兄とは・・・いやこれ違うだろ?
この世界のドラゴンには、大した特殊能力は無い。
人間体になれるとか、ブレス吐くとか、飛べるとかってのは、ドラゴンの標準装備であって特殊とは言えん。
巨体とそれに伴う馬鹿力、圧倒的な火力、魔法もロクに効かない重装甲。もうそれだけで、最強種族足り得る。回復力は桁外れで、おまけに飛べる。
まー無敵万能戦艦みたいなもんか。
生まれつき最強なもんだから、努力とかしないし必要無い。元々からチート。それが龍。
魔法なんて知らなくても困らん。武技なんて覚え無くても無双。
他の種族は黙っててもヘイコラしてくるから、自然に見下すようになって行く。
まーあの長老みたいに老成した個体なんかは、丸くなってたり砕けてたりするんだが、
若いのはもーいばりんぼである。
生まれた時からチヤホヤされっぱなしで、叱る者なんて年長の同族ぐらいしか居ないんだが、
総じて連中は放任主義だったりする。龍に”危険”なんてのはほぼ皆無だからだ。
だから親とかも、ホントの幼時だけしか面倒みない。
まー長命なんで、幼児期ってのもそれなりに長いんだが。
ミューは155歳、マルトは48歳なんだと。
単純に人間の10倍か。判り易くてよろしい。
ただ、長老はもう二千歳超えてるらしいんで、成人?してからは比較にならん。
あーエルフも似たようなもんか。あの種族も成人してから不老っぽいしな。
セリアの年齢は不詳である。人間換算しか教えてくれない。
訊こうとしたら、スッゴい良い笑顔を向けられたので断念した。君子危うきに近寄らず。
なにげにミューはちみっこである。150cmあるかないか。龍体になればバカデカいけど。
セリアはエルフだけに長身。170cmくらい。エルは165cmってとこか。
二人が長身なだけに、ミューのちみっこぶりは際立つ。
世間知らずな上、顔立ちも精神年齢も幼いので、いつの間にか妹的な位置に落ち着いてしまっている。
エルたちにも、なんだかんだで可愛がられたりいぢられたり。
二人とも妹とか居ないからな、世話焼いてやるのが何だか楽しいらしい。
まー体力と好奇心が有り余ってるんで、手が掛かってしょうがないんだが。
元々知能は高いし、根っこは素直なんで、ちゃんと面倒みてやれば真っ直ぐに育つハズだ。
うん、ちみっこだけど凹凸は発育が良いので、そっちのほうが楽しみなのは言うまでも無かろう。
俺の周りに真ロリは必要無い。おっぱいこそ宇宙の真理である。ビバ!おっぱい!
ちなみに髪型はポニテである。デカめの赤リボンをプレゼントしてやったら大喜びだった。
まだ上手く結べないらしく、お姉ちゃんズに結んで貰っている。
セリアにも強請られて、細めの青リボンをあげた。彼女は肩下あたりで纏めている。
理由を訊いたら、キャラ付けのためです、とか言われた。なんやそれ?
「あぅっ!何をするのじゃ!痛いでは無いかっ!」
「デコピンぐらいで騒ぐな、ちみっこ。教育的指導だ。断じて調教じゃ無いぞ。
あれほどツマミ食いは禁止と言っただろうが。食い意地の張ったやつだ。」
「っ!わらわはちみっこではな・・・あぅっあぅっ!」
「口答えするんじゃ無いっ!口答えする度にデコピン増えると覚えておけぃ。」
「うぅ、痛い・・・じゃが、あの菓子が食べてくれと、わらわを呼ぶn あぅっあぅっあぅっ!」
「自分が食べたかったんだから、他の仲間は食べられなくても構わんというんだな?
エルもセリアも大好物なんだぞ?あのケーキ数量限定だから滅多に買えないんだぞ?
今日のオヤツにって、めっちゃ楽しみにしてたんだぞ?
見ろ、あの打ちひしがれた姿を!さっきから、返事が無いただの屍のようなんだぞ!」
「うっ・・・あ、あそこだけ空間が黒く・・・よ、澱んでおるような・・・
あ、あれ、は、わ、わらわのせい、なの、だな?・・・」
「そうだ、・・・で、お前はどうすれば良いか分かるな?」
「・・・ふ、二人に、あ、謝ってくるのじゃ・・・こ、怖いがの・・・」
「よし。それと、コレ渡してこい。聖なるアイテムだ。」
「こ、これは、あのけーきではないか!?!」
「ふっ、こんな事もあろうかと、俺がチー・・・買っておいたんだ。また食ったりしたら・・・」
「っ!も、もうツマミ食いはせぬ!二人のあの姿を見ては、怖くてとても出来ぬ・・・」
聖なるアイテムで、幸せそうに復活した屍二体だったが、幸せすぎたらしくて、今は夢の世界へ旅立っている。
なんとも緩みきった寝顔である。って、ヨダレヨダレ・・・美少女台無しだなおい。
キチンと謝ってアイテムを渡した途端、二人にギュウギュウハグされたちみっこは、四つのふにふにによって窒息寸前になり、別の意味で旅立っている。
漢なら羨まし過ぎる死に様だが、ミューの場合はただの拷問だったろう。死んで無いケド。
龍の馬力をもってすれば、二人を吹っ飛ばすくらい簡単に出来ただろうに、敢えてされるがままになってたあたり、やっぱ良い子である。
てかさー、まだ晩飯にも早い時間なんだぞ。こんなトコで寝るなよお前ら。
漆黒の森なんだぞ?仕事中なんだぞ?明日中に西の外れの村まで行かなきゃならんのだぞ?
そりゃチート結界で安全そのものだけどさー、魔獣とか普通にうろついてるんだぞ。
まー俺の事信用してるからなんだろうが、無防備過ぎだろ?色んな意味で。
「んにゅ?あ、お早うターク。」
「ふぁ・・・お早うございますー。」
「あぅぅぅ・・息が、息がぁ・・・あれ?」
「お早うじゃ無えよ、ったく。夕方だぞ今。さっさと顔でも洗って来い、ヨダレ娘ども。」
「ヨダ・・あうぅぅぅ///」「ふ、不覚ですぅ///」
「わ、わらわは・・・無事じゃったか・・・」
「大口開けてたけどな。」
「はぅっ///」
「ほら、さっさと行けっての。晩飯作っといたから。今日はここでキャンプにすっぞ。」
「「「はーい・・・」」」
「このペースだと、村に着くのはギリギリになっちまうなー。」
「あぅ・・・ごめん、私たちのせいで・・・」
「申し訳ありません・・・」
「いや、元はと言えば、わらわがツマミ食いを・・・」
「気にするな。起こさなかったのは俺だ。まー夜中の張り番はお前らにやって貰うけどな。」
「うん・・・今さら眠れそうも無いし。」
「三人居ますから、お喋りでもしてれば眠くなりませんしね。」
「交代でやるのでは無いのか?」
「一人だと、どうしても眠くなっちゃうの。特に、人間は夜明け前の時間帯には弱いの。」
「です。だから見張りは複数でやるのが基本なんですよ。一人が寝ちゃっても、もう一人が起こしますから。」
「なるほど・・・確かにわらわも夜明け前は眠いしのぅ・・・」
「三人だから、一人だけなら寝ちゃっても何とかなるわね。」
「その辺は、臨機応変にいきましょうか。」
「うむ、よろしく頼むのじゃ。わらわは慣れておらぬ故の。」
「そのうち慣れて貰うから安心して。慣れなくても慣れるまでやらせるしね。」
「そうです。みっちりきっちりばっちり仕込んであげますから。」
「・・・あぅ、なんだか背中が冷たいのじゃ・・・コレが悪寒とか云うモノなのか?」
三人寄れば姦しいとは良く言ったもんだ。寝られやしねー。
まーお姉ちゃんズは小声なんだが、いぢられたミューが喚いたり叫んだりするもんだから、うるさくてかなわん。
仕方無い、チートで遮音すっか・・・。
「ごはぁぁぁぁぁっ!」
「いい加減起きるのじゃ!全く、耳元で怒鳴っても起きぬとは・・・」
「がはっごふっ・・・くぅ、鳩尾ニードロップとは・・・カリンを思い出しちまったぜ・・・
遮音かけたままだったか・・・タイマー忘れたぜ、不覚。」
「カリンとは誰じゃ?」
「俺の妹。可愛いんだこれが。
・・・そいやお前に似てるな、雰囲気とか。わらわ言葉は使わんがな。」
「っ!わらわに似ておるのか?・・・そ、その・・・わらわ、も、か、可愛いのか?」
「前からそう言ってるじゃ無いか。」
「///そ、そうだったかの?」
「・・・俺の事を”お兄ちゃん”と呼んでみなさい。」
「な、何故じゃ?」
「俺がそう呼ばれたいから。・・・それに、そのほうがお前の可愛い度アップだぞ?」
「///っ!・・・お、おにいちゃん?」
「ぐはっ!こ、これはリアル妹より破壊力あるかも知れん・・・」
「こ、これで良いのか?」
「う、うむ、ずっとそう呼ぶように。これは命令である!」
「わ、わらわにめいれいなどっ!」
「お兄ちゃんの言う事は聞きなさい。可愛い妹になる必須項目である。口答えは許さん。」
「い、妹になぞなる気は・・・な、なんじゃ?この気は・・・あぅっ!」
「お兄ちゃんと呼びなさい。返事は”はい”以外却下。」
「う、うぅ・・・は、はい、お、おにいちゃん・・・」
「うむ。ご褒美になでてやろう。」
「///あぅぅぅ・・・」
「・・・シスコンじゃ無かったハズなんだけどな?あいつ。」
「リアル妹には萌えないんだそうです。リアル兄って人たちは。
実妹を溺愛する兄なんて、キモいだけです。病んでます。妹にもウザがられて終わりです。
実妹萌えと云うのは、実妹がいない人たちの妄想が爆発した結果に過ぎず、現実にはほぼ有り得ません。」
「スゴい説得力・・・。
そういえば、ウチの兄貴も可愛がってはくれたけど、おんなじくらい邪険にされたっけ。
オヤツ強奪とかされたし、犬追っ払うみたいに、シッシッとかやられたし。
『黒くて素早いヤツ』わざと部屋に放されたし、布団で簀巻きにされて転がされたし・・・
思い出したらなんかムカついてきたわ。今度会ったら殴ろう。
あの変態兄貴が私を溺愛?・・・って想像出来ないし、したくも無いわね。やっぱり殴ろう。」
「ソレが普通かはアレですが、兄妹関係ってそんなものじゃないでしょうか?」
「・・・てかセリア、何でそんなに詳しいのよ?」
「精霊さんネットで検索しました。」
「検索て・・・どうやるのよ?」
「光の精霊さんに知りたい事を訊けば、そのうち詳しい精霊さんが教えに来てくれます。
複数来てくれた場合、中には違う情報もあったりするので、取捨選択スキルも要りますが。」
「・・・萌えに詳しい精霊って・・・普段何してるのやら・・・」
ミューは”お兄ちゃん”と言ってるつもりなんですが、舌っ足らずなので”おにいちゃん”になってます・・・ご都合主義ですよね。