第十八話「ウサギの国ロップイヤー」
900/9/26 7:34
アンジェラちゃんを無事孕ませ、その後システムメッセージのスメスさん相手に俺の願望達成を自慢して、何やら不思議な会話があった後。
その後起きたリースとアンジェラちゃんと一緒に、内海貿易船の客室内において、俺達は今日もルナが作ってくれた愛情たっぷりのおいしい朝食を食べていた。アンジェラちゃんが随分としょんぼりしている。
「うー、お姉さん、遂にヒロくんに孕まされちゃったのねー。ショックだわー。汚されちゃったわよ~」
「あんたそれ、汚されたって意味なら初日の時点でそうでしょうが」
「違うのよぅ~。ダークエルフの結婚は本当に孕まされるまでは負けじゃないのよー、リースちゃーん」
「はいはい」
俺の対面で二人がなんとも不思議な会話をしている。なんとも理解に苦しむ話だ。
普通は最初に犯された時点で負けだろう。本当にこの世界は意味がわからない。
一体何がどうなってどういう思想で、俺をこの世界に送ったあの神はこんなキチガイ世界をデザインしたのだ?
「まぁそうねー。ヒロくんおめでと~。これでもうお姉さんは完全にヒロくんのものよ。呼び方とか変えた方が良い?ご主人様~、とかどうかしら?」
「うん、そういうのも悪くないね」
「あらそう?それじゃあ、ご主人様~、これからもアタシと仲良くしてくださいね~」
む?半分冗談で返してみたら普通に受け入れられてしまった。
どうにもこの世界では俺の冗談が全部通じない気が前からしているんだよ。からかおうが、冗談だろうが、全てマジレスされている気がする。
マジレスっていうのはアレだ。本気で受け止められてそれに対して詳しく解説されてしまうことだ。
しかしそうだな、マジレスか。
最初にマジレスされたのはいつだったかな?
確かそうだ、最初に俺の家を買う際に、一番いいのを頼む、だなんてキリッ!と決めてみたら有り得ないマジレスされてビックリしたんだよ。
俺がいつ王城を丸ごと買い取りたいだなんて言ったんだ?あれは本当に逆にこっちが引いたわ。
どうにもこの世界では冗談やからかいの類はあまり通用しないらしい。ほぼ全マジレスの世界なのだろうか。うーむ、冗談ばかり言うような人間には割と堅苦しくて生きていけないのではないか?コレ。
まぁどうでもいいか。気にしすぎたらハゲるかもしれん。
気にしないようにしとく。
「それでリース、これからはどういう流れになるんだっけ?」
「え?この間確か話したわよね?もう忘れたの?」
「んっと、ウザギの国から犬の国、猫の国を通って東大陸に戻るとか全体像はわかってる。ウサギの国での詳しい流れを教えて欲しいかな」
「あらそうだったの。割と単純よ。ウサギの国の王城へ行って女王様に挨拶をしてから、女王様から話を聞いて、その後お姫様を頂いてから次の国へ向かうわよ」
「ふーん」
ふむ。ウサギの国の王様は女王様なのか。どんな人なんだろうか。
あと、なんで俺はその人の話を聞くことになっているのだろう。
前回のダークエルフの国では王様の話なんてまったく聞かなかったし、王様の名前すら聞いていないのだが?
なんで今度は具体的に話を聞くことになっているのだ?
そこが気になったので、俺はそこのところを少しつっこんでみる。
「ねぇ、リース。何故ウサギの国の女王様から、わざわざ話を聞かないといけないの?」
うん、酷い話ではあるとは思うが、何故話を聞く必要があるのかどうか、そこは問題ではないのか?するとリースは俺に対してこう切り返してくる。
「そうね。それじゃあヒロ。貴方の世界にはウサギ族と同じ名前をもつ、うさぎとかいう野生動物がいたのよね?」
「うん、いたね」
「それじゃあ、そのうさぎという動物に対する貴方の知識やイメージがどうなっているのか、そこを少し考えてみて、私に教えてみて?」
「ふむ?」
何故そういう話になるのだろうか?しかしとりあえず答えてみるかな?そこに何か答えがあるのかもしれん。思いつく限り並べてみるか?。
「まず、耳が長い」
「うん」
「次に、毛に包まれていてもっふもふ」
「うんうん」
「あとは、後ろ足ジャンプとか得意で跳ねて移動する」
「そうね、他には?」
他には?か。つまりまだ答えは出てないってことだな。
「えーっと、割とハンティングされてお肉を食べたりする」
「ウサギ族を本当に食べたりしちゃダメよ?性的な意味でならいいけど」
「性的な意味でならいいのか」
「当然でしょ?何言ってるのよ」
うん、今のやりとりで逆に俺がビックリだよ。
まぁ肉を食べたらなんだっけ、カニバリズムだっけ。
アレになっちゃうからダメなことはわかるけどさ、そこマジレスしてくるのかよ、本当にビックリだよ。
「ねぇ、他にはないの?」
「うーん、そうだなぁ、すっごい数が増えるって聞いたことがあるかな」
「ふんふん?」
「そうだね、子作りで爆発的に増えるから淫乱毛玉とか揶揄されることもあったりするかも?」
「そう!そこよ!それなのよ!」
え?何?いきなりなんでそこに食いついてくるの?
淫乱毛玉?淫乱なところが問題なのか子沢山なのが問題なのかどっちだ?
「ウサギ族の女王様はね、とってもとっても子沢山なのよ。そりゃあもう有り得ないぐらいなのよ」
リースはそう言って語ってくる。一体どういうことだ?
いやとりあえず淫乱の方ではなく子沢山の方であることは確認した。子沢山ってどれぐらいかな?
「ヒロは何人ぐらいだと思う?」
「えーっと…七人ぐらい?」
うん、かなり多いという話だから俺はかなり多い数を言ってみた。
俺の前世では、子供は三人いたら多いとされるぐらいの状況になっていたはず。だから多いといってもその二倍強の七人だと最初考えたのだ。
しかし俺の認識は甘かった。
「全然足りないわね。その程度じゃ問題にしないわよ」
リースが本当にそう思っているという目でそう返してきた。マジかよ。どういうことだ?コレは。
「それじゃあ、十三人」
「まだ足りない」
「じゃあ、三十人」
「まだね」
えええっ!?ありえんだろ!?三十人って冗談で言ったつもりだったんだが!?
どういうことなんだ?この世界は一体どうなってしまっているのだ?
俺があまりにも驚愕している様子を見て、リースが少し諭すような顔でこう続けてきた。
「この世界の女性が一生のうちに生める子供の数は最大五十人だと言われているわ。そして今から訪れるウサギの国の女王は、現在その五十人目を妊娠中だという話よ」
それを聞いた時、俺はこの世界のあまりの異常さに目の前が真っ暗になりそうだった。
なんとか持ちこたえたが、頭の正常な人なら頭がおかしくなって死ぬかもしれんね。
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900/9/28 6:23
内海貿易船は予定通り6時頃にウサギ族の国ロップイヤーの港に到着していた。なんとも酷い話だとは思うが、孕ませたばかりのアンジェラちゃんとはここで別れることになっている。
「リースちゃーん、ご主人様~まーたーねー」
「またね、アンジェラ。あんたはゆっくりとそのまま船に乗ってユーロの国のポルポルで降りるといいわ」
「またね-、アンジェラちゃん」
船はどこでも六時間停泊して荷物の積み卸し作業をするので、別れを惜しむのならば十二時ギリギリまで待つことも可能ではある。
しかしリースいわく、ムダに時間を浪費する必要もないし首都までは連絡馬車で六時間かかるのだから、待たずに出発してしまおうということになっていた。
ちなみにそう、アンジェラちゃんから俺に対しての呼び方はあの日以来ずっとご主人様になってしまった。とはいっても心は絶対に篭もってないかと思われる。別れの際にもリースより後に呼ばれていたしな、うん。
いやしかしこの世界、本当に冗談が通じないんじゃないのか?割と怖くなってきたんだが?
「ヒロ、貴方連絡馬車は割と利用したことがあるのかしら?」
「ん?うん。この世界に来た初日から、漁村の担当シスターのスシネさんとかいう人に連れられて首都まで六時間乗ってたかな」
「スシネ?まぁいいわ。この港からウサギの国の首都までも六時間かかるのよ。七時の連絡馬車に乗るわよ」
「りょーかーい」
というわけで俺はまた連絡馬車に乗ることになった。この世界に来た時と同様、やはりカード払いは不可能だったので俺は懐から一万金札とかいう金色のカードを二枚取り出して支払いを済ませた。
お土産屋とかも全部カード決済だったので、久しぶりに現金を使ったかもしれないな。
さて、目的地に一直線に向かうものの、周囲の人々の姿は自然と俺の目に入るわけで。
ルナのような猫族は猫耳としっぽがついているだけで手足は普通だった。いわゆるケモ度としてはほぼ最低ランクであろう。この世界に来た当初にそのあたりのことを考えた記憶があるような、ないような。
さて、俺は初めてウサギ族の姿を見た。その姿を表現するならば…
「ウサギ族って、手足がケモだったんだな」
「ええそうね、手足がケモノね」
結局そんな感じでした。
男女比率が10:90という話を以前TIPSで見かけた気がするのだが、町中で見かけるウサギ族は全て女性だった。全体的にレオタード的なものを着ていてお尻がほぼ丸出しな子ばかりだった。
そういうのが好きな人々にとってはココは楽園かもしれない。俺は特にそれほどでもないしな。
俺とリースがいつものようにラブラブイチャイチャにくっついていると、その姿を割と周囲からガン見されてた。うん、確かにこの間リースが言っていた通りってことなのかもしれんね。
首都へと向かう連絡馬車の中で、リースは改めて本当に可愛いなー、と思いながらなでなでしておいた。
彼女は少し恥ずかしそうにしながらも俺にそのまま撫でられていた。やわらかな彼女の金髪の感触が割と気持ち良かった。
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900/9/28 13:11以降
連絡馬車が首都に到着し、リースと一緒にレストランで食事をすることになったのだが、表紙にMENUと書かれたそれの内容は非常におかしかった。
「ねぇリース。このメニュー、なんかサラダとパンしか載ってないんだけど、卵すらないよ」
「ええ、そうね」
「肉は?魚は?卵は?この際肉なら別に牛じゃなくても豚でも羊でもなんでもいいんだけど」
「無いわよ、そんなの。ウサギ族は野菜ばかり食べるから」
なんということでしょう。ガーンだな、出鼻をくじかれてしまった。
まるでウサギになってしまったかのように野菜ばかりもっしゃもっしゃ食べた後は、リースと一緒に土産屋にいった。王城にはそこまで急がなくても良いらしい。土産屋に入って特に俺の目を引いたのは、白くて丸い小さめの毛玉だった。
なんというか、バニーガールとかのお尻についてるアレを思い出す。というか、街中で見かけるウサギ族のおしり丸出しのレオタード姿についている、ウサギのしっぽそのものにしか見えないんだが?
「ねぇリース。これ、なに?」
「それ?見れば分かるとおり、ウサギのしっぽよ」
うん…いや俺が聞きたかったのはそうじゃないんだ。
「えっと、なんというか、物凄く本物っぽく見えるんだけど」
「そうね。だってそれ本物だもの」
「…マジでか?」
「マジよ。他の人からはちぎれないけど、自ら本人がちぎりとってもまた一年ほどで元通りになるまで生えてくるらしいわよ。腐ったりしないらしいし幸運のお守りとして有名よ。お土産としても人気商品らしいわ。ちなみに全部女性のものよ」
なるほど、つまりここに並んでいるたくさんのウサギのしっぽは、実際にウサギ族の女性達が自らのしっぽをちぎりとったものらしい。本当にとんでもない世界だな。
まぁでも幸運のお守りということなので、七つほど買ってみて共有インベントリにつっこんどいた。七というのも一応験担ぎであるが、買いすぎただろうか。
値段は一個一万円もした。自分のしっぽを自らちぎりとる代償の製品の価格が一万円ってことだな、うん。
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900/9/28 15:07
俺とリースの二人はウサギの国ロップイヤー首都にある王城を訪れていた。入り口に立っていたウサギ族の女性の兵士さんに身分証明として俺の個人カードを提示する。前から思っていたが俺とリースの両方を提示する必要は無いらしい。
ここに至るまでの道のりにおいて、ウサギ族の男性を見かけることは一度も無かった。男女比10:90らしいから一人ぐらいは見かけてもおかしくないはずなのに一切見かけない。
つまりそれは、ウサギ族の男性はどこか人の目に付かないハーレムに囲われているということではないのだろうか。
俺達二人は女王の間へと通される。
女王はなんというか、割と上品そうなウサギさんだった。耳は白くて長くまっすぐと伸びており、髪は綺麗なピンク色をしている。
白くゆったりとしたローブを着ており、玉座も随分とゆったりしている。
なるべくくつろぐような姿勢で玉座に座る女王のお腹は、白くゆったりとしたローブの上からでも一目でわかるぐらい大きく膨らんでいた。完全に妊婦さんである。これだけ大きければ生まれる日も既に近いのだろう。
ローブから出ている女王の手足はやはりケモノだった。肌はキレイな白色をしている。ケモノな部分の毛の色も白色で、肉球はキレイなピンク色だ。肉球ぷっにぷにー。
というように女王の姿を観察していたら向こうから話し掛けてきた。うん、ガン見してごめんね女王様。
「最近噂になっている神の使徒、ヒロ=アーゼス殿だな。そなたの北大陸における振る舞いは既にこちらの耳にも入ってきておる。東のエルフの国アルフヘイムの王女とそれはもう獣族ですら羨むほどの熱愛ぶりで、常に尻に敷かれておるとな。まさかこの城にまで連れてくるまでとは考えてもおらなんだが」
そんな感じで開幕から女王様に言われてしまった。耳に入るってその長くて白くてステキなウサ耳のことですよね。髪も綺麗なピンク色だし。
子沢山という話もあるから、なんというか、淫乱ピンクという単語が思い浮かんでしまった。女王様の顔はすっごくお上品な感じなんだけどね。
女王の顔は五十人目の子供を宿しているという話なのにとても若々しく見える。人族の女性にしてみれば高く見積もってもせいぜい三十前後なのではないだろうか。俺はそのあたりのことをリースから事前に連絡馬車での移動中に説明を受けていた。
ウサギ族の女性は、高齢までも若々しくありつづけそして同時に高齢でも子供を生むことが可能であるらしい。
妊娠期間が短いなどということは一切無く、そして双子や三つ子が生まれるということも一切無く、全て一人ずつ今までに四十九人の子供を生んできたらしい。
本当にとんでもない話であり、女王の歳は既に六十を超えているそうだ。
つまり俺の元いた世界の常識から言えば完全にこの女王は化け物そのものである。女王だけが特別なのではない、全てのウサギ族の女性がそのような肉体を持っているらしいのだ。本当に、本当にとんでもない世界である。
というかね。仮に十五歳から子供を生み続けたとしよう。この女王は十五歳の頃から六十歳を超えるに至るまで、四十五年以上ずっと子供を生み続け、妊娠し続けたということになってしまう。元いた世界では本当に考えられない話だ。
淫乱ピンクというか、異常ピンクというか、化け物ピンクというか。ともかくもう表現のしようがない。
俺がずっとそうやって色々考えてしまって言葉に窮していると、女王は再び話し掛けてくる。さすがに今度は反応せざるを得ない。
「そなた、違うのか?」
「え?あ、はい」
「尻に敷かれておるのだろう?」
「ええ、それはまぁ、確かに、これ以上なく尻に敷かれておりますが」
なんだろうね。こんな返答でも良いのだろうか。俺は女王の言葉の響きとその視線から、おそらくそのことを責められているわけではないと判断したのだ。だってこの国の王も女王なのだろう?つまり夫を尻に敷いているんじゃないか?
「そうか。妾も夫を尻に敷いておるでな。そうやって円満な関係を続けることでこのように、今は五十人目の子を宿しているというわけだ」
「はい」
「そなたがリース姫に対して愛の奇跡を用いたという話も既に聞き及んでおる。男子を選んだというところまでな。間違いないな?」
「はい、確かに間違いありません」
俺が色々受け答えする一方で、リースはいつもと同じように俺の左側にぴったりとくっついている。そしてもちろん俺は彼女の腰に左手を回している。女王の前でそんなイチャイチャして良いのか?とは事前に打ち合わせをした。
しかし前から言われていたように、そうやってスキンシップが取れていることを示すのが最大の敬意の表明であるらしい。獣族の大陸は本当に変わっているようである。スキンシップが取れないものは軽く見られてしまうのだ。
今の彼女は一切喋っていないが、話し掛けられるのは俺だけになるから彼女が口を挟むべきでは無いらしい。どういうことだろうか。
そのあたりを疑問に感じていると女王が再び俺に語りかけてくる。
「そなたは、生まれてくる子供の性別を操作する禁呪、愛の奇跡についてどの程度の知識を今持ち合わせているのだ?」
ふむ?どうやら今回の話の目的はこのあたりのことであるらしい。知る限りの知識を答えておくべきなのだろうか。
「ステータスの愛のパラメータが高い男女が、互いにどちらの性別の子供を望むのか合意したうえで、普段の倍以上の気力を振り絞って行為に望むことにより、その望んだ性別の子供が生まれる可能性を高めることが出来る、というところまでの知識を得ています」
そうだな。うん、そうだったはずだ。愛の奇跡の秘術の存在については、アルフヘイム国王の牛乳マークにもなっているアルベロン王や、その娘であるリースも知っていたし、ハイエルフの国の王、アルサル王も知っていたことである。
それになによりも最初、俺に愛の奇跡を用いて貰うためにフリマさんが訪ねてきたではないか。禁呪というわりには随分とそのあたり有名で緩いんだな、などと俺は考えていた。禁呪だぞ禁呪?随分と緩いよねそこらへん。
しかしそこが油断だった。俺はあまりにも甘く考え過ぎていた。ウサギ族の美しい女王はふぅ…とすごいため息をついてからこう続けてきた。
「禁呪、愛の奇跡はそなたが思っているようには、一般にはその情報が広まっていないものなのだよ」
…なんだって?
「禁呪、愛の奇跡はその存在を知っていたとしても、その正しい知識を完全に持ち合わせておらねば絶対に成功しない秘術なのだ。貴様は誰からその知識を得た?正直に答えるが良い」
女王の視線は明らかな怒気を含んでいた。
しかし…だってそれは、
クロちゃんが…ルナが…まるでなんでもないことのように俺に教えてくれた知識だったではないか。
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俺は女王の問いに答えることを拒否した。これはなにかとてもマズイことであると本能的に察知したのだ。もしバラしてしまえばルナの身に危険が及ぶのではないのか?そうとっさに判断した。
「残念ながら女王陛下、私はその問いに答えるわけにはいきません」
「何故だ?何故答えられぬのだ?」
「どうしても、です」
俺はきっぱりと断言した。俺の瞳はちゃんと女王に対して意志の光を伝えられているだろうか。
そのまま三分ほど、一言の会話も無く女王との睨み合いは続いた。いつまで続くのか、あまりにも長い時間に俺は感じていた。
遂に女王が根負けしたのか、視線を緩めて随分と疲れたような表情になった。見た目は若々しい女王の表情は、まるで年相応の老婆のような顔をしていた。
女王が力なく俺に語りかけてくる。
「そうか…言えぬのならば仕方ない。我々ももう抵抗することを諦め来るべき災厄に備えるしかないということなのだな…獣族にのみ伝わる禁呪であるはずの愛の奇跡を、この世界に来たばかりであるはずの神の使徒が用いたという話が我らの元に飛び込んできた時、我らはただ怯えるしかなかったのだ」
そう語る女王の声からは、深い諦め、絶望を示す響きを感じる。何故女王はそれほどまでに絶望しているのだろうか。
禁呪、愛の奇跡そのものにはそこまでの価値があるだなどとは思えない。子供の性別を操作することが世界の危機に繋がるとでもいうのか?
俺がそのあたりのことを疑問に考えていると、女王は少し間を置いて、続けて説明してくれた。
「愛の奇跡そのものが問題なのではない。その知識を何故、新たな神の使徒がこの短期間で知り成功させ得たのか、そこが問題なのだ。考えられる可能性は我々にとってひとつしかなく、つまりそのことが我々にとってもっとも重要なことなのだ」
やはり愛の奇跡そのものが問題ではないらしい、つまり。
つまり女王はこう言っているのだ。
ルナの存在が、ルナが今俺の元にいることこそが、最大の問題なのだと。
「そなたが答えられないということはすなわち、その情報をそなたにもたらした者が、そなたにとってとても大切な存在であることを示している。それがつまり即座に、既に全てが手遅れであるということを示しているのだ」
女王は既に諦めの表情をしている。つまり既に全てを理解し、諦めているということだ。何故だ?何故なのだ?
あと女王は、先ほどからずっと妾という女王自身を指す言葉ではなく、我々という表現をしている。つまりそれは、おそらくは、女王のみならず獣族全体を指しているのではないのか?
随分と気落ちしていた女王だったが、ようやく意志の力を取り戻したのか再び若々しさを取り戻した顔で俺に告げてくる。
「既に手遅れであることがわかった以上、我々は今よりその対策を直ちに始めねばならぬ。そなたにはその為にも妾の三十三人目の子供、キャラットを与えよう。金はいらぬ。これは全て我らの為に成すことだ。持って行くが良い」
女王はなんと自分の娘を俺にタダで持っていけなどというつもりらしい。それほどまでに事態が切迫しているということなのか。一体ルナの存在にはどのような秘密が隠されているというのだろうか。
女王はそう言い放つと部下の女兵士達を呼びつけた後、身重の体を引きずりながら女王の間を去っていった。俺は気づいていなかったが、どうやら最初から人払いをされていたらしかった。
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他のウサギ族の女性兵士から、ここでしばらく待つように言われている。キャラット王女だかが連れて来られるということだろう。それにしてもうん、実は結構聞き覚えがある名前なんだよな、俺の前世では。
などと考えていたら、連れてこられたキャラット王女らしきその人物は、本当に俺の知っているそのキャラクターにかなり似ていた。
ピンク色の髪は肩に届くか届かないかぐらいの長さになっている。白くて可愛い耳は幅が太く、まっすぐとは伸びておらず途中でやわらかなラインを描き曲がっている。
胸は俺の知っているキャラとは違ってやや大きめのようであるが、俺の好みというほどには大きくは育っていないようだ。
俺の知っているそのキャラとは違い、随分と気弱そうな表情をしており微妙にプルプルと震えている。顔は幼く、瞳はやや薄い青色をしている。うん、可愛いっちゃ可愛い。ルナやリースほどではないが。
服は記憶の中のそのキャラとは違い、上は大分露出度が低くボディラインも出にくい可愛らしい衣装を着ている。
その一方で下の方はかなり丈の短いスカートを履いており、スカートの後ろ部分は割れておりピンク色のレオタードを着ておりおしりが丸出しになっている。レオタードのには穴が空いておりそこから白いウサギのしっぽが出ている。
手足は他のウサギ族の女性と同様に、ケモノである。
毛は白く、肉球は大きくキレイなピンク色。
しかし足は裸足というわけでなく、随分と巨大なブーツをしっかりと履いている。
獣族だからといってなんだかんだで裸足はイヤだってことだな。
そんな彼女が俺に話し掛けてきた。
「あ、あのっ、わたし、お母様に突然言われて、全然心の準備とか出来てなくって」
そういっておどおどとした様子で話す彼女の顔は今にも泣き出しそうである。と、そのタイミングでずっと俺にくっついていたリースが無言で俺の体から離れた。それがヒントになった。
つまり、獣族はスキンシップを大事にするのだからそうしろってことだな。
俺はキャラットちゃんを優しく抱きしめて、頭をなでてやった。最初はびっくりしたのか体が震えていたが、すぐに安心したらしくすぐに息づかいが整っていた。どうやら本当に獣族は、そのあたりスキンシップだけですぐにわかりあえてしまうらしい。
まぁそれでも一声ぐらいはかけておかなくては。
「なんだか突然のことで済まないけれど、よろしくね、キャラットちゃん」
「はい!…ええっと、確か、ヒロ、さん、ですよね?」
「うん、あってる、あってる」
そうやって彼女を落ち着かせたタイミングで、今までどこで待機していたのやら、周囲からウサギ族の女性兵士さんと女性の神官さんが集まってきた。女性でも、シスターみたいな服装じゃなくて神官の服装してる人いるんですね。
神官の服装をしているウサギ族の女性により、俺とキャラットちゃんの結婚魔法が進められた。今回は彼女を購入したわけではない。それなのに、女王は購入した場合にのみ通常用いられる高位の結婚魔法の使用を命じていたらしい。そこまでするほどのことが現在起こっているというのだろうか。
結婚魔法は無事発動し、パーティーメンバーリストの俺とリースの名前の下に、キャラット=アーゼスというキャラットちゃんの名前が追加された。
そうしてる間、リースはずっと何も言わなかったが、結婚魔法の発動後は再び俺の左側にくっついてきた。
キャラットちゃんはそれに対してどうするのかと思いきや、俺の右側にくっついてきた。うーむ、突然両手に花の状態になってしまったが…
リースの方を見る。リースは俺に対してアイコンタクトをしてくる。その表情は非常に真剣であり、この見た目に対しての浮ついた気持ちなどはすぐに吹き飛んだ。
俺達はそのままウサギ族の王城を後にした。
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900/9/28 20:11
王城を出る頃には既に結構な時間が経過していた。次の目的地、犬族の国を目指すことはやめ、俺とリースとキャラットちゃんの三人で昼間同様に野菜とパンしかメニューのないレストランで食事を取った。キャラットちゃんはそれはとても幸せそうな顔で野菜をたくさん食べていた。
なるほど、確かにウサギ族はそれで幸せらしいな。俺にはさっぱりわからんが、納得いかないが、肉どこだよ!!!
そうやって食事を取った後、高めの宿で大きめの部屋を取った。なんだろうね、すごく大きなベッドが一つだけある寝室とかあるらしいです。
そこを借りて、少し落ち着くことにする。キャラットちゃんはデカイベッドが嬉しいのか、その上でゴロゴロと転がってる。とても楽しそうだ。
他愛のない会話程度ならばリースもそれまでにはしていたのだが、重要な話はようやくここに落ち着いてから話し始めた。
「はぁ…本当にビックリしたわ。一体何が起こっているのか全然わからなくて混乱しちゃったわよ。ねぇヒロ、どういうことなの?何故女王はあれほどまでに怒ったの?ウサギ族の女王は温厚なことでとても有名なのよ?」
リースがずっと黙っていたのは、リースには全然理由がわからなかったからなのか。彼女にもわからないことがあったんだな。
俺はリースに対して、俺がルナから話を聞いて愛の奇跡の知識を得たことを話した。まるで何でもないことのように説明された、と。
またルナは確かに、愛の奇跡は獣族のみの秘術だと言っていた。
「なるほどね。薄々そうなんじゃないかとは私も思っていたわ。私は、ヒロが愛の奇跡の秘術をトルッコの姫相手に成功させたという噂だけを聞いていて、その事実を確かめる意味も含めて貴方に愛の奇跡をお願いしたのよ。男の子が欲しかったのは本当のことだけどね。まさかその情報の出所がルナで、そのことがそんなに重要な問題だったなんてね」
そういうことだったのか。嘘ではないが事実確認の意味もあったのか。
真剣な表情で話をしている俺達二人の横ではキャラットちゃんが今もベッドの上でゴロゴロ転がっている。
「ルナは、なんでそこまで重要人物なんだ?ただ犬族の王子と猫族の姫の間の子供だというだけじゃないのか?」
「今はわからないわ。わからないわよ。まだ情報が足りていないの。明日はすぐに犬族の国へ向かうわ。現在の国王に、ルナの父親と思われる元王子様が今どうしているのか、どこに行ってしまったのか、それを聞き出すのよ」
「…そうなるのか。わかった」
なるほどね、兄貴に直接聞けば良いってことになるのか。
「それにそうね。ルナがまるでなんでもないことのように説明したのは、つまりおそらくはフェイクよ。重大過ぎる情報であるからこそ、わざとそうしてみせたってことね。彼女、驚くほどにしたたかなのかもしれないわ。それでもヒロは、彼女のことを信じるのでしょう?」
「あぁ、そうだ。俺はルナの愛を信じるよ」
そうだ、随分と長い期間離れてしまっているが、信じるともさ。彼女から送られてくる食事からはいつも常に変わらぬ愛を感じるのだから。
リースは色々と考えている。キャラットちゃんはゴロゴロ転がっている。
「ねぇヒロ。貴方はその、愛の奇跡はクエストで受けたのよね?」
「え?あぁ、そうなんだけど」
「つまり…つまりそれは神様も含めて全てグルってことよ。神様は貴方が愛の奇跡の知識を得られる状況にあることをわかっていたんだわ。そしてそれを、愛の奇跡の情報を貴方に教えるということは、その時点でそれを貴方に教えたところで問題が起こらないということだわ。つまりその時点で既に勝負は着いているのよ。どういうことなの?一体何故、何がそんなに重要なの?」
リースは少し震えているようだった。一方キャラットちゃんは横で今もゴロゴロ転がっていた。
わからない。
わからないが、ウサギ族の女王のあの様子は異常過ぎた。それぐらい俺にだってわかる。
彼女は俺の目をじっと見て、こう聞いてくる。
「ねぇヒロ。本当に私に全てを話してる?貴方が私に嘘をつくはずがない、それぐらいは私もわかっているわ。貴方が見落としてしまっていることがきっとあるはずなのよ。あまりにも普通のことで、貴方が疑問にも感じていなかったこと。きっとそこに問題があるんだわ」
「ごめん…俺にはちょっとわからない」
リースに伝えなければならない、見落としている情報は何なのだろうか?
と、そこで、キャラットちゃんが転がるのをやめた。
「あのー、ヒロさん?それで今日はどうするんでしょうか?」
その質問は、なんだろうね。つまりアレを致すかどうかって話?
「んー?…あれ、そういえば、今日はキャラットちゃんを襲っても良いんだっけ?」
「ダメよ」
「えっ?」
何故ダメなのだろうか。
「獣族の乙女はね。基本的に最低三日程度、その相手と十分にスキンシップを取ってから初めてそういうことをするものなのよ。ベタベタくっつくのは良いけど、ちゃんと三日間は我慢しなさい」
「そっかー」
そんな決まりとかあったんだね。ルナとは会った初日の夜にはにゃんにゃんしてたのにね。
まぁなんというか、俺はその、猫族とにゃんにゃんしたかったんだよね、こういう異世界に来た時からさ。その結果あっという間にルナを妊娠させてしまったが。
エルフともにゃんにゃんしたかったけど…それも既にたっぷりとして、既に最愛の人に俺の子を孕ませているからね。
「そうよ、常識でしょ?まぁそんなわけだから今日はキャラットと抱き合ったまま寝なさい。手は出しちゃダメだからね」
そんなわけでその日は寝ることになった。キャラットちゃんのピンク色の綺麗な髪はふわふわでやわらかかった。
ルナの綺麗な黒髪もふわふわでやわらかいんだよね。懐かしいな、早く帰りたいな。
そうしてその日の夜は更けていった。




