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69話 奉仕の街、年末狂想曲(シティ・カーニバル)

――年末年始。

 例年なら、夜の街が一年でいちばん稼ぐ時期だった。


 繁華街のネオンはきらびやかに輝き、呼び込みの声が飛び交い、

 サンタ服のキャバ嬢が寒風の中でも笑顔を張りつけていたはず。


 だが――今年の様子は違っていた。


 キャバクラも、コンカフェも、ガールズバーも、

 ソープにデリヘル、立ちんぼ通りも……どこも閑古鳥が鳴いていた。


 「うち、今日で三日連続ゼロよ……」

 「まさかセクハラ親父の声が恋しくなるなんてね……」


 カウンター越しで、キャバ嬢のエマがグラスを拭きながらため息をつく。

 隣でスマホをいじっていたアオイが、ぼそっと言う。


 「うちも全然捕まんない。なにこれ、バグ?」


 原因は単純だった。


 ――奉仕種族の派遣、再開。


 男たちはもう、金を払わずとも“愛される”世界にいた。

 笑顔と感謝、優しい言葉を返すだけで、

 心の底から愛を返してくれる女性がいる。


 しかも合法・公認・永久保証つき。


 一人、二人、多ければ複数の奉仕種族とペアリングしている男まで現れ、

 “金で愛を買う時代”は、静かに終わりを迎えつつあった。


 結果、夜の街の「金の循環」は、完全に止まった。


 だが、例外もあった。

 “二番街”――通称「虹の通り」だけは、今年も満席。


 「ママ、最近なんか女らしくなったんじゃない?

 前は化け物みたいなメイクだったのに」


 「あら、失礼ねぇ。うちに来た奉仕種族の子が言うのよ。

 『そのアイラインは時代遅れです!』って。教わったメイク試したら――

  ほら、この通り♡」


 「へぇ~、あの子センスあるじゃん!」


 「もう、あの子に助けられてばっかよぉ。

  料理から接客まで見直された上に、美容まで磨かれちゃって……

  奉仕種族様様よ!」


 ――ゲイバーとオカマバーだけが、いま大繁盛。

 ペアリングしている男たちにとって、“女を裏切らない店”はここだけだった。

 「奉仕種族への罪悪感がないから、心置きなく飲める」とのこと。


 皮肉な話だが、愛が街を静かにして、夜の虹を輝かせた。


 一方その頃、もう一つの繁盛店――ホストクラブ。

 だが、ここにも“異変”があった。


 「リシャール入れちゃう~!」

 「ピンドン空けてあげる~!」


 酔いどれ女子たちがカードを握りしめて叫ぶ。

 しかし、担当ホストは優しく止めた。


 「いやー、今月ピンチじゃないの? 無理しちゃダメだって~」

 「もうこの辺でやめときな? カードも限界でしょ?」


 かつてなら、ツケを積ませ、払えなければAV・風俗送り――

 それが“常識”だった世界。


 今や、ホストたちが“客の心配”をしている。


 ナンバー1ホスト・凛也がスーツの襟を正し、静かに頭を下げる。


 「お客様、愛とはお金ではありません。笑顔を残して帰ってください」


 女性客たちはぽかんとし、やがて拍手。

 (※その後、半分は泣いて出ていった)


 ――だが、それもまた正しい。

 この街の裏には、やはり奉仕種族の影がある。


 翌朝。ホストクラブ「EGOIST」の朝礼。


 壇上に立つのは、奉仕種族のいろは。

 白いスーツにピシッとした姿勢、背後には社長(彼女のペア相手)が

 腕を組んで  見守る。


 「皆さん!」

 いろはが明るい声で言う。


 「今、私たち奉仕種族の登場によって、性風俗産業は衰退の

 一途をたどっています!」

 「つまり――ツケで飲ませても、もう回収できません!!」


 「うんうん……」

 ホストたちは真剣にうなずく。


 「ならどうすればいいか? 答えは簡単です!」

 いろはが指を鳴らす。


 「回転率を上げるのです!! “生かさず殺さず”いい感じにお金を使わせ、

 でも破産させない!」


 「おおーっ!!」


 「破産させなければ、依存した女性は毎月来ます!!」

 「“持続可能な搾取”こそ、これからのホストの心得です!!」


 拍手喝采。

 まるで企業研修のような光景。


 最後に社長が締める。


 「おいお前ら! 女の尻の毛まで毟り取るなよ!

 尻の毛は残せ! また来月生えるからな!」


 ホストたち「はーい!!!」


 笑い声が響き渡る中、朝の営業ミーティングは終了した。


 一方その頃、閑古鳥が鳴くキャバクラ店。


 店長がため息交じりに言い放つ。


 「……来年4月から、うちもゲイバーにするから。

 あんたたちも次の仕事、早めに見つけときなさいよ?」


 「マジかよ……」


 化粧台の前で口を開けたまま固まるキャバ嬢たち。

 街の灯りは変わらずネオンに輝いているのに、

 “夜の生態系”は、確実に変わっていた。

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