第二十四話「この世界の本当の物語はまだ始まってすらいない」
家に帰るまでの馬車の中で俺は少し考えていた。
~この物語のよくわかるこれまでのあらすじ~
かっこが非常に多いですが、かっこを飛ばして読んだ時にも意味が通じるようにしています。
貴方は異世界に転生しました。なんか最初から一兆円持っています。どうしますか?
→そんなことより(可愛い)猫族(の女の子)とにゃんにゃんしたい。(出来ればナイスバディな子を)
→家買いました。(ハーレム前提のおっきな家、一番いいの!にしました)
→猫族の女の子(ただしこの世界において一番危険な)を本当に買ってみました。(しかし実際には結婚扱いになりました)
→本当に(可愛い)猫族(の女の子、見た目十五歳、実際には十九歳)とにゃんにゃんしました。
→そのまま買ったおうちで半月ほどずっと猫族(の女の子)とにゃんにゃんしていたらあっという間に妊娠させてしまいました。(問題はこの生まれてくる赤ちゃんがこの世界で一番危険な存在なのです)
→妊娠させてしまった後はそれ以上にゃんにゃんすることが出来なくなってしまったので、抱ける女を求めて世界をさまよい歩く日々をしばらく続けました。
→この世界に来た時から猫族とエルフに興味があったのですが、結婚予定のある可愛いエルフの姫ちゃんがいるという話を聞きつけて強奪しに行きました。
→金に物を言わせて強奪した可愛いエルフの姫ちゃんをその後またヤり捨てようかなどと考えていたら、逆に心を奪われてしまい、出会ったその日のうちに深く相思相愛の仲になってしまいました。
→相思相愛のラブラブ熱愛カップルとしてエルフの姫ちゃんとそれはもう仲良く、激しく、長期間にゃんにゃんしました。
→無事彼女は男の子を妊娠し(性別を選択する秘術があるのです)、愛する彼女と一緒に世界をぐるっと一周することにしました。
→北大陸東のエルフの国から順に、北大陸中央のハイエルフの国、北大陸西のダークエルフの国と回った後、長期間船に乗って西大陸の前方の海路を船で素通りしました。
→南大陸の西部のウサギ族の国で降りた後は南大陸西部のウサギ族の国から順に犬族の国と猫族の国を訪れました。
→そうやって旅を続けるうちに、最初に出会ってにゃんにゃんした猫族の女の子がこの世界における超重要人物だったことが徐々に明らかになっていきました。
→最初に猫族の女の子とにゃんにゃんしつづけて即孕ませた時点で、全てが既に詰んでいたことを思い知りました。
→今からおうちに帰ります。
うん…大体こんなところで合っているんじゃないかな。
そんなことより猫族とにゃんにゃんしたい。
このような台詞は前世の世界では割と有名だった。
そのような振る舞いを実際にやってみたらどうなってしまうのか?それを俺がまさにこの身を持って証明してしまったのではないだろうか。
愛さえあればそれで良いのか。例え愛があってもその正体は重要であるのか。
それは人によって好みや判断が分かれるところであろう。
俺は愛さえあればそれで良いタイプです。例え騙されていたにしても気にしません。
例え騙されていようが俺はルナを実際に襲ったわけだしルナは俺の最初の子を孕んでくれたからです。
生まれてくる赤ちゃんが本当に楽しみです。
たとえそれでこの世界の主役の座を奪われようとも、主人公の座さえ守れたならばそれで良い。
主人公が世界の主役でない物語だなんて、既にありふれた物だろう?まさか、神に選ばれたという条件付きでやられるとは俺も想定外だったがね。
特に最初に一兆円与えられたりしたら勘違いもするだろうさ。それでも俺は騙されなかったが。
さぁ帰ろうか。ここからが本当の物語の始まりだ。この世界の攻略はまだ始まってすらいない。この世界の攻略を進めるのは、俺とルナの間に生まれる最初の子供になる予定なのだ。
今まではただ事実確認をして世界を回っただけに過ぎないのだ。
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移動時間、交通手段、そしてこの世界について少し整理しよう。
各国の首都と、港までの距離は通常の移動手段で六時間となっている。
内海貿易港から首都までが六時間、外海側漁村から首都までも六時間。
各国の首都間は通常の移動手段で二十時間となっている。宿場街がある場合は四時間区切りで少しずつ分けて進む。
馬車の発着時間は七、九、十一、など二時間区切りであり、夜間は基本運行しない。
宿場街がほぼ存在しない区間である場合のみ、寝台馬車という謎の超巨大馬車を代替手段として用いることで、二十四時間休み無く寝ている間にも進んで貰うことが可能になっている。本来二十時間かかる区間を二十四時間かけて進んでくれるものだった。
巨大過ぎて迷惑行為なので宿場街の存在する区間では使用が禁止されている。俺が実際に一度だけ利用した寝台馬車は十五時発の物だったかな。
おそらくはユーロ国とニッポンポン国間を寝台馬車が走ることもあるかと思われる。俺は利用する必要が無いが。
この世界の他の交通手段としては内海貿易船がある。
短い区間は五日、長い区間は十日かけて逆時計回りに進む交通手段である。
世界を一周する為にかかる期間は、ユーロの国のポルポルからエルフの国のドーバーまで五日、ダークエルフの国まで十日、ドワーフの国まで五日、次のドワーフの国まで十日、ウサギの国まで五日、猫族の国まで十日、トルッコのコッカイまで五日、そしてトルッコのコッカイからユーロのポルポルまで十日である。船に乗るだけで六十日間で世界一周、ここに各港での停泊時間の六時間が加算されるという話になる。
陸路では六+二十+二十+六で合計五十二時間分の区間を十日間かけて進む程度のものだが、貿易船と客船を兼ねる、巨大な船でも人員少なめで運用出来る、利用料金が安く海を越える為には基本的にはこれしかないなどの理由から決してダメな交通手段だとは言えないだろうかと思われる。
内海貿易船とは逆方向に進むには、木のオールで漕ぐガレー船を用いる必要がある。それは逆貿易と呼ばれているらしいが俺は利用したことがない。
内海貿易船の発着時刻は六時、十二時、十八時、零時などの六時間区切りだった。
首都からでは昼十二時の船に接続することがそのままでは非常に難しい為、船に接続する為の快速馬車というものが朝七時に一本だけ出ている。
夜十八時発や零時発の船には普通に接続出来るのでそのようなものは用意されていない。
朝六時発の便は、前日のうちに到着しておけば良いということなのだろう。
船は常に六時間各港に停泊するので、六時発の船は零時には既に港に停泊しているのだ。
夜着いて船に乗って客室でそのまま寝たら、次の日起きたときには既に出航しているということだ。
この世界の形はとても単純だ。
四つに切り分けたバームクーヘンの中央にアンパンを置き、アンパンとバームクーヘンの隙間を船が通るそんな世界。
そして中央のアンパンに当たる中央大陸は魔大陸と呼ばれ、高い崖に囲まれている。アンパンではなく重ねたホットケーキのようなものだろうか。
中央大陸は周囲の四つのバームクーヘンと天の橋によって結ばれておりそこを魔物が出入りする。その橋は現在魔物達だけが通行可能であり、何らかの封印により人間が通行することは出来ない。
世界の中央にある大陸にはまだこの世界の人類は誰も到達していない。
天の橋は高い崖と崖の間を結んでいる為、内海貿易船はその下を通っている。
俺もその日ぐらいちゃんと外に出て天の橋を拝んでおくべきだったか?すっかり忘れていたが。
魔物達は魔物の巣以外で人間に襲いかかることはなく、人間側が勝手に魔物に喧嘩を売っているだけの状態だ。
何故喧嘩を売る必要があるかというと、魔物達を倒せばその分素材が手に入るからだ。この世界の魔物の存在は、悪ではなくただの職場として存在している。
この世界の人々は皆避妊をしない。そしてこの世界の政府とも言える教会は、増える人々の最低限の生活を保障している。
何も考えずに愛し合い子供を作った結果としてこの世界では人口爆発が起こる。
人口爆発により職は常に不足している。
教会はこの世界の人々を支えるだけの食料を、十分な人数を雇用して生産しているらしい。
しかしそれでも職は結局足りていない。
だから少しでも贅沢な生活をしたい人々は例え危険でも魔物に挑むという選択を選ばざるを得ない。
危険であるからこそ高収入なのだから。
この世界に必要なほぼ全ての職種は教会と各国家が抑えており、それぞれ十分な人数を雇用している。
人々が勝手に新規の事業を興すという選択は不可能である。そもそも十分な人数が雇用されているのだからそのことを素直に受け入れるべきだ。
金が欲しい、しかし雇用にはあぶれた、ならば魔物に挑んでこいというそういう話になるのである。
この世界を攻略するということは何を指すのか。
最終目標は判明していないが中間目標だけはわかっている。
各大陸の中央の地域には魔物の巣が点在している。
この魔物の巣の中でのみ全ての魔物が襲いかかってくる。
その規模はそこらのゲームや物語のバランスとは一切違い、各国の王族が全力で軍隊を用いて何日もかけて攻略するという規模の物だ。
それが各国の王に対して神が与えた仕事でもあるらしい。
聞くところによれば、魔物達は一体一体が非常に強力であるうえに一度に三十から百などという数が襲ってくるらしい。
軍隊と呼べる規模の戦力で無ければ一切太刀打ち出来ない存在なのだ。
俺の前世の一般ゲームのような知識で軽い気持ちで挑めば肉一片も残さず魔物に食い尽くされてしまい、蘇生の道は絶たれてしまう。
この世界では肉のついた死体の一部さえ神が作った銀色に光る国道という道にまで持ち帰れば、その死体を捧げることにより復活可能だ。
魔物が強すぎて死が避けられないからこその救済措置とも言えるだろう。
そんな強大過ぎる魔物の巣を攻略することにより、大陸中央部を縦に走る神の道=国道が中央大陸側に伸びる。一度に一気に伸びるのではなく、多くの魔物の巣を攻略する必要がある。
しかしそれを続けることにより猫族の女王は大いなる厄災が降りかかると言っていたが、それは何を指しているのか。
ただ、面子の問題であるらしい。人々が大事にする面子とは何を指すのだ?
俺にはわからないことなのかもしれないと、猫族の女王は言っていた。
とにかく、この世界はそんな世界なのだ。
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さて、それでは俺の家に帰るまではどれぐらいの時間がかかるのか。
俺の家はユーロの首都パパリとニッポンポンの首都京都を結ぶ国道の間の区間にある。ニッポンポンの首都の名前を今まで知らなかったが、なんと京都だったらしい。
東大陸にあるとはいえ、東京とはならないあたり神様は色々憎いことを考えているようだな。首都圏の人が聞いたら怒るかもしれんぞ?どうなのよそのあたり。
ユーロの首都パパリから俺の家までは通常二時間の距離で、なのでニッポンポン首都京都からは通常十八時間かかる。
トルッコの内海貿易港コッカイから首都までが六時間、トルッコ首都からニッポンポン首都京都までが二十時間、そして京都から俺の家までが十八時間、よって俺の家までは通常合計四十四時間がかかるわけだな。
そしてトルッコのコッカイでは昼十二時頃に迎えの馬車に乗った。
俺がこの東大陸で用いる馬車は、様々なタイプがあるが高速タイプというものがある。本来十八時間かかるはずの距離を十二時間で駆け抜けることが出来る代物だ。1.5倍の速度だからかかる時間が三分の二になるわけだ。
船に乗る為に本来六時間の距離を四時間半で駆け抜ける快速馬車というものもあったが、その性能を計算すれば速度が1.33倍程度だということがわかるだろう。
つまりこの俺個人、あるいは一族所有の馬車はこの世界ではかなり高速だということだ。相当金がかかってるんだろうね、きっと。
よって所要時間は29.3時間となる。
迎えが来て馬車に乗った時点で、900/10/8 12:20あたりだった。会話とか諸々で多少時間は経過するものだからね。よって俺が家に到着する時刻は。
900/10/9 17:38
俺達四人、ヒロ=アーゼス、リース=アーゼス、ティターニア=アーゼス、キャラット=アーゼスの四名は長い旅を終え俺の家に到着することとなる。
ちなみに表記はUIの並び順。なんと、俺が一発ヤって処女を奪ったキャラットちゃんよりもティニーの方が愛情値が上だったのだ。
本当に酷い話である。このままではヤり捨てになってしまうので、ちゃんとある程度落ち着いたらキャラットちゃんのこともしっかりと愛さないと到底許されることでは無いだろう。
内海貿易船の中でも背中から毎晩しつこくウサギさんパンチしてくるのを完全無視してリースと毎晩抱き合って寝ていたしな。
俺がこの家を旅立ったのは、七夕を過ぎた七月九日の朝だった。
前日のうちに別れを済ませて早朝出発したのだが、実はその際元クロちゃん、現ルナだけが見送ってくれた。ちなみに他の奴らにはわざと見送りをさせないようにシャットアウトしたらしい。他の妻達含めてシャットアウトって思い返せば恐ろしい話だよな。
別れを惜しむようにじっと見つめ合ってから出立したのだが、まぁなんだろうね。たぶん最後別れる前にちゅーちゅーおいしく魂吸われていたのかもしれんね。ルナはそのあたり結構貪欲みたいだからな。
つまりきっかり三ヶ月で世界を一周してきたことになる。
ドワーフの国は直接訪れず海路で前を横切っただけにはなったが、まぁなんというか、内海貿易船がその間だけ特殊な素質を持った人向けのシュールな売春、買春船に変化するというのは本当にビックリしたよ。
そうやってゆっくりと過ごす為の時間を取る為にもそういう日程で船は回っているのかもしれないな。ところでドワーフの娼婦さんがもしも妊娠した場合はどういうことになるのだろうか。そこらへんはよくわかっていない。この世界の人間が避妊しているとは到底思えない。
それはさておき、一応到着する前に情報収集はしておいたんだ。その結果、ちょっと変わった対応をすることになった。
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屋敷に到着するより前の時点で、既に覚悟を決めていた。
屋敷のどこで馬車が止まるのかと思いきや、予想通りルナと俺の家の前に止まったのだ。
そしてやはりというかなんというか、出迎えはお腹が膨らんでいるルナ一人だけだったのである。
やや遠めに、家のすぐそばで俺を一人待っている。
もはやこの家に関連する人々の実権はルナに完全掌握されていると考えて間違いないだろう。
ティニーもそのあたり本当に容赦なく逆らえない逆らいにくいということを事前に教えてくれていた。
俺がまずルナに最初に会い、俺がルナの気を引いている間に他三人は逆から脱出しティニーの家に避難するという計画になっている。そうしないとリースの立場が危なくなる可能性があった。
俺は一人馬車から出てルナに近づいていく。ルナは俺に一言もまだかけてこない。俺の出方を窺っているということだ。男女の駆け引きはなんというか、勝負みたいなところがあるのだろうか。
俺はルナに近づいて、身長百五十センチ程度の彼女の体を優しく抱きしめた。
お腹が大きくなっているのがよくわかった。
よし、このままいける。俺ならいけるはずだ。
恐ろしいが、恐ろしい相手だが、だからといって俺のもう一人の最愛の妻、正妻であることだけは間違いないんだ。
「ただいま、ルナ」
「おかえりなさい、アナタ」
うん。
確かに俺は帰ってきた。
俺は帰ってきたぞー!!!
ルナが抱きしめられた状態で、俺の手に彼女の左手を回そうとアピールしている。
これはアレだ、愛情値チェックをさせろとアピールしているのだ。
ルナと俺は両手を繋ぎ合わせる。そして、運命の愛情値チェックが始まる。
ルナはその間目を閉じて待機している。愛情値チェックにはかなり時間がかかるのだろう。
彼女は瞳を閉じたまま、彼女の呪われた吸魂の瞳であるその黒い瞳を閉じたまま、俺に向かって告げてくる。
「愛情値、960…ヒロは本当にすごいですね。別れる前の数値をキープするどころか、少しだけ数値が上がっています。私のことを深く愛してくれていることがよくわかりました。でも、それだけじゃダメなんです。一位じゃなければダメなんですよ」
そう告げてくる彼女の言葉は、とても優しい響きではあるがある種の死刑宣告でもある。
そう。
そうなのだ。
彼女にとって、俺にとっての彼女が一位で無くてはならないその理由があるのだ。その理由を俺は既に知っている。極めて俗物的な、わかりやすい理由だったのだ。
ルナがゆっくりと瞳を開けて…俺のことを見上げてくる。
俺に逃げることは許されない。彼女をじっと見つめ返し、彼女の視線を正面から受け止める。
ルナは…ルナは俺に対して必死に笑顔を作ろうと一生懸命頑張っていたが…笑顔が引きつっているということがもう丸わかりで、やがて突然むすっとした顔になって俺に告げてきた。
「うーすーいー。味がうーすーいーのー!やっぱりリースさんのことは絶対に許しません!絶対にです!!!」
うん、そうなのである。
リースが俺からの愛情一位なせいで、魂を吸い取る倍率が悪くなったことにルナは腹を立ててしまった。魂の味ってそれはもう物凄くおいしいんだろうね。ずっと楽しみに待っていたらしいからね、ガッカリするのもそりゃ仕方ないってことか。
吸魂の瞳で魂を吸い取る効率は、一位と二位じゃ三倍違うらしいよ。
そっかー、薄かったかー、ごめんなー、ルナ。
でも魂吸っていたことを開き直ったうえで文句まで言うとは本当にルナはすごいなー。
なでなでしちゃうぞー。
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その後はルナと俺の二人の家に連れ込まれ、以前から約束していた通りにホットミルクを飲むことになった。買い溜めしたアルベロン王マークの牛乳は、今もまだ在庫があるらしい。
ルナはぷんすか怒っていた様子だったが、俺と一緒に対面で向かい合ってホットミルクを飲んだことで怒りは吹き飛んだようだ。
そういえばルナと食事する時はいつも対面だった気がするな。理由は明白で吸魂の瞳で魂をちゅーちゅー頂くためだったのだ。俺の左が好きなリースとは対照的だな、うん。
「はふー…やっぱりほっとみるくはさいこうですねー。ふにゃあ…」
俺から魂を吸い取ることもすっかり忘れて、ルナは瞳を閉じてホットミルクをゆっくり味わっている。うん、ぎゅうにゅうおいしいです、はフェイクじゃなくて本当のことだったんだな。
さてこれからどうしたものかと考えていたらルナの方から俺に話し掛けてきた。
「あなたー、わたしをやさしくだきあげてー、ベッドまではこんでくださいー。ふたりでおはなししましょうー?あかちゃんがいるからそっと、そっとですよー」
うん、どうにもそういうことになっているらしいね。ちなみにここに来てから結構な時間が経過しているんだけども、誰も一人も挨拶にすらこないんだね。これはもう、物凄く、事前に絶対に来るなと言い聞かせたってことなんだろうね。
俺がいない間に実権をどれだけ掌握しきってしまったんだ。愛姫が青くなってガタガタブルブル震えている様を思い出してしまったじゃないか。愛姫だけじゃなく皆が震え上がるぐらいのことを言ったんじゃないのか?
残念な筆頭執事のジェームズ氏も、ルナ相手にはきっと震え上がっているだろうな、うん。
まぁいいや。俺はテーブルをぐるっと回ってルナの横に回り込み、彼女の体を抱え上げる。彼女のおなかは大分大きくなっている。出産まではまだ二ヶ月程度あるはずだが。
寝室に入る。
さてどっち側に置こうかなと考えていたが、ルナもくっつく時はやはり左側だったことを思い出す。うん、リースも左側に相当こだわっていた。じゃあ左側になるように置かないときっと怒られるだろう。
なので俺はルナの体をベッドの右側において、ルナが俺の左側になるように彼女と顔の高さを合わせて寝転んだ。
俺はルナと手を繋ぐ。彼女はゆっくりと深呼吸している。
寝ているというわけではないだろうが、ホットミルクは本当に大好物だったということだ。
メロメロになるぐらい素晴らしいものなんだろう、確かに俺もあれはおいしいと思うよ。名称もアレだしな。
ルナはこちらを見ずに、彼女のその呪われた吸魂の瞳を閉じたまま語りかけてくる。
「ねぇ、アナタ…私は、本当に不安でした。私はヒロのことを最初からずっと騙していたんです。そのことを伝えられなくてごめんね。でも心の底から謝る気にはなれません。…私は、私の存在は、お父さんとお母さんの貴い犠牲の上に成り立っているから。だから私はなんとしてでもバレずにやり遂げる必要がありました」
「うん…」
俺がルナを選んだ大きな理由でもあるその豊満に成長した体は、母の魂を吸い取ることでルナが得たものだった。わざと吸い取ったのではなく自然と発動してしまうことによるものである。吸魂の瞳はその使用者自身が最も愛する存在にのみ常に作用するのだ。
そのことから察するに、ルナが母の魂を吸い尽くした後は、次の標的は父であるフェンリル元王子、ホテルのフロントで出会った彼になったに違いない。そうすると、ルナは自分の母親を吸い殺したその日から、愛する父からも離れる必要が出来てしまったであろうことは容易に推測出来る。
よって…俺がルナを購入したあの日の夜、ルナに手を引かれてルナの父であるあの狼さんフロントで待つあのホテルに連れて行かれた際、それはきっとルナと父にとっての感動の再会だったのではなかろうか。
いくらでも魂が吸い放題な俺というターゲットを手に入れるまで、ルナはあの狼さん、フェンリル元王子と再会不可能だったであろうことは予測可能なのだ。
そのあたりのことを俺は前世の様々な物語の知識から予測可能だった。ならば俺は全てを受け入れて、彼女を許すべきだろう。
「うん…いいよ、それで。謝らなくて良い。ルナはするべきことをしただけなんだ。何も後悔しなくていいんだよ」
「はい…アナタならきっと、全てを理解したうえでそう言ってくれると、私は信じていました」
そういえばルナは、どこか俺のことを知っている、あるいは理解しているような素振りがあった。
そう、以前ルナからの手紙にはこんな一文が含まれていたんだ。
『私の新しい名前、本当にありがとうございます。私にとって最高の誕生日プレゼントになりました。私は昨日二十歳になりました。今のヒロと同い年さんですね。本当の所はまだ私にはわかりませんけれど。』
中秋の名月の際、ルナにルナという名前を贈りその返事が返ってきた時のことだ。何故ルナが手紙にわざわざその言葉をそのタイミングで混ぜたのか。つまりそのことは、俺がそのことを気にしていることを彼女は気づいていたのだ。
俺は、前世では軽く三十を超えてしまっていた。
だから見た目の幼いルナに対して、今は見た目の幼さとは違い二十歳だということを知っているが、前世での歳のことを気にして彼女に対して素直に歩み寄れない、そこにきっと気づいていたのだ。
だから俺はそのことを彼女に話さないと。
「ルナ、俺からも伝えることがあるんだ」
「…はい、アナタ」
「俺は…俺は前世では、既に齢三十を超えていたんだ。だから俺は君を、若い君の体にこの借り物の若い体から沸き上がる俺の欲望を叩きつけて即座に妊娠させてしまったことを…悔いていたんだよ」
俺がこの世界に来た際、神より与えられた、システムメッセージのスメスさんがオススメ設定で自動キャラメイキングしておいたなどと言っていたこの体は、前世の俺の肉体とは比較にならないほどにとても素晴らしいものだった。
リースも以前言っていたんだ…
『もう、そんなに泣いていたらせっかくの顔が台無しよ。せっかく神様からそのそこそこかっこいい体を貰ったのだから、もう少し大事にするべきよ。後でお風呂でも借りてキレイにしておきなさい』
神より与えられたこの体は、その肉体の容姿の素晴らしさだけではなく、性欲も精力もそれはもう凄まじいものだった。それなのに何故か一切自分で処理することが出来ない何らかのストッパーがかかっていたのだ。
だから俺は肉体より湧き上がるその欲望の全てを、ルナに長期間毎日一日中叩きつけた。ルナは俺のその行為に一日中全力で応えてくれた。恥ずかしいことながら、それはあまりにも気持ち良すぎたのだ。
そうしてルナは俺の子を孕み、それなのに俺の行為を一切咎めず、最高の笑顔で喜んでくれたんだ…
そんな俺を、ルナは再び許してくれた。
「いいんです。私は最初から全て知っていました。お父さんから聞いていたのです。神の使徒は魂は老いているのにその肉体は若く逞しいアンバランスな存在なのだと。それがゆえに心を開けず、なのに肉体を開いてしまう傾向があるものなのだと。…それでも私は、嬉しかったんですよ。本当に嬉しかったんです。ヒロが私のことを求めてくれて、私がお母さんから貰ったこの体を激しく求めてくれることが、何よりも嬉しかったんです」
そう、全てはそういうことだったのだ。
俺はそれからは、これでもなるべく俺自身を制御してきた方だったんだ。
何故、ルナを売ってくれたあの筋肉ムキムキのマッスル大神官ギザンが賢者になれる薬を開発したのか?…それは、ルナを孕ませたその後の俺の、神の使徒の心が、制御も効かず暴れ回ってしまう性欲を抑えなければ、気が狂って死んでしまうその危険性を見越したうえで開発した、非常に重要な薬だったんだ。
あの薬が無ければ俺は気が狂って自殺してしまっていたのかもしれない。
「ヒロ、貴方はこれからも、なるべく我慢しなくていいんですよ。どうしても我慢しなくてはいけない時には、ギザン大神官様の作られたあのお薬を使ってください。私が子供を生んでまた出来るようになったら、私をまた以前のように激しく愛してください。何故なら貴方は、そうすることを神に許されているからです。何も気に病む必要など無いんですよ」
そうして俺は許された。
許されてしまった。
俺のすることはこれからも、愛する妻達に許され続けるのだろうか。
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そうしてしばらくはルナの家で過ごした。
夜はギザン大神官の賢者になれる薬を飲んでおいた。
リースの家は、予定通り正面の建物に対して左に一個目の家に住むことになったらしい。
正面の建物に対して右一軒目がルナ、左一軒目がリースになる。
ルナの隣の空いていた家にはウサギ族のキャラットちゃんが住むことになった。
正面にある大きな建物、あの存在する理由も何かしらあるはずだ。
それは果たしてどのような理由を今後持つのだろうか。
この世界の本当の物語はまだ、始まってすらいない。




