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76話 奉仕国家が変えた、女たちの夜明け その2(改)

会議室には、朝のコーヒーと書類の匂いが混ざっていた。

重苦しい空気の中、ひとりの管理官が低くつぶやく。


長机の中央で、管理官の一人――片桐政則が、低くつぶやいた。


「……もう男だけで対処するのは難しいな」


資料をめくっていた男たちが、同時に視線を上げる。

壁に掛けられた時計の秒針の音だけが、やけに大きく響いていた。


「女性の登用を増やす、という話ですか」

そう口を開いたのは、現場叩き上げの刑事部長・佐伯修一だ。


「その通りだ」

片桐は頷く。

「最近、裏社会を牛耳っているのは――女ばかりだ」


「……しかし」

年配の官僚・宮坂重信が眉をひそめる。

「銃撃戦になる可能性もある。女性を前線に立たせるのは危険すぎるのでは」


その言葉に、佐伯が鼻で笑った。


「だからこそ、俺たち男がいるんでしょう」

「女を守るのは、男の仕事だ」


一瞬、室内に笑いが漏れた。


――かつてなら、「差別的だ」と叩かれていたかもしれない。

だが今、この言葉を咎める者はいない。

むしろ、“頼られる側”であることに、男たちは誇りを感じていた。


「指揮はどうする?」

片桐が続ける。

「経験のある女性官僚は、まだ少ない」


「育てるしかないな」

佐伯は即答した。

「男の犯罪が減ったおかげで、余力のある人材は多い。

 ノウハウは全部叩き込めばいい」


「……当面は、監督役をつけるか」

「現場は?」

「従来通りだ。女性捜査官には男性を同行させる。

指導、監督、そして――危険が及べば、体を張って守る」

沈黙の後、重鎮の視線が一人の女性捜査官に向けられる。


沈黙。


やがて、重鎮たちの視線が、一人の女性に集まった。


「沖田君」


呼ばれた沖田彩花は、背筋を伸ばして立ち上がる。


片桐は静かに言った。


「これからは女性の活躍が、

 街の……いや、国の治安を守ることになる。頼めるな?」


「おまかせください」


「何かあれば、我々が動く。いつでも相談してくるといい」


「それも男の仕事ですか?」

と沖田が冗談めかして言うと、室内にどっと笑いが起こる。


「お互い支え合うのが当たり前のことだ」

「……本当に男の人たちって、変わりましたね」

「そうかね?」

「ええ、とても頼りがいがあります。私たち女性も安心して働けそうです」


――こうして、女性登用の拡大が正式に決定された。


増員が決定され、女性捜査官の活躍の場が広がる。


無用なトラブルを防ぐための女性登用。

組織犯罪には必ず女性の動向が必要で、

現場では女性警視が指揮権を取るケースも増えた。


まだ始まったばかりの取り組みだが、

男性官僚や刑事たちが現場で監督・指導している。

「うまくいけば、将来は女性組織犯罪専門の、

 女性だけのチームも作れるかもしれない」


沖田をはじめ、多くの女性捜査官は奉仕種族に肯定的だった。

奉仕種族が家庭を守り、男たちが自信を取り戻したことで、

今では現場でも「男が守ってくれる」という安心感の中で仕事ができる。


「家のことは奉仕種族に任せてあるから、夜勤も平気ですよ」

そう笑う者も少なくない。


彼女たちは、増え続ける女性犯罪者たちを、こう評した。


――時代に取り残された遺物。

――価値観の古い、過去の亡霊。


そして同時に、こうも呟く。


「皮肉よね。女性犯罪者が増えたおかげで、私たちの昇進ルートが開けたなんて」


現場の休憩室。

コーヒーを飲む沖田の耳に、男性捜査官の声が飛び込む。


「おい、お前ら。仕事だぞ!」


「は〜い、今行きまーす!」

コートを翻し、沖田が立ち上がる。


同行する監督役の官僚――神谷直人が、ニヤリと笑った。


「今日の指揮は、お前が取れ」


「いいんですか?」


「仮免だけどな?早く“仮”が取れるといいな」

神谷は意地悪そうに言う。


「すぐに外してみせますよ」

沖田は自信満々に微笑んだ。


「その意気だ」


軽く背中を叩かれ、沖田が振り返る。


「……今の、セクハラですよ?」


「おい、それは無しだろぉ……」

神谷が慌ててぼやく。


「冗談ですよ?引っかかりましたね」

沖田はくすりと笑った。


「まったく……かなわんな」

神谷は胸をなで下ろす。


別の女性捜査官が、からかうように言った。


「今日も私のこと、守ってくださいね?」

「当たり前だろ!」と笑う男性捜査官。


エンジン音が鳴り響く。

パトカーの赤色灯が夜の街に光を投げかけた。


――新しい男女関係が、静かに始まっていた。

互いに支え、補い合い、守り合う。

それは、かつての“対立する男女”ではない。

共に働き、共に進む男女の姿だった。

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