43話 変わり始める政治その2(改)
国会答弁、反省会(地獄)
国会答弁を終えた直後の首相執務室。
重たい扉が閉まった瞬間、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
だが――安堵は、長くは続かない。
佐藤総理はネクタイを緩めながら、隣に立つ少女へ視線を向けた。
ピンクのショートカット、派手なネイル、露骨なギャルスタイル。
だが彼女は、今日一日、総理の答弁を誰よりも厳しい目で見ていた存在だ。
「今日の答弁は、どうだった?」
少しだけ期待を含んだ声。
正直、自分では悪くなかったと思っている。
「かなり良かったと思うんだが?」
アヤは腕を組み、天井を見上げ、うーんと唸った。
数秒その沈黙が、妙に長い。、
「ん~……65点かなー」
「なっ!?なんでだ?」
佐藤総理は思わず声を上げた。
アヤは即答だった。
「背筋。もっと伸ばして。顎は引いて」
指で自分の姿勢を示しながら言う。
「堂々と答えなきゃダメっしょー。総理なんだから」
「むぅ……」
佐藤総理は、納得せざるを得ず低く唸る。
だが――反省会は、まだ序盤だった。
「あとさー」
アヤは首を傾げる。
「通知ない質問で、顔しかめたでしょ?」
「……」
「あれ、ないわー」
ばっさり。容赦ない一刀両断。
「アドリブもっと鍛えなきゃダメだねー、ご主人」
正論すぎて、言い返せない。
佐藤総理は、そっと視線を逸らした。
その横で。
「ナナ、僕はどうだい?」
高橋が、少し誇らしげに胸を張る。
「今回は一度も噛まなかったよ」
金髪ツインテールのナナは、にこりと微笑んだ。
高橋も、つられて笑顔を返そうとした――その瞬間。
「ないない。ないわー」
「……え?」
笑顔が凍る
「噛まなかったのはえらいけどさー」
ナナは指を振る。
「何回も下向きすぎー」
高橋の肩が、目に見えて落ちた。
ナナは、少しだけ声を柔らかくする。
「文書はあーしがまとめたけどさ」
「でもさ、それをご主人君が“自分で決めた答え”なんだから」
「いちいち紙見ないで、自信持って答えなきゃダメでしょー?」
「……」
反論できる要素が、ひとつもない。
高橋は恐る恐る聞いた。
「……点数は?」
「50点かなー」
その瞬間。
「よし!!」
佐藤総理が、小さくガッツポーズを取った。
だが即座に、アヤのジト目が突き刺さる。
「いやいやいや」
低い声。
「対して変わらないから。恥ずかしいからやめて」
佐藤総理は、そっと手を下ろした。
「では」
藤原が一歩前に出る。
胸を張り、自信満々だ。
「僕はお二人と違って、完璧でしたから」
「点数は良いですよね?」
その背後から。
「はーい♡」
薄桃色の髪を揺らし、ルルナがにこにこ近づいてくる。
「ご主人様はぁ……70点でーす♡残念でしたー♡」
「なぜだ!?」
藤原の顔が、目に見えて凍りつく。
「答弁は完璧なんですよー♡でもね?」
ルルナは指を頬に当てる。
一歩、距離を詰める。
「目が怖いんです♡」
「……」
「緊張すればするほど、眉間に皺寄って」
両手で眉を寄せる仕草。
「こーんな顔してたら、親近感ゼロですぅ♡」
満面の笑顔で、宣告。
「なので、大幅減点でーす♡」
三人は、ほぼ同時に崩れ落ちた。
「……彼女たち、厳しすぎだろ……」
佐藤総理が呆然と呟く。
「ですが……図星すぎて、何も言い返せません……」
藤原は力なく言う。
高橋は、完全に魂が抜けた顔で、椅子に座り込んでいた。
「はーい!」
空気を切り替えるように、アヤがパンと手を叩く。
「落ち込むのは後ねーご主人は、立ち姿から練習するよー」
「ご主人君はーまず答弁書、暗記から始めよっかー?」
ナナが高橋の肩をぽんと叩く。
「さぁ♡笑顔の練習しましょうかぁ♡」
「ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♡」
ルルナが詰め寄る。
三人は、同時に悟った。
――今夜も、帰れない。
諦めた顔で天井を見上げた、その時。
コンコン。
静かなノック音が、執務室に響いた。
三人が、同時にドアを見る。
空気が、また一段階、変わった。
――扉の向こうにいるのは、誰なのか。
続く。




