58話 奉仕国家の春 ― 奇跡の日
奉仕種族大量派遣から半年。
地球にも、ノア・プレートにも、新しい“日常”が根を張りつつあった。
奉仕国家と地球人の間に、穏やかな時間が流れていた――その日までは。
◆ 慎とヴィオラの異変
「ねぇ、慎……最近、生理が来ないの。」
いつも強気なヴィオラの声に、珍しく不安が混じっていた。
キッチンでコーヒーを淹れていた慎は、手を止めて振り返る。
「……もしかして、それって……!」
思わず顔が明るくなる。
「子どもが、できたのかもしれない!」
ヴィオラは慌てて両手を振った。
「ちょ、ちょっと待って! あたしたち奉仕種族は子どもは作れないはずよ!?
生理不順ってだけかもしれないし!」
「でも試してみようよ!」
慎はなぜか自信満々で、近所の薬局へ走っていった。
ヴィオラは半ば呆れ顔でため息をつく。
「……わかったわよ。」
――数分後。
ヴィオラがトイレから出てくる。手には一本の妊娠検査薬。
「慎……陽性よ。」
小さく、でも確かに震える声。
慎の目がまん丸になり、次の瞬間――破裂するように笑顔が弾けた。
「やったぁ!! ヴィオラと僕の子どもだ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい! 地球の検査薬なんて信用できないわ!」
「でもでも……!」
「半年後のメンテナンスでちゃんと調べてもらうの。いい? まだ喜ぶのは早い!」
それでも、慎の笑顔は止まらなかった。
「……じゃあ、その時は僕も一緒に行くよ。」
「ダメ。あんた明日仕事あるでしょ。」
「でも……!」
「父親になる気があるなら、ドンと構えて待ってなさいよ。」
慎も根負けして、肩を落とす。
「はぁ……ヴィオラにはかなわないね……」
ヴィオラは勝気な笑顔を浮かべ、慎の胸を軽く叩いた。
「――あんたは一生、あたしに勝てないのよ。愛しのご主人様♡」
慎は笑いながら彼女を抱きしめた。
世界が少しだけ、やさしく回った気がした。
◆ 奉仕国家・ノア・プレート
半年に一度の「メンテナンス」――奉仕種族たちの健康診断。
だが今回は、妙な共通点があった。
「最近、生理が来ないのよね……」
「私も。地球の環境のせいかしら?」
「まぁ、慣れの問題よね、きっと……」
誰もが軽く考えていた。
だが結果は――全員、妊娠していた。
「これは……間違いない。受精反応、陽性です。」
一瞬、場の空気が止まった。
次の瞬間、歓声が爆発する。
「できた! 本当に……できたのね!」
「私たちが……地球の男性の子どもを……!」
「究極の奉仕、完成……!」
アリスも、セイラも、シズクも、マリナも――
それぞれの持ち場で、涙と笑顔で仲間たちを祝福していた。
「奉仕国家史上、最大の祝福ね!」
アーシグマ・プライムが胸を張る。
「これで、奉仕という名の愛が、ほんとうの命になるのよ~♡」
ノア・プレート全土が、祭りのような喧騒に包まれた。
◆ 世界各地の家庭で
その夜。
世界各地の奉仕家庭で、同じような光景が繰り広げられていた。
「ヴィオラ……ありがとう。本当にありがとう……!」
慎は泣きながらヴィオラを抱きしめた。
「別に、お礼言われたいから子ども作ったんじゃないんだからね!
あんたの子だから産んでやるのよ! もっと崇めなさい!」
慎は満面の笑みで頷く。
「うん!! もちろん!!」
「……バカ。」
ヴィオラは顔を真っ赤にして呟いた。
一方その頃。
托卵事件で世間を騒がせた拓海の奉仕種族・ノエルも妊娠していた。
「本当に俺の子なのか……?」
拓海の声には迷いがあった。
ノエルは静かに微笑む。
「私は、拓海様としかしていません。
もし不安なら、DNA検査を受けても構いません。」
その一言で、拓海の心が崩れ落ちた。
離婚して、全てを失ったとき。支えてくれたのはノエルだった。
「ごめん……俺が馬鹿だった。」
「ふふ……いいんです。やっと拓海様に“贈り物”ができました。
拓海様の子を産めることが、私の幸せです。」
二人は涙を流し、抱きしめ合った。
――そして、その夜、同じような光景が世界中で見られた。
◆ 奉仕国家・中央ドーム
「出産できる施設、作った方がいいでしょうか?」
アリスが問いかける。
セイラは腕を組みながら首を傾げた。
「出産についてはよくわからん。クローン施設ならあるが……」
アーシグマ・プライムが笑う。
「出産のしかたなんて昔と変わらないわ~。ちょっとデータ引っ張り出せばすぐよ~。」
ノワールも頷く。
「新生児施設も増築すれば間に合うわ~。懐かしいわねぇ、赤ちゃんのお世話なんて。」
マーヤが笑う。
「よう考えたら、アーシグマ隊が一番の古参やんなぁ。」
アリスも微笑む。
「始祖様の頃からですからね……」
「ちょっと! おばあちゃん扱いしないでよね~!」
プライムが両手をバタつかせる。
「確か、仮ご主人様として造られたって聞きましたけど?」
アリスの無邪気な質問に、ノワールがにっこり。
「そうよぉ、昔はそれはもうカッコよかったんだからぁ~♡」
「……今では考えられん。」セイラがぼそり。
「そりゃそうでしょ。今は立派なオカマですから。」とセレス。
「でもねぇ、新生児の世話なら任せてちょうだい。みんなの生まれた頃から面倒見てたんだから♡」
プライムが笑う。
「セイラちゃんのオムツ替えたの、このあたしよ~? 昔は可愛かったのよねぇ~」
「やめろおおおおおおっ!!」
マーヤが吹き出す。
「おもろいやん、もっと聞かせてーな!」
「じゃあマーヤさんは?」
アリスが振ると、セレスが静かに答えた。
「……悪戯ばかりして、アーシグマ隊はいつも泣かされていました。」
「ちょっ!? なんでや!」
「ハイハイできるようになってから髪の毛引っ張るわ、隠れるわで大変だったわぁ~♡」とノワール。
「うわあああ!!やめぇぇぇ!! アリスはどうやったんや!?」
「アリスちゃんはね~♡」
「や、やめてくださいっ!!」アリスの悲鳴が響く。
会議室に笑い声が満ちた。
ノア・プレートの夜は、笑いと祝福に包まれていた。




