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【glory of zero】  作者: 小鳥遊甘楽
第一章 金の懐中時計
3/5

第2話 【懐中時計と狼】

足音の正体は――――



――狼。とてつもなく巨大な狼だ。



唖然とし、そのまま武器を落としてしまいそうになる。

2人とも口を開けてぽかーんとする中、現れた巨大狼はハッハッと絶え間なく息をしていた。


大きな体といっても、毛もあるのでかなりもっふもふで、全体的に白い。

毛は頭の方が逆立っていてライオンのような迫力がある。

大人すら一飲みされてしまいそうな巨大さは、とても普通の狼とは到底思えない。

なんなんだろうか。新種だろうか。いや違う。


「あー・・・・・・あは。」


無意味だと知っていて、アレンは少しその狼に笑いかけてみる。

もちろんガン無視だが、なんとなく睨まれたような気がした。

心なしか歯を見せグルルル、と唸っているような気もする。あれ、なんかショックだわ。


その狼は威嚇?しながらのそのそと重そうな体を動かし、歩いて此方にやって来る。

これはヤバイのではないかと警戒し、アレンとエルナは銃を自分の胸の前に構えて一歩後ろに下がった。

大体なぜこんなところに狼がいるのだろうか?

これが、まさか・・・侵入者なのか?


狼はとうとう地面を蹴り、アレンに飛びかかる。

この巨大さからして飛びかかられればもう術はない。

あまりに動きが速すぎてこの間に動くことすらできない状況だ。


周りには速く見えても自分にはなぜかスローモーションに見え・・・と思ったら遅かった。

バッ、と飛びかかられ、流石の18歳でもブッ倒れてしまい、気づけば自分の上には狼が跨っている。

お仕舞いだ、なんて思いながら強く目をつぶると――それから何秒たっても何もされない。

うっすら目を開けると、狼はなんとアレンのズボンのポケットをガン見していた。

かと思えば大きな前足でちょいちょいつついたり、匂いを嗅いだり。


「・・・え?俺のポケット?」


あまりに不思議で、緊張すら溶けてしまった。

傍で見ていたエルナを思わぬ出来事に腰を抜かしそうになり、フラフラする。

別にアレンのポケットに香りがするものは入っていないし、餌も無い。

アレンが起き上がろうとすると、狼は礼儀正しくサッと避けてくれた。(何故飛びかかったのだろうか)

エルナは不安そうな顔をしながら相変わらず銃を強く握りしめていて、いつでも発泡準備OK。

それでいてアレンは全く不思議な顔をして、数秒間狼と見つめあった後自分のポケットに手を入れた。

ガサゴソと探ると出てきたのは――いつも使う銀の懐中時計。

でもまさか狼が時計なんかに興味を示すわけがない。この時計が臭いのだろうか?


「ワフ」


いきなり軽く吠えた狼に少し驚く。

エルナは危うく銃の引き金を引いてしまいそうになり、カチリと小さな音を立てる。

やはりこの時計なのだろう、アレンがポケットから出してすぐに目線を時計に向けている。


「これ、か?」


ヒョイと時計を見せると、狼はそれからじーっと時計を見つめる。

あまりにもじっと見つめるもので、蓋を閉めていた時計をカパリと開ける。

すると、アレンがいつもの見慣れた文字盤が露になる。

今もカチリカチリと秒針が一秒ごとに絶え間なく進んでいる。

―だが、アレンも昔から謎だった、文字盤の中の『Ⅻ』の場所ある青い宝石のようなもの。

Ⅻの上に宝石が付けてあるため丁度見えない。つまり、宝石をⅫと見るしかないわけで。

とても美しく陽光に照らされれば不思議で魅力的な光を放つ。

でもなぜこれが取り付けてあるのかが意味不明だった。

ボタンというわけでもないし、どうにも飾りというわけではないらしい。

そして、陽に当てなくてもたまに不定期に自分で発行することがある。

それを知った日からこの時計はただの時計ではない、と気付いていた。

まぁ、なす術もないので普通に使っているが。


「オォン」


狼は一声発すると、いきなり時計の文字盤に前足を触れた。


「ちょ、爪で傷が着・・・・・・」


そこまで言いかけたとき、文字盤に触れる前足が――いや、文字盤そのものが青く光り始めた。

思わず目を疑うが、どうやら幻ではないらしく。

全体が光っているのは確かだが、いつも謎な青い宝石も強い光を放っていた。

なんなんだこれは、と慌てる。しかない。

有り得ない、なぜこんなことに?時計、どうした何があった?


「なななななんだ!!?」

「え・・・そ、それ、ななななんなの!?」


エルナもその様子を見て同様のあまり今までミシミシと悲鳴を上げさせるほど握りしめていた銃を

かしゃーんと派手な音を立てて落としてしまった。


時計の光は序々に増していくが、相変わらず前足を文字盤に触れさせたままの本人・・・本狼は

なんの迷いもうろたえることもなく動くこともなくそのままの姿勢。

大きさ的にも可笑しいがやっぱりこの狼は可笑しかった。


ぱぁっ、と今までよりかなり強く発光した時計の青い光りは目を眩ませ何も見えなくなった。

遠のく意識の中で、ふと狼は此方を見て笑ったような気がした。




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