81話 明日をつなぐ、僕らの国
■奉仕国家・介護区域
「アリスちゃん、久しぶりねぇ」
ゆったりと手を振る大統領に、アリスは背筋を伸ばして丁寧に会釈した。
「以前は……非常に恥ずかしい姿をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいのよ、もう気にしてないわ~。あれも青春よ、青春♡」
そう言いながら、大統領は隣に立つ夫と、
そのさらに横で満面の笑みを浮かべる“義父”を振り返る。
「いやぁ! この国はいい! 海は綺麗だし女は元気だ!
女が元気な国はいい国だぞ!」
豪快に笑う義父に、夫は苦い顔を向ける。
「……元気になってくれたのは嬉しいけど、複雑だよ親父」
「いいじゃないの。気力を取り戻してくれてよかったでしょ?」
大統領が肘で夫をつつく。
夫は頭をかきながらアリスへ向き直った。
「ほんとに、ありがとう。親父のことも、色々世話してくれて」
「いえ、私たちこそ、支えていただいています」
アリスが柔らかく返したその時――。
「おう! セイラか!」
セイラが姿を現すと、義父の顔がさらに輝いた。
「仕事中だろ、どうした?」
「ペアリング相手なんだから当然だろ。定期的に顔見せるのは義務だぞ」
「まさか義父さんがセイラちゃんとペアリングするとはねぇ〜」
大統領が笑うと、夫が苦笑しながら言った。
「セイラさんって、亡くなった母さんに雰囲気が似てるんだ。たぶんそれだよ」
「おうとも! お前の母さんも軍人でな。口説き落としたのも俺だ!
セイラを見た時…久しぶりに“男の血”が騒いだんだよ!」
「……しつこすぎて根負けしただけだ!」
顔を赤くするセイラ。
夫がぼそっと呟く。
「母さんも同じこと言ってたよ」
その瞬間、義父も夫もセイラも、そしてアリスや大統領までもが大笑い。
介護区域は今日も、平和で賑やかだった。
■別の場所 ― レオナとマーヤ
巨大なガラス窓越しに奉仕国家の都市を眺めながら、
マーヤがコーヒーをすすった。
「それで? 計画の進捗はどうや? うまくいっとるか?」
レオナは足を組み、悪戯っぽく笑う。
「ハハハ! まあまあかな?」
レオナは機嫌よくホログラムを回し、地球情勢のデータを指で弾いた。
「地球の女も捨てたもんやないやろ?」
「そうだね。でも火種なら、いくらでも転がってるよ?」
「せやなぁ。レオナの言う通りや。あっちで女同士の争い始まっとるようやしな」
「そう。小火で終わるか、大火になるか……楽しみだね!」
「……随分余裕やな?」
「ハハハ!! だってもう、
地球のご主人様たちとの間に“僕らの子供”が生まれてるんだよ?
今は、それで十分さ」
「結局どういう計画やったんや?」
「前にも言ったろ? 地球人は少子化で悩んでいるって」
「そないな話あったなぁ」
「アーク・エデン計画の目標は――
リリスたちが子作りを拒んでるうちに、
僕ら奉仕種族の娘たちで地球を満たすこと。
それだけだよ」
「壮大すぎんだろ……」リュナが呆れたように言う。
「壮大やけど、妙に現実的なんが怖いわ」マーヤも苦笑。
「で、リュナ? 僕の計画に乗ったんだから、たっくさん子供産んでよね?」
「はぁ!? 産むのは構わねーけどよ、お前はどうすんだ」
「僕? もうペアリングした“ご主人様”いるから、すでに子作り開始中さ!」
「いつのまに!?」リュナが目を見開く。
「地球潜入のとき助けてくれた男性だよ。
忘れられなくてね、探し出してペアリングしたんだ!」
「この前こそこそドローン飛ばしてたの、
男探すためやったんか……ヤンデレの素質あるで」マーヤが笑う。
「ハハハ!! 愛の力は偉大さ!! 褒めすぎだよ!」
「褒めてへんわ!!」
リュナは小声でぼそり。
「……やっぱ透しかいねーよな。無理やりにでもペアリングして――」
「聞こえとるで? アリスのご主人様やろ?
強引にやるよりアリスに頼んだほうがスムーズやと思うで?」
「アリスに頭下げるとか……ぜってぇ嫌だ……けど……まぁ……考えとく……」
マーヤは満足げにニヤニヤした。
■外交巡回中のシズク&マリナ
「いい男が多すぎて、どの殿方を選ぶか迷うわねぇ」
「ほんまやわぁ、地球にはええ男がぎょうさんおるわぁ~」
二人は世界地図を見ながら、くすくす笑う。
各国の大使館は、彼女たちが訪れるたびにお祭り騒ぎになった。
■奉仕国家・アーシグマ区画
アーシグマ・プライムはホログラム越しに街を眺めて微笑む。
「みんな、いいご主人様が見つかってよかったわ〜」
「長い旅の果てに、やっと本当の家族ができたのよねぇ」
ノワールも目を細める。
「私たちの役目も、そろそろ終わりでしょうか……?」
セレスが呟くと、
「何言ってんの! あんな危なっかしい子たち、
放って眠れるわけないでしょ!」
ルビーが笑い飛ばす。
「そうよ〜。まだまだ子供なんだから」
プライムも腕を組む。
「新しい子たちも産まれているしねぇ?」
ノワールも続ける。
「それに、眠りにつく前、リアスちゃんたちに頼まれたしね」
ルビーが明るく言う。
四人のアーシグマは視線を合わせ、同時に頷いた。
「「「「そうねぇ~~」」」」
奉仕国家の夜は今日も、静かに、幸せと未来を載せて更けていく。
人間と奉仕種族。
男と女。
新しい関係、新しい家族、新しい国家。
誰もがまだ不安で、
誰もがまだ手探りで、
それでも前に進もうとしていた。
第二部完




