46話 銀髪の奉仕者、オフィスに舞う(改)
都心のオフィス街、朝9時。
電話のベルが鳴るたび、胃がキリキリと痛む場所――営業三課。
「おい佐藤!この成績、なんだこのザマはぁ!」
田島部長の怒声がフロアに響き渡る。パソコンの前で肩をすくめる悠斗。
今日もまた、この地獄のルーティンが始まった。
だが、その隣で白銀の髪を結い上げた女性が、静かに立ち上がる。
「失礼します、田島部長。
悠斗様の成績、前年同月比で**13.8%**向上しております」
「はぁ?そんなもん誤差の範囲内だろ!」
「統計的には成長傾向と呼びます。
ちなみに、部内で前年同月比プラスは悠斗様だけです」
フロアの空気が、一瞬で止まった。
アイリスの声は静かだが、言葉の端々に強い説得力がある。
苛立ちまぎれに机を叩く田島部長。
「じゃあ言ってみろよ!半年でこいつをトップ営業にできるのか!」
アイリスは一拍置き、柔らかく微笑む。
「……はい。半年以内に彼を、会社のナンバー1営業にいたします」
「はっ、やれるもんならやってみろ!」
その瞬間、隣の席から同僚が小走りで飛び込む。
「佐藤!電話!大企業のS社からだ!“君に話を聞かせてほしい”って指名で!」
田島の顔が引きつる。
「は?S社って……うちみたいな中小がアポ取れる相手じゃねぇだろ!?」
アイリスは静かに髪をかき上げ、淡く微笑んだ。
「一発ホームラン狙いですので」
商談を終え、帰り道の街灯の下。
悠斗が小さな声で言った。
「……なぁ、いつもありがとう。
俺みたいなダメ人間のために、ここまでしてくれて」
彼女は一瞬、目を瞬かせる。
奉仕することは本能。
奉仕は喜びであり、存在理由。
――それなのに。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「……お仕えするのは当然のことです。
ですが――」
月明かりの下で、彼女は小さく微笑む。
「今日、初めて“嬉しい”という感情を理解できた気がします。
悠斗様、私はあなたを――必ず輝かせます」
夜風が吹き、彼女の頬がほんのり赤く染まった。
丸くなった課長
以前の怒号と恐怖の朝礼は、今や穏やかに変わっていた。
「おい、君!この成績、何だこれは!」
かつてなら書類を叩きつけ怒鳴っていた田島課長だが、銀髪のユリがそっと後ろに立っている。
「落ち着いてください、課長。
この数字は前月比で5%上昇です。少し改善すれば、さらに伸びます」
課長は一瞬眉をひそめるが、ユリの瞳に視線を合わせて溜息をつく。
「……なるほど、そうか。よし、ここはこうしてみるか」
ユリは毎朝、課長にこう教えていた。
怒る前に深呼吸
部下の数字の背景を確認してから指導
小さな成功は必ず褒める
問題点は具体策とセットで伝える
最初はぎこちなかった課長も、徐々に部下を叱るより指導できるようになった。
結果――課内の成績は向上し、朝礼の怒号も消え、部下たちは笑顔で仕事に臨む。
「ユリさんが来てくれて、本当に良かった……」
「課長、最近怒鳴らなくなったし、仕事もやりやすいっす!」
ある日、課長がそっとユリに告げる。
「いつも……俺のためにありがとうな、ユリ」
その一言に、胸の奥が少し熱くなる。
「……お仕えするのは当然のことです。
ですが、今までにない、温かい気持ちを感じています」
ユリは決意する。
「この方を、もっと支え、より良い方向へ導く――
課長としても、人間としても、輝かせる――」
奉仕種族たちは、今日も人知れず、人間の未来を磨いていく。
それが“奉仕”であり、
そして――彼女たち自身の、進化でもあった。




