浪漫でしょ、やっぱ?
俺には、求めてやまない夢がある。野望と云っても良いかも知れない。
俺でなくとも、否、健全な青少年なら誰もが、求め、目指す浪漫。
『ハーレム』
何という甘美な響き。
コレに匹敵する浪漫は存在しない。いやさせない。
俺的には、大艦巨砲も良い線いってるのだが、やはりハーレムには及ぶべくも無い。
断じてニューヨークの一エリアでは無い。
艶やかな酒池肉林。
めくるめく桃源郷。
断言しよう。コレを追い求めないのは、漢では無い。
過去6度の人生においても、俺は求めた。求め続けた。
だがしかし。
それを実現するのは叶わなかった。
王になったり、大陸の覇者になったりしたのに、だ。
カネも腐るほど持ってたのに、だ。
何故か。
理由は簡単明瞭すこぶる付きである。
俺は弱かったのだ。
魔王にも。
邪神にも。
その他ラスボス色々にも勝った俺。
だが。
どの人生においても、俺より強い相手が居た。
神でも仏でも悪魔でも無い。そんなの居なかったし。
では何者か。
賢明なる紳士諸君にはもうお分かりであろう。
そう、『嫁』である。
魔王の攻撃は避けられるのに、嫁の攻撃は喰らってしまう。
完全防御結界を纏い、最強防具を着込んでいても、あっさり沈められる。一撃で。
銃弾は避けられるのに、パンチは喰らってしまう某ジェットな人みたいである。
そのくせ、敵と戦う場合は俺のほうが強く、嫁(候補)は弱い。
俺の攻撃は通るのに、嫁(候補)のは通らない。
防御にしても同じ。俺は防ぎきり、あるいは避けられるのに、嫁(候補)には当たるのだ。
何となくジャンケンに似ていると思う。
俺はラスボスに勝ち、ラスボスは嫁(候補)に勝ち、嫁は俺に勝つ。
理由は解らない。チートな俺にすら理解も解析も出来ないのである。
チートも及ばぬ、何か超絶的な力が作用しているとしか思えないのだ。
決して嫁を愛していなかったのでは無い。
愛していたからこそ嫁にしたのだ。
だがしかし、夢と浪漫を追い求めずして何が漢か。
妾愛人2号3号は漢の甲斐性とも云うではないか。
だが漢の夢は、浪漫は、結局どの嫁にも理解も許容もして貰えなかった。
逆に制裁を喰らって死に掛けたくらいである。
嫁に勝てない限り、俺の夢は夢のまま終わる・・・
否、終わらせてなるものかっ!
今度こそっ!!
「じーくっっ!はーrげぼぉぉぉっ!!!」
「寝惚けて妙な事叫ばないでよっ!」
「夢か・・・何もかも皆懐かしい・・・」
「くすくす・・・相変わらずタークさんは面白いです。」
「面白いんじゃなくて、変なのよ。」
「どっちも嬉しく無いんだが。つーか腹減ったな。」
「寝てただけのくせに。贅沢なんだから。」
「寝てるだけでも腹は減るんだぞ。知らなかったか?」
「もうじきお昼ですもんね。私もお腹空きました。」
「はぁ・・・セリアは良いわよね、いくら食べても太らないし。」
「はぅっ!まるで私が大食いみたいに言わないでくださいっ!」
「・・・まー少食とは言えんだろーな。」
「あぅぅ・・・タークさんにまでいぢめられました・・・」
「いやいぢめてないから。いぢっただけだから。」
「なんかセリアも、完全に染まっちゃったわよね・・・」
「そだなー。最初会った時は、クールっぽかったのになー。」
「ねー。」
「うー、私はクールですっ!」
「クールな人は、自分でそんな事言わないわよねー。」
「だよねー。」
「うーうーうー」
「メシまだかなー?」
「またシチューにしようっと♪」
「ダイエットはどした?」
「うっ、明日から、明日からよっ!今日からなんて言ってないしっ!」
「ま、良いけどね。俺の体重ぢゃ無いし~♪」
「うー、言い返せない自分が恨めしいっ!」
「はっはっはっはっ、たらふく食うぞぉ~。」
「「うーうーうー」」
「うーうーデュオ?」
俺らは熊さん退治をコンプしたおかげで、晴れてランクCに上がった。
んで首尾良く護衛依頼を請けられ、今は馬車に揺られている。
このキャラバンは、オルセンから更に北の町、ノーテルンに向かう塩商人の一行。
ノーテルンは、山に囲まれた町で、岩塩が特産。
この一行は、塩の買い付けに行くわけだが、商人が空気を運ぶような無駄をするわけもなく、色々と積んでる。
王都の装飾品やら、海産物やらは、ノーテルンで高く売れるらしい。ま、当然だな。
田舎では、精緻で都会的な王都製装飾品は憧れの的だろうし、山国で海産物が貴重なのは必然。
で、海産物はともかく、装飾品は値が張るし嵩張らない。
野盗や山賊にとっては格好の獲物なんだなコレが。
護衛が要るのも当然なんである。
護衛は俺らの他に、もう1組居る。こっちも3人なんだけど、ランクはA。男2女1でウチと逆。
みんな結構イイ歳で、なんか貫禄あるんだよな。いかにも頼れるベテランて感じ。
高ランクの冒険者には、鼻持ちならない天狗とかも居るんだが、この人たちは気さくで感じが良い人たち。
俺らぺーぺーの事を気に賭けてくれて、何かと面倒見てくれる。
兄貴姉貴分つーのはちと苦しいな。年齢的に俺のオヤジより上っぽいし。
オヤジが若すぎるのかも知れんが。まだ35だもんな。俺もう16だってのに。
「お~い。メシ休憩にすっぞ~。」
「は~い。当番は私たちです~。」
「おー、嬢ちゃんたちのシチューは旨いからな。楽しみだ。」
「オットーさんのご期待に応えらるよう頑張りますね。」
「俺は、カマド作ったら水汲んで来ますね。」
「おう、頼むよ。俺たちは見張りしてるからな。あと薪が残り少ないんで・・・」
「ういっす。良さそうなの拾って来ますよ。」
「いやー今日の朝飯はアレだったからなぁ。待ち遠しいぜ。なぁエリック。」
「あら、アタシの料理じゃ不満なのね?オットー。」
「え、あ、い、いや、そんな事はないぞ、ヒルダ。・・・とりあえず食えるし。」
「そうだぎゃ。とりあえず食えるだぎゃ。とりあえず。」
「エリック、言いたい事があるならハッキリ言いなさい?」
「嬢ちゃんたちの料理食ったら、姐さんの料理なんtぇぎゃぁぁぁっ!」
「遺言はそれで良いのね?遺品はアタシが貰っとくから。」
「・・・なんか、パーティって、何処も似たようなモノなのでしょうか?」
「男って、幾つになってもバカなんだ、ってだけじゃ無いかな?」
「あー、なんかスゴく納得出来ますね。」
「でしょ?タークなんか10年20年経っても全然変わらなそうだし。」
「言えてますねー。ホント変わらなそうです。」
「でも、さ。」
「はい?」
「あいつには、変わって欲しくない・・・かな。」
「・・・そうですね。今のままで居て欲しい・・・かも。」
「たださぁ、あのニッッッブいトコは・・・」
「ですよねー。ニッッッッッッッブいですもんねー。」
「そのくせ、おっぱいおっぱい騒ぐし。」
「ホントですよねー。でも騒ぐだけでもあるんですよねー。」
「ヘタレなのよ。基本ヘタレなのよ、あいつは。」
「納得です。完璧に納得です。」
「いっそ、押し倒してくれるぐらいのほうが良かったかも・・・」
「うっわー、エル大胆!」
「でも、セリアもそう思わない?」
「うーん、ちょっとは思いますけど・・・でも・・・」
「でも?」
「そういう人だったら、こんなに惹かれなかったんじゃないか、って。」
「・・・そうね。あのタークが良いんだもんね。」
「ですよ。変わっちゃったら、それはもうタークさんじゃ無い別人です。」
「お互いに、変なの好きになっちゃったよね?」
「うふふ・・・ホントに。なんででしょう?」
「セリアは最大最凶のライバルなのに・・・どうしても嫌いにはなれないの。なんでかしら?」
「それは私も同じです。エルを嫌いになんてなれない気がします。
・・・ってなんか”キョウ”のニュアンス違いません?」
「気のせいよ。」
なんかさー、さっきからクシャミが止まらないんだが・・・寝冷えしちまったかなー?
水汲みも終わったし、街道脇の林に薪集めに来たんだが・・・
何か居やがる。
人間だ。チートならではの解析。
武装してる。コッチを見てやがるが、殺気は無い。でもカタギじゃ無えな。
斥候か。この先に本隊が居るって事だな。
レーダー起動。居るわ居るわ。
山賊だか野盗だか判らんが、雰囲気のよろしくないのが30,31・・・34人。斥候入れて35か。
メシ食ってるトコ襲う気では無いらしい。この先の丘か。道曲がってるから、スピード出せないし。
あそこから矢の雨降らせるつもりなんだな。ちったぁ考えてるようだ。いや慣れてるのか。
休憩後、そのまま行くのは下策だよなー。
待ち伏せする気なのは明白だし、依頼主にも危険が及ぶ。これが一番問題。
守りながら戦うってのは、ムズいんだよね。やってみりゃ分かる。
なら守らずに戦えるようにするまでだ。
休憩中に話を通して、休憩終わったら速攻で斥候始末する。
あんまし早くやっちまうと気付かれる恐れがあるからな。
んでキャラバンはそのまま待機してもらっておいて、俺ら護衛だけで奴らを襲う。
先手必勝。
規律正しく統率された軍隊ならともかく、山賊なんかは奇襲とかにめちゃ脆い。
襲うハズが襲われたら、混乱するだけだろーな。アタマ獲っちまえば、もう烏合の衆だ。
奴ら固まってるし、範囲魔法の良い的だ。
エルやヒルダさんの範囲魔法を一発かまし、セリアに掩護して貰えば、後は俺ら男衆で無双だぜ。
あー、無双出来るほど残って無いかもな。ヒルダさんの魔法凶悪だし、エルのだってかなり・・・。
攻撃魔法って、性格に因るのかも知れない・・・いやきっとそうだ。うん。
考えが纏まったんで、キャンプに戻るとするか。
斥候はまだこっち見てるけど、気付かれてるとは思ってないだろな。バカメ、バカメ。
後2時間以内にお前は死ぬんだ。いや殺されるんだ。それまでマヌケ面して隠れてるが良いさ。