『雷神とプレスマンと桑原』
あるところに一人の男があった。町で、初めて見る苗木売りのじいさまに声をかけられて、桃の苗木を買った。桃栗三年と言うが、三年も待てなかったので、裏の畑に植えて、肥料をたんまりやって、水をやって寝た。
翌日、桃の木は、雲の上まで伸びていた。男は、天の世界を見てみたいものだと思って、桃の木を登ってみると、意外なほど順調に登ることができて、雲の上に出た。
雲の上には机に向かった青鬼がいて、男を見ると、何をしに来たのか尋ねたから、雷様に会いたい、と伝えると、道を教えてくれた。男がその道を進むと、青鬼は机に向き直った。どうやら、漫画を書いているらしい。しばらく進むと、大きな屋敷があって、いかにもそれっぽい雷様が、昼寝をしていた。屋敷の中から赤鬼が出てきて、男に、何をしに来たのか尋ねたので、雷様に会いたい、と伝えると、赤鬼は、その方が雷様だが、お休み中なので、目を覚まされたら話しかけろ、起こしてしまうと怒られるぞ、と注意を与えて、赤鬼は屋敷の中に戻り、漫画を書き始めた。男は、怒られるぞ、じゃなくて、雷が落ちるぞ、じゃないかと思ったが、雷様が、雷を落とす、という言葉を比喩的に使うと、わかりにくくなるので、あえて使わないのだと思い直した。ただし、このことは、本筋とは何の関係もない。本筋とは関係のない話が気になってしまうのなら、青鬼と赤鬼が漫画を書いているほうを気にしてもらいたい。ただし、あくまで、本筋には関係ない。
目を覚ました雷様に話しかけると、これから雷雨を降らせなければならないから、手伝ってくれ、と言われ、何をすればいいのか尋ねると、たらいの水をひしゃくでまいてくれと言われたので、やってみると、下界で人々が慌てふためく姿が見えて楽しくなってしまい、やたらにまいていたところ、赤鬼が漫画の下書きに使っていたと思われるプレスマンが落ちていたのに気がつかず、下界に蹴り落としてしまい、しかし、誰かに当たったわけでもなく、地面に刺さっただけだった。男は、このとき、プレスマンを落とすまいとして体勢を崩し、地上に落ちてしまったが、桑畑に落ちて、奇跡的にけがはなかった。
教訓:雨が降ろうと槍が降ろうと、という言葉は、このときのプレスマンを槍に見立てた言葉だという。




