すぴーどあっぷ
黄金の龍が、地に伏している。別に怪我しているわけでは無い。そうしているだけだ。
その正面には、黄金龍の倍はあろうかと云う大きさの、濃緑の龍が対峙している。
緑龍は、自らの大きさを誇示するかのように、首をもたげ、翼を広げている。
緑龍が後脚で立ち上がり、空に向けて咆哮する。決闘開始の号砲代わりか。
ドラゴン同士の強弱は、身体の大きさに概ね比例すると云って良い。
本来なら、ミューに勝ち目は無いに等しい。
だが、自身の力に溺れ驕るのみで、自ら鍛錬なぞした事も無い一般の龍とは違い、彼女は多くを学び、そして自らを鍛えて来た。
ミューが跳んだ。翼を用いて飛ぶのではなく、四肢のバネで跳んだのである。
黄金の弾丸が宙を跳び、半回転する。鞭のごとく撓った尾が、緑龍の脳天を痛打する。
そのまま後脚で着地すると、再び跳んで下からの顎への頭突き。
ドラゴンの闘い方とは思えぬ、スピーディな動きである。
顎を打たれ、仰け反る緑龍。無防備に晒された腹部に、今度はドロップキックが入る。
堪らず前のめりになると、頭部を尾で横殴りにされる。
よろめく暇も無く、追い討ちに頭突き。再び尾。ふらつくトコロへ尾で足払い。
轟音とともに緑龍が倒れる。すかさず頭部にストンピング。
一方的である。あまりにも一方的である。
やがて緑龍は、動きを止めた。
黄金龍は大きく口を開けると、虹色のブレスを放つ。
小さな黄金龍が、自身に倍する緑龍を屠った。
村中の人々が歓声を上げた。
事の発端は、この大陸に来て、最初の村に入ったところで出会った行列である。
ムフフな4日間のあと、俺らはまた壁を抜けた。
毎回西側の壁を抜けようと決めていたので、今回も大陸の東部に上陸し、人里を目指したわけだ。
そこで異様な行列に会った。
ハデハデなのに、人々の顔は暗い。ピンと来た。
生贄。
近くの山に住み着いたドラゴンが、近隣の村々に要求したのだ。逆らえば滅ぼす。
だがちょっと違った。生娘寄越せ!では無かったのだ。
食い物寄越せ、だったのだ。
だが、その量がハンパじゃなかった。しかも毎月である。
村々は窮した。持ち回りで献上するにしても、元々豊かとは云えないのである。
限界だったトコロに俺らが来た。
俺が出向いて始末してやろうと思ったんだが。たまにはヒーローしてみたいかな、と。
だがミューが言った。
わらわが行く。同じ龍族として、斯様な所業は許せぬ。わらわが誅す。
相手は大物だと聞いた。ミューの倍はあると云う。
心配したが、ミューの決意は固い。
まぁいざとなったら、ヘルプしてやれば良いか、と思っていたのだが。
冒頭の顛末である。
あそこまでとわ・・・。
怪獣映画のごとく、ドッカンバッキンと、スローモーな闘いになるんだろうと思ってたのに。
いや、緑のほうはスローモーだった。ミューが速過ぎなんだ。
小柄なほうが素早いのは分かる。だがあれはそんなレベルじゃ無い。
ブレスすらトドメのみである。 被ダメゼロである。強すぎだろ。
村はお祭り騒ぎだ。当然だが。
人間体に戻ったミューは、村人に囲まれてもみくちゃである。
近くの村の人々までやってきている。まぁ同じく被害者だったんだもんな。
皆口々にミューを讃え、礼を述べていく。泣いてる人も多い。
流石に男衆はやらないが、女性や子供たちにハグされ、まつわりつかれてあたふたしてるっぽい。
ちみっこだけに、もう人垣に埋もれて見えないのだ。
なんか悲鳴っぽいのを上げ始めたんで、そろそろ救助してやるか。
「うぅぅぅぅ、酷いのじゃ。なんでもっと早く助けてくれぬのじゃ!」
「あれは英雄の義務なのよ。」
「です。村を救った英雄の責務です。」
「感謝されるのもお仕事ですぅ。」
「・・・いや面白かったから。」
「っ!やっぱりか、やっぱりそれだけなんじゃなっ!」
「バラしちゃダメじゃない。」
「でもさ、ちみっこがデカブツやっつけたんだぜ。盛り上がって当然。」
「うぅ、人間体がちみっこなのは認めるが・・・あれでも57mあるのに・・・。」
「なら、体重は550tですね。」
「っ!何故それがっ?!」
「57mつっても、首とシッポで半分あるからな。胴体は30mも無いだろ。」
「まぁそんなところじゃの。」
「黄金龍って強いんですねぇ。」
「いえ、あれは種族の差だけじゃ無いわよ。」
「ミューちゃんが強いんです。」
「だよなー。緑のほうが止まって見えたぜ。」
「にゃぁ、ミュー様スゴいですぅ。」
「///て、照れるではないか・・・。」
「しかしお前、いつの間にあんな・・・。」
「エルに教わったのじゃ。カカト落しの代わりにシッポを使ったりしたがの。」
「頭突きもアレンジよね?」
「うむ。龍体だと手足が短いのでな。本来は掌底打じゃ。」
「シッポ足払いもカッコ良かったですよ。」
「う、じ、実はアレは、後ろ回し蹴りするハズじゃったのじゃが・・・。」
「後ろ回しする龍って・・・お前しか居ないな、うん。」
「それにしても圧倒的だったわね。」
「ですー。緑さんが哀れになっちゃいました。」
「緑の龍は、ブレスとか吐けないんですかぁ?」
「吐くヒマを与えなかったのじゃ。あやつのブレスは毒なのでな。」
「吐かれたら大惨事ってか。」
「では、最後に焼き尽くしたのも・・・。」
「そうじゃ。あやつの毒が大地に滲み込んでは一大事じゃからの。」
「うむうむ。こんな立派に育って・・・お兄ちゃんは嬉しいぞ。ナデナデ。」
「///はぅぅぅぅぅ。」
「でも、今夜の当番は私だからね、ミュー。」
「うぅ、残念なのじゃ・・・。」
「ここにも居ない?」
「居ないなー。けどまだ4つ目だしな。大陸。」
「いくつあるんでしょう。」
「52個とかあったら大変ですぅ。」
「せめて13以内にして欲しいのぅ。」
「もうちゃっちゃと次行こう。さっさとアイツぶっ飛ばしたい。」
「急にどうしたの?」
「だってお前、ハーレム実現だぞ。お前ら食べ放題なんだぞ。
アイツぶっ飛ばせば、旅しなくて済むんだぞ。
家帰って引き篭もって一日中ヤリまくりたいっ!」
「///バ、バカ。」
「///そんな大声で恥ずかしい事を・・・。」
「///で、でもそういう事ならぁ。」
「///わ、わらわたちもやぶさかでは無い。」
「抜けたぞ。」
「おぉ、って、こりゃ・・・。」
「そ、空が・・・。」
「真っ黒です・・・。」
「もしかしてぇ?」
「ビンゴかも。」
「陸地に急ぐぞ。」
「・・・この界、精霊さんがほとんど居ません。応答が無いです。」
「気配は・・・本当にちょびっとだけですぅ。」
「大当たりっぽいな。」
「戦さじゃ!」
「こっち側は人間ぽいけど、あっちは・・・魔獣?スゴい数だが。」
「普通の魔獣じゃないですぅ。」
「精霊さんの気が感じられます。」
「って、魔獣からなの?」
「はいぃ、魔獣と精霊の気が混じってるような・・・。」
「融合だと・・・アイツ、そんなワザを・・・。」
「魔獣と精霊が合わさっておるのか・・・強いであろうの。」
「ココが最前線だとしたら、人間なんてもうココに居るだけなのか?!」
「ミュー、ブレスで焼いて!私たちは魔法で!」
「心得た!」
「私は降りますぅ!」
「待て。全員降りるぞ。見ろアッチ!」
「空戦になるか・・。久々に腕が鳴るのじゃ!」
「俺らは飛び降りるぞ。」
「ちょっと高い気が・・・。」
「これ以上下げると、ミューが不利になる。」
「うむ。頭を取られたくは無いしの。」
「私、精霊さんが居ないと、ちょっと痛いかも・・・。」
「私に乗ってくださいですぅ。」
「お前、そーゆー姿にもなるんだ・・・。」
「これが本来ですぅ。猫又なんですよぉ?」
「・・・忘れてたかも。」
「もう来る!降りろっ!」
「行くぞっ!」
敵は予想以上に強かった。
魔獣の生命力と精霊の魔力を兼ね備えてるんだから。おまけに武装してやがる。デッカい斧とか矛とか。
装甲がハンパなく硬い。普通なら、なんの抵抗も無く斬り裂けるハズの俺のチート刀にさえ、手応えがあるのだ。見た目はそうだな、全身鎧着込んだトロールみたいな奴ら。
エルも魔法がほとんど効かないと見るや、速攻肉弾戦をやっている。彼女の剣では貫けず、装甲の隙間を突く以外ダメージは与えられないのだが、それを難なくやってのけている。恐ろしい娘。
セリアはマナミに跨り、俺やエルの死角に回ろうとする奴らを射ている。こちらも装甲は破れないが、目などの急所を正確に射抜いている。こっちも怖い娘。
マナミは、特に攻撃はしない。自分たちが囲まれないように、的確かつ素早く動いている。
でなければ、セリアは射撃に集中出来ないだろう。大したネコである。
ミューはドッグファイトの真っ最中である。敵は一回り小さい有翼魔獣?なんだが、動きはミューに遠く及ばない。
背後から、正面から、ブレスを喰らって堕ちていく。手足やシッポで叩き落されるのも。
トドメに俺が究極魔法その一”メテオ”を3発ぶち込んで、魔獣?の群れは潰走した。
メテオは魔法だが、当たるのは実弾だからね。奴らにも効く。
俺らの参戦によって、押し捲られ全滅寸前だった人間の軍勢はかろうじて生き残った。