38話 世界は奉仕種族の女の子に囲まれた
20XX年――世界は変わった。
いや、正確には「男性たちの日常が完全に崩壊した」と言うべきか。
海に、街に、森に、学校に――あらゆる場所に奉仕種族の少女たちが現れ、
男性の視界を埋め尽くしていた。
第一次奉仕種族の地球派遣は、瞬く間に全世界を混乱に陥れた。
いや、むしろ“日常を壊した”と言った方が正しいかもしれない。
通学路を歩く、どこにでもいる冴えない男子――
その前に、ふわりと一人の少女が現れた。
「あなた、あたしのご主人様ですね?」
男子は立ち止まり、目を瞬かせる。
「え……な、なに……?」
クラスメイトたちも目を丸くして固まる。
「え、マジで?ご主人様……?」
男子は思わず後ずさりしたが、少女はにっこり笑って手を差し伸べる。
「さぁ、早くペアリングしなさい♡」
その横では、気の弱そうな中年男性の前に、銀髪ショートのヤンキー少女が立ちはだかっていた。
「ヒャッハー!ここを通さないぜぇ!通りたいなら、おとなしくあたいとペアリングしな~!」
男性は思わず立ちすくむ。
「えっ、ちょ、ちょっと待って……朝っぱらからなにこれ……?」
だが周囲を見渡せば、街のあちこちで同じような光景が広がっていた。
通勤途中のサラリーマンたちも少女たちに囲まれている。
「な、なんだこれは……おやじ狩り……?」
そんな言葉が思わず口をつく。
しかし声の端に混ざる少女たちの声は、どうやら“おやじ狩り”とは少し違うらしい。
「ジャンプしてみろよ、おっさん!」
銀髪ツインテールのアンナが挑発する。
男性はおずおずとジャンプした。
「っか~、たまんねぇ匂いさせやがって、涎が止まんねぇぜ」
黒髪鋭眼のルチアは、甘くも野性的な声で囁く。
「おいおっさん、いい遺伝子の匂いプンプン振りまきやがって、
あたしのこと誘ってんのかぁ?あ~ん?」
赤毛ポニーテールのレノは、無邪気な笑顔を浮かべながら手を差し伸べる。
「さっさと俺たちとペアリングしなよぉ?かわいがってやっからよぉ?」
白髪ツインテールのエリィは、まるで甘い囁きで男性を包み込むように言った。
「大人しくペアリングしたほうがいいよ?痛いより気持ちいいことのほうが好きでしょ~?」
――ここは、まさにおやじ狩りならぬ“ペアリング恐喝”の現場だった。
周囲の歩行者や通勤客も立ち止まり、目を丸くしてその光景を見守る。
「な、なんだこれ……ニュースで見たやつだ!」
「いや、こんな朝っぱらから一体何が起きてるんだ……?」
動画は瞬く間にSNSで拡散された。
コメント欄は騒然となり、話題は一気に「美少女ジード軍団」の登場に集中する。
「美少女ジード軍団wwww」
「こんなジードなら俺も囲まれてええええ」
「マジで現実?夢じゃないよね……?」
街中の男性たちは混乱しつつも、心のどこかで興奮していた。
「俺も……あの中に入れられるのか……?」
ある老人の家
玄関のベルが鳴った。
「ピンポーン」
ドアを開けると、そこには小柄で笑顔が眩しい少女――ミーナが立っていた。
「私は奉仕種族よ、おじいちゃんのお世話はあたしにおまっかせ~♡」
老人は目を丸くして後ずさる。
「奉仕……?ボランティアかのう?ばあさ~ん!!ボランティアの女の子が来とるぞ~!!」
ミーナはくるりと体をひねり、元気いっぱいに手を差し出す。
「違う違う、おじいちゃんが私のご主人様になるの!!さぁ、ペアリングしましょ~♡」
老人は慌てて後ろに下がる。
「ちょっ……待て、わしには婆さんが――」
その瞬間、ミーナの唇が老人に押し付けられ、無理やりキスされる。
「ぎゃあっ!?」
住宅街に響き渡る老婆の絶叫。
「じいさーーーーーーん!!」
その声を背に、ミーナの手の甲が淡く光り、まばゆい紋章が浮かぶ。
「おじいちゃん、これからよろしくね♡ついでにおばあちゃんも♡」
老人は混乱しつつも、どこか嬉しそうに呟いた。
「いや……わしの人生、最後にこんな日が来るとはの……」
ある若夫婦宅
次の現場は、郊外の住宅街にある若夫婦の家。
玄関先には二人の奉仕種族が立っていた。
ギャルっぽいリアナは明るくにっこり笑う。
「おっは~!ここからめっちゃいい感じの遺伝子感じたから来ちゃった♡」
小悪魔っぽいエリナは、猫のように目を細めながらクンクン嗅ぐ仕草をする。
「うんうん、ここいい匂いの遺伝子の匂いするよね~?」
夫は眉をひそめ、息をのむ。
「う……噂の奉仕種族が家にも来やがった……」
リアナは胸を張って、ふわりと上目遣いで迫る。
「え~、うちらのこと嫌い~?」
エリナはさらに甘い声で囁く。
「おにーさん、あたしのこと嫌いですか~?」
その目はウルウルで、上目遣い。夫は思わず鼻の下を伸ばす。
すると妻が鬼のような形相で叫ぶ。
「ちょっ、なにしてるのあんた~!!」
赤ん坊が泣き出したその瞬間、リアナは迷わず家に上がり込む。
「あ、泣いちゃった♡よーし、泣き止ませちゃうからね~」
赤ん坊の頬を優しく撫でると、涙はたちまち止まり、笑顔に変わる。
「や~ん、この子笑うとめっちゃ可愛いんですけど~♡」
リアナの手の甲が淡く光り、紋章が浮かぶ。
「んー?うちのご主人様、この子?まあ、かわいいからいっか~♡」
妻は激怒しつつも、その目の前で赤ん坊が笑っていることに動揺する。
「ちょっと、何勝手に入ってるのよ!!……嘘!?人見知り激しい子なのに笑ってる……!?」
リアナはくすくす笑いながら、赤ん坊をあやしつつ妻に言う。
「も~、たっくんのママもそんな怒んないでよ~。たっくっんがまた泣いちゃうじゃ~ん♡」
妻は顔色を変え、息を詰める。
「たっくん、たっくんって……うちの子を……なんで名前がわかるの……?」
リアナは肩をすくめて愛らしく首を傾げる。
「え~?なんでだろ~?勝手に流れ込んできたって言うか~、わかるって言うか~、愛ってやつ~?」
夫は頭を抱え、半ば諦めた声で呟く。
「うちの息子が……ペアリングしちまったのか……?」
エリナは夫の目をじっと見つめ、甘えた声で言う。
「ねぇ~おにーさーん、そっちはいいからあたしとペアリングしましょうよぉ~♡」
夫は慌てて後ずさる。
「いや……俺には妻も子供もい……!!」
エリナは涙目で上目遣い。
「やっぱりおにーさん、あたしのこと嫌いですか~?」
夫は困惑しながらも、思わず口ごもる。
「いや……そんなことは……ないけど……」
エリナは満面の笑みを浮かべる。
「本当ですか!?ならペアリングしましょ~♡」
勢いよく夫の頬にキスを落とすと、淡い光が包み、エリナの手の甲に紋章が浮かぶ。
「これでおにーさんは私のご主人様ですね♡末永くお願いしま~す♡」
妻は鬼の形相で怒り、声を張り上げる。
「あんた~!!」
夫は目を泳がせ、赤ん坊の手を握りつつ、状況を整理しようと必死だった。
世界は――男性が奉仕種族の少女たちに翻弄される、新しい日常の幕開けを迎えつつあった




