50話「レオナ大地に立つ!!」
奉仕国家ノア・プレート。
セイラの拳を腹に受け、いまだ床でうめいているレオナをよそに、
会議は淡々と続いていた。
「レオナちゃんの計画通り、上手いこといってよかったなぁ」
シズクがぽつりと呟く。机の上には地球各国の報道映像が並び、
世界中のSNSの反応がリアルタイムで流れていた。
《#奉仕種族かわいい》《#人類終わった》《#ノアプレート行きたい》
《#彼女たちは天使?それとも罠?》
どの言葉も、期待と不安と、ちょっとした好奇心が入り混じっている。
「おまえらが引っ掻き回すせいで、アリス達もうちもひえひえやったで……」
マーヤが腕を組んで睨んだ。
「いつも好き勝手動いてるマーヤさんに同意したくありませんが……」
「大変でしたよ……」
アリスが疲れたようにため息をつく。
「アリスもひどいなぁ。うちも頑張っとるのに……」
マーヤが口を尖らせると、リュナが笑って肩を叩く。
「ま、うまくいったんだ。多少の犠牲は仕方ねぇだろ。問題はその“成果”とやらだ」
リュナが顎をしゃくる。
「その“おとぎ話化してるペアリング能力向上”っての、どうなってんだよ?」
アーシグマ・セレスがタブレットを操作しながら答える。
「ペアリングした子たちから、身体能力の向上報告が複数入っています。」
「筋力、持久力、認知反応速度が平均で十五パーセント上昇。」
「医療班が驚いていました」
「それだけじゃなくてね~」
アーシグマ・プライムがにこりと笑う。
「今まで感じていた喪失感がなくなって、ご主人様との交流で“新しい喜び”を感じるようになったみたいよ~?」
「うふふ……新しい喜び……私も早く感じたいわねぇ」
マリナが頬を染めると、リュナが口笛を吹いた。
「ほぉ~。眉唾かと思ってたけど、マジだったんだな」
スクリーンには、地球のニュース番組の映像が切り替わる。
女性キャスターが真剣な顔で語っていた。
『世界各地で“奉仕種族との接触”が相次ぎ、人間男性の間で心身の回復例が多数報告されています。」
「一部の宗教団体や女性団体は警戒を呼びかけていますが……』
その隣のサブモニターでは、バラエティ番組のコメンテーターが言いたい放題だ。
「だってあんな可愛い子たちが『あなたがご主人様です♡』なんて言ったら、誰だってデレるでしょ!」
「いやいや、これは国家間の倫理問題ですよ!」
セイラが冷めた目で画面を見た。
「地球の情報番組というのは、どうしてこうも軽薄なんだ……」
「娯楽と情報が同居してるから、視聴率が正義なんですよ」
アリスが皮肉っぽく言う。
「そりゃそうやろ。真面目な話ばっかしてたら誰も見いひん」
マーヤが笑うと、セイラは眉をひそめた。
「……お前はどっち側なんだ?」
「楽しい方♡」
そのやり取りをよそに、アリスが資料を整え直す。
「一応確認したいのですが。シズクさん達は、これからどうするのですか?」
「今まで通り、奉仕国家の運営を手伝ってくれるのですか?」
シズクとマリナは顔を見合わせ、にやりと笑う。
「うちら、地球人女性と一緒にご主人様に仕えるために、理解を深めたいんよ。」
「いわば“大使”みたいなもんやな」
「それに――」マリナが唇を指でなぞる。
「地球一ドスケベなご主人様も探したいしね♡」
(※アリスには内緒である)
「俺はここに残って手伝ってやるよ。」
「後任も育てなきゃなんねーしな!」
リュナが豪快に笑いながら手を上げた。
そして、ようやくレオナが立ち上がる。
「僕もここに残るよ! できれば地球の女性には関わりたくないからね!」
「レオナ、お前はまだ地球に降りたばかりだろう?」
「地球人と話したこともないくせに」
セイラが呆れ顔で言う。
「レオナのことやから、勝手に潜入でもしてたんちゃうかぁ?」
マーヤがにやり。
「うんうん!! マーヤは僕のことがよくわかってるね!」
レオナが胸を張る。
「……また勝手にそんなことを……」
アリスが額を押さえた。
「それで?」
セイラが眉をひそめる。
「関わりたくないほど嫌になるって、何があったんだ?」
回想:地球潜入時
夜の街は光の洪水だった。
ネオンとホログラム広告が入り混じり、人の群れが無数の流れとなって交差する。
「地球の男性はいいねぇ……」
「どの個体も歪で、同じ遺伝子が存在しない。宇宙が創った奇跡だよ」
街の雑踏の中、レオナは目を輝かせながら男性たちを眺めていた。
だが、やがて周囲の視線がレオナ自身に集まり始める。
「ねぇ、あの人かっこよくない?」
「王子様みたい!」
「芸能人かも!」
今日のレオナは、いつもの宝塚男役風の軍服姿。
目立たないわけがない。
「遊びましょ?」
「お茶しませんか?」
声をかけてくる女性たちに囲まれ、レオナは一歩下がって言った。
「僕より、あそこにいる魅力的な男性たちと話した方がいいんじゃない?」
だが、女性たちは一様に笑い飛ばした。
「あんなイモくさい男、無理無理」
「不細工」
「汚そう」
その瞬間、レオナの表情が凍る。
(メス臭い匂いで群がって……何も見えてないじゃないか)
怒りが爆発しかけたそのとき、ぐいっと手を引かれた。
「こっちだ、走れ!」
引っ張られるまま人混みを抜け、ようやく静かな路地に出た。
「……やれやれ、あんたも災難だったな?」
振り向くと、そこには,どこにでもいそうな普通の男性、
地球人から見れば、冴えない男が立っていた。
だがレオナの目には違って見えた。
粗い手、優しい声、飾らない笑顔。
「助けてくれてありがとう!」
「困ったときはお互い様だろ?。イケメンってのも大変だな」
「僕は女だよ!!」
「悪い悪い」
男は軽く頭を下げ、笑って去っていった。
レオナはその背中を見送りながら呟いた。
「やはり……地球の男性は、一人ひとり違って美しい。」
「地球の女性は、それがわかっていない……」
――その瞬間、レオナの地球女性嫌いは決定的となった。
現在
「ということがあったから、僕は地球人の女性と関わりたくないのさ~!」
レオナが両手を広げ、ドヤ顔を決める。
「勝手に潜入してトラブル起こして……なんて言い草だ」
セイラがため息をつく。
「私たちは女性しか生まれませんし、地球人女性と共生しないと、また男性を失いますよ」
アリスが静かに諭す。
「せやせや~。また男探して宇宙彷徨うとか、もうゴメンやでぇ」
マーヤのヤジに、場が少しだけ和む。
レオナは肩をすくめ、不敵に笑った。
「僕は信じてるのさ。地球のご主人様となら、僕たち奉仕種族に奇跡が起こることをね?」
「……適当なこと言ってるようにしか聞こえんぞ」
セイラが苦笑し、アリスも肩をすくめた。
だがその隣で、リュナ、マリナ、シズクの三人は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「レオナちゃんの直感って、意外と当たるのよねぇ」
「当たるんだよなぁ、あの王子様」
セイラは空を見上げた。
透明なドームの向こう、ノア・プレートの空に青白い星々が瞬いている。
「……まったく。次はどんな騒動を起こす気だか」
アリスもセイラも、マーヤも、思わず深いため息をついた。
――誰も知らなかった。
レオナの“直感”が、また世界を動かすことになるとは。




