国境を越えると・・・
この船は、大きいほうなのだそうだが、乗員は20人ほどしか居ない・・・まぁ中世だしな。
一応帆船だが、ヨットに毛の生えた程度の大きさである。
大航海時代の船だって、21世紀から見れば豆粒みたいなもんだったしな。
おまけにこの世界は、壁のせいで遠洋航海が出来ないし必要ない。
造船や航海技術が発達すべくも無い。ガレー船を脱却してるだけマシと云えよう。
帆船なのだが、どうもアラビア風である。シンドバッドの乗ってたやつ。帆が三角だし。
名前は忘れた。思い出しても改稿するのを忘れると思う。
この船自体は『チーマ号』だそうだ。チーマーみたいで覚え易い。誰がとか訊かないように。
この世界の大陸には名前が無い。
当然である。複数あれば、区別するために命名する必要があるが、この世界では大陸が全て孤立している。
自分たちの住んでるトコ以外、大陸は無い(と認識されてる)んだから、固有名詞を付ける必要も無いわけだ。
だが、既に複数の大陸(二個目はまだ見てないが)を知っている俺らにとって、名前が無いのは不便である。
なので、便宜上、俺らの故郷を第一、ココのを第二と呼称する。
いやだって、洒落た名前付けても誰も使わないんだし、あと幾つあるか判らんし、何より覚えるのがダルいじゃん?だから誰がとか訊くな。
んで、現在チーマ号は、一路母港に向かっている。
この船も壁を調べに行って、帰路にクラーケンとご対面と相成ったらしい。
あの化け物はもうハンパ無く強くて、出会ったら速攻オシマイな存在だったので、
助かった船員やら乗り込んでた学者センセイたちからは、そりゃもう感謝された。
こっちの人たちと、言葉が通じるのは謎である。文字も基本的に一緒。
いやまぁ、微妙な違いとかは在るんだけどね。例えるなら、英語と米語みたいな?
人種的にはあまり変わらんようだ。服装とかは多少違うが、白人と黒人みたいな明確な違いは無い。
そうだなー、俺らが北欧系なら、こっちは中欧系?どっちにしろ微妙。
恩人である俺らは、当然VIP待遇である。まぁ船でのハナシだから大したもんじゃ無いが。
おまけに野郎だけだった船内に突如舞い降りた、天使の如き美少女様御一行である。
俺がオマケ扱いなのも致し方あるまい。
いきなり投げ捨てられたらしいし、最初はあいつらの従者あたりだと思われて、
一段下の待遇だったんだが、あいつらが猛抗議したんで対等の扱いになった。
俺はどっちでも気にしなかったんだけどな。
あいつらとさえ対等でいられれば、他にどう思われてもカンケー無いね。
表向き対等になったとは云え、実際には大差がある。
そりゃねー、あいつらと俺比べたら当然だよねー。俺だってそうするだろうし。
まーあいつらに不埒な真似しそうなのは居ないけどさ。
そりゃクラーケン沈めた御一行だぜ?おっかなくて手出しなんざ出来んわな。
けど、絶対安心てわけでも無いから、警戒はしてるけどね。男はいつケダモノになるか判らんしな。
なんせ絶世の美少女たちである。理性が野性に敗れたとしても、不思議では無い。
その辺は、あいつらも心得てるみたいで、普段よりずっと地味で露出も少ない服装してる。
誰彼構わず愛想振りまくようなバカ女じゃ無くて良かった。デキるやつらで助かる。
壁抜けて来たっつったら大騒ぎになった。まぁそうだろう。
この船に乗ってる学者のセンセイは優秀で、あの壁が磁力だと看破していた。
抜け方を教えてくれとしつこく迫られたが、偶然突っ込んで運良く抜けられただけだと誤魔化した。
本来なら故郷に戻るつもりだったが、迷った挙句、幸か不幸かコッチに出ちゃったって事にしといた。
まぁミューが居るんで、そんなもんか、で納得したようだ。
だが、壁の向こうからの珍客には変わり無いんで、帰港したら国王に謁見してくれと懇願された。
めんどくせー。スッゲーめんどくせー。
大体俺は王族とか貴族とかが大嫌いである。まーウチも貴族なんだが、ウチはキチンと仕事してたしな。
貴族の仕事ってのは、領地の経営である。戦時以外は。
領民の生活を保証し、出来得るならば向上させる。それが仕事、つか義務。
領民が税や年貢を納めてくれるからこそ生活出来るのである。領民あっての貴族。
領民の生命・生活を保証する責任を果たすからこそ、それに見合う権力が与えられているのだ。
だが、大多数の貴族どもは、権力を振りかざすのみで、責任を果たさない。
家系やら血筋やらを自慢し、贅沢のみに心血を注ぐ。
家系?血筋?バカかお前ら?
始祖たる初代こそ、何かしらの大功なり偉業なりを成し遂げて、一家を興したんだろう。
その人は確かに偉い。だからこそ貴族たる地位を勝ち得たんだから。
けど子孫のお前らは?何か功績はあるのか?名を為すような事したのか?
父祖は偉かったかも知れないが、当代のお前らは偉くも何とも無いんだよ。
お前らはただの寄生虫だ。領民を苦しめ、父祖の名を汚し、家の名にしがみ付くだけの、な。
そーゆー連中の親玉が王族なわけで、俺が会いたくも無いって思うのは当然だろ?
会ったら多分、嫌味皮肉のオンパレードを披露する事になろう。
なんせ遠慮は要らんからな。当然だろ?俺らの国王じゃ無いんだし。
ウチの王様だったら、領地貰ってもいるし、一応臣民なわけだし、内心はともかく表向きは敬意を払わざるを得ない。
下手こいてオヤジたちに迷惑かけるわけにもいかんし。
だがコッチの王なんてカンケー無い。国交が在ったら問題だがな、んなもん無えし。
借りが無いんだからな。何か貰ってるわけじゃ無いし、仕えてるわけでも無い。
上から目線とかで、偉そうにしやがったらぶちのめしてやる。玉座から引き摺り降ろしてやるわ。
城ごと吹っ飛ばしても良いんだが、無関係な使用人とかまで吹っ飛ばすのは流石にアレなんでやめておこう。
第二大陸は、なんか第一より温暖なようだ。
雪が降るのは、ホントに一部の高山と北辺部だけらしい。
確かに気温は高い気がする。じっとしてても汗ばんでくるぐらい。
まぁ海の上だから、今はそんなでも無いんだが、オカに上がったら覚悟したほうが良いかも知れない。
帰港まで、あと3日ほどかかるらしいんだが、ぶっちゃけヒマである。
国王をシバく方法も粗方考えたんで、やる事が無くなった。
学者から借りた本も読み終わっちまったし、もっぱら釣りをしている。
所謂トローリングである。
リール付きチート釣具を出して、あいつらも一緒に釣り三昧である。結構釣れる。
船員たちが物欲しそうに釣具を見ているが、華麗にスルーである。
いや、見てるのは三人娘なのかも。だよな、俺だって釣具よりあいつらのほうが欲しいもんな。
三人娘は、一匹釣れる度にきゃあきゃあ騒ぐので、喧しい事この上ない。
まぁ、美少女がきゃっきゃしてるってのは、オトコにとっては悪くないモノでもあるので、放置してるが。
船員たちも和んでるしな。
「お、ヒットォ! っ!デカいぞコレわっ!」
「ターク頑張れ~!」
「お刺身ですー。」
「うむ。あれは美味いのぅ。タークに感謝じゃ。」
「はっはっはっ!醤油とか俺しか創れないもんな!って、こいつ手強い!」
「竿が折れそうだわ。」
「糸は大丈夫ですかー?」
「むう、力任せならわらわのほうが・・・」
「力任せなど邪道!獲物との駆け引きこそが漢の釣り道!」
「まーたなんか変な事言い始めたわね。」
「お約束ですね。」
「飽きないのぅ、こやつと共におると。」
「お前ら、オマツリするから仕掛け揚げろって!」
「あ、ごめん。」
「忘れてました。」
「わらわもじゃ。」
「くぅっ!しぶといやつだ・・・。」
「あ、なんか見えた!」
「大きいですー。」
「おおー大物じゃ!」
「って!あれは!ま、まさかっ!」
「・・・サメ?」
「みたいです・・・。」
「あんな大きなのが居るのか・・・。」
「っ!船の真下に・・・バカなのか、利巧なのか・・・。」
「ねえ、サメって食べられるの?」
「どうなんでしょう。」
「食えるにしても、あのサイズではのぅ・・・。」
「・・・糸切っちゃうか。あんなの釣っても、危なくて船に揚げられんし。」
「それが良いんじゃない?食べられないし。」
「ですねー。食べられないし。」
「じゃな。食えぬし。」
「・・・おーけー把握した。お前らは胃袋のみで生きてる、と。」
「///う、うるさい!・・・お刺身美味しいんだもん。」
「///ですー。もう病み付きですー。」
「///わ、わらわは”せいちょうき”なのじゃ!」
「まぁ、肥えるのは俺じゃ無えしな、好きなだけ贅肉付けrぶぉわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「「「///最っ低!」」」