71話 裏社会消滅と謝罪会見(改)
――裏社会の一斉解散、更生に奉仕国家の関与が疑われるニュースが流れた。
各国警察機構は慌てふためいた。
捜査の端々から奉仕種族の影が見え隠れし、もはや警察だけでは手に負えない。
裏社会は本来、根絶できない。潰せば別の形で湧き、
捕まえれば別の名で現れる。それが“常識”だった。
だが今回は違った。
捜査の糸を辿れば、必ず行き着く影があった。
――奉仕種族。
各国政府への報告書には、決まり文句のようにこう書かれていた。
「俺たちじゃどうにもできませんわ」
「モームリ」
諦めに似た現場の悲鳴だった。
だが――その報告を受けた政府側の反応は、意外にも静かだった。
抗議の嵐が吹き荒れる……はずが、どこの国も妙に腰が重い。
理由は単純。
奉仕国家から受けた恩が、あまりに大きすぎたのだ。
貿易債務の帳消し、子育て支援、etc、そして“愛想が良すぎる外交官”たち。
おいそれと強く出られる相手ではない。
「いやー、ちょっと説明してくれると助かるな~」
「うちの大統領が気にしてましてね~」
「いや別に怒ってるわけじゃないんですよ?」
――どの国も“遠回しな抗議”止まり。
公の場で非難する国は、一つもなかった。
――その頃、奉仕国家本部では。
「さすがに表立って抗議してくる国は無いわねー?」
アーシグマ・プライムが紅茶を啜りながら言う。
「どんだけ金ばら撒いたと思ってんねん。」
マーヤが椅子をくるくる回しながら笑った。
「でかい顔して抗議してくる奴いたら見てみたいわ。」
「笑ってる場合か。」
セイラが腕を組む。「無視はできんぞ。」
「そうですね……謝罪と釈明はすぐにしたほうがいいです。」
アリスは資料を抱えながら真面目に言う。
「ハハハ!!僕たちは人数が多いからね?
地球の言葉で言えばカルネデアスの板さ!」
レオナが無い胸を張る。
「緊急避難かいな? うまいこと言うやないか!」
マーヤが吹き出す。
「笑い事じゃありません!! 派遣勝手に決めたの、誰でしたっけ!?」
「ハハハ! もしかして僕かな?」
「また腹に一発お見舞して笑えないようにしてやろうか?」
「いやちょっ……マジでやるの!? セイラ待って!!」
ドタバタの中、レオナが逃げ回る。
マーヤは拍手。アリスは深いため息。
まるでコントだった。
「……この二人が揃うとロクなことにならんな。」
セイラがボソッと呟く。
(セイラさんも人のこと言えないんですけどね……)
アリスは心の中で毒づいた。
「じゃあ、早めに会見でも開くしかないわねぇー」
アーシグマ・プライムが苦笑混じりに言うと、全員の顔が曇った。
こうしてアリスは各国に謝罪と釈明の連絡行脚に回ることになり、
マリナ、シズク、アーシグマ・プライムも駆り出され、
記者会見を開くこととなった。
会場は、満員だった。
世界各国のメディア。
好意的な記者。
半信半疑の記者。
そして――
叩く気満々の視線。
壇上に立つ三人は、そんな空気を意に介した様子もなく、
穏やかに、並んで頭を下げた。
「今回は皆さまに、多大なご迷惑をおかけして――本当に、ごめんなさいねぇ?」
マリナが深々と頭を下げる。
「派遣で、てんやわんやしてもうてなぁ。想定外の結果になってしもたんですぅ」
シズクも頭を下げる。
「今後は、このようなことがないよう約束しますわぁ。ウフフ」
マリナが言う。
――だが記者たちから返ってきたのは、意外な反応だった。
「今回、裏社会を一掃した奉仕国家が、なぜ謝罪を?」
「むしろ誇るべき成果では?」
シズクは首を振る。
「お騒がせしてしもたのは事実やろぉ?」
「謝るのは当たり前やと思うんよ」
「そうねぇ」
マリナが微笑む。
「棚ぼたを誇るのは、お門違いでしょぉ?」
別の記者。
「逆に、この功罪を材料に要求してくる国は?」
「今のところ、ありませんわぁ」
マリナは即答した。
「向こうさんも、内心カンカンやろぉしなぁ」
シズクが頷く。
「真摯に受け止めたい思てるんよぉ」
空気は、完全に奉仕国家寄りだった。
そこへ。
叩く気満々で来た、リベラル系記者が食い下がる。
「第一次派遣の“予告なし派遣”は、各国にスパイを送り込むための、
恣意的行為だったのでは!?」
一瞬、会場の温度が下がる。
だが、マリナは眉一つ動かさず、首を傾げた。
「そういう憶測、聞くわねぇ?でも、それは無いと思うわぁ」
「なぜ、そう言い切れるんですか!!」
声を荒げる記者に対し、
シズクは、むしろ申し訳なさそうに笑った。
「当時は、国として手探り状態やったんよぉ」
シズクが穏やかに答える。
「命令系統も、正直雑やったしなぁ」
「今は整理して、トラブルも起きてないでしょぉ?」
マリナが微笑む。
「誤解を招いたことは、ここで謝罪させてもらうわねぇ。ウフフ」
「当時の報告書も、全部公開しとるんよぉ?」
シズクが念押しする。
「犯人の名前も書いとるから、見てなぁ」
記者たちは、頷いた。
そこへ、女性記者が立ち上がる。
別の女性記者が立ち上がる。
「奉仕種族は、男性を篭絡し、操っていると聞きますが!?」
マリナは、くすっと笑った。
「そんな超能力、私たち持ってないわよぉ?」
「もし本当やったらぁここで謝罪会見なんて、してない思うわぁ」
シズクも笑う。
「操るどころか、叩かれてるわねぇ。ウフフ」
会場が、くすくすと笑う。
それでも女性記者は引かない。
「あなた達の到来で、女性の価値観が崩れて――」
「今、関係ないだろ」
他の記者が遮る。
「ここは主張の場じゃない」
「自分勝手すぎる」
他の記者たちから、一斉に非難が飛ぶ。
「知る権利だ!報道の自由が――」
「なら、その枠でやれ」
「ここはお前の演説台じゃない」
完全に、孤立。
「喧嘩はあかんよぉ」
シズクがやんわり制し、
「私たちの国は、いつでもオープンよぉ?」
マリナが微笑む。
「聞きたいことがあるなら、いつでも来てくれて構わないわぁ。ウフフ」
最後に、アーシグマ・プライムが前に出る。
「案内は、この私――アーシグマ・プライムが担当するわぁ」
ウインク。
「よろしくね? お嬢ちゃん♡」
張り詰めていた空気が、
完全に溶けた。
「皆さん、本当に申し訳ありませんでしたわぁ」
三人は、深々と頭を下げた。
「頭を上げろ!!」
「謝る必要なし!!」
記者たちの声が飛ぶ。
もはや謝罪会見ではなく、感謝と応援の集会と化していた。
叩く気満々で来たリベラル記者たちは、悔しそうに呟く。
「……くそ」
「叩けない」
「声を上げた瞬間、こっちが敵になる……」
――あの女たち。狡猾すぎる。
だが、それは違う。
彼女たちは、ただ誠実で、強く、笑顔だっただけだ。
そしてそれこそが、この世界で最も抗いがたい力だった




