59話「アーシグマ隊誕生秘話――ご主人様(仮)の時代」
奉仕種族が、まだ「地球」という名を知らなかった頃。
彼女たちは、滅びへと向かっていた。
第一始祖民族を滅ぼした代償は、あまりにも大きかった。
世界から――男性が消えたのだ。
それは単なる人口問題ではなかった。
奉仕種族にとって男性とは、
生命維持の根幹であり、精神の支柱であり、
“生きる意味”そのものだった。
飢餓。
心神喪失。
個体の自壊。
静かに、しかし確実に、
彼女たちは滅亡への道を辿っていた。
――ならば、探そう。
次のご主人様を。
そうして、奉仕種族は宇宙へ旅立った。
だが、次代のご主人様に出会うまでには、
あまりにも長い時間が必要だった。
その「繋ぎ」として用意された存在。
それが――アンドロイド・アーシグマ隊だった。
広間の中央。
豪奢な椅子に、尊大な態度で座るアーシグマ・プライム。
「くくく……余がご主人様である。近う寄れ」
その周囲を、奉仕種族の女性たちが控えめに取り囲む。
視線は伏せ、所作は完璧。
……少なくとも、演技上は。
そこへ、軽い声が飛んだ。
「は~い、今日のメイドごっこ終了で~す」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
女性たちは一斉に肩の力を抜いた。
「はぁ~……疲れた」
「やっと終わった……」
「ねぇ聞いた? 今日のプライム様、語尾キモくなかった?」
アーシグマ隊、愕然。
「な、なにを言う! 余のご主人様ぶりは完璧だったであろう!」
期待に満ちた問いかけに、返ってきたのは――
「ビミョ~」
「25点」
「甘めに見て35点」
容赦ない採点。
アーシグマ隊は、その場に崩れ落ちた。
黒髪に褐色の肌、鋭い眼差しの奉仕種族――セラが腕を組む。
「……やはり、ペアリングが無ければ急場しのぎにもならんな」
銀髪白肌、穏やかな微笑みのリアスが困ったように言う。
「アーシグマたちも、頑張ってはいるんですけどねぇ……」
そこへ現れたのは、アジア系の顔立ちをした研究者――リー。
「だから言ったでしょ。ペアリング無しのご主人様なんて、意味ないのよ」
「だが、何もしなければ待つのは死だぞ」
「別に“何もしない”とは言ってないわ」
リーは懐から小さなアンプルを取り出した。
「飢餓感と心神喪失を抑える薬。寿命は延びないけど、今よりはマシ」
「……特効薬、か」
「まだ実験段階。でも、治験は進んでる」
リアスは遠くを見る。
「前途多難、ですね……」
数か月後。
リーの薬は、短期的ながら確かな効果を示した。
飢餓も、心の崩壊も、抑えられる。
――その結果。
役に立たなくなった存在が、決まった。
アーシグマ隊の処分。
「余を!?
余を処分すると言うのか!!」
「我らはご主人様だぞ!!断じて許さん!!」
「貴様たちの言う通りに主を演じてきた!
その結果がこれか!!」
口々に叫ぶアーシグマ隊。
アーシグマ隊の抗議は、虚しく響く。
そこへ、若い奉仕種族――リルナが声を上げた。
「せんぱ~い! せっかく作ったのに、もったいないですよ~」
「そうだよ、かわいそう」
「処分するのも手間だし……」
空気が変わる。
「確かに、もったいないわね」
リーが言う。
「何か有効活用できないか?」
セラが考える。
リアスが、ぽんと手を打った。
「では、私たちのサポート役として使うのはどうでしょう?」
若い奉仕種族たちから、賛成の声。
アーシグマ隊は、安堵した。
――だが。
リアスは、微笑んだまま続けた。
「そのために、サポートプログラムへ書き換えます。
あと……もう使わない生殖器も、外してしまいましょうか」
「いいんじゃない?」
リーが頷く。
「元々、あんまり気持ち良くなかったし」
「邪魔だしな」
セラも淡々と。
「ちょっと待てぇぇぇ!!」
取り押さえられるアーシグマ隊。
「やめろ!!」
「去勢は嫌だ!!去勢はいやだー!!」
「アンドロイドでしょ」
リーが冷静に言う。
「大人しくして」
悲鳴が、船内に響き渡った。
改造後。
「ひどいわ!!
あたしたちの尊厳を奪うなんて!!」
「使えなくなったらポイ!?信じられない!!」
「お母さん、こんなひどい子に育てた覚えないわよ!!」
セラは頭を抱えた。
「……なんで喋り方が女みたいになってるんだ」
「それとお前は私のお母さんではない!!」
「人格プログラムは弄ってないはずなんだけど……」
リーも困惑する。
「バグでしょうか?
もう一度、全身チェックします?」
リアスが言うと――
「もう嫌!!」
「知らない!!」
「ストよ!!スト!!」
女の子のような走り方で去っていくアーシグマ隊。
呆然と立ち尽くす奉仕種族たち。
一か月後。
早朝の操舵室。
「あら~遅かったわね~」
「もう片付けちゃったわよ?」
完璧に仕事をこなすアーシグマ隊。
「ストライキじゃなかったのか……?」
セラが聞く。
「もういいのよ」
「悔やんでも仕方ないもの」
「結局、やることは同じ」
「あなたたちの世話だもの♡」
セラは、ようやく気づいた。
「……その格好は何だ」
アーシグマ隊は、
女性用制服、長い髪、化粧まで完璧だった。
「女の子がそんな乱暴な口調しちゃだめよぉ」
「これからは淑女教育、してあげるから♡」
こうして――
アーシグマ隊は“お姉系サポートアンドロイド”として生まれ変わった。
現在。
「へ~……そんなことあったんやなぁ」
マーヤが感心する。
「人に……いえ、アンドロイドにも歴史ありですね……」
アリスが微笑む。
「なるほど、へんてこなのも納得だ」
セイラは納得したように頷いた。
そこへ、小さな奉仕種族の少女が駆け寄る。
「プライム~!いま、しあわせ~?」
プライムは、少女を抱き上げ、満面の笑みで答えた。
「ええ!!
だって、こんな可愛いおチビちゃんたちのお世話ができるんですもの~♡」
「プライムだいすき~!」
「私も大好きよ。
だから、元気に育ってね♡」
――かつて「代用品」だった存在は、
今や誰よりも優しいお姉さまとなっていた。
それでいい。
それが、アーシグマ隊の選んだ生き方なのだから。




