第十三話「ハイエルフの王城にて」
俺は夜空を眺めながらUIの時計を確認する。
900/8/29 03:16
今はまだエルフの国アルフヘイムとハイエルフの国アヴァロンを結ぶ国道の上にいる。
昨日の15時、つまり午後三時のおやつ時に乗車したのだが隣国までは24時間かかってしまうのだそうだ。よって現在も馬車内である。
それにしても、こんな寝台馬車だなんていうふざけた存在は元の世界でもさすがにありえないだろう。馬が何頭立てだ?軽く二十を超えていた。
エルフの国とハイエルフの国の間は、元々仲が良くなかった関係でほとんど宿場町が発展していない。だからこのような大掛かりな寝台馬車で長時間の移動をすることになる。
国道の不思議パワー様々だな。元々銀色に光っていたり魔物の巣討伐で伸びたりと色々おかしいが。たぶん素材は銀ではなく不思議物質なんだろう。おそらくは破壊不可能に違いない。
改めて夜空に目を戻す。この世界の空にも月はある。星もあるが星座や星の名前は無いらしいというのは誰から聞いたのだったか。
たまたまこんな時間に目が覚めてしまいすることも無かったのでなんとはなしに空を見上げると、どうやら今日は下弦の月らしかった。左側半分が光っている。
満月は零時にいわゆる太陽でいう南中?だかをするのだったかな?ようは空の中で中央の一番高いところにあがるアレだ。
下弦の月は確か零時からあがりはじめるのではなかったかな。
エルフの国とハイエルフの国を結ぶ国道は東西方向に伸びている。進行方向に対して左側の空、つまり南の空の方に月はその姿を見せている。俺が日本にいた時と同様の感覚かもしれないな。
この世界には日本にもあった様々な行事が色々導入されているらしい。そういえば確か九月の満月は中秋の名月とか言われていなかったか?この世界にも祝う風習はあるのだろうか。おそらくはあるのだろうな。
あとはそうだ、その前の九月九日も何か行事があるのではなかったか?
現在日本では確か九月九日にわざわざ何かお祝いをする人などいないが、俺の記憶が確かならば五月五日、七月七日、九月九日などというようなものを節句として扱う習わしがあったはずだ。
七月七日の七夕では妻達と共に短冊にお願いごとをした。俺はわりとふざけたお願いをしておいたら結果としてその後リースに出会ってしまった。その前の五月五日の時は確かまだジゼルちゃんと出会う前だったんだよな。ベンチに座ってクロちゃんと愛姫ちゃんに挟まれて両手に花の状況を楽しみつつ、三人で並んでおかしのちまきをもぐもぐしていたら、見かけベテランだけど中身が残念な筆頭執事のジェームズ氏が青い顔して滝汗流しながらユーロ国王からの手紙を持ってきたんだよ。
そういえば、確かあの時少し確認したことがあったな。
俺はUIをいじってTIPSの項目を久しぶりに開く。そして以前見つけた「オマケ」という項目を開いてみる。
現在この世界の年は900年となっているが、カレンダーは地球の2013年のものと一致しているらしい。
ゴールデンウィークだからなんとはなしに曜日を確認してみたら、五月五日は日曜日ですよー、だとか地球の2013年と一致してますよー、だとかそういう情報がオマケの項目に書かれていたのだ。
振り替え休日は無いらしいので翌日に王城に行ってジゼルちゃんと出会ったわけだが。
もしやこのオマケ、月の満ち欠けの表もあるのではないか?
と少しいじっていたら見つけた。ふむ。なんでも月の満ち欠けについても地球の2013年と完全に一致しているらしい。神様そこらへんちょっと色々投げやりなんじゃないかい?考えるのが面倒だったのか?確かに今日が下弦の月であることも一致していた。
それで中秋の名月はいつだ?…今年は九月の十九日なのか、覚えておくか。
大体納得したので寝なおすことにする。一人でいるのはあまり好きではない。
明日起きてからリースに色々聞いてみることにして、俺は寝なおすことにした。
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そして翌朝。
900/8/29 8:34
「九月九日?あるわよ、菊の節句だったかしら。本来なら菊酒でも飲んで祝うところかしらね。今は妊娠中だからやめておくけど」
リースと馬車内で共に朝食を取りながらそんな話をする。
そういえば今日のリースは初めてリースとエルフの国の首都ロンロンの王城で出会った時と同じ緑色のレオタードを着ている。
実はこの格好、俺はわりと好きなんだけれど普段はほぼしないらしい。というか俺がこの格好見たのはまだ二度目だったりした。
うん、体のラインが出てエロ可愛い。
その分普段からこの格好をするわけにはいかないらしい。なんでも一応エルフの王女としての正装だから今日は仕方なく着ているのだとか。普段は割と普通の洋服を彼女は着ていた。露出度の少ない格好もそれはそれで萌える。
「ねぇヒロ。貴方のいた世界とこの世界は色々と共通点が多いのでしょう?それも意図的にねじまげられてる部分がたまにあったりとか」
「あー、うん、そうかもしれない」
ん?そうだっけ?あまりそのあたり深く考えてなかったからよくわからん。
「それで、この世界でも中秋の名月を祝ったりするのかな?」
「ええ、もちろん祝うわよ。魔力なのかどうかはわからないけれど何か不思議な力が高まるとされているわ。特に獣族には人気で、毎年変動してしまうのに各月の満月の日を誕生日に設定している人もいるぐらいよ」
「毎年誕生日が変わるのか?」
「ええ、そうよ。何もそこまでする必要はないと思うのだけど」
月の満ち欠けによる暦って陰暦とかだっけかな。まぁそういう人もいるのだろう。
「クロちゃんの誕生日とか、ヒロはちゃんと覚えているの?」
「え?いや、ごめん、そういえば知らなかった」
「ちなみに私の誕生日は十一月十一日よ。覚えておいてね。…今は、十八歳だから」
む?さりげなくアピールされてしまった。凄く覚えやすい日付だな、それなら記憶力の悪い俺にも忘れそうにない。というかリースは十八歳だったのか。そうかそうか。クロちゃんはそういえば今いくつなんだろうな。見た目では高めに見ても十五歳ぐらいにも見えるのだが、十五歳の割には人間が出来すぎている気がする。猫だけど。
それにしても誕生日か。いやすまん、全然考えたこともなかったが。そういえばそのあたりどうなっているんだろうか。ちょっと妻の誕生日ぐらい知っておけよって話になりそうではある。
「ちょっと話を戻すけれど、ともかく獣族にとって満月は特別なのよ。犬族なんかは、ヒロの世界でいう狼男だっけ?アレみたいに満月の日はお盛んみたいだし」
「お盛ん、ね」
「逆に猫族だと神聖なイメージが強いみたいね。特に中秋の名月に生まれた猫族の女性は、月の姫だとか月の姫君とも呼ばれるのよ。何か色々とスゴイみたいね、とても珍重されているらしいわ」
ほうほう。なんだか色々と設定があるみたいだ。そういうのも良いね、悪くない。
「あと他にも気になることがあるのだけれど…まぁ良いわ。今はやめとく」
「?」
そういってリースは話を打ち切ってしまった。何が気になるというのだろうか。
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900/8/29 13:00
リースと共に寝台馬車内で昼食を食べている。食べてばっかりだが仕方ないだろう、何しろ二十四時間も移動時間なのだ。十五時に到着予定なので、今日の予定を聞いておく。
「ハイエルフの国についたら、すぐに王城に向かうわよ。もっとも、おそらくは迎えが来ているのでしょうけれどね」
「え?なんで?」
「お父様が根回ししている可能性があるからよ。昨日全面的に協力するって言っていたでしょう?ロンロンの首都教会からハイエルフの国アヴァロンの首都マーリンの首都教会に電話して、それでこの寝台馬車に私たちが乗っている可能性があるってことを伝えれば可能よ」
「なるほど」
そういえば教会には電話があるのだったな。リースを妊娠させた次の日に、クロちゃんが教会経由で連絡してくれたおかげで翌日朝には迎えの馬車がきたのである。あれ、そういえばあの愛の巣の契約解除してなくない?
「そういえばそうね。でもいいじゃない、それぐらい。二人の思い出の場所でしょう?」
「そ、そうか」
「それよりも今は、首都マーリンに着いてからのことよ」
うーむ?首都の、場所の名前がマーリンなのか?マーリンってあれだろ?たぶんアーサー王とかのアレに出てくる人名じゃなかったのか。人名が地名になっていると色々ややこしいのだが。
マーリンスラ○○…いや、なんでもない。
「それで、着いてから実際にどうするの?」
「そうね。とりあえずヒロには黙ってて貰うことにしようかしら」
「え?」
「私に任せておきなさい。私が指示しない限りは黙ってていいわよ」
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900/8/29 14:57
寝台馬車は予定時刻の15時よりも少し早くハイエルフの国アヴァロンの首都マーリンに到着した。リースと共に馬車から降りると、既にそこには迎えが待機していた。
「アルフヘイム国の王女リース姫様であらせますか?お久しゅうございます。どうぞ、王城にお連れ致しますのでお乗りください」
「えぇ、ありがとう。貴方も本当に久しぶりね。まさかこんな形で再会するだなんて思ってもいなかったけれど」
迎えにきた馬車の御者はリースの顔見知りであるらしかった。元々リースはこちらの国の王子様と随分と交流を密にしていたようだし、こういった役の人と接する機会も多かったのだろう。
俺達は迎えの馬車に乗り王城へと向かう。リースは寝台馬車から降りた時から俺にピッタリとくっついている。そんな彼女の腰に俺はいつものように左手を回しているわけだが。
この行為は元いた世界ならば単なるラブラブカップルというだけの話で済むが、エルフの国全般ではそうではない。エルフは心のスキンシップを密にし、体のスキンシップに対しては積極的ではない。
仲の良い夫婦ですら手を繋ぐぐらいが精一杯だという話だったか?
この世界の女性は、子供を妊娠すると男性の体を拒絶するようになる。実際に妊娠直後のジゼルちゃんとは一緒にお風呂に入ることすら出来なかった。
そして現在隣にいるリースも妊娠中である。本来スキンシップを密にしないエルフの王女が、妊娠中でも関わらず夫に対して密着していて、それで平常心を保っていられるというのはこの世界において極めて異常な状況なのである。
馬車は程なくして首都の王城に到着した。
今回は迎えまで来たわけだが、入り口の兵士に個人カードで身分証明する必要はあるのだろうか?などと考えていたら、リースが自らの個人カードを取り出して兵士に提示していた。
もちろんその間も俺に密着したままである。
「アルフヘイム国の王女、リースよ。王に取り次いで頂戴」
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しばらくして玉座の間に通されると、そこには四人の人物がいた。
リースは俺にずっとくっついたままであるし、対する俺は彼女の腰に左手を回したままである。
王に会うというのにそれでいいのだろうかとは思ったが、どうやらそうしろということらしい。
中央正面の玉座に座っている人物。コレがこの国の国王様だろう。名前はまだ知らない。特に教えて貰ってないからな。
王はこちらをやや睨むような表情で見据えている。怒っているというほどの怒気は感じない。こちらの何かを探るような目であろうか。しかしどうにも俺ではなく、リースの方を見ているようだ。
次にその右手にいるそこそこハンサムな男性は、これはたぶん王子様なのではなかろうか。もしやリースの婚約相手、結婚する予定だった王子か?名前は聞いたはずだが忘れた。その王子様は腰に随分と綺麗な鞘の剣をさしている。この世界ではPK禁止なので、どこで武器を持とうが、逆に武器を持ってなかろうがそこに特に問題はない。モンスターも向こうからは襲ってこないしな。
その王子様はこちらを随分と驚愕の表情で見ているようだ。微妙にぷるぷると震えていないか?まぁそうだな。リースと仲良くしてるところを見せつけている状態である。どや?羨ましいやろ、うりうり、みたいな。
こちらもまた視線はリースの方を向いているな。俺は無視か。
更にその右手というか、比較的こちらに近い場所には小さめの女の子がいた。ウェーブのかかった長い金髪をしている。背丈は135センチ程度だろうか、とにかく小さい。
顔も随分と幼く、随分と気弱そうな印象を受ける。
よくわからないけど何か色々混ざった複雑な表情をしているな。
この子もやはりリースのことを見ているようである。
つまり俺のことは三人とも無視ということである。
綺麗な服を着ているし、きっとお姫様だろう。
最後に、これはただの城の兵士だろう。王の隣に金属防具を身につけた兵士が立っている。武器は身につけていない。
槍ぐらい装備していても良さそうなものだが、この世界にはPKが無い。よってどこで武器を装備しようが装備しなかろうが大した問題は無いのである。この兵士はきっと御用聞きというか、ただの王の連絡役の一人なのだろうな。
王が軽く合図をすると、その兵士はひとつお辞儀をした後部屋の外に出ていった。
よってこの部屋には俺とリースと、ハイエルフの国の王族三人のみが残ることになる。
いわゆる人払いがされた状態になった。
この部屋に入ってきた時から誰も何も話さない。国王が何か事前に指示していたのかもしれん。と、国王が話し出した。そしてそれに王子が答える。
「おい、ロビン」
「は、はい、父上」
「リースを斬れ。貴様の全力の剣で試してみろ」
「なっ!?」
繰り返すが、この世界にはPKがない。よって例え剣で全力で斬りつけようが相手は死なない。ただし連続で攻撃を加え相手のHPを減らした後に、最後に相手が死ぬような攻撃を当てれば相手はその衝撃を受けて吹き飛ぶという仕組みになっている。
いつぞやユーロ国の王城において、愛姫ちゃんがジゼルちゃんを薙刀一閃で吹き飛ばしたように。あれは一撃でジゼルちゃんのHPをゼロにしたうえでジゼルちゃんが死に至る一撃を与えたことにより起こったことだ。
吹き飛んだ後はHP全回復にて復帰するらしい。まるで格闘ゲームのプラクティスモードのように。
リースが俺の腕の中から離れて国王に対して正面に出た。
俺に少し下がれと手で合図してきているらしい。なので少し下がっておいた。
王子は随分と動揺しているようだが、腰に身につけていた剣を抜いた。
随分とカッコイイ剣である、もしやエクスカリバーとかか?でもそこまでのものでも無いかもしれないな、俺にはよくわからん。
「リース、済まない。よくはわからないがこれも父上の命令だ」
「来なさい、ロビン。聞くよりも目で見る方が早いわ」
ふむ、王子の名前はロビンだったか。ロビン王子は少し息を整えた後、特にかけ声なども無しにリースに対して全力の横斬りを放った。
速い!各国の王や王子は魔物の巣討伐を行うのが仕事である武人であるから彼も相当に強いはずでその剣は非常に高速だった、が。
高い金属音がした。
王子の全力の攻撃は…止まっていた。
リースの肌に触れるよりも少し手前、彼女の緑のレオタードよりも数センチ手前ぐらいの空中で剣が止まっている。どうやらそれ以上は斬れないらしい。
この世界におけるHPとは何やら不思議なバリアのようなものだそうだ。そしてそのバリアは男女が避妊せずに性行為を行うことにより上昇する体力スキルにより強度が増していく。
つまりリースのHPが王子の斬撃の威力を上回ったということだ。
少し前までは生娘だったリースのHPがどの程度のものになるか?それは夫である俺との交わりがどの程度だったのかということに直結する。それ以外の方法ではHPは上昇しないはずだろう。
俺はUIを確認してみた。UI上のパーティーリストから見えるリースのHPは四割ほど減っていた。
「ロビン、もう一撃だ」
「本気ですか?父上」
「やってみろ」
王に言われてロビン王子がもう一度リースに対して剣を叩きつけた。先ほどと同様の高い金属音がする。しかしやはり剣は空中で制止していた。UI上のリースのHPは今は八割ほど減っている。
「もう十分だ。もう一度斬れば次は破れるかもしれぬが、戦場で魔物相手に三撃も入れる余裕など無い。貴様の負けだ、ロビン」
「そんな…どうしてこんなにも堅いんだ、彼女は…リースは…」
ロビン王子が剣を納め、元いた位置へと戻る。とても青ざめており今にも倒れそうである。一方で先ほどまで複雑な表情をしていた女の子の方は、とても信じられないものを見たらしくビックリしているようだ。
リースはその女の子の方に目を向けてニッコリと笑った。
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リースに手で呼ばれて前に戻る。彼女は再び俺の隣にくっついてきた。彼女の腰に左手を回しておく。そうしたところで王が語り始めた。
「アルベロン王より既に話は聞いている。子供達には伝えなかったがな。まさか例の禁呪が成功した例を見るのは儂も始めてだよ」
「お久しぶりです、アルサル王。まさかこのような形で再会することになるとは思ってもみませんでした」
リースが国王の台詞に答えている。他の人は何も言わない、俺含め。というか王様の名前アルサルなのか。アーサーと同じじゃないっけそれ?まぁ別にいいかそんなこと。
「それが禁呪の力か、正に邪法だな。一度の妊娠でおなごがそれだけの体力を得る例など今までには聞いたことがない。いくら鍛えたところで我が息子の一撃で吹き飛ばされてしまうだろう。よもやそれを二撃も耐えるだとはな、予想はしていたが実際にこの目で確かめるまでは信じるわけにはいかなかった」
「はい、このような場を与えて頂いたこと、感謝しております」
なんとも言えない会話である。ともかくそれだけ常識外のHPだったということだ。百聞は一見にしかずともいうし、実際に見せてみるのが一番説得力があるということだったのだろう。
ロビン王子は青ざめた顔でうつむいて震えていた。彼は今どんな想いでそこに立っているのだろうか。しかしあれこれ怒鳴ったりせずに耐えているあたり、彼もまたよく出来た人物なのだろうな。
小さな女の子はじっとリースの方を見ているようだ。
「アルベロン王からの知らせを代筆便にて読んだ時、儂は本当に驚いたよ。リース姫とうちのロビンの仲はそれはそれは良かったからな。早く我が城に息子の嫁としてやってこないかとばかり考えておったが、まさかたった一日で使徒に転ぶだなどと誰が信じられようか。しかし儂もこの目で見てしまった以上、全てを受け入れるしかない」
「はい、アルサル王」
代筆便?よくわからないが教会からの電話経由で手紙みたいなのが届いたってことだろうか。電報みたいなものか?それによってアルベロン王が根回ししておいたらしい。昨日の今日で行動早いですね王様。この世界の王族は皆優秀な人ばかりなのだろうか。
「しかしそこの彼はそれほどまでに惚れるような男だったのか?なんとも頼りない顔をしているが」
「はい、そうですね。随分とダメな人ですけれど、使徒としてはふさわしい人だと私は考えています。それに今も私の言いつけを守ってずっと何も言わずに黙っていますから」
「そうかそうか、既にリース姫の尻に敷かれておるわけか。いやはや、ロビンも君の尻には敷かれるだろうと考えておったが使徒もそうか。使徒殿の人柄はわからぬが、リース姫が操るならば儂も安心じゃわい」
ん?え?今なんて言った?
「そうですわね。ねぇヒロ。貴方私の尻に敷かれている自覚はある?」
そういってリースがこちらを少し意地悪そうな笑顔で見つめてくる。
「う、うーん?」
「あるわよね?」
「…はい」
なんだかしょんぼりしてしまった(´・ω・`)
そんな俺の様子を見て、小さな女の子の方がちょっと笑っている。
「あいわかった。使徒殿のことはともかくとして儂はリース姫を信じることにしよう。ところで、既に姫が子を宿しているという話も本当なのか?」
「ええ、本当ですわ。愛の奇跡により男の子を選びました。いずれは我がアルフヘイムの新国王となるでしょう」
「そうかそうか。それはなんともめでたい話だ」
ん?なんかわりとさらっと重要なこと話された気がするけどそういうことになるのか?
「それで、今日はどうするのだ?まさか何の用もなく訪れたわけでもあるまい」
「はい、今日はティターニア様を頂きに参りました。よろしいですね?」
「良い、良い。今度の使徒はそのあたりも大丈夫なのだろう?リース姫もついているしな」
「ええ、そうですわ。彼女の純潔は当分私が守ってみせますもの」
「はっはっは」
あっれー?なんか俺無視してどんどん話進んでない?どういうことなの。というかティターニアって誰さ?そこにいるウェーブかかった長い金髪のちっちゃな子のこと?今ちょっと話題に名前が出たせいかビクッとしてるけど。
あれ?俺その子を購入することになってるの?すげーちっちゃくない?何歳なのそのコ。
「しかし代金は頂くぞ。東の姫君達と同じく五百億円で宜しいかな?」
「えぇ、それで何の問題もありませんわ。私だけ倍額ということになってしまいましたが」
「はっはっは、何も問題なかろう。リース姫の代金の千億と我が娘の五百億を軍資金とし、軍備を再編成後はアルフヘイムと共同で魔物の巣攻略を再開する手はずになっておる。これだけの巨額の資金があれば全ての兵士達の武具をミスリルに統一出来ようぞ」
「えぇ、本当にそうですわね。この資金に関してだけは使徒のことを素直に褒めても良いと思いますわ」
なんだか勝手に話が進められているけども、どうにも愛姫ちゃんやジゼルちゃんの購入資金が東大陸の魔物の巣攻略資金に充てられたように、この北大陸においてもリースとティターニアちゃんの二人の購入資金が魔物の巣攻略の資金に充てられるらしい。うーむ、なんとも不思議だ。自分で戦わなくても勝手に魔物の巣の攻略が進んでいくってことなのか?ただお姫様を買って回っているだけなのにね。なんとも不思議だね。
しかしそこまで話が進んだところで、青ざめた顔をしていたロビンが声を荒げた。
「ちっ、父上!」
「なんだ?ロビン、騒々しい」
「父上!このような使徒に我が妹を売り渡すというのですか!?妹はまだたったの十三歳なのですよ!まだ十分には女にすらなっていないのですよ!?」
「ロビンよ、人様の前でそのようなことを喚き散らす物ではない。必ずしもすぐに手を出すわけではないだろう」
「しかし!私にはこの男をそのようには信じられません!」
なんだか酷いことを言われている気がする。つまり俺が未発達な幼女に手を出す変態だと思われていると?…ん、あれ?案外間違ってないかもしれない。ヤバイな、否定しきれないんだが。
「良い、もう黙れ。神の使徒が各国の姫を集めて回るのは以前からの慣習であり何も間違ってはおらぬことだ。貴様の感情はただの我が儘だ。神の定めたルールに従えぬものには天罰がくだるぞ」
「ッ!…」
それっきり、ロビン王子は黙ってしまった。
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アルサル王が兵士を呼びつけて色々と指示を出した。
その間にロビン王子は玉座の間を頼りない足取りで去っていった。彼の立場からすれば、突然現れた神の使徒により結婚する予定だった恋人と可愛い妹を両方持っていかれたことになるはず。
うん、割ととんでもなく酷いことしたんじゃないのかな?泣き喚いても何もおかしくないと思うのだが、俺に対してその怒りを向けることなく去っていくとは実はすごく良いヤツなんじゃないのか?彼。しかしこちらとしても、なんとなく流れに身を任せて動いた結果こうなっただけなのだが。
神官さんが来て、俺の個人カードとティターニアちゃん?の個人カードが重ねられる。既に結婚魔法の詠唱中だ。俺の頭の中では、彼女とまだ一言も台詞を交わしていないし、名前と彼女の存在がしっかりと結びつけられてすらいないのだが、そんな状態で彼女と永久結婚してしまっていいものなのだろうか。
でも周りがそう動いているみたいだし、俺が色々抗議するとややこしいことになるだろうからやめといた。
結婚魔法が発動する。そしてUIに変化がある。今はリースが近くにいるので彼女の名前も並んでいる。上から順に、ヒロ=アーゼス、リース=アーゼス、ティターニア=アーゼスという表示になった。この並び順は何によって決定されるのだろうか。正妻だから上だとかそういうものがあるのかな?ちょっと聞いてみることにするか。
「ねぇ、リース。このパーティーリストの並び順って何基準なの?」
「愛情順よ」
「え?」
「獣族の特殊能力に愛情値チェックっていうのがあるでしょう?夫から妻達への愛情順に並ぶわよ」
なん…なんだってー!?え?それって色々とまずくない?パーティーリスト見ただけで誰がどれだけ愛されてるかわかっちゃうの!?え、それってもしもクロちゃんとリースが同時に近くにいたらどうなるの?大戦争勃発しちゃうの?
うーむ…なんだか今後すごいことになりそうな気がするのだが。
と、そのタイミングでリースが俺から離れた。というか今までずっとくっついていたのは失礼かもしれない。新しく嫁を取ったというのに、未だに言葉のひとつすら交わしていないとか頭おかしいのではないだろうか。
うん、そうだな、ティターニアちゃんとコミュニケーションを図ろう。とりあえず彼女の方に向き直って、少し膝を曲げて視線の位置を下げる。
彼女はこちらをじーっと見ていた。うん、可愛い。けれど随分と幼い。この子相手に欲情したらきっと変態扱いされるに違いない。とりあえず挨拶から始めようか。
「こんにちは、ティターニアちゃん。ヒロです、はじめまして」
「…はじめまして」
夫婦になって最初の会話がはじめまして、とか許されざる状況なんじゃないかな、うん。
「これから仲良くして貰えるかな?」
「…はい」
「そうかそうか、よーしよし」
とりあえず彼女の頭をなでなでしておく。スキンシップは大事だよな、うん。その割に彼女、すっごいびくっ!て過剰反応したけど。
とそのタイミングでアルサル王が話し掛けてきた。
「ヒロ殿。すまぬが今後はこの城でしばらく暮らすのではなく明日にも出ていっては貰えぬか?近くで過ごされるとロビンが苦しむだろうからな。あれでも儂の息子だ。立派に育てはしたものの、さすがに今回の件は奴でも堪えたらしい。明日から住む場所はこちらで手配しておくから、今日はこの王城で過ごした後は明日の朝には発ってはくれぬか?」
「あ、はい」
「ティニー、お前はヒロ殿と部屋に戻るが良い」
「は、はい、パパ」
国王のその台詞に対してティターニアちゃんが答える。ん?よくわかんないけどティターニアちゃんの愛称がティニーなのかな?それと国王のことをパパって、それはどうなんだ。いやまぁいいけどさ。
さてどうしようかな。部屋に戻るんだっけ?それじゃあスキンシップを兼ねてアレをやってみるか。
「よっ、と」
「キャッ!」
俺はちょっとティターニアちゃんをお姫様抱っこしてみた。このまま彼女の部屋まで運ぼうかと考えたのだが。
しかしリースがぎょっとした表情でこっちを見た、えっ?何?俺何か間違えた?
「ちょっ、ちょっ、ヒロ!ストップ!ストーップ!」
「えっ?」
「ふええぇ…」
抱え上げたティターニアちゃんがすごく恥ずかしそうな顔をしている。すごく顔が赤い。ぷるぷると震えている。そんな彼女を俺はとりあえず慌てておろした。
「ちょっ、あーもう!とりあえず貴方はここから出ていきなさい!誰か-!」
よくわからないうちに玉座の間から追い出されてしまった。係の人に案内されて別室で長時間待たされることになった。かなりの時間が経過してから呼ばれて、ティターニアちゃんの部屋に入ることになった。
後でわかったことだが、彼女は俺に突然抱きかかえられたことがショックで思わず失禁してしまったらしい。そういえばエルフ全般はスキンシップがそもそもとても苦手なのだった。
リースがあまりにもずっとくっついていたせいでそんなことすっかり忘れていた。やっちまったー。




