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61話 奇跡とご祝儀と、世界が動いた夜(改)

マーヤは軽く肩をすくめ、場の空気を切り替えるように言った。


「アホな話はここまでにしとこか? 奉仕種族にとっては、めでたい話やからな?」


 その言葉に、レオナはいつもの調子で声を弾ませる。


「ハハハ!! うんうん、めでたいねぇ!!」


「なんか祝いの品でも用意してくれんのかよ?」


 リュナの問いに、マーヤはにやりと笑った。


「ええで? 仰山ご祝儀包むさかい、期待してな?」


「ハハハ! それは楽しみだなぁ」


 三人の密談は、意味深な笑いだけを残して終わった。

 その笑いが、やがて世界を揺るがすことになるとも知らずに。


 数日後。


 世界中の報道機関が注目する中、奉仕国家〈ノア・プレート〉

 は緊急記者会見を開いた。

 壇上に立つのは、マリナ、シズク、そしてアーシグマ・プライム。

 その背後には、穏やかな笑顔を浮かべる奉仕種族の代表たちが

 整然と並んでいる。


 マイクを取ったマリナは、胸に手を当て、うっとりとした声音で語り始めた。


「子供が作れなかった私たちに、地球のご主人様は“命の芽”をくださいました。これほど嬉しいことはありませんわぁ……ウフフ」


 続いて、シズクが柔らかな関西訛りで頷く。


「ほんまにこんなん、嬉しゅうてたまらんわぁ。地球のご主人様方、ほんまにありがとうなぁ」


 その瞬間、会場がざわめいた。


「今……なんて言った?」

「妊娠? 奉仕種族が……?」


 マリナは、その反応を待っていたかのように、ゆっくりと続ける。


「数件の医療機関で、正式に確認されたわぁ。奉仕種族と地球人男性との間に

――妊娠反応が検出されたのぉ……ウフフ」


 空気が、一気に張り詰めた。


 レオナが語っていた“奇跡”は、噂でも仮説でもなく、

 現実として世界の前に突きつけられたのだ。


 シズクが、にこやかなまま言葉を重ねる。


「うちら奉仕種族はなぁ、地球の男性達に“嫁に出した”もんやと思てるんよぉ。

 娘が身ごもったら、親が祝うんは当然のことやろぉ? せやからな――」


 マリナが、間髪入れずに宣言した。


「これから妊娠や出産に関わる、すべての費用は――奉仕国家が全額負担するわぁ……ウフフ」


 シャッター音が、嵐のように鳴り響いた。

 ――地球史上初の“宇宙的出産祝金”の誕生である。


 同じ頃。

 奉仕国家内部で行われていた会議室。


 マーヤは机を軽く叩き、豪快に言い放った。


「金は天下の回りもんや! ため込んで恨み買うても、ええことあれへん! 

 喜ばしい時にこそ使うんや!」


 アリスは眼鏡越しに資料を見つめ、静かに頷く。


「……まあ、たしかに。こういう“良い話”にお金を惜しむのは野暮ですね」


 そもそも、奉仕国家は異常なほど支出が少ない国家だった。

 派遣した奉仕種族への生活資金以外、ほぼ支出はゼロ。


 生活必需品は資源惑星から供給し、自国で生成可能。

 輸入するのは漫画、アニメ、映画、グッズ、

 あるいは歴史や学術書といった娯楽・知識分野のみ。

 自国通貨すら持たない国家でありながら、

 医療・農業・環境・エネルギー特許、宇宙航路の記録といった輸出により、

 ドル・円・元・ユーロと世界各国の通貨では国庫に溢れ返っていた。


 提案は即日可決。

 出産・育児支援施設の建設が始まり、

 奉仕国家は一気に“母なる星”の顔を見せ始める。


 再び、会見場。


 アーシグマ・プライムがマイクを手に取り、いつもの調子でにっこりと笑った。


「奉仕種族五十億人の面倒を見てきた、

 ベテランベビーシッターのあたしたちに――おまかせよ~!」


 その一言で、重くなりかけた空気がふっと和らぐ。

 笑いと拍手が起こり、誰もが一息ついた――が。


「奉仕種族は女性しか生まれないと聞きましたが、

 今回の妊娠も女性個体だけなんですか?」


 記者の質問に、アーシグマ・プライムは意味ありげに首を傾げた。


「そこがねぇ……驚いたのよ~。妊娠初期の細胞解析で、

 “男性個体の遺伝パターン”が確認されたの~!」


 ……沈黙。


 次の瞬間、爆発のようなフラッシュ。


「男性!?」

「男の子が!? 奉仕種族に!?」


 女性しか存在しなかった奉仕種族。

 その常識を覆す可能性に、世界は言葉を失った。


「しかし、法律的に奉仕種族と地球人男性の婚姻や出生登録は――」


 記者の問いに、シズクが穏やかに微笑む。


「せやろなぁ。でもなぁ、奉仕種族に命が宿った“ご祝儀”に、

 もう一つ贈りもんを用意したんよぉ」


「ご祝儀……?」


 アーシグマ・プライムが、満面の笑みで告げる。


「奉仕国家との半年分の貿易債務を――帳消しよぉ~♡」


 会場が凍りついた。

 世界中の財務官たちの心臓が、同時に止まった瞬間だった。


 翌朝。


 世界各国は、慌ただしく動き出す。

 緊急閣議、超党派委員会、国連安保理。

 議題は一つ――「奉仕国家のご祝儀を、どう受け取るか」。


 半年分の債務帳消し。

 それは、一国の財政を丸ごと救う金額だった。


 ニュース番組のコメンテーターが、苦笑しながら締めくくる。


「倫理と経済……どちらが重いか。今夜は、世界中が試される夜ですな」


 その夜。


 テレビを眺めながら、マーヤは満足そうに笑った。


「せやから言うたやろ? ご祝儀はケチったらあかん、ってな」


 隣で紅茶を口にしたレオナが、小さく笑う。


「ハハハ!! 世界ってのは、意外と単純にできてるんだねぇ……」


 窓の外。

 夜空を横切る輸送船の灯りが、ゆっくりと流れていく。


 それはまるで――

 まだ生まれてもいない“新しい命”が告げる、

 新時代の夜明けのようだった。

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