アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 63話 妖怪図鑑
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
「……。」
外一面が真っ暗闇な深夜2時。あさぎは1人、私物の妖怪図鑑を机に広げていると、
「……お待たせ♪」
包帯のように自身の片目を白髪で隠し、高めにセットしたクルンクルンでフワンフワンのボリューミーなサイドテールでバッチバチにキメた、制服姿の女性が入ってきた。
「今日もヤングスタイルで来たんですね……雪さん。」
「制服は池図女学院の正装なので……っ///」
深夜の部室であさぎと密会した白髪の女性は白久雪。
推定アラフィフの彼女が深夜の部室に訪れる時はいつも、かつて池図女学院の生徒であった頃の様相を再現している。
……通称、ヤングスタイル(命名、教頭先生)。
「いや……何度見ても凄いですね。今の制服とデザインおんなじだったら生徒って言われても信じちゃいますよ。」
「あさぎちゃん……同じお世辞をなん度も言うものではありません……っ///」
「お世辞じゃないですって、今の雪さん白ちゃん先生より全然若いですもん。」
「それは言い過ぎ……っ。」
白久雪は白ちゃんの母親である。
……が、あさぎの言う通り、雪の外観は20代前半と遜色なく、雪の素性を知っているものはある種の恐ろしさにうすら寒さを覚えるほどの美貌を保っていた。
「今日は牡丹ちゃん、忙しいみたいです……っ。」
「ああ……牡丹さん、編入試験の結果まとめるのとか色々やってるみたいで。」
牡丹こと、教頭先生は仕事が立て込んでいるため、今日はあさぎと雪の2人きりとなった。
「今日は『3人』だけですね。」
「……ありがとうございます。『藍』のことカウントしてくれて。」
今、部室にはあさぎと雪と……もう1人。『藍』こと『天川藍』が部室にいる。
「……もう、私の友だちでもありますから。」
『藍』は高校生時代の雪と教頭先生のかつての親友であり、現在は部室に幽霊として居着いてはあさぎの襟足を揺らす日々を送っている。
テシっ……
「右……。」
「『藍』もそう思ってくれてるみたいですね♪」
あさぎは『藍』と意思疎通するために、YESなら右、NOなら左の襟足を揺らすよう独り言を言ってから、たびたび襟足がひとりでに揺れるようになった。
「ところで……、
雪が机の上に広げられた妖怪図鑑に視線を落とした。
「……それは?」
「妖怪図鑑です。」
「あさぎちゃん、変わった本を読むんですね……っ。」
「ちょっと前に好奇心で買ったんですけど、案外面白いですよ?」
あさぎの右襟足が揺れた。
「…………、」
雪はあさぎの隣に移動して肩を寄せた。
「ちょっ……!?近///」
「我慢してください……っ。」
因みに雪の容姿はあさぎに何か刺さるものがあるようだ。
「それとも……、
「ッ!?///」
雪は鼻先が触れそうな距離であさぎと目を合わせた。
「お膝の上をご所望ですか……っ?」
「ご所望じゃないですッ!!///」
雪はあさぎの態度に薄々勘づいており、ときおり反応を愉しんでいる。
「……♪」
「ほ、ほら!妖怪ってなんか愛嬌あるじゃないですか……!?」
あさぎは必死に話題を逸らした。
「愛……嬌?」
雪は目を細めて、しわしわでおどろおどろしい挿絵を見つめると首を傾げた。
「ありますって。ほら、この小豆洗いとか。」
「『夜な夜な河原で物音がして、不振がって近づくと小豆を洗っている』…………、ただの不審者では?」
「元も子もないですね……。」
「この、子泣き爺も……っ。」
「ええっと、『夜道で泣いている赤ん坊を拾い上げておぶると、実はお爺さんで際限なく重くなっていく』……。」
「ただの迷惑行為では?」
「た、確かに……。」
「それに、最後はどうなるのでしょう?重くなって……その後は?被害者は無事にお家に帰れたのでしょうか……?」
「けっこう突っ込みますね……。」
「……すみません。私、どうも理系脳なようで。オカルトやファンタジーを嗜むのには不向きなようです……っ。」
雪はガックリと肩を落とした。
「……それはちょっと違うのでは?」
「……え。」
雪は目をパチクリとさせてあさぎを見つめた。
「あの……///見つめるのやめてもらっても///」
「会話は目を見てするものでは?」
雪はズイッと顔を近づけた。
「う……///」
「…………、私は机の方を向いているので左から話しかけてください……っ。」
雪はパイプ椅子にまっすぐ座り直した。
「左から……?」
「きっとあさぎちゃんは私にとって嬉しい言葉をくれようとしている……私はそれを聞きたい……と思ったので。……さあっ。」
雪はいっそう姿勢を正した。
「それはそれで恥ずかしいんですけど!?///」
「…………さあっ。」
「〜///」
あさぎは頭を掻きむしると、乱した自身の髪を手櫛で整えて観念した。
「……その、理系脳だから非現実を楽しめないなんて事はなくて、物語の描写や続きに対する想いの馳せ方が違うだけだと思うんですよ。」
「やっぱり相容れませんよね……。」
雪はまたガックリと肩を落とした。
「そうじゃなくて!?……その、私だったら子泣き爺に会った人は災難だなあとか、子泣き爺の思惑はなんだろうとか想像するので……。」
「その発想はありませんでした……っ。」
「違うこと考えてるだけで楽しめないなんて事はないし、こうして言葉にして共有しているだけで……立派に『楽しめている』と思いませんか?」
「……。」
雪はちょっとの間そのままの姿勢で思考を整理すると、おもむろに立ち上がりあさぎの方を向いて両腕を広げた。
「……あの、何を?」
「抱きしめたくなりました……っ。」
「は!!??//////」
あさぎが座っているパイプ椅子が軋んだ。
「今、私はあさぎちゃんに肯定されてとても嬉しいです。なんならスキップで校舎一周したいです……っ。」
「他の人に見られたら不味いのでは……?」
「はっ!?そうでした……っ。牡丹ちゃんやあさぎちゃんはともかく、他の方にヤングスタイルを見られたら恥ずかしくて溶けちゃいます……っ///」
雪は慌ててパイプ椅子に座り直した。
「溶けちゃうんですか……。」
「〜、」
雪は妖怪図鑑の目次を開くと、あるページをあさぎに見せた。
「……雪女?」
「普段の私は、生徒からそう呼ばれています……っ。」
「あ〜、だから『溶けちゃう』……。」
「私、雪女なので……っ!」
雪はあまり自分から豊かな表情を見せるタイプではないが、この時はしてやったりな誇らしい表情をしていた。
「フフ……w」
「な、なんで笑うんですか!?」
「いや、こんな『冷たさ』とは対極の人が雪女なんて……wすみません。」
「私が、『冷たくない』……?」
「だって嬉しいとか抱きしめたいとか言うし、深夜の校舎をスキップで徘徊したがる人のどこが冷たいんですか♪」
あさぎは堪えきれない笑いをときおり溢しながら雪に答えた。
「……本当。みどりちゃんには感謝しないと……♪」
「みどり先輩に?」
「私を変えてくれたのはみどりちゃんだから……。ちゃんと胸の内を伝えられるように……って♪」
「それで今の関係に……。」
「妬きました……っ?」
「いえ別に。」
「……。」
雪は見るからに不機嫌、といった雰囲気で頬を膨らませた。
「『年相応』ってありま
あさぎの頬が思いっきり左右に引っ張られた。
「ひゅ…………、いひゃいんえふへほ(痛いんですけど)。」
「可哀想……。あさぎちゃん、とっても痛そうです……っ。」
「はうぁいほうあほおおうああそおへおはあひへふははい(可哀想だと思うならその手を離してください)。」
「ねえあさぎちゃん、『年相応』って……何でしょうか……っ?」
あさぎのほっぺがさっきより強く引っ張られた。
「えっほ(えっと)……、
「私、理系脳なので難しい熟語が分かりません……っ。」
「……、
「あさぎちゃんあさぎちゃん。この世で1番若々しく美しい女性って誰でしょう……っ?」
どんどん伸ばされていくあさぎのほっぺと対照的に、2人の顔の距離はどんどん縮まっていった。
「ゆ……、ゆひはんれふ(雪さんです)っ!?」
「それは言い過ぎ……っ///」
雪はあさぎのほっぺを解放した。
「ったあぁぁぁ……。」
「……♪」
痛がって頬をさするあさぎを他所に、雪は自身の手に残ったあさぎのほっぺの感触の余韻を愉しんでいた。
「あの、もう一回……っ。」
「ダメです……!///」
「……しゅん。」
「誘導したって、言いませんからね……!?」
「そんな……!?たったの一回で私が『年相応』を誘って合法的にほっぺをモチモチしようとしていたことを見破ってしまうなんて、恐ろしい子……っ。」
「……ご説明どうも。」
あさぎは妖怪図鑑のページをペラペラとめくり、子泣き爺のページを開き直した。
「ほら、ほっぺよりこっちのが楽しいですよ?」
「また子泣き爺……。」
「せっかくだし色々考えましょう?まず子泣き爺が重くなるのはどこまで続くかですけど……、」
「被害者を苦しめることが目的の愉快犯なら、腰が砕けるまでは重くならないと思いますが……っ。」
「砕かないんですか?」
「さっきあさぎちゃんのほっぺをモチモチして悟りました。」
「悟らないでください。」
「ほっぺをモチモチするあまりに、引きちぎってしまっては『もう一度モチモチできなくなってしまう』と。」
「しないでください。」
「……しゅん。」
「引っかかりませんよ……?」
「……。」
「……///」
・・・・・・。
「///……その、つまりは同じ相手にまた迷惑行為を働くために重さに上限を設けている……と。」
「SDGsです……っ。」
雪は手をワキワキさせた。
「しないでください。」
「……フフ♪」
「な、なんですか……///」
「ごめんなさい、オカルト研究部を思い出してしまいました……っ♪」
「あ〜、そういえば雪さん、ここの生徒だった頃はオカルト研究部だったんでしたね。」
「はい♪」
「……///」
頭の中から年齢という概念が跡形もなく吹き飛ぶような、雪の無邪気な笑顔があさぎから言葉を奪った。
「あさぎちゃん……っ?」
「すみません、ボーッとしてました///」
「……♪あさぎちゃん、何かに見惚れていました……っ?」
「な、なんでもないですっ!///」
「フフ♪誰に見惚れてたんでしょう……っ♪」
「さ、さあ……ッ!?子泣き爺じゃないですか……!?///」
あさぎの右襟足が揺れた。
「私、子泣き爺以下なんですか!?」
「……知りませんッ!///」
このあと、2人は空が明るくなるまで子泣き爺について語り明かした。
襟足を愛でる会(3)
牡丹:ごめんねあさぎちゃん、今日は部室行けなくて
あさぎ:お仕事お疲れ様です
雪:私は……?
牡丹:不審者
雪:ひどぉい!?
あさぎ:雪さん自覚なかったんですか?
牡丹:ほら見ろ
雪:もう知らないっ
あさぎ:教頭先生〜、昨日知らない人が部室に侵入してました
牡丹:罪状は不法侵入……っと
雪:ちょっとぉ!?
牡丹:犯人は現場に戻る……ね
雪:親友の顔忘れちゃったのぉ!?
牡丹:で?不審者さんは昨日どんな悪行を働いていたのかしらあさぎちゃん
あさぎ:はいっ!ほっぺを引っ張られました!
牡丹:はい傷害罪
雪:なんで!?
あさぎ:世界で1番美しい女性は雪さんです
雪:やだ///
あさぎ:って言わされました
雪:あさぎちゃん!!??
牡丹:脅迫そして強要罪……っと。
牡丹:これだけ罪状があれば懲役は確実ね
牡丹:お手柄よあさぎちゃん♪
あさぎ:えへへ
雪:ポリスメンはだめぇぇえ!?
牡丹:ほんとうに呼ぶわけないでしょ
雪:知らない人じゃないもん……
牡丹:はいはい、で?何してたの?
雪:妖怪について話してた♪
牡丹:あら懐かしい
雪:ね?オカルト研究部思い出すよね?
牡丹:今度は私も混ぜてちょうだいね♪
あさぎ:じゃあ妖怪図鑑は部室に常設しときますね
雪:やったあ♪
あさぎ:妖怪図鑑ではしゃぐ半世紀者
牡丹:次年齢に触れたら処すわよ
あさぎ:すみませんでしたぁぁあッッ!!
牡丹:で、どんなお話してたのかしら?
あさぎ:はい、協議の結果……
あさぎ:子泣き爺は被害者の良心に寄りかかり苦悶する被害者に悦を感じる愉快犯であり、なおかつ容姿を記憶されにくい環境と振る舞いを生かし被害者を持続的に利用する、犯罪心理学的に極めて合理的な軽犯罪者ということになりました
牡丹:へ、へー……
雪:私とあさぎちゃんの初めての共同作業よ!
牡丹:それでいいのか親友よ




