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39話 ドタバタラブコメの片隅で・・・(改)

世界は完全に、ペアリング祭りの渦中にあった。


街を歩けば、通りの角ごとに、カフェのテラスごとに、海辺や公園のベンチのそばに、

奉仕種族の少女たちが現れる。


小柄であどけない笑顔、ギャル風のテンション、清楚な雰囲気……その形態は千差万別。

だが彼女たちの目的は一つ、


目の前の男性――あらゆる年齢、あらゆる容姿――を見定め、ペアリングを迫ること。


――そして、男性たちはもう、逃げられなかった。



駅前のロータリー。


銀髪の少女に腕を絡め取られ、顔を真っ赤にした青年が、情けない声を上げる。


「俺……俺の遺伝子が……そんなに良いのか……?」


困惑と、わずかな誇らしさと、どうしようもない欲が入り混じった目。


銀髪の少女は首をかしげ、柔らかく微笑んだ。


「うん。十分だよ?」


「おにーさん、今日から私のご主人様♡」


小悪魔系の奉仕種族が、微笑みながら青年の手を握り、淡い光が手の甲を包む。


ワイドショーのスタジオ。


巨大モニターには、街中で発生しているペアリング現場が次々と映し出される。


女子アナウンサーは画面を凝視し、驚愕と興奮が入り混じった声を張り上げた。


「先日、地球への受け入れが発表された奉仕種族の女の子たちが、街中に溢れかえっています!!」


一拍置いて、素直な本音が漏れる。


「……っていうか、近くで見ると、本当にかわいいです。

奉仕種族に男性がいないのが悔やまれます!!」


スタジオが一瞬、妙な空気になる。


その空気をぶち壊すように、現場ディレクターの怒声が飛んだ。


「おい!! あっちだ!!」


モニターの外。


ふくよかな体型の女性ディレクター、渡辺が、フロアを指差す。


「チー牛みたいな顔の男に迫ってる銀髪の奉仕種族の子! そこ!! もっと寄れ!!」


カメラマンの片山は、大学時代ソフトボール部で鍛え上げた腕で、

重たい業務用カメラを必死に振る。


「え、でも……あっちのイケメンと美少女の組み合わせも、絵になりませんか?」


渡辺は鼻で笑った。


「馬鹿!!」


即答だった。


「あんなの映して誰が喜ぶのよ。いい? ぶっさいくな男に美少女が詰め寄ってる絵。それが正解なの」


片山は目を瞬かせる。


「……正解、ですか?」


「そう。男性視聴者は『俺にもチャンスあるかも!?』って勝手に希望持つ。

女性視聴者は『あんな女に鼻の下伸ばして、気持ち悪』って怒る」


渡辺は笑いながら言い切った。


「で、余裕のある女は『あんな男選ぶとか、見る目なさすぎ』って嘲笑する。

全方位で感情が動く。視聴率爆上がり」


片山は言葉を失い、ただ頷くしかなかった。


「今どきテレビ見てる層なんて、単純でアホで感情的なのよ。それでいいの。

それが商売」


渡辺は再び指を突き出す。


「おい!! 次はあっち!! 美少女に囲まれて固まってるおっさん!!」


モニターに映るのは、汗だくで赤面し、口を半開きにして目を泳がせる中年サラリーマン。


銀髪、ツインテールの小悪魔、ギャル系の明るい少女たちが、腕を取り囲んで離さない。


「女子は限界まで可愛く!! 美人に写せ!!」


「何もしなくても、すでに可愛いんですが……?」


片山が小声で言うと、


「だからよ。恩は売っとかなきゃ」


渡辺は平然と答えた。



スタジオでは、コメンテーターたちが大荒れだった。


「いやぁ、地球の男全員にモテ期到来、みたいな感じですか?」


男性コメンテーターが半笑いで言えば、


「こんなんされたら、地球の女に興味なくなるんちゃいます?」


男性芸人が余計な一言を添える。


即座に、女性陣が噛みついた。


「はぁ!?」

「このロリコン野郎!!」

「男って……ほんと最低!!」


罵倒と怒号が飛び交い、番組は完全に放送事故寸前。


SNSでは炎上系配信者が大喜びで煽る。


《地球の女、終わったわー》

《奉仕種族に勝てる女、いないでしょ》


コメント欄は地獄絵図だった。



一方、街中ではペアリングの嵐は止まらない。


普通の男性、非モテ系、サラリーマン、老人……見境なく、奉仕種族の少女たちは奔走する。


「おにーさん、今日から私のご主人様ね♡」


「わたしのことも、よろしくお願いしまーす♡」


世界中で同時多発的に繰り広げられる、まさにドタバタラブコメ・ハーレムパンデミック。

街もSNSもテレビも、そして視聴者の心も――完全に混乱の渦に巻き込まれていた。


「――はい、スタジオ中継終わりましたー」


現場に声が入り、ようやく緊張が解ける。


片山はカメラを下ろし、渡辺に小声で聞いた。


「……今日、女性クルー多くないですか?」


渡辺はニヤリと笑う。


「そりゃそうよ。局の男ども、ペアリング怖くて外出たがらないんだから」


「仕事、全部あたしたちに回したの」


片山は納得したように言った。


「ああ……だからベテランの阿部さん、来なかったんですか」


「そう。嫁も子供もいるからね」


渡辺は肩をすくめる。


「菅プロデューサーがさ、血の涙流しながら土下座してきたのよ。

『頼むから代わってくれ』って」


その瞬間、心の中でガッツポーズした、とあっけらかんと言う。


そこへ女子アナが近づいてきた。


「うちの男性陣も、今日は外出拒否でしたよ」


渡辺は笑った。


「この騒動、しばらく続くわ。あたしたちが手柄上げるチャンスよ」


「おお……」


片山と女子アナが、思わず声を揃える。


「受付とか、アナウンサー志望の若い子たちは戦々恐々だけどね」


渡辺は最後に、にこりと笑った。


「あたしたちにとっては、奉仕種族様様。感謝しないと」


片山が思い出したように言う。


「あー……だから、あの子たち可愛く映せって」


「そう」


渡辺は即答した。


「借りは返さなきゃ」


――こうして、

ペアリング祭りという未曾有の混乱の裏側で、

思わぬ形で“女性の活躍”だけが、着実に増えていっていた。


世界のドタバタラブコメのような混乱の中こんな光景も繰り広げられた。


ある一般家庭


小さな住宅街の一角、少し古びた家のドアの前で、母親はため息混じりに語った。

「うちの子はねぇ、もう10年も部屋に引き籠って出てこないんだよ……別の子探したほうがいいんじゃないかい?」


すると、そこに一人の少女――ノアがすっと立っていた。

小柄で清楚な雰囲気、透き通るような笑顔を浮かべ、母親の視線を受け止める。


「いいえ、お母さま。私のご主人様はこの方しかおりません……ご主人様がお部屋から出てくるまで、寿命が尽きるまでお仕えします」


母親は驚きつつも、少し戸惑った表情を浮かべる。

「いやいや、うちの子のせいでそんな苦労させられないよ……」


ノアは首を振り、瞳を真剣に輝かせる。

「お母さま、苦労ではありませんよ?お母さまもパートに出かけられるのでしょう?

お家のことも、ご主人様のことも、私に任せてください」


母親はじっとノアを見つめ、しばらく考え込む。

「そうかい……。ああんたの子と信じて、任せてみようかね……」


ノアはぱっと笑顔を広げ、丁寧に一礼する。

「はい、このノアにおまかせください!!」


母親は安心したように微笑み、ドアを閉める前に声をかけた。

「わからないことがあれば、電話しておくれよ?」


ノアはにっこりと応える。

「はい、いってらっしゃいませ、お母さま♡」


母親は小さく手を振り、パートに出かけていった。

家の中には、これから始まるノアと少年の静かで穏やかな日常の気配だけが残る。


ある病院


病院の一室。白いカーテン越しに差し込む午後の光。

母親は深いため息をつき、息子のベッドの脇に立つ。

「うちの子は、この通り自閉症だよ?とてもあんたのご主人様なんて務まらないよ……」


その視線の先には、静かに微笑む少女――リナが立っていた。

淡い光を纏った彼女は、まるでこの世界に溶け込まない特別な存在のようだ。


「そんなことはないさ。彼の遺伝子はとても輝いてるよ」


リナは少年の目をじっと見つめ、優しく手を差し伸べる。

「さあ、私のご主人様……私とペアリングしておくれ?」


少年は戸惑いながらも、指先を差し出す。

その瞬間、リナの手と少年の手が触れ合うと、淡い光が二人を包み込む。

リナの手の甲に、神秘的な紋章が浮かび上がった。


「ほら……できた……」


リナはにこりと笑う。その微笑みに、少年の心の奥底に閉じ込められていた想いが、すっと届く。

リナはその瞳を潤ませながら、少年の気持ちを手に取るように理解する。

「ああ、ペアリングをしたおかげかな……ご主人様の気持ちが手に取るようにわかるよ……」


リナは少し悲しそうな表情でつぶやく。

「ご主人様はね……僕がこんな状態で、いつも迷惑かけてごめんねって言ってるよ……」


母親は言葉を失い、涙があふれる。

「そんな……!?ああ、私はお前が生まれて迷惑だと思ったことなんて、一度もないよ!!」


少年は「あ……あ……あ……」とたどたどしく言葉を紡ぐ。


母親は少年に問いかける。

「息子はなんて言ってるんだい?」


リナは微笑み、手をそっと少年に添えながら答える。

「これからは、この私リナがいるから大丈夫だよ、だってさ!私がご主人様とお母上の橋渡しをしようじゃないか!!」


母親は堪えきれず涙を流しながら、リナと息子を抱きしめる。

「ありがとう!!ありがとう!!」


リナは静かに微笑み、少年の小さな手を握ったまま、優しく母親に微笑み返す。

世界が混乱していても、この小さな一室では、確かに温かい奇跡が生まれていた。


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