40話 ペアリング祭りの余波(改)
世界中で巻き起こった、第一次奉仕種族派遣によるペアリング祭り。
街に溢れかえった美少女の奉仕種族たちに、普通の男性から中年、
果ては老人に至るまでが翻弄されるという前代未聞の事態は、
瞬く間に世界規模の混乱へと発展した。
各国政府の窓口は苦情の電話で完全に麻痺し、その余波はノア・プレートにも及んでいた。
執務室の巨大モニターには、未読のメール、保留中の通話、
緊急要請のログが滝のように流れ続けている。
その前で、アーシグマ・プライムがパン、と手を叩いた。
「アリスちゃ~ん!みんなカンカンに怒って、苦情が山ほど来てるわよ~!?」
明るい声とは裏腹に、画面の情報量は完全に地獄だった。
ルビーは肩をすくめ、どこか楽しげに言う。
「地球じゃ電話回線がパンクしてるんじゃないかしら? 残念ね、ここじゃ起きないから、
溜まる一方だわ」
「技術がありすぎるってのも、考えものかもねぇ……」
ノワールがソファに沈み込みながら、ぼやくように呟く。
セレスは淡々とモニターを見つめたまま、事実だけを切り取る。
「地球の人たちも、たかだか数億人程度の女の子が来ただけで騒ぎすぎです。
器が小さいですね」
「ほんとそれよ」
ルビーが即座に頷いた。
「あたしたち、五十億人のお転婆娘相手に日常業務回してるのよ? ちょっと大げさすぎるわ」
――次の瞬間。
バンッ、と机を叩く音が執務室に響いた。
「呑気なこと言ってないで、ちゃんと対応してください!!」
アリスだった。
書類の束を抱え、珍しく声を荒げている。
「現場が混乱している以上、こちらが責任を持って調整しないといけないでしょう!」
その言葉で、空気がようやく引き締まった。
◇
その後、ノア・プレートでは各国代表を招いた緊急会議が開かれた。
議題はただ一つ――第一次派遣後の混乱への対策。
長時間に及ぶ協議の末、以下の決定が採択される。
・次回派遣は一旦停止
・派遣人数および名簿作成を必須化
・派遣人数は各国政府と奉仕国家の合意により決定
・未成年との性的接触を伴うペアリングは禁止
・誤っての接触(汗・血液など)は合法
・未成年への派遣は学習補助・生活補助に限定
・第一次派遣組には緊急永住権を付与、重婚も超法規措置として容認
・第二次以降の派遣は各国政府の判断に委ねる
この取り決めによって、ようやく世界は落ち着きを取り戻し始めた。
◇
執務室へ戻ったアーシグマ隊と、アリス、セイラ、マーヤは円卓を囲み、
情報整理を行っていた。
アリスは深いため息をつき、資料に視線を落とす。
「……やっと一段落しましたね。一時はどうなるかと思いました」
セイラは腕を組み、眉をひそめる。
「あいつら……旅立った後まで、派手にやらかしてくれたな」
アリスは口元に小さな笑みを浮かべ、からかうように言う。
「その割には、ちょっと嬉しそうじゃないですか?」
「なっ……!」
セイラは一瞬で顔を赤くし、声を裏返らせた。
「そ、そんなことはないぞ!!」
マーヤは椅子にもたれかかり、のんびりと言う。
「まあまあ。結果的には話まとまったんやし、ええんちゃう?」
だがセイラは納得がいかない様子で、眉を寄せる。
「それにしても……だ。
そもそも、なぜ第一次派遣が、あんな事態になったんだ?」
アリスは資料をめくりながら、首を傾げた。
「そういえば……あの時、感傷に浸っていて流してしまいましたが。
派遣を最初に進めたのは、誰だったんでしょう?」
セイラが鋭い視線を向ける。
「アリス、お前が決裁したんじゃないのか?」
アリスは即座に首を振った。
「いいえ。私は出していません」
ルビーが手を振りながら言う。
「『派遣が決まったから輸送船を用意して』って言ってきたの、アリスちゃんじゃないわよ?」
セレスも淡々と続ける。
「命令系統上、アリスさんの署名は確認されていません」
セイラの表情が険しくなる。
「……じゃあ、誰なんだ?」
アリスは小さく眉をひそめ、恐る恐る口にする。
「まさか……マーヤさん……?」
「ちゃう!!」
マーヤは即座に両手を振った。
「ちゃうちゃう!! 今回はほんまにうちちゃうで!!」
アリスはジト目でマーヤを見る。
「マーヤさんじゃないとしたら……いったい誰が……」
セイラは考え込み、そして、はっと息を呑んだ。
「……マーヤ以上に、はた迷惑な奴……?」
その瞬間――
バタン!!
勢いよく扉が開いた。
「そう!! この僕さ!!」
舞台役者のような身のこなしで、長い金髪を揺らしながらレオナが颯爽と現れる。
その顔は、悪びれないどころか誇らしげですらあった。
執務室の空気が、一瞬で固まる。
アリス、セイラ、マーヤ。
三人は揃って、深いため息をついた。




