37話 母船の窓から見た、僕ら決意(改)
母船の一室。
巨大な観測窓の向こうには、音も温度も持たない漆黒の宇宙が広がっていた。
その静けさとは対照的に、
室内はいつも通り――やかましい。
「で?」
褐色の肌に、ピンクブロンドの髪を揺らす少女が、肘をついて問いかける。
マーヤだった。
「うちらの悲願は、まあ一応かなったわけやけど……」
視線の先には、ソファや床に思い思いに散らばる四人の奉仕種族。
シズク、リュナ、マリナ、レオナ。
奉仕種族の存続と政治運営を、事実上担っている中枢メンバーたちだ。
形式上、奉仕種族の意思決定は合議制だ。
だが実態は、自由奔放でちゃらんぽらんな個体が多く、
「めんどうなので、おまかせしまーす♡」
そんな一言で仕事が投げ合われることもしょっちゅうだった。
それでも結局は、
アリス、セイラ、マーヤ、そしてこの四人――
七名がすべての責任を背負い、文句を言いながらも職務を果たしている。
それが、奉仕種族の現実だった。
マーヤは続ける。
「で?お前らほんまに逝くつもりなん?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、
金髪を煌めかせた少女が、舞台役者のように大仰な動きで立ち上がった。
「ん?何言ってるのさ、マーヤ。イクのは僕たちのご主人様だよ?」
宝塚の男役を思わせる衣装に身を包んだレオナが、腰に手を当てて胸を張る。
得意げな笑顔。
「……は?」
マーヤが間の抜けた声を漏らす前に、
黒髪をきれいに結い上げた和装の女性が、ふわりと微笑んだ。
淡い水色の着物に身を包んだシズクが、京言葉でたしなめる。
「マーヤちゃん、いきなりイクなんて、はしたないわぁ」
穏やかな声。だが、目の奥には、ほんのりとした熱が宿っていた。
続いて、
くすんだ赤髪の短髪、鋭い目つきの褐色肌の少女が豪快に笑い声を上げる。
リュナだ。
「ははは!!HENTAIコンテンツのおかげで勉強は済んだぜ?俺様のご主人様、見つけたらイカせまくってやんよ!!」
力強く拳を握り、荒っぽい言葉遣いのまま、空気をどんっと揺らすように大きな胸が揺れた。
最後に、
金髪ロングの豊満な女性が、胸を揺らしながら一歩前に出る。
「あらあらうふふ、ご主人様をイカせるのもいいけど、愛しのご主人様にイカされるのもいいと思うわぁ」
柔らかく、艶めかしい微笑みを浮かべながらも、説得力のある声でマーヤを見つめる。
「……」
マーヤは、数秒、言葉を失った。
「お前ら……何の話してんねん!?」
一斉に、四人が固まる。
そして――
すぐに笑い声が弾ける。
「ナニって、ナニの話だろ?」とリュナ。
「もう、マーヤちゃんったら……いやらしいわぁ」とシズク。
「マーヤはスケベだなぁ!やーい、むっつりスケベー♪」とレオナ。
「からかっちゃダメよぉ?」とマリナ。
「お前ら何言うとるんや!!」
叫ぶマーヤ。
だが、四人はきょとんと顔を見合わせる。
「……?」
マーヤは頭を抱え、叫んだ。
「せやから!悲願が叶ったら、ペアリングせんと“死ぬ”って言うてたやん!!」
「ああ…その“逝くか”ってやつな」
リュナがぽんと手を打つ。
「紛らわしいこと言わないでよ、僕は心変わりしたんだからさ♪」
レオナが肩をすくめる。
「いきなりイク言わはるから、勘違いしてもうたわぁ」」
と、シズク。
「うふふ、そうねぇ」
マリナも同意する。
「そんな勘違いあるかーーーー!!」
顔を真っ赤にして叫ぶマーヤの怒号が、室内に反響した。
4人は思わず顔を見合わせて笑みをこぼす。
やがてマーヤが深く息をつくと、
4人は死ぬことをやめた理由を静かに語り始める。
最初に口を開いたのは、レオナだった。
「僕たちが聞いてた男性って、完璧な遺伝子、完璧な顔や体、頭脳も飛びぬけてるって話だったんだ」
「それは支配種族のことやん。地球の男とはちゃうやろ」
マーヤが言う。
シズクが続く。
「そう、それがね…生きる理由になったんやわぁ」
「地球人の男ども、見てみ?遺伝子、バラバラで一つとして同じやつがいねぇおもしれぇじゃん」
リュナが肩をすくめる。
「それにドジで間抜けでスケベで、何より可愛いのよねぇ」
マリナが微笑む
四人の視線は、遠く――
まだ見ぬ未来へと向けられていた。
マーヤは、苦笑する。
「同意するけど…その卑猥なもんと関係あるんか?実践したいとかそんなんちゃうやろな?」
とマーヤが指さす先には世界に誇る日本のHENTIコンテンツが積み上げられた山・・・
「わかってるじゃないか、マーヤ!!まさにその通りさ♪」
レオナは両手を大きく広げて舞台俳優のように誇示する。
「んな!?あほな!?」
マリナが首を傾げる。
「あらぁ?だめかしらぁ?」
「ダメとは言わんけどなぁ…もう少し感動的とか、なんちゅうか…」
シズクが、柔らかく言う。
「生きる理由に、感動も汚いこともあらへんわぁ。イクために生きてもええやないのぉ」
リュナが笑う。
「とにかく俺たちは生きるぜ!!イッて、イかせるためにな!!」
にやりと笑うリュナの目は、どこか少年のように輝いていた。
マーヤは、天井を仰いだ。
「ここにアリスおらんでよかったわ…卒倒するで」
4人の笑い声が、母船内に響き渡る。
「ハハハ」「うふふ」「おほほ」「アハハ」と、楽しげに――
窓の外、無限の宇宙は、何も語らない。
だが――
その静寂の中で、
彼女たちの未来だけが、確かに煌めいていた。




