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63話 お礼と、先行投資と、静かな衝撃

国連本部・臨時特設ホール。

銀白の髪がライトを反射し、三人の女性が並んだ瞬間、空気がピンと張りつめた。


マリナ、シズク、アリス――奉仕国家の三外交代表。

もはや地球における“宇宙の顔”である。


マリナが優雅にマイクを握る。

「まずは、私たちのお願いを聞いてくれて嬉しいわぁ」


その声に、場がふっと和らぐ。

続けて、シズクが柔らかい関西訛りで頭を下げた。

「全奉仕種族を代表して、お礼言わさせてもらいますわぁ。

 こんなに早う法改正してくれて、ほんまにありがとうございますぅ」


フラッシュが弾け、ざわめきが走る。

“お礼”? “また何かくれるのか”?

記者たちの視線が一斉にマリナたちに突き刺さる。


――半年前、奉仕国家は各国の貿易債務を半年分まるごと帳消しにした。

その“神対応”に世界は感謝どころか頭が上がらない状態だった。


そのうえで、また“お礼”?

会場全体が息をのむ。


アリスが一歩前に出て、微笑みながら告げた。


「今妊娠している奉仕種族の子どもたちが、

 将来安心して教育を受けられるように――

 先行投資として、各国の教育・子育て機関に無償支援を行います」


静寂。


次の瞬間、記者席が爆発した。


「い、今“各国の”って言いましたか!? 自国じゃなくて!?」

「支援総額は!? 金額の規模は!?」


アリスは微笑を崩さず答える。

「奉仕国家は民族教育を行う予定はありません。

 使い道は、支援を受ける国の自由に」


シズクがやわらかく補足する。

「奉仕種族の子どもたちが、

 ほんの少しでも早うお宅の国民として溶け込めるようにするための措置ですぅ」


マリナが胸に手を重ね、しっとり微笑む。

「この支援で、皆さんの子どもたちにも幸せが届けば――嬉しいわぁ」


――拍手。

一秒遅れて、爆発的な拍手とフラッシュ。

この瞬間、奉仕国家は“母性の象徴”から“教育外交の革命児”へと進化した。


各国政府・国際機関の反応

アメリカ合衆国・国務省


「……支援? 教育分野限定で“用途自由”?」

担当官が椅子から跳ね上がる。


補佐官が冷静にタブレットを見ながら言った。

「“先行投資”という単語が使われています。額面は……桁が違うと思われます」


「……うちの議会より気前がいい宇宙人って何だよ」

国務長官が頭を抱える。


「教育予算倍増? 票田も倍増? 

 ……いや、選挙区が宇宙まで広がるんじゃねぇのか?」


欧州連合(EU)・緊急理事会


フランス代表が机を叩く。

「宗教も文化も押しつけない……完全な無干渉主義だ!」


ドイツ代表が眼鏡を押し上げる。

「だが教育方針を委ねたということは、責任も我々にある」


イタリア代表が笑う。

「いやいや、絶対“奉仕学校特区”とか作る国出るって」


場が苦笑で包まれる。

だが誰も反対しない。

理由は――金額の桁が、想像を絶していたからだ。


日本・内閣府 特別対策本部


官邸のモニターに映るマリナたちの笑顔。

沈黙する官僚たち。


「……これ、全国の保育園と学校に宇宙予算が直接降りるってこと?」

「しかも文科省経由じゃなく、国連ルートらしいっす」

「マジか。財務省の面子、完全に消し飛んだな」


官房長官ぼ高橋が深くため息をつく。

「“奉仕国家ありがとう”って言った瞬間、与野党が一斉にパニックですね」


経産官僚が苦笑する。

「いや、もう官邸前デモ始まってます。“うちの保育園にも宇宙予算を”って」


国連教育科学文化機関(UNESCO)


「宗教的条件はなし? 文化的干渉もなし?」

「はい、“無償・用途自由”と明記されています」


議長が唸る。

「……人類史上初の“干渉しない支援”か。受けるしかないな」


若い女性職員がつぶやいた。

「……あの人たち、地球じゃなく“未来”を見てますね」


IMF・緊急金融分析チーム


アナリストが顔面蒼白。

「奉仕国家の教育支援基金、地球全体の教育予算の一割相当!?」

「貨幣じゃなく“物資と技術支援”中心だ! GDP換算不能!」


リーダーの女性がぼそり。

「……つまり、“教育で借りを作らせない”ってことね。外交センスが怖いわ」


国連総会・臨時討議


「最大級の国際贈与だ!」

「だが同時に、“子どもをどう育てるか”が問われている!」

「政治的意図がない? ……信じるしかない!」


混乱する議場を、事務総長が静かにまとめた。

「ならば、我々はこの“贈り物”を受け取ろう。

 ただし――その意味を、未来に証明できるように」


拍手。

その音が天井を震わせた。


世界のニュース速報


「奉仕国家、全世界への教育支援を発表!」

「“宇宙からの母性外交”に各国騒然!」

「民族教育を否定――地球市民化の一歩か?」


キャスターが最後に言葉を添える。

「……もしかすると、今日から“教育”という言葉の意味が変わるのかもしれません」


その夜、各国の政治家は頭を抱え、官僚は計算機を叩き、

市民たちはSNSで“宇宙保育園”の予約サイトを探した。


そして誰もが思った。

――奉仕国家、あんたらやっぱりスケールが違う。


地球は今、“教育”という名の贈り物でひっくり返ろうとしていた。

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