表示に二つ名前が並んでいる。今はクロちゃんは遠距離なのでパーティーには入っていない。

 一番上の名前は俺の名前でヒロ=アーゼス。その次の名前が愛=アーゼスになっていた。


 愛姫ちゃんはそこそこキレイな着物に着替えてきていた。白無垢ではない。

 深々と礼をしながらこう言った。


「ふつつかものですが、これからはどうぞよろしくお願いします…旦那様」


 こうして俺は、愛姫ちゃんを手に入れたのだった。

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