第十六話「中秋の名月」
900/9/7 19:21
今俺達は船室内で三人で食事を食べている。前に利用した時にも感じたことだが、この内海貿易船の客用船室はどうもちょっとおかしかった。食事を取れるようなゆったりとしたスペースが用意されている一方で、ベッドは全室ダブルベッドらしい。何か理由でもあるのだろうか。
あとはそうだな。なんかよく意味のわからない札みたいなものもあるね。「ウェルカム」だとか「ビジー」だとか、そこらへんの単語がアルファベットで書かれている。よくわからないのが「ツインテール希望」だとか「お団子希望」だとかの札である。一体何なんだろうなアレ。
まぁ今はその話ではない。
リースがクロちゃんに向けて手紙を送ったところ、なんとその日のうちから晩御飯が送られてきた。クロちゃんそのあたり本当に神がかっているな。料理もとてもおいしいし三人分しっかり用意されていた。
「えーなにこれ!リースちゃんこれすっごくおいしいんだけど!」
「それはね、ヒロの一人目の奥さんのクロちゃんが作った料理らしいわよ」
「クロちゃん?随分と珍しい名前ねー。そんな名前つけてる女の子は私の女の子データベースにも一人もいなかったわー」
「そうね。猫族の女の子だって話よ。どんな子なのかしらねー」
俺の前でリースとアンジェラちゃんの二人がクロちゃんの料理を食べている。アンジェラちゃんは話を聞いたところ二十一歳らしい。
身長百七十センチ二十一歳のダークエルフのアンジェラちゃんが、身長百六十センチ十八歳のエルフのリースに甘えているのはなかなかシュールな光景である。
それにしてもクロちゃんってそんなに珍しい名前なのか?黒髪黒耳の黒猫でクロちゃん。いっぱいいそうなものだが。
まぁそんなことどうでもいいか。俺もクロちゃんから届いた料理を食べる。今回もとてもおいしい。最初の頃はとんでもなく不器用だったように見えたのだが、才能でもあったのだろうか。それとも努力の人なのか。
900/9/7 23:20
予定通りというかなんというか、アンジェラちゃんともいたすことにする。
アンジェラちゃんは男が苦手なのでどうするのかと思いきや、リースの提案によりリースがベッドに寝て、その上にアンジェラちゃんが覆い被さり、そのアンジェラちゃんの後ろから俺が責めることになった。いわゆるアレなのかどうかはなかなか微妙なところである。
リースは服を着ているし、既に妊娠中だから実際にするわけもない。アンジェラちゃんを二人で楽しませる構図でコトは進んだ。ちなみにアンジェラちゃんもバッチリ処女でした。
コトが終わってからアンジェラちゃんがリースにこんなことを言っていた。
「えへへー、これでアタシもリースちゃんと○姉妹~」
「何言ってんのよアンタ。あまり調子に乗ると殴るわよ」
「えへへー、むしろ殴られたいかもー」
「むぅ~」
ちなみにこの世界ではPK不可なので、痛く殴るようなことをすると肉体に対してはノーダメージになるらしい。実質バリア耐久力を示すHPは多少は減るらしいけどね。
俺は兄弟は募集していないからな。絶対にイヤだ。
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900/9/9 20:11
今日は菊の節句である。リースは妊娠中なので酒は飲めないが、クロちゃんに事前に頼んで菊酒を二人分用意して貰うことにした。
そうすると、愛姫ちゃんの…いや、愛姫ちゃんと呼ぶことはもうやめようか、彼女はとても立派な戦士だし…愛姫の実家のニッポンポン産であるらしい菊酒が用意されることになった。やはり日本酒系はニッポンポンが本場であるらしい。
「おいしいわねー、これ。やっぱり本場のものは違うわー。ヒロくんありがとう~」
「いやー、俺が頑張ったわけじゃなく、愛姫のおかげだからさ」
「すごいわねーヒロくん。本当に良いお嫁さんがいっぱいねー、羨ましいわ~」
アンジェラちゃんは俺に対して既にかなり打ち解けてくれたようだ。普通にこちらの目を見て話してくれている。まぁさすがにあれだけ肌で触れ合えば少しぐらいは仲良くなってくれたか。
菊酒というのはあまり慣れないものだったが、確かにおいしかった。愛姫には感謝しておかないとな。
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900/9/12 18:23
現在船は西大陸のドワーフの国の港に停泊中だ。内海貿易の船は貿易船と客船を常に兼ねているらしい。定期運行されているのでこの港で六時間停泊後、零時には次の港へと向けて出港する予定である
アンジェラちゃんには逃げる気は無いようだが、一応念のためにということで例の白くて太いやわらかロープで縛っておくことになった。普通の縛り方でも良かったのだがアンジェラちゃん本人の希望で、なるべくいやらしく縛っておいた。やわらかロープを買った時に同時に購入した縛り方の本にそこらへんのものも一応載っていたのでなんとかなった。
リースは今はアンジェラちゃんのそばにいる。
俺は甲板に出てきて港の方の様子を眺めている。暗くてややわかりにくいが、確かにドワーフの国の人々は人族の子供のような容姿であった…いやむしろ、俺は某ゲームに出てくる例の種族のようにしか見えないんだがな?そこらへん正確に記述すると消されてしまうのでマジ勘弁である。
さて気になったことだが、何故か停泊した直後からそのドワーフ族の女性達が船にあがってくるのである。一体何しに来たのだろうか。そのほとんどは船内へと向かっていく。
そういえば甲板に出てくる前に他の客室を見たら、例の「ウェルカム」だとか「ツインテール希望」だとか「お団子希望」とかの例の札が扉の結構下あたりにセットされていたね。今のドワーフ族の女性達から見えやすい位置だと思われるが。
甲板でそんな様子を観察していると、俺に対して一人のドワーフ族の女性が話し掛けてきた。見た目完全に幼女であるが、これがドワーフ族の成人女性なはずである。
「お客様、ご利用になられますか?」
はて?一体何のことだろうか。
「ん?いや、俺は…」
「そうですか?それでは、お試しになられますか?」
そういって笑顔で俺に聞いてくる女の子。成人女性であるとわかってはいるが見た目は完全に幼女だ。可愛いっちゃ可愛いが俺にはムリである。俺が答えに困っているとその子は随分とガッカリとした様子でこんなことを言う。
「お客様には素質が無いということですわね。それでは失礼します」
そういって彼女は船室の方へと向かっていった。随分と謎である。また声をかけられても困るので船室に戻ることにした。各客室にかけられている札は先ほどまでとは異なり「ビジー」のアルファベットが書かれた札にばかり変わっていた。
とりあえず部屋に戻ってコレがなんなのかリースに聞いてみることにしよう。
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「ヒロが見たのはドワーフ族の娼婦さんよ。どの人も基本的には皆、未亡人ね」
部屋に戻って今見てきたことをありのまま話すと、リースがそんなことを解説してくれた。うん、そうか、そういうことなのか。
「この船が次のドワーフ族の国の港に着くまでの十日間、特殊な性癖の、まぁそういった素質のある人達が彼女達を十日間お買い上げするのよ。彼女達は皆未亡人だし人族並の性欲だってあるわ。持ちつ持たれつのウィンウィンな関係ってわけ」
「うん、確かにそう言われると納得してしまうけれど、なんでそんなに未亡人がいるの?」
この世界では未亡人は比較的少ないのではないのか?魔物に挑まない限りさほど死なないはずだが。
「そうねぇ、ヒロはドワーフ族の見た目についてどう思う?」
「んー、なんというか見た目は完全に子供だよね、うん」
「じゃあ、彼らが強いかどうか、そのあたりはどう?」
「え?うーん」
そうだな。ゲームの中ならば小さいからって強さには関係無いんだよな。ゲームならばそうなのだが。ではこの世界ではどうなのだろうか。
「彼らはねえ、成人男性でもちっちゃいから、すっごく弱いのよ」
「…そうなの?」
「ええ、すっごく弱いのよ。なるべく死なないようには頑張っているんでしょうけどHPが一度切れちゃったら後はほぼ即死ね。HPが切れるまでは大丈夫なんだけどね」
うん、ゲームとは違ってそこらへんとてもシビアらしい。HPという不思議バリアのおかげでまだマシな方なのだろうが。
「そんなわけだから、彼らは男性の方が多いのだけど皆いっぱい死んじゃうのよ。体も小さいから死体も残りにくいわ。魔物に丸呑みにされちゃうケースも多いみたいだし」
「うわー…」
「だからドワーフ族の女性には未亡人が多いのよね。それにその、彼女達も性欲は強いし女だから…その…ドワーフ族の男性よりも、他種族の男性のアレの方が好きなのよね」
うん、なんとなくわかった。そこらへんすごくシビアなんですね。なんとも酷い世界である。というか、小さい体でアソコだけはデカイとかそういうこともないわけなんですね。
「でもそれじゃあ、ドワーフ族の男性は色々と憎むのでは?」
「そうよ、そりゃ憎むわよ。特にドワーフ族の女性を相手に出来るような人族の男性はそれはもうすごく憎まれるわよ。本来種族特性として幼女を相手にすることが出来ないはずなのにしてるんだからね」
「ああ、うん、だから仲が悪くもなるわけね」
「そういうことよ」
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ドワーフの国の港を出港してから、船の中では随分たくさんドワーフ族の女性とすれ違うことが多い。特殊な素質のある人々は色々とそこらへん他の人にバレると厄介なことになるので、なるべく表には出ず客室内で生活するらしい。そんな彼らのお世話もドワーフ族の娼婦達のお仕事に含まれているようである。
だからこそ客室内には広めの生活空間があり、そして全てのベッドがダブルベッドになっていると、そういうわけだった。
900/9/13 19:23
三人で夕食を取った後、リースを連れて二人で甲板に出た。最近は段々と夜の時間が長くなってきている。
今日の月は上弦の月だ。これから十九日の中秋の名月に向けて段々と大きくなっていくことだろう。
クロちゃんは中秋の名月に随分とこだわっていた気がする。もしかすると、つまりそれは…
俺がそんなことを考えていたら俺の左にいるリースが話し掛けてきた。いつものように俺の左手は彼女の腰に回している。
「ねぇ、ヒロ。前に私が話したこと、まだ憶えてる?」
「んー、何の話かを言って貰わないことには答えようがないのだけど」
「今は月を眺めているでしょう?だから月のことよ」
「月のことか」
ふむ、そうだな。実は俺もそのことで引っかかっていたんだ。その時の会話はこんなものだった。
『ちょっと話を戻すけれど、ともかく獣族にとって満月は特別なのよ。犬族なんかは、ヒロの世界でいう狼男だっけ?アレみたいに満月の日はお盛んみたいだし』
『お盛ん、ね』
『逆に猫族だと神聖なイメージが強いみたいね。特に中秋の名月に生まれた猫族の女性は、月の姫だとか月の姫君とも呼ばれるのよ。何か色々とスゴイみたいね、とても珍重されているらしいわ』
うむ、割としっかりと憶えている方じゃないか。狼男がお盛んとかそこらへんのギャグの影響か?
俺は今までに一人だけ本当の狼男さんにも会ったことはあるがな。確か2メートルぐらいのスゴイでかい狼さんだった。
見た目はなにげにカッコ良かったかもしれん。しかし耳が気分によって結構動いていたな。後は手が肉球付きで、ホテルのフロントの仕事には向かないようだった。
だって支払い用と身元確認用の個人カードを握れないからな。わざわざお盆に載せて隣の人に渡すとか笑えた。
まぁそこらへんは今はいい、リースに返事をする。
「獣族にとって満月は特別という話だったね」
「ええ、そうよ」
「月の姫君」
「…しっかりと憶えているのね。ヒロには教えない方が良かったのかしら、迂闊だったわ」
うん…つまりはそういうことになるのだろうな。この流れはもうアレだよ、ほぼ間違いないだろう?うん。
「つまり、クロちゃんは月の姫君である可能性が高いと」
「ええそうよ。ヒロ、貴方随分とニブイわりには、そのあたりは鋭いのね」
「うん、俺の世界の色々な物語を多少は知っているからね。結構色んなケースを想像することも出来るさ」
ふむ、そうか。クロちゃんは月の姫君なのか。
そうだな、それじゃあクロちゃんに付ける新しい名前も、その方向で攻めたら良いのではなかろうか。いつまでも保留しておくわけにもいかないし。
「ヒロは、クロちゃんのことをどう思っているの?」
「ん?」
「ん?じゃないわよ。大切なことよ。どう思っているのよ?」
リースが俺の隣からこちらを見ている。その瞳からは彼女が真剣であることがよくわかる。しかしそうだな、俺にとっての答えはもう決まっている。
「俺はクロちゃんのことを信じるよ」
「本当に?…どうして信じられるの?」
どうしてクロちゃんを信じられるのか?か。
「そりゃあもちろん、屋敷ではずっと普段一緒に過ごしていたし、彼女の愛が本物だろうという確信を持っているからだよ」
「そう、ヒロにとってはそうなのね」
「それに、リースだっていつもクロちゃんが作ってくれたご飯を食べているだろう?愛を感じるじゃないか」
「ええ、それは本当にそうね。確かにそうだわ。疑う私が悪かったわよ」
リースはそう言って俺に謝ってくれる。
「それにそうだな。俺の世界には色々な物語があったからさ」
「…うん」
「最初から騙されていただとか最初から仕組まれていただとかそういう話も多いからさ。それぐらいどうってことないかもしれん」
「…う、うん。さすがにちょっとそれはどうかと思うわよヒロ。まぁ貴方自身が平気なら私は別に全然構わないけれど」
「うんうん、問題無いさ」
そう、何も問題無いだろう?クロちゃんの愛が本物であることだけは事実なんだから。それよりもそうだな…クロちゃんの新しい名前を考えておかないと。
「ねぇリース。この世界には月関係の神様とかそういうのはいるのかな?」
「ん?そうね、この世界では神様は、主神であるアーゼス神様だけよ。アーゼス教会というのも、私達の名前についているアーゼスという苗字も、全てそのたった一人の主神様からきているわ。だから月にも神様はいないわよ」
「なるほどねぇ」
そうなのか、この世界には神様は一人だけなんだな。それじゃあクロちゃんにはあの名前をつけるしかないだろう。色々と名前はあるが、音の長さを合わせるならもうアレしかないだろう。黒猫キャラとかもいた気がするし。
「俺の世界なら、月にだって神様はいるんだよね。だからその名前をクロちゃんに付けることにするよ」
「あら、そうなの?それは私も初耳ね。なんていう名前を付けるつもり?」
「んー…いや、そこのところはまだ内緒でね。クロちゃんへの誕生日プレゼントにでもしておくよ」
「そっか。わかったわ、それじゃあまた今度教えてね」
「ああ、もちろんだとも」
その日の甲板での二人の会話はそれで終わった。後は客室に戻って普段通りの生活に戻る。まぁその普段通りの生活というのは割とエロかったりはするのだが。
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900/9/19 22:30
今日はなんというか、満月を眺める為に早めに済ませておいた。その後十分に身を清めてから船の甲板に出てきている。
ドワーフの国の港を出たのが十三日の零時だったから、次の港には二十三日の零時に着く予定である。その後また六時間したら船は次の国、ウサギの国ロップイヤーだったかに向かうことになる。
クロちゃんにお酒抜きで中秋の名月を祝える何かが無いものかと相談したところ、ウサギ族が好むとかいうお団子を用意して貰えた。いわゆる月見団子というヤツであろうか。
それをリースと二人で甲板で月を眺めながら二人で食べる。
「ねぇ、ヒロ。クロちゃんへの誕生日プレゼントはもう用意したの?」
「ん?うん。一応一筆したためておいたよ」
今既に俺の手にはクロちゃん宛に書いた手紙が握られている。さっさと共有インベントリに放り込んでしまって良いものだろうか?
「まだ入れてないの?早く共有インベントリに入れてしまえば良いのに」
「うーむ…いや少しだけ迷ってたんだけどね。じゃあもう入れちゃう」
「素直でよろしい。クロちゃんもきっと喜ぶわよ」
そんなわけで俺は手紙を特に迷わずササッと共有インベントリにつっこんでしまった。まぁこういうのを悩むだけムダだってことだよな、うん。
ちなみに書いておいた内容はこんな感じ。
手紙そのものには「クロちゃんへ」と書いてあるのだが。
『愛する君へ。君の名前をどうするか少し考えてみました。リース曰くこの世界の神様は一人だけらしいですが、僕は月関連の女神様の名前をいくつか知っています。
ですからその名前の中から、君の新しい名前を考えてみました。
ルナ
ルナという名前を、君の新しい名前にしたいと考えています。
今の名前と同じ長さですし、僕にとっても結構お気に入りの名前です。
気に入って頂けるでしょうか。
今日の中秋の名月はおそらく、ルナの誕生日なのではないかと僕は考えています。
毎年誕生日が変動して大変ではあるのでしょうがきっとステキなことです。
新しい名前が君への誕生日プレゼントでも良かったですか?
君が何かを隠していることには気づいていますが、特には気にしていません。
君の愛が本物であることだけは僕も信じられます。
すぐにとは言わないので、その内教えてください。
愛するルナへ ルナの夫、ヒロより』
とまぁこんな手紙を書いてみたのであるが。
うむ。なんだ。恥ずかしいな。
一人称とか違うしな。まぁいいじゃないかそれぐらい。
恥ずかしさを紛らわすわけというわけじゃないが…いや、実際そうなのだが…月見団子を手紙の代わりに共有インベントリから出して、もぐもぐしておいた。
そうやってお団子をもぐもぐしている俺を見てリースが優しい笑顔をしている。しかし少し真剣な表情になってからこう話し掛けてきた。
「手紙、送ったのね。彼女きっと喜ぶわよ」
「んー」
食べている最中なので返事もそんな感じである。
「そうね…それじゃあヒロ。私も全てがわかっているわけではないけど、私が既に気づいていることについて少し話してもいいかしら」
「ん」
とりあえず頷いておく。食べながらなのですまん。
「それじゃあ、もちろんこの間のクロちゃんからの手紙のことよ。一番おかしいのはクロちゃんにお父さんがいる、しかも会えるところ、紹介可能なところにいるってことよ」
「ん?」
「だっておかしいでしょう?なんで愛玩奴隷として売られていたのに家族を紹介されなきゃいけないのよ?そういうしがらみがない点も含めて愛玩奴隷として売られているものなのよ」
「んんー?」
ん?そうなの?あれそれって何かおかしくない?
「つまり…ヒロはクロちゃんを奴隷として購入したけど…クロちゃんは本当は奴隷じゃなかったのよ」
お団子を喉に詰まらせそうになったじゃないか。
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とりあえずお茶を飲んでおちつくことにした。
ふぅ、落ち着いた。
「そうかそうか、ルナは奴隷というか婚活女子では無かったんだな。いや婚活していたのは事実か?俺と結婚したわけだし」
「そうね、まぁそうではあるんだけども、ヒロはそのあたりちょっとは気にしないの?っていうかルナって誰のことよ」
あぁそういえばリースにはまだ説明していなかったんだった。
「クロちゃんに贈った新しい名前だよ。ルナ。ルナね。月の女神様の名前としてすごく有名なヤツ。俺の世界ではかなりの人気ネームだったはずだけど」
「そう、ルナなのね。わかったわ、それじゃあこれからは私もルナと呼ぶことにするわね」
「うん、そうしてくれ、ありがとう」
リースは随分とそこらへん納得するの早いから助かる。うん、よきかなよきかな。
「しかしそうするとアレだなー。奴隷商人のザンギさんもグルってことだなー。変な口調の人だったがそういうことかー」
「あら、奴隷商人の人の名前はザンギって名前だったの?ちょっとそのあたりも教えなさいよ」
俺はリースにそこらへんのことも教えてみた。教会の不動産部のソファーに座っていたらザンギ氏が直接俺を迎えにきたのである。受付のリリーさんは忙しそうにしていたから、本当にその人が担当者であるのかはやや怪しかったがな。彼に連れられて三人の奴隷を紹介されたことも伝えておいた。
リースはそのことに対して何か悩んでいたようだが、俺にこう質問してきた。
「そうねぇ。他にも奴隷を売っていたということなら、奴隷商人であること自体は間違い無いのかしら…他に気づいたことはある?」
「んー、例えばどんなこと?」
「そうね、クロちゃんを買うあたりの時のことを詳しく教えて頂戴」
詳しくか。詳しくってどんな風にだろうか。
「そうだな、まず俺がルナを選ぶだろ?」
「ええ」
「それで、次に俺の個人カードとルナの個人カードをザンギさんが握るだろ?」
「え?ええ、それで?」
「で、ザンギさんがそのまま結婚魔法詠唱して、それでルナと結婚したんだよね」
「…はぁっ!?」
ん?何かおかしいのか?
「あのねぇ、ヒロ。それ完全におかしいわよ。本当におかしすぎるわよ。もうちょっとそのあたりのことまで私に話しておくべきだったと思うわ」
「え?なんで?」
うん、これまでも結婚魔法は普通に発動してきた気がするのだが?一体何がおかしいのか。
「あのねぇ、ヒロ。皆が結婚魔法を無制限に使えたら大変なことになるとは思わない?」
「ん?それは、思うかもしれない」
「そうなのよ、結婚魔法の使用には特殊な資格が必要なのよ。大体主に教会関係者しか使えないわ。だから奴隷さんを買った後は、教会を訪ねて魔法をかけて貰う必要があるものなのよ」
「そうなの?」
「そうよ、つまりそのザンギさんって人は」
うん、ザンギさんって人は?
「奴隷商人のフリをしている、教会関係者ってことになるわね」
ふむ?…それって何か問題あるのだろうか。よくわからん。ルナのこと以外あまり興味ないし。
「うん、それが何か問題でも?」
「んー、言われてみれば確かにわからないわね。でも私の方でも少し考えてみるわ」
「そうかそうか、リースに任せるよ」
「ええ、任せておきなさい。何かわかったらまた教えるから」
そんな感じで、夜は更けていった。
まぁあれだよ。色々一度にあると俺も頭が疲れてしまうからね。
深く考えるのはやめにしておいた。今はクロちゃんがルナになったそれだけで十分じゃないか。
日付が変わる頃まで起きていたが、ルナからの手紙の返信はまだ届いていないみたいだった。仕方ないのでその日はそのまま寝ることにした。
リースの体の左右から俺とアンジェラちゃんの二人で挟んで寝た。リースは俺の方に抱きついてきてくれた。アンジェラちゃんはそのリースの背中に抱きついていた。
リースの体は今日もあったかいなー。おやすみなさい。




