第三十話「新嘗祭」
900/11/15 9:21
キャラットちゃんの妊娠を確認後、キャラットちゃんと一緒にお風呂に入って体をすっきりさせ、その後はいつものように俺とリースとルナとフェンリル公での四人の朝食を終えた後。
俺とリースは、リースの家に戻って朝のティータイム中。朝のティータイムはお茶だけでオヤツは無し、いつも通りだ。
「ヒロー、お疲れ様。すっごい長期間頑張ったのに女の子だったなんてねぇ、まぁ仕方ないわよ。失敗した時どうなるかわかっただけで満足しておかないとね」
「うんー…」
体は割と満足してたんだけどね。結果が満足いかなかったことは事実だ…あと今日は朝の三発をしなかったのでそこも割と満足してなかったりするが。
と、リースは何故かそこまで察していたのか、顔を赤らめながらこう言ってくる。
「ねぇ、最近はその、朝もしていたんでしょう?いつも御飯に来るの遅れていたものね。今は大丈夫なの?」
「う、よくわかるねリース。ちょっと不満かもしれない」
「やっぱりね。それじゃあ少し後でちゃんとしてあげるわよ。でも今日だけよ?今日からはまた私の家で過ごすのよね?」
「うん、ありがとう。今日からはリースの家で寝るつもり-」
うん、なんというかあれだ。我ながらすごい熱愛ぶりだと思う。それに合わせてくれるリースのことが本当に愛しい。
ルナのことも好きではあるんだけど、子供が生まれでもしない限り確かにどうにもひっくりかえらないだろうね。
と、リースの方から話題を変えてきた。
「まぁでも、そうね。お祭りの前にキャラットの分が済んだのは良かったと思うわ。ちゃんとしっかり感謝を捧げないとダメだからねー」
「む…お祭りか。そういえば最近祝ってないんだよな、次は何だ?」
この世界は、日本の神様が影響しているせいなのかわからないが、日本にもあるような祭りが存在する
とはいっても割とでたらめぽいけどね…ただし、一番重要な物となれば話は別だ。
「二日続けてのお祭りなのよ。一日目は鎮魂祭っていって死者にお祈りを捧げるの。二日目はヒロにはわかるかしら?」
「…予想はついているが、ヒントを貰ってもいいかな?」
「ヒント?そうね、美味しい御飯を食べる日よ。ヒロの世界にもちゃんとあったのかしら?」
そうか。
やはりそうか。
それは、その祭りは、一番重要であるからこそその名称すら奪われて、日にちまで変更されようと画策されていたりもするらしい。重要で有り過ぎるからこそ狙われたものだ、その名称は、
「新嘗祭なのか?」
「正解よ。ヒロの世界にもあったのね。一番大事なお祭りだから、ちゃんと祝わないと怒られるのよ」
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「新嘗祭」、それは十一月の二十三日に行われる豊穣を祝う祭事のことだ。
日本の天皇は元々農業関連の幸運を招く為の祭祀王のような面があるという話を聞いたことがある。
この世界の神様は主神ただ一人のみとなっているし、この世界には天皇など存在していないが、それなのに何故か新嘗祭だけはしっかりと設定されていて一番重要な行事にされているようだ。
新嘗祭は天皇の役割を象徴する最大の物だ。
豊穣を祝う、おいしい御飯を食べる日であることがばれてしまえば、そのことは即天皇が祭祀王であるという正体を明らかにしてしまう。
だから日本人から誇りを奪うために、真っ先に名称を変更されてしまった一番重要な祭りだったのだ。
現在その日は、勤労感謝の日という名称に差し替えられてしまっている。
俺の一番嫌いな名称だ。正式名称ならばまだ許せるが、正式名称ですらない最低最悪の改変名称だ。
勤労感謝の日なんだからゴールデンウィークの五月一日に移動させても良いよね?などというクソ理論に繋げる為の最低最悪な名称だ。
絶対に許さない。俺は絶対にそんな名称は許さないぞ!
とはいっても、そんな現代日本の事情はこの世界の住人達には無関係なことだ。
この世界の住人にはただひとつ、豊穣に感謝しておいしい御飯を皆で仲良く食べようという日になっているらしい。とても素直で、わかりやすく、納得しやすい形だと思う。
むしろ勤労に感謝するという方がよほど不自然で意味不明なものだ。なんで勤労感謝の日に出勤するんだよとかいう愚痴さえ生まれているではないか。本来の意味のままにしておけばそんな事も起こるはずが無かった。
それはさておき、俺はこの世界での新嘗祭を素直に受け入れることにした。ルナは新嘗祭の日の為に、たくさん料理を作って腐らない共有インベントリ内に蓄積中であるらしい。家族全員に、従業員さん全員にまでルナの料理が振る舞われる予定らしい。
どのような料理かと思いきや、そのほとんどがニッポンポン料理らしい。なかなか気が利いた話じゃないか。
ルナが新嘗祭の準備を進める中、穏やかな日々はゆっくりと過ぎていった。
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900/11/23 19:45
新嘗祭のその日はよく晴れていた。既にこのような季節なのでわりと肌寒い。
最近は以前ジゼルちゃんから貰った特製手編みマフラーをよく着用している。
リースもレオタードを着る日はほぼなく、割と暖かそうな格好をしている日が多い。でも下はスカート固定らしい。こだわりがあるんだろうか。
その分足が寒いので、超ロングなもっこもこのオーバーニーソックスを彼女は履いている。うん、寒いのは辛いよね。わかるようん。全体的に暖かそうな服装の彼女も可愛い。
「ふー、ヒロはいいわよねぇ、マフラー暖かそうだし」
「リースも一緒に巻いてみないか?」
「あら、いいの?じゃあ巻かれてみようかしら」
俺とリースでくっついて、二人で同じひとつのマフラーに巻かれてみる。このマフラー凄く長いのである。長い上に全体が厚みがあってすんばらしいのである。どんだけ毛糸使ったんだろうなぁコレ。まぁ大量に仕入れたらから余裕なんだろうけどさ。
「あったかくていいわねぇ…でもこうやってヒロを独り占めしてると他の子に嫉妬されそうでちょっと怖いわよ?」
「んー…妊娠中は割と皆大丈夫なんじゃないかい?」
「そうねー。ルナや他の子も最近はフェンリルさんとばっかり過ごしてるし、大丈夫そうねー」
実はそうなのだ。ルナは最近は俺にはあまり構わず、父であるフェンリル公とばかり遊んでいる。そんなルナに釣られて、ティニーやジゼルちゃんや、更にはアンジェラちゃんや愛姫や、果てはキャラットちゃんまで一緒に遊んでいる。
フェンリル公本当に大人気。
別に嫁を寝取られる心配はないんだけどさー。やっぱりデカくて狼で格好良くて、そして肉球がぷっにぷにだからな。愛姫とか、肉球触りながらはぁはぁと息を荒げてるしな。
なんだ、可愛い物好きとかだったのか?愛姫ちゃん。気持ちはわからなくもないぞ。
つまり、フェンリル公と一緒に遊んでいないのは、俺とリースと、仕事でいつも忙しいフリマさんだけってことだ。
フリマさんの家には相変わらず中東風イケメン達が出入りして黒服のSPさんが御用聞きをしている。
フリマさんが男の子を生んだら、やはり中東風イケメンが生まれるのか?
絶対それ俺より格好良い息子が生まれるんじゃないのか…
妻達の家は、広い円形の広場を囲むように並んでいる。
今その広場にはテーブルが並べられ、ルナが長期間かけて作りストックしておいたニッポンポン料理が饗されている。
今日は従業員さん達も無礼講だ。何人いたっけな。二十五人だったかな。
各家のメイドさん達や残念な筆頭執事のジェームズ氏やいつもの馬車の御者さんや、まぁ皆が一生懸命食べている。
ルナの料理はおいしいからなー。かなりすごい量作り置きしていたから、足りないということは起こらないはずだろう。
あと良く見ると、実はあれフリマさんの部下の人も混じってたりするのか?クソッ、中東風イケメン共め。
俺とリースの二人は既に十分な量を食べたので、遠くから見守っているという状態。木製の優しい座り心地のベンチがいくつも並んでいるので、その一つに二人で座って様子を眺めていた。
皆幸せそうだ。皆でおいしい御飯を一緒に食べればそれで幸せになれると思う。いつもおいしい御飯をたくさん作ってくれるルナは本当に良いお嫁さんだ。
「ルナは本当に凄いわねー。最初は全然料理出来なかったのでしょう?私も最近は少しは練習しているのだけど、全然及ばないわねー」
「ん、そうなのか?俺も食べてもいいのかな?」
「うーん、もっとおいしくなってから食べて欲しいわ。それまでは比較されたくないのよ。作った試作品は軽く味見をしてから、メイドさんに食べて貰っているのよ」
「ふーむ、そうなのかー」
いつかは上達したリースの手料理も食べてみたいな。
俺とリースの前方では、今も皆が仲良く食事を続けていた。フェンリルさんも相当大食いのようだが…ジェームズ氏、なんか老人なはずなのにめちゃくちゃ食べてませんか?いやまぁいいんですけどねー。残念な筆頭執事から残念な大食いの筆頭執事にクラスチェンジしちゃったか。
あとはスシネさんが食事をしながら皆に丁寧に聞き込みを続けていた。俺の物語を書くために話を聞いて回っているみたいだ。不真面目な人かと思いきやすごく真面目だったんだな、意外だわ。
そうして、その晩の幸せな食事の時間は過ぎていった。
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900/11/24 13:15
その日俺は、リースとあと加えてフリマさんと共に、ユーロ首都教会の不動産部に来ていた。フリマさんのSPさん、前に話したあの黒服さんもついてきていた。
何しに来たかというと、土地を広く差し押さえる為だ。
「お久しぶりです、神の使徒様。…まさか今回の使徒様がこのように偉大な方になるだとは予想外でした。大変申し訳御座いませんでした」
そういって俺に謝ったのは、以前俺が屋敷を買い取る際に担当してくれたユーロ国パパリ首都教会不動産部担当のリリーさんであった。不動産部だがその格好はやはりシスターである。
「今回こちらに赴いたのは、俺の屋敷周辺の土地を、可能な限り広範囲安く買う為だ。…出来るのか?」
「はい、今の使徒様の権限ならば可能です。最低価格であの近辺一帯を全て買い上げることが可能になっています。あのあたりは内海貿易への輸出入ルートに使われてはいませんから」
「あぁ、それじゃあ頼む。あとはフリマ王女に細かい所は任せるから、詳しく条件を詰めて貰えないだろうか」
俺はそういって後のことをフリマさんに一任した。俺は俺自身の頭脳を過信などしない。
俺よりも頭の良い人に任せるべきなんだ。フリマ王女は、国政を取れるだけの敏腕王女だ。だからこういったことは彼女に任せた方が良い。
俺はいつの日か奴隷商人ザンギとして訪れたギザン大神官を待っていた時と同じソファーで、リースと一緒に並んで待つことにした。
「ねぇ、ヒロ…貴方の世界では、そういうゲームもあったのかしら?」
「あぁ、あったよ。広い土地を与えられてそれを活用するゲームというのは割と王道だったと思う」
いつも俺の左にいてくれるリースが、今日も俺の左から声をかけてくる。俺の答えを聞いて、彼女は割と感心しているらしい。ため息が出るぐらいに。
「なるほどねぇ。ヒロの世界の人達って、本当に凄かったのね。よくそこまで色々なゲームを考えつくものだわ。それで、ヒロはそういったゲームだけを知っているから、ゲーム内容だけ他の人に教えて代わりにやらせるんでしょ?」
「うん…だってさ、そういったゲームをプレイすることはするんだけど、上手くいかないんだよなぁ」
俺がそういうと、リースがくすくすと笑う。
むぅ…いや、わかるけどもね。
「もう、ヒロってば本当にダメダメなのね。ゲームですらまともにプレイ出来ないの?」
「いや、だって、そんなこと言われても本当に難しいんだってば。でたらめな奴は簡単だけど、奥が深いリアルなものになると本当に太刀打ち出来ないんだよ」
「あはははは、ヒロってば、本当に正直者過ぎるわよ。もうちょっとこう、それぐらい余裕でクリアしてやった!とか言っちゃえば良いのに」
「…それはちょっとなー、ゲームに対して失礼ってものだよ」
「なるほどねぇ…」
リースが俺に寄りかかってきて甘えてくる。こういう時は彼女のキレイな金髪を優しく撫でてやっている。
うん、前方でフリマさんに仕事して貰っているのに後ろでイチャイチャしてるとか許されるのかね。いや許されなくてもイチャイチャするけどね。
大分時間が経過して、ようやく決着がついたらしい。三百億円であの近辺一帯の広い土地がほぼ掌握出来たとのことだった。
国道から遠く離れ価値が無いと見なされる土地が多かった為、非常に広範囲を手中に収められたらしい。
まずは計画の第一歩だな。これからの運営もフリマさんにかなり手伝って貰うかもしれないな。
そして再び穏やかな日々が過ぎていった。
新嘗祭は、本当に重要な祭りです。
あまり作者の個人的な政治的思想を作品に混ぜるのは良くないですが、本当にコレだけは、勤労感謝の日だけは直ちに名称を新嘗祭に戻すべきです。




