出会い?
俺とエルたち兄妹が知り合ったのはいつかって?
そんな昔の事は憶えていな・・・いるか。
思い起こせば7年前。
母さんの騎士時代の先輩っつー女性が、旦那と子供たちを連れてウチの屋敷に遊びに来たわけだ。
ぶっちゃけ、その子供たちってのがあの兄妹なんだが。
ウチは公爵家、アチラも伯爵家。押しも押されもせぬ貴族様である。
両家とも身分がどーの家格がどーのとか云う下らん階級意識とは程遠い家風なものの、貴族は貴族。しかも名門。
平民の子供たちとは簡単に遊んでもらえるわけも無く、狭~い世界でチマチマと遊ぶしか無かったさ。
まー俺は、中の人?がアレなんで、二つ下の妹が出来た時は喜んだりはしたものの、概ね一人で自己鍛錬とかおっぱい鑑賞とかして暇を潰してた。
メイドさんのおっぱいにしがみ付いたりとか、一緒にお風呂とか、子供特権を最大限に活用(悪用とも言う)してたのも良い思い出だ。
んなわけで、元々友達が少ないつーか居ない貴族の子女である上、母親同士仲が良い俺とあの兄妹が仲良くなるのは必然だったろう。
流石に最初はぎこちなかったけど、子供ってのは遠慮しない生き物である。
悪知恵に長けた俺とノリの良いハインツ。
「ダメだよぅ、二人ともぉ~」
とか半泣きで言いつつも、イジられ巻き込まれ流されるエル。
泣き虫で、いっつもチョコチョコ俺らの後ろを付いて来るだけだったあいつが、あれほど見事なツッコミに転職したのは誤算だった・・・。
そいや、二つ上のハインツは、騎士学校を実技トップで出て黒龍騎士になった今でもあの頃とあんまし変わって無いな。
多分俺らの前だけだろーけどね。人間は成長するのさ。良くも悪くも、ね。
成長と言やぁ、エルのおっぱいだよなー。
俺と同い年の16歳で、あれは反則である。掟破りである。チートかも知んない。
この世界に”カップ”の概念は無いのだが、あれは間違いなくFクラスである!
おっぱい星人たる俺には嬉しい誤算ではあったのだが、あのガリガリチビの泣き虫がよもやあれ程の成長を遂げるとは・・・。
しかも某兄経由の極秘情報によれば、いまだ発育しているとか・・・いつの日か必ずや我が物にしてくれようぞっ!!
・・・でもあいつなにげに強いしな。
実技トップは俺だったけど、あいつは女子最強で、しかも男女混合でも6位なのだ。
ベスト10で女子はあいつだけ。
俺やハインツに大ダメージを与える制裁とかでも判るんだが、あいつの動きはとにかく速い。おまけに正確。
やたら動体視力が良いんで、相手のウラを取るとかお手のモノ。
筋力頼みの脳筋戦士あたりの攻撃なんざ、かすりもしないだろうね。
んで、重くは無いけど鋭い攻撃を矢継ぎ早に、しかも急所に当てられちまうんだから、よっぽど重装甲でも無い限り、そこらのパワーファイターはあいつに敵わない。
しかもあいつは魔法を使える。属性は風。
魔力はそこそこしか無いんだけど、首席取った事で解るよーに、あいつは頭が良い。
剣だと不利になる相手には、風魔法をガシガシ当てて削ったり、はたまた空気の壁で動きを止めたり・・・。
使い方が巧いんだよね。
まーすんげー努力してたのも知ってるけど、それをちゃんと生かしてるあいつは、素直に偉いと思うよ。
学校であいつに勝った男どもは、俺を含めてみんな魔法も使える連中で、男女の体力差とかを最大限に生かせた奴らだけなんだよね。
まー俺も手抜きぶっこいてたら、コメカミに良いのを頂いちまって、結構焦ったりしたし。
なんかね、あいつにやられると効くんだよね。他の奴にやられるのよりずっと。弱点掴まれてる?
あーそいや、この世界で魔法使える人って、ぢつは珍しく無い。つかみんな使える。
ただやっぱ個人差が大きくて、戦闘に役立つほどのものを使える人はほんの一握り。
一般ピーポーは、マッチ代わりの火だとか、団扇代わりの風くらいが関の山。
騎士学校の新入生は、毎年300人くらい居る。
魔法学院はその一割。留年無しで卒業出来るのは10人程度らしい。当然魔法士は貴重な人材なわけ。
当代最強魔法士を父に持つ俺にも、3年前には学院から執拗な勧誘があったんだけど、魔法士ってなんつーかネクラっぽいのが多いんだよね。
おまけにプライドばっか高いし。嫌味なエリートそのまんまなのよね。んで断固拒否。
まー母さんの爽やか過ぎる笑顔が怖かったてのがホンネだが。
ウチのオヤジは人当たりも良いし、朴念仁で天然入ってるけどイケメンだし、座布団状態だけど家庭は円満だし、なんか魔法士の例外中の例外ってカンジである。
あの母さんがホレるのも無理ねーよな、とか思う。
しかもアレで、戦闘どころか会戦で使うレベルの大規模魔法とか撃てるんだから反則である。
そこっ!お前はもっと反則だとか言うなっ!
まーそんなわけで(どんなわけだ)、俺は王都で過ごす最後の夜を迎えている。
明日にはこの愛すべき家族ともお別れだ。
いや今生の別れってわけじゃ無いけどさ。
一年前、俺が騎士にならず、世界を廻りたいと言ったら、両親は何も反対しなかった。
望んだわけぢゃ無いが、俺は一応公爵家跡取りである。
きっと反対されると思ってたので、正直拍子抜けした。
多分マヌケ面していたであろう俺に、両親はこう言った。
「私は若い頃、お前のように世界を見たいと思っていたんだよ。
残念ながら、その思いは適わなかったが、代わりに母さんやお前たちに出会えた。
今でも世界を見たいと云う気持ちはある。
だが、それよりも見たいものが出来てしまった。
お前とカリンの成長と未来。
今の私には、母さんとお前たちが世界そのものなんだ。
世界を見て、成長した未来のお前が帰って来る日を楽しみに待つとするよ。」
「貴方の行きたい道を行きなさい。
カリンや父さんの事は心配いらないわ。私もね。
立派になって来なさいとは言いません。
ただ元気で、笑顔で帰って来てちょうだいね。
そうそう、出来れば3年くらいで一度戻って来て欲しいわね。
カリンのお嫁入りがあるかも知れないから♪」
「か、母さまっ!?」
真っ赤になってうろたえる妹の頭をなでながら、俺は思っていた。
(この家族を守る。絶対に守る。この世界とともに。アイツの好きにはさせない!)