いきなりかも
「ありがとう。キミたちのおかげで本当に助かった。
ああ、ワシはココの人間のリーダーをやらせて貰っている、ヴァレンタインという者だ。
ヴァルと呼んでくれ。」
「俺はターク。こいつはエル。あとセリアにマナミ。今降りてきたのがミュー。」
「なんと言うか、スゴいメンバーだな、キミたちは・・・。あの幻獣どもを退けるとは。」
「まぁ、人間なのは俺とエルだけだし。って、幻獣っていうのか、アレ。」
「そう呼んでいるだけでね。本当の呼び名など知らんよ。」
「人間はもう、ココにしか居ないのか?」
「判らん・・・調べる術も無いのだ。」
「とにかく話を聞かせてくれ。少し休みたいしね。」
「おぉ、すまん。今ワシの屋敷まで案内しよう。大したもてなしは出来んが。」
「いや、お気遣いなく。少々休ませてもらえば。」
50年前。
この大陸で、精霊と交信出来る者たちは、ある情報を得た。
大陸中央にそびえる、トアララ山に”何か”が来た、と。
いつの間に来たのか。何処から来たのか。見た事も聞いた事も無い”何か”が来た。
それを聞いた者たちは、それを人々に伝えた。精霊から聞いた、と。
だが、人々は耳を貸さなかった。それどころでは無くなったからだ。
魔獣が大挙して、人里に現れ始めていたのだ。何度撃退しても現れる。
だが、ようやく魔獣も減り始めた。もう安心だ、そう思い始めたところに現れたのが幻獣である。
人々は理解した。
魔獣はこいつらに逐われて来たのだ、と。幻獣は、魔獣すら殺戮するのだから。
人間が敵う相手では無かった。切り札である魔法がほとんど効かない。
と云って、物理攻撃は装甲に弾かれる。余程の手錬でなければ倒せるモノではない。
しかも、地を埋め尽くすほどの大群だ。
軍隊も城壁も、奴らを止める事は叶わなかった。
王も貴族も平民も奴隷も、皆殺された。
人間が、この狭い半島以外から姿を消すのに、50年しかかからなかった。
「1万、ですか。」
「そうだ・・・全部あわせて1万人。この大陸の人間は、もうこれしか居ない。」
「エルフとかは居ないのですかっ?」
「エルフも獣人も居る事は居るが・・・数えるほどだ。」
「この大陸に、龍はおらなんだのか?」
「居たよ。トアララ山にね。」
「っ!そこにそやつが・・・。」
「そうだ。龍を見たのは50年ぶりかな。」
「真っ先に滅ぼされたのか・・・くぅぅ。」
「こう言ってはなんですが、良く生き残れましたね?」
「我々は、精霊と交信出来る者の集まりなんだよ。残り僅かな精霊が助けてくれなければ・・・。」
「ですが、さっきの戦いには、精霊さんたちは居ませんでした。」
「彼らは、下手に奴らと接触してしまうと、消え去っててしまうのだ。
そして多分、新たな幻獣になってしまう・・・。」
「精霊が幻獣になるのか?」
「そうとしか思えんのだよ。精霊が減ると、幻獣が現れる。その繰り返しだったのだ。」
「じゃぁ、精霊がいなくなったら、もう幻獣も・・・。」
「精霊が居なくなれば、どちらにしろこの世界は終わりだ。幻獣がどうであろうとな。」
「・・・精霊さんは、自然の力そのものなんです。精霊さんが居なくなれば、大地も海も風も、死んだも同然です。」
「それを減らして幻獣を増やす、か。一石二鳥だな。」
「だが、何のためにだ?仮にこの世界を支配しても、残っているのはただの抜け殻だ。」
「支配なんてしないからさ。壊したいだけ。」
「壊すだけなら、世界そのものとも言える精霊を、破壊の権化にしちゃえば・・・。」
「放っておいても世界は滅びる、です。」
「な、何故だ、世界を滅ぼして何になるのだっ!?ソイツは一体何者なのだ?!」
「話せば長くなるけど・・・良いか?」
「構わん!知っている事を教えてくれ!」
「キミがココに飛ばしたのでは無いのか?」
「判らない。その世界で消し飛ばした後、アイツが何処に行くのか判らない。」
「本当なのか?キミがこの世界を選んで飛ばしたのでは・・・。」
「ふざけないでっ!なんでタークがそんな事しなきゃならないのよっ!」
「自分の選んだ世界に飛ばし、そこで倒せば英雄だろう?王も夢じゃ無い・・・。」
「そんな・・・。」
「50年、50年だぞ!キミがもっと早く来ていれば・・・。」
「それはタークのせいでは無かろうっ!」
「いや、そうかな?50年、前世の世界で面白おかしく暮らしていたのだろう?
そんなヒマがあったのなら、何故すぐにソイツの後を追わなかったのだ?
ソイツが降りた世界の住人など、どうでも良かったのではないのか?」
「後始末ってのがあってな、死ぬわけには行かなかったのさ。」
「キミがそう言ってもね、証拠はあるまい?
現にここでも美女を侍らせ、遊び半分で旅して来たようだしね?
前世でも、ソイツを倒した後は贅沢三昧に暮らしていたんだろうよ。」
「っ!タークの事何にも知らないくせにっ!」
「ふん。女たらしは得意なようだな。」
「このっ!」
「よせ。何言われても仕方ないさ。」
「でもっ!」
「50年遅れたのは、間違いなく俺のミスだ。もっと早く来るべきだった。」
「じゃ、じゃが・・・死ぬという事なんじゃろ?」
「そうだけどな。次の世界がある以上、長生きはすべきじゃなかった。
後始末は子孫なりに任せてくれば良かったんだ・・・。」
「そんな事・・・。」
「もうそんな事はどうでも良い。今は現状をなんとかしないと。
ジジイ、食いモンとか足りないんじゃねーのか?」
「ジ、ジジイだと!ワシは・・・。」
「うるせえ。人の事散々言ってくれたんだ。ジジイでもぬるいわ。
とにかく足りないモノを言え!」
「ぬぐぅ、・・・そ、そうじゃ、食糧も薬も、いや何もかも足りぬ。」
「エル、転移で・・・。」
「解った。持てるだけ持ってくるわ。」
「私たちも行きます。」
「今あるのは全部置いてけよ。」
「無論じゃ。」
「あ、カネは・・・。」
「大丈夫です。」
「行って来るわ!」
「行くのか?」
「仕方ねーだろ。俺の仕事だ。」
「あの娘たちを置いてゆくのか?」
「ああ。アイツぶっ飛ばしたら・・・。」
「自ら命を断つつもりか。」
「しょうがねーだろ?あの人たち見ちゃったら。せめて10年早ければ、こんな、こんな・・・。」
「ワシのせいか?」
「いや、ジジイのせいじゃねーよ。俺も心のどっかで感じてた事だ。
俺の過去の人生も、今のもだけどな、楽しかったんだよ、スッゴく。
苦労もしたけど楽しかった。でもアイツは・・・。
俺だけなんだよ。アイツを楽にしてやれそうなのは。だからもう、アイツを待たせるのもナシだ。
アイツぶっ飛ばしてウハウハムフフハーレムの予定だったけどさ、
俺がそんな事してる間に、次の世界がこんなんなっちまうんだ。
あの娘ら遺して逝きたくはないさ。けどあいつら付き合せるわけにもいかんだろ?
もうキズモノにはしちゃったけど、良い相手見つけて長生きして欲しいもんだ。」
「それで納得するかな?」
「俺が死んでれば、納得するしかないだろ?あいつらバカじゃないから、後追いとかはしないさ。」
「何故解る?」
「解るんじゃない。知ってるから。あいつらは、俺の遺志を無駄にしたりはしない。絶対に。」
「逝かせたりもしないわよ。」
「っ!」
「勝手に逝くのは反則です。」
「最後まで一緒のハズであろ?」
「今更仲間外れはイヤですぅ。」
「い、いやでもその・・・。」
「後追いなんかしないけど。」
「一緒に逝くなら別です。」
「お、お前らを死なせるわけには・・・。」
「そなたを死なせるわけにもいかんのぅ。」
「どーしても、か?」
「どーしても、ですぅ。」
「ひとつ良いか?」
「なんだジジイ。」
「その宿敵、必ず倒さねばならんのか?」
「いやまぁ、今までそうだったし。」
「封印とかどうだ?」
「!」
「そ、そっか、この世界で封印しちゃえば・・・。」
「他へは飛べぬの。」
「それなら死ななくても良いですね。」
「ジジイさんナイスですぅ。」
「・・・そんな簡単にいくかな・・・てか俺ってバカ?」