52話 “イヴ”の奇跡――地球での新たな盟約
廊下の奥で、レオナの瞳が不敵に光る。
「地球のご主人様となら、僕たち奉仕種族にも“子供”ができる――ってことさ。」
リュナの顔が青ざめ、目を丸くする。
「はぁ!? そんなバカなこと!?」
「起きるさ。」
レオナは楽しげに肩を揺らす。
「僕が皆に内緒で潜入したとき、男性達のDNAを少しばかり拝借して調べたのさ。そしたら、驚くことに――」
「マッチングしたとでも言うのかよ?」
「したのさ。染色体数から遺伝子レベルまで、全て適合!
これはもう、奇跡と呼ぶに値するレベルだよ!!
さすが僕たちのご主人様になる存在だ。」
嬉しそうに顔を輝かせるレオナ。
リュナも思わず笑みをこぼす。
「俺たちは男の体液でペアリングするなら……」
「遅かれ早かれ、僕たち奉仕種族がご主人様の子供を孕む日も近いねぇ。」
レオナはニヤリと笑い、その目に悪戯っぽい光が宿る。
「おめーの最終的な計画ってのは……」
「リュナももう気づいてるんだろ?」
声に含まれる自信と皮肉。
「地球の“リリス”たちはアダムを蔑ろにしている。僕たち奉仕種族が、
真の“イヴ”になるんだ。」
リュナはしばらく黙ったまま、やがて低くクククと笑い出す。
「悪くねぇ。俺たちが地球のアダムたちのイヴになる。いいじゃねぇか。」
「だが、リリスってのは何だ? 地球の女がイヴじゃねぇのか?」
「違うさ。」
レオナはゆっくりと歩きながら、影の伸びる廊下を見据える。
「地球の神話では、最初にアダムの前に造られたのが“リリス”なんだ。
彼女はアダムと対等を主張し、男の上に立とうとした。
そして神に背き、エデンを去った。」
言葉に、わずかな冷笑が混じる。
「男女平等を掲げながら、アダムを蔑み、嘲り、排除する。
地球の女たちは、まさにリリスそのものさ。口では愛を語りながら、
心の奥で支配を求めている。」
リュナは短く息をつき、言葉を探す。
「……なるほどな。そりゃアダムも孤独で当然だ。」
「だから、僕たち奉仕種族が“イヴ”になるのさ。」
レオナの声が、廊下の静寂を切り裂くように響いた。
「たとえエデンを追われようと、アダムを見捨てない。
彼が傷つき、倒れても、その傍に立ち続ける存在に
――僕たちはなる。」
「……それが“奇跡”か。」
「そうさ。失われたエデンを取り戻すための、最初の奇跡。」
リュナは笑い、ほんの少し赤らんだ頬を触る。
「相変わらずロマンチストだな、おめーは。
……だが嫌いじゃねぇよ、そういうの。」
「ハハハ!!君もだよ、リュナ。僕たちはロマンで生きる種族だからね。」
リュナの声に半ば冗談めいた緊張が混じる。
「だが、もしバレたら地球の女どもと男の取り合いで戦争だぜ?」
レオナは肩を揺らして笑う。
「ハハハ!!僕は平和主義者だからね。
でも、地球のご主人様たちはきっと僕たちを選ぶさ。
どちらが“本物の女”かなんて、もう気づいてるだろう?」
言葉の端々に、あの独特な自信と悪戯っぽさが滲む。
リュナは唇を噛み、考え込むように目を伏せた。少しの間、沈黙が流れる。
「……なるほどな。確かに、お前ならやりかねねぇ。」
顔を上げると、瞳に光が戻っていた。
口元にうっすらと笑みを浮かべ、覚悟を決めたように息を吐く。
「そのための“大量派遣”ってわけか……。ほんっと、回りくどいことするぜ。」
「回りくどいけど、確実だよ。」
レオナの目がキラリと光る。
その表情を見たリュナは、眉をピクリと動かし、
笑みを隠しきれなくなる。
「……回りくどい計画だが、悪くねぇ。」
その笑みは、いつもの気だるげな表情とは違い、
少し楽しげで挑戦的なものだった。
「……乗ったぜ。」
短く、力強く告げる。
「ハハハ!!君ならそう言うと思ったよ、リュナ。」
レオナの笑顔は、深夜の廊下の空気を一瞬だけ温め、
二人だけの小さな盟約を確かに刻んだ。
廊下の奥、薄暗がりの影。
マーヤが身を潜め、耳をそばだてる。
「ほぉ……ただのバカ王子かと思っとったら、
あの女、そないな計画立ててたんか。」
小さく含み笑い。
「エデンの園に帰ろうっちゅうんか……おもろい。
せやけど、地球の女どもがそれを聞いたら発狂するで。」
マーヤはため息をつき、どこか楽しそうに呟く。
「……まぁええ。報告はせんとこ。物語の続きは――見てのお楽しみやな。」
リュナが顔を赤らめ、照れくさそうに小さく尋ねる。
「俺も少しは女らしくした方がいいか?」
「リュナはリュナでいいじゃないか!!
君みたいな女の子に攻められるシチュ、よくあるじゃないか。」
「俺は気弱なやつとか、ぽっちゃりした奴に屈服させられる方が好きなんだが?」
「ハハハ!!リュナはドMの変態だったね!!忘れてたよ!!」
「はぁ!?
ご主人様に露出調教されたいとか言ってる変態王子様に言われたくねえぞ!!」
「ハハハ!!それもいいじゃないか!!新しい愛のカタチさ!!」
マーヤは影の中で、思わず心の中で突っ込む。
(結局そっちの話になるんかーい!!)
大声で言いたい衝動を必死に抑え、静かにその場を離れた。
廊下には再び静寂が戻る。
だが、笑い声と計画のささやきは、確実に夜のノア・プレートに残っていた。




