勇者パーティーをクビになった俺、なぜか魔王城の“お客様相談室”で働くことになりました
異世界ファンタジーと言えば、
勇者、魔王、熱い戦い、世界の危機――。
ですが、もし魔王軍にも“会社員”がいたらどうなるでしょうか。
有給申請をするオーク。
クレーム対応に追われる悪魔。
会議資料を燃やすドラゴン。
そんな「どうでもいい日常」を、全力で描いた物語です。
肩の力を抜いて、笑いながら読んでもらえたら嬉しいです。
「お前、今日でクビな」
勇者ガルドは、焼いた肉を食いながら言った。
レオは荷物袋を抱えたまま固まった。
「……はい?」
「だからクビ。戦力外」
「え、魔王城目前ですよ!? 今!?」
「そうだけど?」
ガルドは肉汁を撒き散らしながら笑った。
「お前、戦闘で何もしてないじゃん」
「荷物整理してたでしょうが!」
「それ戦闘じゃないし」
「誰が毎日ポーション補充してたと思ってるんですか!」
「知らん」
レオは震えた。
こいつ、本当に知らない。
勇者パーティーの実態は、レオがいなければ三日で崩壊するレベルだった。
剣士は服を畳めない。
魔法使いは薬草と毒草を間違える。
ガルドは地図を逆さに持つ。
だが、誰もそれを理解していない。
「じゃ、そういうことで」
ガルドは肉を噛みながら言った。
「次の村で頑張れ」
「この山、魔王城の真下ですけど!?」
「ファイト」
「軽い!!」
こうしてレオは追放された。
しかも財布はパーティー共有。
つまり現在、所持金ゼロ。
「終わった……」
雨が降り始めた。
しかも寒い。
泣きそうになりながら歩いていると、巨大な城が見えた。
黒い壁。
禍々しい門。
魔王城だった。
「いやいやいや」
帰ろうと思った。
だが後ろでは狼の遠吠え。
前には屋根。
人間、極限状態になると判断力が死ぬ。
レオは門を叩いた。
すると五秒後、
ガチャッ。
猫耳の少女が出てきた。
「はい、魔王城です」
「宅配みたいなノリで出てきた!?」
「ご用件は?」
「いや、雨宿りを……」
「宿泊ですか?」
「ホテル!?」
少女はメモを取った。
「一泊朝食付きで?」
「あるんだ!?」
その時、奥から低い声が響いた。
「騒がしいですね」
現れたのは、巨大な角を持つ男。
魔王だった。
レオは終わったと思った。
だが魔王は名刺を差し出した。
『魔王軍代表取締役 グランディオ』
「会社!?」
「最近、組織改革を始めまして」
魔王は優雅に笑った。
「ところであなた、人間なのに礼儀正しいですね」
「はぁ……」
「履歴書、書けます?」
「え?」
三十分後。
レオはなぜか面接を受けていた。
「特技は?」
「荷物整理と在庫管理です」
「採用」
「早い!」
「あとクレーム対応もできます?」
「まあ……勇者が問題児だったので」
魔王は立ち上がった。
「素晴らしい」
握手された。
「今日から“お客様相談室”勤務です」
「待ってください」
「はい?」
「魔王軍って、そういう部署あるんですか?」
「最近クレームが多くて」
翌朝。
レオは机に座っていた。
本当に就職してしまった。
すると、ドン!! と扉が開いた。
巨大なオークが怒鳴る。
「苦情だァ!!」
レオは飛び上がった。
「ひっ!」
「スライム部隊が畑を荒らした!」
「それは申し訳――」
「キャベツ全部食われた!」
「スライムってキャベツ食べるんですか!?」
「知らん!」
レオは頭を抱えた。
すると隣のミミが言った。
「ちなみに今日だけで四件目です」
「多いな!?」
さらに別の魔物が来た。
「ダンジョンの落とし穴が浅い」
「はい?」
「中途半端に痛い」
「知らないですよ!」
「もっとこう、絶望感が欲しい」
「クレーム内容がおかしい!」
昼頃には、レオの精神は死にかけていた。
そこへドラゴン課長が来た。
「会議を始める」
ボッ!!
机が燃えた。
「火ィィィ!!」
「すまん」
「毎回なんですかこれ!?」
「癖で」
「直してください!」
夕方。
レオは疲れ果てていた。
だが魔王は満足そうだった。
「素晴らしい働きです」
「いやもう帰りたいです……」
「残業はありません」
「ホワイト!?」
「有給もあります」
「魔王軍なのに!?」
「ブラック労働は滅びるべきです」
レオは混乱した。
一方その頃。
勇者パーティー。
「ポーションどこだ!?」
「レオが管理してた!」
「テント誰が張るんだ!?」
「レオ!」
「食料は!?」
「レオ!!」
沈黙。
ガルドが青ざめた。
「……あいつ、必要だった?」
三日後。
勇者パーティーは山で遭難した。
そして一週間後。
魔王城では歓迎会が開かれていた。
スケルトンたちが骨を落としながら踊り、オークたちが料理を運び、ドラゴン課長が天井を焦がした。
「火事だァ!!」
「バケツ!」
「骨が滑る!」
「誰か課長止めろ!」
地獄みたいな宴会だった。
レオは笑っていた。
気づけば、久しぶりだった。
誰かと笑いながら飯を食うのは。
魔王が隣に座った。
「どうです?」
「……変な職場です」
「でしょうね」
「でも」
レオは少し笑った。
「前よりは楽しいです」
魔王は満足そうに頷いた。
その瞬間。
城門が勢いよく開いた。
ボロボロの勇者ガルドが飛び込んでくる。
「レオォォ!! 戻ってきてくれぇぇ!!」
レオは真顔になった。
「嫌です」
「即答!?」
「だってこっち残業ないし」
「裏切り者ォ!!」
「そっちが先に追放したんでしょうが!」
魔王が静かに立ち上がった。
「彼は我が社の社員です」
「社員!?」
「引き抜きは禁止ですよ」
「魔王が労基みたいなこと言ってる!」
ガルドは泣き崩れた。
「俺、洗濯できないんだよぉ!」
「知らん!」
その夜。
レオは思った。
世界を救う勇者になるより。
誰かに「助かった」と言われる方が、自分には向いているのかもしれない。
そして翌朝。
新しいクレームが届いた。
『ミミさんの毒舌で心が折れました』
レオは天井を見上げた。
「……辞表ってどこに出すんだろ」
ミミが微笑んだ。
「却下です」
「まだ何も言ってない!」
魔王城の騒がしい日々は、今日も続くらしい。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「もし魔王軍が会社だったら」という発想から生まれた、ゆるいギャグファンタジーです。
強敵との戦いではなく、
理不尽なクレーム、燃える会議室、働き方改革など、“異世界なのに妙に現実的”な空気感を楽しんでもらえたなら嬉しいです。
レオのように、戦う力はなくても“誰かを支える才能”を持つ人はたくさんいます。
そんな人たちが少し報われる物語になっていたら幸いです。




