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45話 変わり始める政治その4(改)

野党会議室 ――静かな革命


与党がようやく落ち着きを取り戻しつつある頃。

永田町のもう一つの建物でも、確実に“空気の変化”が起きていた。


野党第一党・立憲自由党。

その会議室の最前列、枝葉幹事長のすぐ隣に、ひときわ異質な存在が立っていた。


淡い青の髪。

透き通るような白い肌。

奉仕種族――シエル・アークライト。


彼女はタブレットを操作しながら、感情の起伏をほとんど見せない声で告げる。


「皆さん。与党の支持率が回復している今、不必要なヤジや揚げ足取り、

探偵ごっこを続けても、支持は獲得できません」


ざわり、と室内が揺れた。


「そんなことはない!!」

ベテラン議員が声を荒げる。

「一定数の支持は稼げている!」


「弱者の切り捨てはいかんよ!」

別の席からも声が飛んだ。


シエルは一度、ゆっくりと頷いた。


「弱者を救う。とても高尚で、素晴らしい理念だと思います」


一瞬、議員たちの顔に“勝った”という色が浮かぶ。


――だが。


「ですが」


その一言で、空気が切り替わった。


タブレットが操作され、壁面モニターに映像が投影される。

そこに流れ出したのは、SNSと掲示板の“生の声”だった。


『最近さとちゃん、よくやってるよな』

『野党に叩かれても言い返すの評価高い』

『当分は佐藤政権安定だろ』

『次も自由党でいいや』

『野党はいつまで仕事してますアピール?』

『あれ正直うざい』


否定的な声も混じるが、全体として与党支持が圧倒的だった。


「……っ」


誰かが息を呑む。


シエルは淡々と続ける。


「このように、佐藤政権の支持は盤石と言ってもいい状況です」


「……所詮、ネットの声だ」

誰かが鼻で笑う。

「ネットと現実は違うんだよ」反論が飛ぶ。


その瞬間、シエルは顔を上げた。


「その考え方こそ、ズレています」


静かな声だが、よどみはない。


「あなた方にすり寄ってくる声だけが、現実とは言い切れません」


タブレットを操作する指が止まる。


「ネットは国民の生の声です。実際に――選挙結果も、出ていますよね?」


次に映し出されたのは、投票行動とネット上の支持の相関データ。


一致率は、残酷なほど高かった。


「……」


誰も、言葉を失う。


会議室が、凍りつく。


「だが……我々を支持する書き込みもあるじゃないか!」

必死の反論が飛ぶ。


シエルは、ほんのわずか微笑んだ。


「では――“本当の現実”をお見せしましょう」


「“我々を支持しているように見える声”の正体も、見てみましょう」


彼女は、後ろを振り返る。


「カレン」


「はいっす!!」


元気いっぱいに手を挙げ、勢いよく壇上に駆け上がったのは

政調会長とペアリングしている奉仕種族、カレン・オリヴィアだった。


シエルは低い声で告げる。


「これから行うことは、オフレコでお願いします。」


「……法に触れるので」


議員たちがざわつく。


カレンは気にした様子もなく、USBメモリをPCに差し込み、

――エンターキーを叩いた。


次の瞬間。


モニターいっぱいに、書き込みデータが流れ出す。


投稿元IP、接続国、書き込み時間、使用端末――

情報が、滝のように可視化されていく。


野党支持を装った書き込みの多くが、

同一人物、あるいは同一拠点からの連投。

さらに――外国からのアクセスも、はっきりと示されていた。。


野党支持に見えた声の多くが、“国民ではなかった”。


「……な……」


「そんな……」


シエルが、静かに言い切る。


「我々を支持している“弱者”の多くは、

BOT、同一人物のなりすまし、そして某国の介入です」


言葉が落ちた瞬間、

ベテラン議員たちの顔から、血の気が引いた。


「現実は、見えましたか?」


シエルは淡々と続ける。


「一応、地球の技術では――今この瞬間も、

クラッキングされたとは気づかれません。ご安心ください」


「政権交代をしたいのですよね?」


その問いに、誰も否定できない。


「でしたら、近道は一つです」


「着実に、国民の信頼を得ることです」


「そうっす!そうっす!」


カレンが元気いっぱいに頷く。


「揚げ足取っても、ナナちゃんたちに論破されて終わりっすよ!」


「だったら、ちゃんと“国民の得”出したほうが早いっす!」


思わず、議員たちから苦笑が漏れた。


つい最近まで。

討論とは、与党の失点を引きずり出すための舞台だった。


――だが、今は違う。


「……そうだな」

「人気取りのパフォーマンスより、政策か」

「信用を取り戻す方が、よほど難しくて、よほど大事だ」


枝葉幹事長が、ゆっくりと立ち上がる。


「彼女たちの言う通りだ」


その声には、迷いがなかった。


「我々は、政権交代などという夢物語を語る前に――

まず、国民の信用を取り戻さねばならない」


議員たちが、次々と頷く。


資料を広げる音。

端末を操作する指の音。


そこには、かつてのような敵意も、焦燥もない。


与党では、ナナとアヤとルルナが。

野党では、シエルとカレンが。


立場も信条も違えど、

奉仕種族たちはそれぞれの“ご主人様”を支え、育てていた。


人間たちは、まだ気づいていない。


柔らかな声と微笑みの、その裏側で――

政治という巨大な歯車が、静かに、


“本当の意味で”回り始めていることを。


永井町の風景は、

誰にも気づかれぬまま、しかし確実に――変わり始めていた。

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