42話 変わり始める政治その1(改)
官邸、ギャルと書類と国家運営
奉仕種族の第一次派遣から、二週間。
佐藤総理、官房長官・高橋、内閣官房副長官補・藤原。
三人は未だに「なぜこうなった」と内心で呟きながらも、
どうにか現実を受け入れていた。
派遣直後の大混乱。
ノア・プレートとの連日の協議。
超法規措置という名の、綱渡りの制度設計。
そして何より――
ドタバタの末に成立してしまったペアリング。
それらが一通り落ち着いた頃、官邸には奇妙な日常が訪れていた。
「ねぇねぇ~」
金髪ツインテールのギャル風少女、ナナが官邸の一角を指差して笑う。
「あはは! なんで官邸なのに漫画あるの~?」
距離感ゼロで詰め寄られ、高橋は一瞬たじろいだ。
「い、いや……職員の私物だ。気にしないでくれ」
「へ~、意外~☆」
その少し離れたところでは、
「ねぇご主人~」
ピンクのショートカットを揺らし、アヤが佐藤総理の前でポーズを取る。
「このファッション、ダサくない?もっとあーしの美脚、活かせる服ないの~?」
「……ここは官邸だ」
佐藤総理は深く息を吐いた。
「ランウェイではない」
「え~、つまんな~い♡」
さらに背後。
「ご主人様ぁ~♡」
薄桃色の髪と、ぴょこんと揺れるアホ毛。
ルルナが藤原にしがみつく。
「もっと私のこと見てくださいよぉ~♡」
「……」
藤原は意図的に視線を外したまま、沈黙を貫く。
だが――耳まで真っ赤だ。
「高橋さん……」
かろうじて平静を装い、呟く。
「官邸なのに、いささか華やかすぎじゃないですか」
「無視しないでくださいよぉ~♡」
即座に抗議するルルナ。
「あはは……」
高橋は乾いた笑いを漏らした。
佐藤総理は、そっと目頭を押さえた。
――首相室には今日も、
書類の山とギャル語が飛び交っていた。
アヤが答弁書を片手に、ずいっと首相のデスクに身を乗り出す。
「ねぇご主人~、この答弁書のこの行、ダメっしょ☆」
「こっちの法案と、整合とれてないじゃ~ん♡」
「そんなはずは……」
高橋が慌てて書類を受け取る。
数秒、沈黙。
「……本当だ」
藤原の顔色が変わり、すぐに手帳を開く。
「関連法案の条文修正が反映されていませんね……今夜は徹夜ですか」
その瞬間。
「はーい!」
ソファで雑誌を読んでいたナナが、勢いよく立ち上がった。
「ご主人君、ナナにおっまかせ~♡ちゃちゃっと片付けちゃうね~!」
「ちょ、待て、それはまだ――!」
制止は、間に合わなかった。
ナナは答弁書をひったくり、指先を滑らせる。
文字列が次々と修正され、条文番号が揃い、注釈が補われていく。
――速い。
あまりにも。
数分後。
「はい、できた~☆ナナ、完璧っしょ~!」
差し出された書類を読んだ高橋は、言葉を失った。
「……整合が、全部取れてる」
藤原も覗き込み、息を呑む。
「過去答弁との齟齬、関連法案、国会想定問答まで……」
佐藤総理は黙ってページをめくり、静かに呟いた。
「……官僚試験トップ合格者が書いたようだな」
視線を上げ、ナナを見る。
「見た目は、渋谷を歩いていそうなギャルだが・・・」
「ひど~い♡」
ナナは笑いながら肩をすくめた。
その横で、
「む~っ!!」
アヤが頬を膨らませる。
「それくらい、あーしでもできるし!!」
「ねぇご主人~♡ あーしにも仕事ちょーだい!」
「私の方が、もっと完璧な答弁書作れます!!」
ルルナも負けじと主張する。
「……まず離れてくれ」
藤原は赤面したまま言った。
その日を境に。
佐藤総理たちは、
官僚に丸投げする前に、ナナたちに相談するようになった。
横も上も下も利害で繋がった官僚組織に頼むより、
余計な横槍も忖度もない。
早く、正確で、遠慮がない。
官邸は今日も騒がしい。
だが――
その中心で、国家は確実に回り始めていた。




