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48話 第一次派遣の余波と静かな変化(改)

第一次奉仕種族派遣の混乱から、もうすぐ一か月が経とうとしていた。

各国政府では、連日同じ話題で頭を悩ませる会議が繰り広げられている。


霞が関の会議室。

財務省の若手官僚が、資料をめくりながら眉をひそめた。


「……本当に経済が回復しているのでしょうか?」


その問いに、別の担当官が淡々と答える。


「はい。観光業だけではありません。

地方の中小企業、高齢者施設、農業――すべてに波及しています」


モニターに映し出されるグラフ。

緩やかだが、確実に右肩へ向かう線。


「奉仕種族は、観光客のような短期滞在ではありません。

地方に住み、働き、生活しています。

“日常の労働力”として、すでに社会に組み込まれ始めているのです」


会議室の隅では、薄青の髪をした奉仕種族の女性が、

静かにタブレットを操作していた。


「こちらの数値は再確認済みです。

修正点は赤でマークしております」


書類が次々と整理され、報告書が完成していく。


以前なら深夜まで残業していた若手官僚が、今日は定時前に席を立つ。


「……あいつ、こんなに仕事できたっけ?」


同僚が呆れたように笑うと、彼は小さく頷いた。


「全部、彼女のおかげです」


奉仕種族は、確実に人類を“底上げ”をしていた。


過疎化が進む地方では、奉仕種族の存在がさらに顕著だった。

高齢者の多い村では、家事や農作業の手伝いをすることで住民の生活は格段に楽になり、

数日かかる作業も半日で終わることも珍しくない。

その変化は、数字よりも先に――地方に現れていた。


過疎化が進む山あいの村。

田んぼでは、若い奉仕種族の少女が額の汗をぬぐい、声を上げる。


「ご主人様~! 田植え、全部終わったよ~!」


「おお……あんれぇ。

やっぱ若い子は仕事が早えなぁ」


褒められて、少女はぱっと笑顔になる。


そんな時、隣の畑から悲鳴が上がった。


「いででで……腰、やっちまった……」


ぎっくり腰で動けなくなったおばあさん。

周囲を見回しても、手伝えるのは年寄りばかりだ。


「どうすっぺ……救急車呼ぶしかねえか……」


その時、少女が迷いなく手を挙げた。


「だいじょーぶ! あたしが運ぶよ!」


次の瞬間、おばあさんは軽々と背中に担がれていた。


「お、おらはご主人様じゃねえのに……悪いなぁ」


おばあさんが遠慮がちに言うと、少女は笑う。


「おばあちゃん、ご主人様のお友達でしょ~?

なら、あたしともお友達! 助けるのは当たり前~☆」


「あんれぇ……」


おばあさんは目を細める。


「こんな若くて、めんこい子と友達になれるなんてなぁ。

長生きはするもんだ」


「うんうん!

ご主人様も、おばあちゃんも、長生きしてね~!」


笑顔が、畦道に広がった。


別の過疎村では、集会所で重い空気が漂っていた。


「今年の祭りは……無理だなぁ」

「爺と婆しかいねえし、準備ができねえ」


誰もが諦めかけた、その時。


若い奉仕種族たちが、顔を上げる。


「えー! なんで言ってくれなかったのー?」

「あーしたちが手伝うし!」


「私が、村の祭りを盛り上げてみせますわ!!」


「うんうん!

HP作って、外にもアピールしよ!

SNSも使えば、人呼べるよ!」


彼女たちが主導し、準備は一気に進んだ。


結果――

例年、客がまばらだった祭りに、人が溢れかえった。


屋台に列。

笑い声。

久しぶりに聞く、子どもの声。


「……なんだこれは」


年寄りたちは呆然と立ち尽くす。


「祭りって……こんな賑やかだったか?」


奉仕種族の少女たちは、誇らしげに胸を張った。


都心のオフィスビル。

会議室のスクリーンには、控えめだが明確な上昇曲線が映し出されていた。


「事務職、営業職ともに、平均処理速度が二割以上改善しています」


淡々とした報告に、役員たちがざわめく。


「特筆すべきは、いわゆる“問題社員”と呼ばれていた層です」

「奉仕種族とペアリングした男性社員は、全員が最低ラインを超えています」


――遅刻常習。

――数字が取れない営業。

――書類ミスだらけの事務員。


そう呼ばれていた社員たちが、今では普通に仕事を回している。


「劇的な天才化は起きていません」

「ですが、“確実に仕事ができる人材”にはなっています」


営業成績は爆発しない。

だが、失注は減り、対応は丁寧になり、クレームが消えた。


結果――

企業業績は、微増だが確実な回復傾向を示していた。


政府の統計局。

並ぶ資料は、どれも慎重な言葉でまとめられている。


「社会問題が解決したとは言えません」


ネグレクト。

障害者支援。

引きこもり。

うつ病。

薬物依存。


どれも消えてはいない。


「ですが……減少傾向は、確認できます」


グラフの線は、ほんのわずかに下を向いている。


「奉仕種族が直接解決したわけではありません」

「ただ、“誰かがそばにいる”ことで、悪化を防いでいる例が多い」


支える人がいる。

見捨てられていないと実感できる。


それだけで、人は踏みとどまれる――

統計は、それを静かに証明していた。


政府窓口には、連日同じ声が届いていた。


「もっと派遣を増やしてくれ」

「うちの自治体にも回してほしい」

「人手不足が一気に改善した」


企業だけではない。


老人施設。

障害者施設。

地方自治体。


さらには――


「奉仕国家への移住を希望したい」

「具体的な手続きを教えてほしい」


そんな問い合わせまで届き始めていた。


奉仕種族は“来てもらう存在”から、

“行きたい場所”を生み出す存在へと変わりつつあった。


国際会議の会議室。

重い沈黙が流れる。


「第一次派遣で混乱を招いた以上、無期限停止の体裁は崩せません」


官僚の一人が、硬い表情で言う。


「世論も完全に落ち着いたわけではない」


だが、別の官僚が静かに資料を叩いた。


「しかし……数字は嘘をつきません」

「経済、地方、福祉、企業効率――すべて改善しています」


「派遣再開を視野に入れるべきです」

「もう、待ってはくれません」


誰も反論できなかった。


会議資料には、整然とデータが並んでいる。

そしてその横には――

**“第二次派遣案”**の文字が、薄く印字されていた。


窓際で、薄紫の髪の奉仕種族が資料を確認していた。

柔らかな光が、彼女を包む。


ただ――

ご主人様を手伝い、育て、支える。


それだけで、社会の歯車は回り始めていた。


この小さな奇跡を前に、政府内では派遣再開と奉仕国家への移住の進め方を巡る議論が、

次第に活発になりつつあった。


レオナの予言通り、奉仕種族は地球の人々の生活に溶け込み、

社会の歯車として静かに動き出している。

その光景は、混乱と不安の影に隠れた静かな奇跡だった。

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