第二十二話「割と手抜きで残念な手紙と、パパ」
猫族の国アメショーの首都キャッツアイにある王城で、俺達が猫族の女王より聞いた、ルナに隠された秘密、それは黒猫の女性が皆持っているという吸魔の瞳の別バージョン、吸魂の瞳というものだった。
誰からでもMPを吸い取る吸魔の瞳とは違い、吸魂の瞳は最も愛する、愛し合う相手からのみ効率良くその魂を吸い取れるらしい。そのあたりのことを女王は後から補足として説明してくれた。
瞳の使用者にとっての最愛の者にのみ作用する一方で、相手からの愛情の値が低かったり相手からの愛情の順位が低くなるほど、魂を吸い取る効率は一気に悪くなっていくらしい。
思えばルナは、常に俺の愛情値を高く保とうとすると同時に常に第一位の座を守り通そうとしていた。つまりそれは、常に俺から最大効率で魂を吸い取る為に行っていたことだったのだ。
また、彼女のあの凄まじいプロポーションは愛する母の命と引き替えに得たものだったのだったわけで。きっとそれは故意にではなく、幼いルナが母に抱かれてただ生きている内に、ルナの意志とは関係無く母の命を吸い取ってしまったことによる結果だったのだろう。
だから彼女にとってその体を使い俺からの寵愛を得ることは、母の犠牲を無駄にしないという意味ではある意味敵討ちだったのかもしれない。
吸魂の瞳によって得た魂の力は、今足りていないものを補うように作用するらしいとの話だった。ルナが母の犠牲でその体を得たこともその一つ。
思えばルナは最初はとても料理が下手だったが、それがどんどん急成長していった。おそらくアレは俺から吸い取った魂の力が、料理の腕の上達にも回されたということでは無いのか?
それにまた彼女が随分とパーフェクトだったのは、俺と別れるまでに十分過ぎるほどの魂を先に吸い取っておいたからあれだけパーフェクトだったんじゃないのか?。あまり疑ってもキリが無いが。
女王曰く、一気に吸い取ったとしてもその魂を実際の力に変換するまでには結構時間がかかるらしい。あとは…
「そういえば、吸魔の瞳の力を発動させていたお店の女の子が随分と喜んでいる様子だったのですが、MPとか魂を吸い取るとそれっておいしいんですか?」
「私は吸魔の瞳を持っていないのでわからないが、聞くところによれば吸魔の瞳ですらそれはとても恍惚とした幸せな気分になれるものらしい。黒猫の娘達は恋人同士くっつくことで相手のMPを回復させつつ、間近で視線を絡ませ続けてMPを吸い取ることを楽しむものも多いそうだ。そして魂はMPとは比べものにならないほど濃厚なものなのであるとか」
なるほどね。つまりルナは、毎日食事の時には俺に家まで来いと言っていたが、普通に食事を食べるのと同時に俺の魂もおいしくちゅーちゅーいただいてたってことだな。
やりおるわい。リースが以前「彼女、驚くほどにしたたかなのかもしれないわ。」などと言っていた気がするがその通りなんじゃないかな。
それに加えて前の手紙等読むと、バレてしまいそうなことはわざと自分から先に開き直ってこちらの批判を寄せ付けないとかそういう部分まであるし。
うん。
なんというか俺はね。
「そういうところも含めて可愛いからもう許しちゃってもいいんじゃないかな」
「ヒロって、本当にバカなのね」
「リースも可愛いよ」
「何言ってるのよ。当然でしょう?」
とまぁそういう結論に達したのだった。
---
さて、そんなルナが今妊娠している俺にとってもルナにとっても最初の子供は、俺の家族というか神の使徒の一族を束ねるリーダー的存在になる素質を持って生まれてくるらしい。
必ず金の瞳を持って生まれてくるという保証があるわけではなく、十分な魂を吸い取ってその子供に与えておく必要があるのだそうだ。
ちなみに何故か女の子じゃないとダメらしいです。
また、リーダーが何人もいたら一人あたりの力が少なくなってしまうので一人に絞っておく必要があるのだとか。あと理由はよくわからないけれど、何人もいたら俺の頭がおかしくなって死んでしまうらしい。
何故俺が関係するんだろう?なんか父である神の使徒と魂を分け合うとか言ってたけどそこが関係するのかな?
さて、その子が誕生してしまうと俺はなんというか主役の座を奪われてしまいそうで色々と怖いわけだが、何故獣族の王達は全力で妨害しようとしたのだ?別に妨害する必要も無いと思うのだが?
だってそうだろう?強力なリーダーが生まれる、皆を率いてどんどんこの世界を攻略していく、何も間違っていないように思えるのだが?
と、そこのところを猫族の女王につっこんでみたら、このような説明だった。
「ヒロ殿を含めた神の使徒の一族がこの世界を攻略する、その結果最後にどうなるのかそこはまだわからない。だがしかしその課程において、おそらくはとんでもない厄災がふりかかるということだけは既に予想がついているのだよ」
「えーっと、なんでしょう?そんなのあるんですか?」
「そうだ。しかしその、その理由はヒロ殿にとってはとても些細なことに思えてしまうかも知れぬ。だが我々には多くの人々の生活がかかっているのだ。この世界を攻略する過程において、どうしようもなく辛い時期が訪れることだけは既に明らかなのだ」
何故この世界を攻略するとそんな災厄が起こるのだろうか?
おそらくはまず前段階として、各地の魔物の巣を攻略し、大陸中央部に走る銀色に光る、国道という名前の神の道を伸ばすことになるはずだが、そのことにより何が起こるのだ?
「うーん?…詳しくは教えては貰えないのですか?」
「すまないが、こればかりは言えぬことだ。我らにも面子というものがある。ただ、多くの人の面子を丸潰しにしてしまうことが途中の期間ほぼ確実に起こってしまうということだけは憶えておいてくれ」
「ふーむ?」
はて?一体何が起こるのだろうか?今までに何かヒントがあったっけ?あったかもしれないな。
大体のことはわかった。しかし俺はもうひとつ、これをやっておかなくてはいけない。
「女王様、私から一つお願いがあります」
「なんだ?」
「私とルナの子供の誕生を、どうか祝福しては貰えませんか?」
ルナからこの間届いた手紙に、そのあたりのことが書いてあったのだ。
どうかこの猫族の女王や犬族の王にも、ルナにとっての伯母さんや伯父さんにも、生まれてくる子供をどうか祝福して欲しいと、そう書いてあったのだ。
俺のこの言葉を聞いて、女王は少し迷っている様子だった。既に手遅れなのだから、祝ってくれるぐらい良いんじゃないかと思うのだが。
女王は難しい顔をしながらこちらに問い返してくる。
「その話は、バーナード王には既にしたのか?」
「いえ、残念ながらバーナード王は吸魂の瞳のことを教えるわけにはいかないということですぐに立ち去ってしまった為、伝えることは出来ませんでした」
「そうか、それでは私の方からあちらに伝えておこう…前向きに考えておく」
うん、あの狼の王様は、最後に捨て台詞で俺がリースに説教される原因を置いてそのまま去ってしまったのである。あの時カンカンに怒るリースはもうなんとも言えなかった。
でもそんなカンカンに怒ってるリースもちょっと可愛かっただなんて言えない。まさに激おこぷんぷん丸状態だったし。
しかしこの女王様、前向きに考えるというのはどうにもちゃんと祝福してくれるつもりらしいな。ふぅ、これでなんとか、約束はしていないがルナの願いを叶えてやれただろうか。
ちなみに話は変わりますが。
「さてヒロ殿。話は変わるが、そなたはこの猫族の国の姫、私の娘達との結婚を望むのか?」
「いえ、遠慮しておきます」
「…宜しい。もしも二つ返事でお願いしますなどと言い出すような奴には私の可愛い姪を任せてなどおけぬからな。では早く国に帰るが良い。私の可愛い姪が待っているのだろう?」
うん、どうにもそこらへん既に許してるらしいね。大事なことだから二回言ったのもそういうことだろう。
バーナード王曰く、ルナの両親はルナが生まれたその日のうちに一家揃って夜逃げして忽然と姿を消したらしいとか言っていたが、それはたぶん、ルナの持つ吸魂の瞳の力で両親の魂が吸い殺されてしまうことが目に見えていたから、ルナを両親から引き離して管理しようだとかそういう流れになることを恐れて、自分の子を自分の手で育てる為に別の国に逃げたとかそういうところなんじゃないのかな?たぶん。
結果としてルナのお母さんは実際にルナに魂を吸い殺されてしまったのだと思われるが、そこらへんは女王自ら調査したとかなのかね?よーわからんがきっとそういうことだろう。
お母さんを吸って得たそのワガママボディは今俺の役に立ってるんだからもうそれでいいんじゃないかな?たぶん。
前世で知っている物語の知識からそこらへんのことだったんだろうと俺は予想しておいた。
さて、用は済んだのだからさっさと家に帰るとしますか。
---
900/10/2 18:00前後~22:11 あたり
猫族の王城を出た時点で、既に十八時前後になっていた。で、そのせいで色々と困ったことになったのである。リースと相談して移動手段の接続について確認していたのだが。
「えーっと、確かこの首都から内海貿易港まで六時間かかるんだよね?」
「ええ、そうね」
「で、船の出航時間って確か六時、十二時、十八時、零時だよね」
「ええ、そうね」
「…十七時までの連絡馬車に乗らないと、零時発の船には間に合わないよね?」
「ええ、そうね、間に合わないわね」
「ガーン!」
「わざわざ口に出していうの?それ。でもなかなか面白いじゃないの」
うん、最速直帰はムリだということが判明しました。なんだろう、微妙に船の接続とか悪くね?この世界。 などと考えていたらリースが助け船を出してくれました。
「そうね、それじゃあ船接続用の快速馬車に乗りましょう」
「快速馬車?なにそれ」
うん、そういう設定とか作っちゃっても大丈夫?と不安になってしまう。どうなの?そのあたり
「朝七時発で、高額な代わりに本来六時間かかるところを四時間半で貿易港まで到着してくれるから、三十分の間にささっと手続きを済ませてしまえば十二時発の明日の船に乗れるわよ」
「おおー、すごいね」
「だってそうじゃないと不便でしょう?でも本当にすごく高いわよ?いいの?」
「うん、いいよいいよー」
「それじゃあ、明日はいつもより早起きしないといけないわね。キャラットを抱くのは今夜は無しよ」
「お、おう」
なるほど、そういうことになるのか。まぁ俺は全然構わないんだけど。早く帰りたいし。
それにしてもなんだろう、リースは昨夜俺とキャラットちゃんが楽しそうにヤッてるのを見てちょっとは嫉妬してくれたってことなのか。
レオタード着たままプレイなこととかも思うところがあったのだろうか。
早寝早起きじゃないとダメなことはわかっているがリースと二人で一緒にお風呂でイチャイチャしておいた。
今夜も彼女はまた胸でしてくれた。実はこれまでも誰かを抱かない日は全て毎晩彼女に胸でして貰っていた。そうしなければ賢者になれる薬を飲まざるを得ないのだが、リースのおかげでこれまでずっと飲まずに済んだ。
全体的に細い体なのに胸は随分とボリュームがあってとても素晴らしいことだと思う。
寝る時はリースとキャラットちゃんの両方に挟まれる形だったが、リースと対面で抱き合う状態で寝た。
---
900/10/3 12:11
なんとか朝早めに起きることが出来たので七時発の快速馬車に乗ることが出来ました。
リースと一緒に対面で抱き合って二人ともグッスリ眠っていたところ、ちょうど良い時間に目を覚ましたキャラットちゃんが背中からウサギさんパンチをケモノな手でバシバシとPK判定にひっかからない強さで何度もしてくれたおかげですんなり起きられました。
キャラットちゃんのケモノな手がもふもふでやわらかかったです。
というわけで、今俺達三人は、東大陸の南部の国、トルッコにある貿易港へ向かう内海貿易船の上にいる次第。
となれば、なんというかまた、船で出る食事がおいしくないという理由でルナにご飯をお願いする流れになるわけか。
既にお腹減ってきてるしな。朝食はなんか快速馬車内でおにぎり売ってたからそれ1コだけ食べておいたぐらい。
ルナにいますぐ頼めばすぐにお昼ご飯を用意してくれるのではないだろうか。
などと考えていたらリースがこう言ってくる。
「そうね。たまにはヒロから手紙書いてご飯を頼んでみたら?でもなるべく早くね。私もおなかペコペコだし」
「お、おう」
「私はー、お野菜がいいなー」
キャラットちゃんがなんかメニューまで指定してる。うむむ、手短にか、手短に。
仕方ない。
『ルナへ
すみませんが急いでお昼ご飯をお願いしてもいいでしょうか。すみません。
三人分です。一人はお野菜が良いとか言っています。
今はトルッコ行きの船に乗っています。追って詳しいことを知らせるので今はこれぐらいで。
おなかぺこぺこなヒロより ごめんね ルナあて』
うん、色々と酷い気がするがすぐには良い文が思いつかない。いやほんとごめん。
その後二十五分ぐらいして、共有インベントリ内にルナからのご飯が届いていました。ルナは本当にすごいや。ちゃんとお野菜まで入ってたよ。
三人で客室内で一緒にルナからの料理をおいしく頂いておいた。キャラットちゃんはおいしそうに野菜をモグモグしてた。
ご飯を食べ終わったタイミングで、リースが共有インベントリから手紙を取り出した。ルナから何か返信が来たようである。
「ヒロー、お返事来てるわよー。今日は椿の封蝋は無しね」
「うんー、読もうか」
早速読むことにした。ルナもあまり時間が無いだろうから文章を細かく推敲とかはたぶんしてないんじゃなかろうか。最近使ってた封蝋も無しなあたり、軽い手紙なことは間違いない。
『アナタへ。さすがに今回の手紙は突然過ぎて私もビックリしてしまいました。本当にどうしようもない人ですね。私みたいな良い奥さんに恵まれたことに少しは感謝してくれても良いんですよ?
ゆっくりしてきても良いと言ったのに、本当にすぐに帰ってきてくれるのですね。お昼の船に乗ったということは快速馬車も利用したということになるのではないですか?そんなに私に早く会いたがってくれていることは素直に喜んでおきます。
到着時刻を計算して、トルッコの港に迎えを出しておきますね。アナタもその方が良いでしょう?私に任せておいてください。
普段サボリ気味な執事のジェームズさんや御者さんの尻を叩いておきます。
それとももしも他の人が良いならその人を迎えに出しますよ。妊娠中の人はダメだと思うのでティニーちゃんぐらいしかいないかもしれませんが。
私もヒロに会うのが待ち遠しいです。
えっと、その、恥ずかしいのですが、帰ってきたらまた魂をちゅーちゅーさせてもらっても良いですか?最近ずっとご無沙汰なので割と待ちきれません。ごめんね。
それじゃあ、早く帰ってきてね。リースさんは絶対に許しません。
ルナより』
ふむ。
なるほど。
「毎度この開き直りっぷりはスゴイというか、手紙を急いで書いた分本性が出てるような気がしなくもない」
「ええそうね。ビックリだわ」
「リースは絶対に許さないらしい」
「私だってヒロのことを譲る気は無いからお互い様よ」
「そっかー」
そっかー(´・ω・`)
と手紙を読ませて貰えなかったキャラットちゃんが声をかけてくる。うん、二人で読むのがギリギリだからね。ごめんね。
「あのー、パパ?その手紙の人が今のお野菜をくれたのでしょうか?」
「ん?うん、そうだよー」
「お野菜とてもおいしかったです。その人本当にすごいですね!」
「そうかそうか、それは良かった」
というか俺の名前がずっとパパ固定なんだがそろそろ直しておいた方が良いんだろうか。確かそう、猫族の国に行く前の会話で、お土産屋で何か買っても良いかという質問に対してのセリフで、
『もちろんだともー、パパキャラットちゃんの好きな物なんでも買ってあげちゃうぞー』
『わーい、パパ大好き-』
この会話だけで俺の呼び方がパパにされてしまった気がするんだが?
この世界は本当に色々おかしい気がするんだがどうしたものかな。
まぁいっか。別にもうパパと呼ばれたところで不都合ないんじゃないかな、ほっとこう。
トルッコまで五日かかるんだっけ?帰るのが待ち遠しいなー。お迎えに誰指定しようかなー、んー、ティニーにお願いしてみようか。別に残念な執事のジェームズ氏はどうでもいいや。
うん、ティニーにお願いすることにしよう。
内海貿易船はそんな俺達を乗せながらゆっくりと海の上を進んでいくのだった。




