第十二話「国王印の例のアレ」
朝起きてからの会話の後、リースと一緒に二人でお風呂に入った。
以前ジゼルちゃんが妊娠した時、二人でお風呂に入ろうとしたのだが体が拒絶反応を起こすということで一緒にはお風呂に入れなかった。そういえば愛姫ちゃんが妊娠した時も一緒にお風呂に入った記憶がない。
しかしリースは全然平気らしかった。
「天罰の後遺症よ」
「後遺症?」
お風呂に一緒に浸かりながら彼女と話す。後遺症といわれると、色々とマイナスイメージしか思い浮かばないのだが。
「そうね、それじゃあ天罰の恵みとでも言い換えましょうか。前に話さなかったかしら?天罰を乗り越えさえすれば幸せになれるって」
「聞いた気がする」
それは天罰のクエストを受けた時の会話だ。既に一月以上前の話になる。今の状況がその恩恵なのだろうか。
「天罰の効果で極端にヒロのことが欲しくなったおかげで、妊娠後も本来起こるはずのヒロへの拒絶反応がほぼ完全に起きなくなっているのよ。一時的なものじゃなくて、これから一生有効よ」
「それってなんかすごくない?」
「ええ、すごいわね。だからこうやって一緒にお風呂にも入れているでしょう?」
そう言いながら彼女は抱きついてきた。うーむ。これは確かに素晴らしい恩恵なのではなかろうか。
「えっとその、実際の行為とかも出来るのかな?」
「出来るわよ。すごいでしょう?」
出来てしまうのか、それはすごい。
「しようと思えば出来るけれども、さすがに流産の危険があるから実際にするのはやめてね」
「む、そうなのか」
本来働くべき安全装置が働かないだけだからあまり推奨は出来ないってことか。ぬか喜びだったのだろうか。
リースが何か言いたそうな顔をしている。なんだかすごく恥ずかしそうな様子だ。どうしたのだろう。
「どうしたの?リース」
「えっと、そのね、だからこれからはね」
「うん」
「その、胸でしてあげるわよ。どう?試してみる?」
とても素晴らしい申し出だった。
もちろんすぐにしてもらいました。
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900/8/27 11:21
長いお風呂の後は少しだけクロちゃんの用意してくれた朝食を共有インベントリから取り出して二人で食べた。その後家から追い出され、お昼までは外で魔法の練習をするなりしていろと言われてしまった。
リースと常に密着していなければMPは十分な速度で回復しないわけだが、それを確かめておけとも言われた。
試しに色々と魔法を行使してみる。
一時的に攻撃力上昇効果を起こす強化魔法のストレングスや、防御アップ効果の強化魔法のプロテクションなどを使用してみた。なるほど確かに、MP上限が伸びている分ある程度は行使出来るとはいえ、MP回復速度が遅すぎて一度ガス欠になったらどうしようもなくなりそうだ。
やはり魔法を連続で使いたかったらリースと密着しておけってことだな。
昼になるとリースに呼ばれ、二人で昼食を取る。これまたクロちゃんが用意してくれたものである。うーむ、こんなにクロちゃんに頼りきりで良いのだろうか。
「そろそろ話しておこうかしら」
「ん?」
食事の最中、リースが突然そんなことを切り出してきた。なんのことだろう。
「ねぇヒロ。貴方って鈍いの?それともわざとやってるの?両方に思えるけど」
「うん、両方だと思ってくれると嬉しいのだけど」
うん、本当にね。
「そう。それじゃあ共有インベントリの中身を細かく確認しなかったのもわざとってことね。半分は忘れていたのでしょうけど。いつも共有インベントリの中からご飯を出す役目、私が担っていたでしょう?私に全部任せていたわよね?」
「え?うん」
そういえば、微妙にあれこれとリースに誘導されている気がした。なのでそれに素直に従っていたのだがそれで正解だったのだろうか。
それに加えて、まったく意識していなかったが共有インベントリから色々取り出す役目はリースが一手に担っていた。何か狙いがあったらしい。
「クロちゃんに根回ししておいたのよ」
「え?」
「何かおかしいなー、ぐらいは考えていたでしょ?さすがに」
「うん、そりゃあもちろんおかしいとは思っていたけれども」
うん、色々おかしい。いくらなんでもクロちゃんからのサポートが万全すぎる傾向はあっただろう。
「王城で、私の寝室に招く前に待たせていたでしょう?」
「うん」
「まず最初は指輪を買いに行くことを決めた日よ。クロちゃんに自己紹介して、ヒロにこれまでの私を奪われた代わりにクロちゃんからヒロを奪ったことを書いたわ。もう貴方だけの物じゃないってこちらからライバル宣言しておいたの。でも、これからとても大変なことになってしまう見込みだから、ヒロのことを想うのなら私に協力して欲しいということを伝えたわ」
「なんかすごいね」
うん、なんかすごいね。ライバル宣言した挙げ句協力しろだとかとんでもない主張ではなかろうか。しやしかし、そのあたりの正々堂々というのもリースの良さなのだろうか。
「次の日の夜には返信が来ていたわ。絶対に許さない、けれど詳しいことを全て教えろって言われたの。あの日の朝には既に天罰のクエストが発生していたわね。だから今後予想される事態と、その為の協力を要請しておいたわ。具体的には毎日二人分の食料や食事を差し入れして欲しい。特に後半は調理しなくても食べられる状態にしておいて欲しいってことを伝えておいたわ」
「ふむふむ」
「あとは、ダイヤリングのことも伝えたわ。ヒロの誕生石のダイヤのリングをお揃いで買ったことを伝えておいたわ。思いっきり自慢しておいたわよ」
うん。なんだか思いっきり正面衝突してないかなそれ。協力してもらう立場なのにケンカ売るとかとんでもない話に思えるのだが。
「でもそうね。そこらへんのお詫びも兼ねてしっかりお土産を選んだということも伝えておいたわ。例のお父様のマークの入った牛乳もプッシュしておいたわ。ヒロはちゃんと見てなかったかもしれないけれどいっぱい買っておいたのよ。猫族はホットミルクが大好きだって話だったから」
さすがにそれは初耳だ。ところでその牛乳って正式名称を出してしまうと色々危なかった気がするのだが。
しかしなんだろう、うん、確かにあの牛乳はこの国に来た時に飲んだ記憶があるな。確かにうまかった。いやしかしだな、まさかそれがフラグだったのか。
「つまり、クロちゃんは牛乳で買収されたと」
「そういうことよ」
そっかー(´・ω・`)
ちょっと左手に剣を装備して旅立ちたくなりますね。
「それで、そうやって根回ししておいたおかげでここでの生活を何不自由なく送れたのよ。ヒロも、食事のたびにクロちゃんのことを思い出せて良かったでしょう?」
「ん?うん、確かに」
そう、実はそうだったのである。
俺はいつもクロちゃんの家でクロちゃんと一緒にご飯を食べていた。そのクロちゃんのご飯がここに届いていたのである。普通に考えればとんでもなく迷惑な話にも思えるのだが、クロちゃんは喜んで俺の為に料理を作ってくれていたに違いない。毎日食べる料理からはクロちゃんの愛を感じた。
こんなにも離れているのに、クロちゃんは俺のことを愛してくれているのだ。しかも本気で浮気しているというのにだ。クロちゃんの愛の深さは間違いなく本物だろう。
そんな感じで話しているうちにクロちゃんが作ってくれた食事を食べおわった。食器を洗って乾かしてから共有インベントリに戻しておいた。
リースは定期的に共有インベントリを確認しているようだった。おや、どうしてだろうか。
と、リースが突然一枚の手紙を共有インベントリから取り出した。
「ヒロを追い出している間に、クロちゃんに任務完了のお知らせを送っておいたのよ。そのお返事がついに今届いたみたいね。二人で一緒に読みましょう?今回は私宛じゃなくてヒロ宛よ」
確かにその手紙には、「ヒロへ」と書かれているようだった。
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「愛しのヒロへ。リースさんとの長い闘病生活が終わったそうですね。とても心配していました。毎日送ったご飯がしっかりと食べられているので安否を確認することは出来ていましたが、私はとても不満でした。
リースさんのことは直接本人との文通で聞きました。私はリースさんのことを絶対に許しません。どうしてアナタはリースさんのことをそこまで愛してしまったのでしょうか。私には到底信じることが出来ませんでした。ヒロはいつまでも私だけの物だとばかり考えていました。その油断がいけなかったのでしょうか。
リースさんから、これからはまた忙しくなるのでもう食事を送らなくても良いと言われています。けれどアナタが欲しい時にはいつでも言ってくださいね。
共有インベントリ内の食品は腐らないみたいですね。私の料理もほかほかの状態でアナタに届いてくれましたか?だからといって作り置きはしませんよ。料理は一期一会だと思っています。同じものばかり食べていたら飽きてしまいます。
でも牛乳は別腹ですよね!たくさん届いたエルフの国の首都ロンロンの牛乳は少しずつ共有インベントリから出しておいしくいただいています。まだ数はあるのでアナタも一本ぐらいなら飲んでも良いです、許してあげます。
私は牛乳はホットミルクでいただくのがいちばんおいしいとおもいます。アナタもそうおもいませんか?ヒロがかえってきたらいっしょにおいしいホットミルクをのみましょう。
ぎゅうにゅうおいしいです あなたのつま、くろより」
クロちゃんからの手紙にはそんなことが書いてあった。なんだか最初と最後で大分違う気がするのだが。
「ねえ、リース」
「なーに?」
「その牛乳って、何かヤバイ成分とか入ってるの?」
「入ってないわよ?貴方も飲んだことあるでしょう?」
「うん、そりゃまあそうなんだけどさ」
クロちゃんは牛乳で壊れてしまったのだろうかと不安になってしまった。
クロちゃんの許しが出たので、早速一本飲んでみることにした。そのまま飲んでも良かったのだがせっかくなのでということでリースがホットミルクを作ってくれた。
牛乳ビンのサイズはそこそこでかく俺とリースの二人分のホットミルクが出来上がった。砂糖は入れるのだろうかと考えていたら、リース曰く好みに応じて普通に入れるらしい。
リースの好みであるらしい、ほどよい甘さのホットミルクを頂いた。なるほど、確かにコレは病みつきになるかもしれないな。
牛乳の空ビンで、リースの父であるアルベロン王のマークがイイ笑顔をしていた。
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ホットミルクを二人で飲み終えた後、リースと今後どうするか相談した。リースは仮にも妊娠中なのだから、俺の屋敷に帰ろうかとも考えていたのだが。
「まだ帰らないわよ」
「そうなの?リースの体は大丈夫?」
そう、そこが心配なのだ。身重…というほどまだお腹は膨らんではいないが、妊娠中の妻を連れ歩いて旅をするのか?
「大丈夫よ、ちゃんと気をつけておくから。それに、ヒロが長期間たっぷり愛してくれたおかげで、私の体力スキルも大幅に上がっているからまず安心よ」
リースが少し照れながらそんなことをいう。
そう、そうなのである。
リースは元々避妊していてその期間中の成長に加えて、天罰の影響かその後もなかなか妊娠しなかったのでとても長期間俺と交わることになっていた。俺とのステータス差も今はほとんど埋まってしまっているのではないだろうか。
さて、では帰らないならどこに行けば良いのか。
「私と一緒にハイエルフの国とダークエルフの国を回りましょう。神の意図はわからないけれど、やれることは早めにやっておくべきだわ。これまでも各国の姫を娶ってきたのでしょう?ならばその流れを今は続けておけばいいと思うわ」
「えっと、リースはそれでいいの?」
うん、リースがわざわざ付いてきてまで、俺が他の女に手を出すのを眺めるというのか?
「いいわよ。ヒロは私だけを見ているだろうって自信があるから」
「うわ、なんかすごいね」
「それに、必ずしもやらせないわよ」
「え?」
え?やらせない?やらせないってなにを?もしやナニを?
「貴方ね、もしも各国の姫が怒られるぐらい小さな子だったらどうするつもりなの?今まではたまたま丁度良い年頃の娘達ばかりだったかもしれないけれど、今後もそうとは限らないのよ?貴方は若い子が好きで、あまりにも年上はキライなんでしょう?元の世界では少なくとも三十歳を超えていたくせに、出来れば見た目二十前半までの若い子じゃないとイヤなんでしょう?」
「えっ、えっとそれは」
そう、そうなのである。具体的に何歳で死んだのかまでは憶えていないが、少なくとも三十は超えているはずだった。
だからこう、妻達が歳の点だけみれば随分と下なので、自然と年下扱いしてしまっている傾向はあるのだが。
「とはいっても貴方の今の肉体は神様いわく二十歳みたいだしこれ以上追求するのはやめておくわ。でもあなたの今の肉体年齢に対して年上の女性を避けるということは、まだ十分に育ってない子しか選べないということも今後増えてくるってことよ。ユーロ国の姫だったかのジゼルちゃんは見た目こそ幼くてもギリギリセーフな歳だったんでしょう?そこまでなら別に良いのよ。けれど、各国の貴方よりも年下のお姫様がまだ手を出すのにムリがあるようなら、させないわよ」
うーむ、何やら釘を刺されてしまった感じだな。いやしかしそこまで考えたことはなかったよ。
「それにね、ハイエルフ国のお姫様にはちょっとしたアテがあるのよ。その子は絶対にやらせないからね」
そう語るリースの瞳からは結構な強い意志の輝きを感じる。うーむ。結構本気であるらしい。
ロリコン、ダメ、ゼッタイ、ってことなんだろうか。まぁそれでも一応楽しみにはしておこう。
次の日の朝にはこの二人の愛の巣を出るらしい。
うん、確かにまさに二人の愛の巣だったな。リースも俺の子供、男の子を妊娠したわけだし。
その日の夜は寝る前にリースにお風呂で気持ち良くしてもらった。この世界ではあまりそのような行為は好まれないらしいのだが、俺がそういうのが好きみたいだからやってくれているらしい。なんともありがたい話だ。
例のトルッコ流も男をその気にさせるのが本来の目的で、その行為自体がメインではないそうだ。
スッキリとした後は二人で一緒に眠った。
意識が落ちる前にUIで確認してみたが、リースの状態表示欄には今朝と同様にハートマークと♂マークがキラキラ輝いていた。
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目を覚ました俺は、今日もUIで時間を確認する。
900/8/28 7:02
もうすぐ夏も終わりだろうか。東大陸で妻達と七夕を祝ったのが随分と前のことのように思える。
そういえばあの時の短冊に俺は確か「可愛いエルフの姫ちゃんとちゅっちゅしたい」とか書いたんだったか?
ちゅっちゅするどころかあっという間に最愛の人になってしまった。
隣で寝ているリースに目を移す。一目見た時からそう思っていたが、今も変わらず俺の好みにガッチリ一致する理想のエルフの姫ちゃんだった。
今はエルフの新妻とでも表現するべきだろうか。
彼女の指には二人で選んだダイヤリングが填められている。この世界ではあまり一般的で無いらしいが、形として見えていることは嬉しい。彼女は俺の物だ。
指輪を見ながら、UIの確認を怠るなと言われたことを思い出す。こういったタイミングでささっとクエストが用意されることは比較的多い気がする。
前から随分ご都合主義だよなとは思っているが、相当ヒドイものが来ない限りは今は素直に従っておくつもりだ。
UIの再確認を再度始めたその途端、システムメッセージの黄文字がログウィンドウに躍り出た。
Smes:新たなクエストが発行されました。クエストリストよりご確認ください。
うん、やはりこういうタイミングでくるのか。魔物の巣攻略みたいな戦闘系クエストはやめて欲しいが、今度はなんだろう。
クエスト:紳士
目標:条件を満たした上で一定期間我慢すること
なんだこれ?
クエスト:紳士
例え購入したからといって何も考えず見境なしに相手の女性を襲うというのは紳士の風上にもおけない行為だと言えるでしょう。熟す前の青い果実は強引にもぎ取るような真似はせず、愛でて育てて向こうからやってくるように仕向けるべきです。
今回のクエストは、そんな紳士たる振る舞いを身につける為のものです。
購入した女性とのスキンシップを適度に保ちつつ、そのうえで一切直接手を出すことはせずに我慢してください。適齢の女性相手に我慢を続けることは難しいでしょうが、未成熟の女性相手に我慢することぐらい紳士ならば当然可能であるはずです。イエスロリコン。イエスタッチ。本番、ダメ、ゼッタイ。
ふむ。
うん、大丈夫だよ、俺は既に紳士だからね。
大丈夫さ。大丈夫なはずだとも。
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900/8/28 8:10
リースと一緒に朝食を食べ、その後外に出ると何故か既に馬車が待っていた。ちなみに食材はある程度まとまった量が共有インベントリ内に入っているらしくそれを使ったとのこと。
それにしても何故馬車が待っているのだろうか。どうやって連絡したんだ?電話も無いのに。
「電話なら一応はあるわよ。各国の教会にだけ置いてあるという話はしたわよね?」
「うん」
そういえばそういう話だったか。もっと一般にも普及させたら良いと思うのだがどうも神様はそこらへんの設定にうるさいらしい。
「クロちゃんに頼んで、ユーロ国の首都教会からこのアルフへイム国の首都教会に連絡して貰ったのよ。今日の朝にここに着くように、迎えの馬車を寄越して欲しいって」
何だかクロちゃんがヒドイ使いっ走りをさせられているようにも思えるのだが、しかしきっと俺の為にやってくれているのだろう。確かにムダに時間を過ごすよりも助かるのは事実だ。クロちゃん本当にありがとう愛してる。
馬車に揺られながら今日の予定を確認した。
今乗っている馬車で一旦首都ロンロンに戻った後、必要なものを軽く仕入れてから次の目的地、ハイエルフの国アヴァロンを目指すらしい。お、なんだか少し国名とかがそれっぽくなってきたじゃないか。少しそこらへん期待しても良いのだろうか。
「どうでしょうね。ヒロの世界では色々な物語の元ネタに使われているのかもしれないけれど、あまり期待しすぎるとガッカリするかもしれないわよ。私にはよくわからないけれど、どうにもこの世界はヒロにとってはところどころ残念なことになっているみたいだし」
うん、確かにそこそこ残念ではある。せっかくリースと密着することでモリモリMP回復するのに攻撃魔法が無いところとか、残念じゃないか。
「でもヒロ。この世界に来て良かったって思えているでしょう?」
「うん」
「うん、じゃないでしょう。もっと他に言うことがあるでしょう?」
「あぁ、この世界に来て、リースと出会えて、最高だ」
そういうと彼女は馬車の中で俺に抱きついてきた。俺はそんな彼女を抱きとめ、抱きしめる。
うん、この世界に来て本当に良かったな。リースの綺麗な長い金髪を撫でながらそんなことを思った。
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900/8/28 11:21
首都ロンロンに着いて、まずは国王に挨拶しにいった。
「お父様、人払いをお願いしても宜しいでしょうか」
リースがそんなことを言ってそれを国王が了承する。兵士達は特に渋らずにささっと外へ退出していった。
この世界では相変わらずPKが神のルールで禁止されており、王の護衛を外すことには何の問題も無い。兵士達は警備員というよりも王宮内の連絡係の側面が強いらしい。
「お父様に以前お話した通り、私は禁呪を用いました」
「うむ、憶えておる。まさかそれが成功するだとはな。儂も驚いたよ、リースがたった数時間神の使徒殿と話しただけで彼にそこまで心の底から惚れているだなどとは信じられなんだ」
俺との初夜を迎える前、リースはそのあたりのことを既にアルベロン王と話していたらしい。その後の予想される流れなども既にその時点でわかっていたようだ。
「ここに戻ってきたということは、既にお前の中には使徒殿の子が宿っているということだな」
「はい、お父様」
「そうか。話には出ていたが、愛の奇跡は用いたのか?」
「はい、お父様。私は男の子を生みます。必ず強い子を生んでみせますわ」
リースがそう言うと、王は片手で少し目をおさえていた。泣いているらしい。それは嬉し涙だったのだろうか。
国王は俺の方に向き直りこう話してきた。
「すまなかったな、使徒殿。儂はそなたに娘を取られないように画策しそれを破られる形になったが、神の采配は決して間違ってはいなかったようだ。儂を許して欲しい。そして儂の娘のリースをこれからも大切にしては貰えるだろうか」
「はい、必ず大切にします」
「そうか…ありがとう。子供が生まれてある程度落ち着いたらいつか孫の顔を見せにきてはくれんか」
「はい、もちろんですとも」
俺がそう答えると王は、うんうんと頷いた後少し表情を整えてからこう告げてきた。
「今後我がアルフヘイム国は、使徒殿に全面的に協力することを約束しよう。娘のリースを強奪したことにより広まったヒロ殿の悪名も、我が国の方で長い時間をかけてでも雪いでみせよう。此度の使徒殿に課せられた使命がどのようなものなのかそれは儂にもわからぬ。だが、ご武運を祈っている」
そういって王は下がっていった。何か色々と思うところがあるのだろう。俺とリースは首都ロンロンの王城を後にした。
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昼には良い時間だったが、王城で王と食事を共にすることはなかった。王も泣き顔で食事をするのはイヤだったのかもしれない。
なので首都の街に出て、リースと二人で食事をすることになった。
この国が畜産に力を入れているおかげで牛ステーキが安く食べられるらしい。名物である牛乳もいただいておく。王は泣いていたが、牛乳ビンに描かれたアルベロン王のマークはやはりイイ笑顔をしている。いつか孫の顔を見せたらあの王もこんな顔をするのだろうか。
「今日はこの後、また色々とお土産を買ってから隣の国へ向かうわ。牛乳もたくさん買っておかないとね」
「ええっと、またクロちゃんを買収するの?」
「その言い方はあまり良くないわよ。彼女の好物を贈ることに何の問題もないでしょう?」
うん、それもそうか。
お土産屋で名物の牛乳をたくさん買って共有インベントリに入れておいた。俺はこの共有インベントリの容量がどうなっているのか気になっているのだが気にしたら負けらしい。ただし、容量に関しては共有されている人数分どんどん拡張されていくのだそうだ。
今は俺と、クロちゃんと、愛姫ちゃんと、ジゼルちゃんと、フリマさんと、そしてリースの分で初期の6倍の容量になっているということらしい。
「だからといってインベントリの容量を広げる目的で大した理由もなくお嫁さんを増やすのは絶対にダメよ」
「うん、さすがにそれはしないよ」
なるほどそういうことも出来てしまうのか。となると各国の王や王子がハーレムを持つのはそういう特典がついている面も関係しているのだろうな。しかし家族ならば誰でも自由に取り出せてしまうのだから色々と危ない気がするのだが。
うん、夫婦は信頼関係が大事ってことだ。
その後は次の首都までの馬車に乗るのだが、なんと次の国の首都に着くまで二十四時間もかかるらしい。次の首都までの連絡馬車はとんでもない超大型の馬車だった。こんなものはちょっと元いた世界には存在しないのではなかろうか。
馬が一頭、二頭…なんだ?二十以上いるんじゃないのか?ありえん。
「寝台馬車ね」
「なにそれ?」
「生活施設や寝所がついている馬車のことよ。ヒロの世界には電車?とかいうものがあったのでしょう?国道上でなら国道から不思議な力が送られてくるおかげで、色んな設備が利用出来るのよ。逆に言えば国道以外ではこんなものは使えないわ。色々とヒドイことになるわね」
うん、ちょっと想像するのはやめとこう。
エルフ国とハイエルフ国の間の区間は、ユーロ国とニッポンポン国の間と同様ほとんど何もない状態だった。いや、あるにはある。牛の姿がたくさん見られた。しかし貿易用の宿場街みたいなものは存在しなかった。
エルフの国アルフヘイムとハイエルフの国アヴァロンはとても仲が悪かったらしい。ニッポンポン国がユーロ国ではなくトルッコ国経由で貿易を行っている関係で沿道がスカスカになっているのと同じ状況だろうか。そんなエルフ国とハイエルフ国の仲を改善する橋渡し役としてのリースとハイエルフ国の王子、既に名前は忘れた、の結婚予定だったが俺が強奪してしまった。うん、これは、次の国では歓迎されない気がしますね。
「私を強奪したこと、後悔してる?」
「全然。リースは誰にも渡さない」
「そう言うと思ったわ」
寝台馬車の中で、そういってリースは微笑んでくれた。




