34話 奉仕させろ――そして伝説へ・・・(改)
会議場は、再び静まり返った。
各国首脳は思い出す―― 彼女たちが飛来したとき、
どんな軍事行動も通じなかったことを。
そして人工島〈ノア・プレート〉で見た、常識を超えた科学力。
奉仕種族の圧倒的戦闘能力――あの恐怖が、再び首脳たちの胸を締め付けた。
議場に漂う緊張を、誰よりも理解しているはずのセイラは、
腕を組んだまま不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「……だから言っただろう。決断しろ、と」
その背後。 ひたり、と空気が変わる。
ぞくり、と背筋をなぞる殺気。
セイラが反射的に振り向いた。
「なんだ、アリスか……どっ!?」
一歩、無意識に後ずさる。 首脳陣がどよめいた。
そこに立っていたのは、髪で半分ほど表情を隠したアリスだった。
だが――目が、笑っていない。
「ア……アリス、どうした? 目が怖いぞ?」
静かな声が落ちる。
「正座」
セイラは耳を疑った。
この場で?
この世界会議で?。
「正座……って、あの正座か?」
「はい。あの正座です」
数秒の沈黙の後、セイラは観念したように膝を折った。
ぺたん。
世界の首脳たちは、完全に思考停止していた。
アリスは、にっこりと微笑み、静かに宣言する。
「セイラさん? 説教です♡」
ヒッ、と小さく声を上げるセイラ。
セイラの喉から、小さな悲鳴が漏れた。
そこから始まったのは、異星人による地球侵略でも、最後通牒でもなかった。
「セイラさん、今地球の人たちは大事なお話をしているんですよ? 『飽きた』はないでしょう」
首脳たちも視聴者も、そしてセイラ自身も、「え、そこ怒るの?」という顔になる。
「普段は真面目なのに、どうしてこらえ性がないんでしょうねぇ? あんなこと言ったら、みんなびっくりしますよ」
セイラは小さくなり、肩を落とす。
「マーヤが軽く脅せと言ってたから……」
小さな声で言い訳をするセイラに、アリスはぴしゃりと返す。
「今、マーヤさんは関係ありません!!」
「でも、セイラさんが根はいい子なのは知ってますよ。
ミントたちを手伝ったり、助けたりするのも知ってます。
でもマーヤさんが絡むと、どうしてこう、いつも……」
セイラは恥ずかしさで目を伏せ、 「もうやめてくれ……」 と半べそになる。
その頃。 外のモニター前では――
「腹痛い……あかん……」
マーヤが腹を抱えて笑っていた。
「マーヤさん、見てますよね?」
アリスが中継カメラに向かって、にっこり宣言する。
「後でマーヤさんも説教です。逃げないように♡」
「あかん……巻き添えやん……」
苦笑いのマーヤ。
この隙に逃げようとするセイラ。
しかし、アリスが目の前に立ちはだかる。
「逃がしませんよ?」
「慈悲はないのか?」
「ありません♡」
と、にっこり笑うアリス。
その瞬間、首脳の一人が噴き出した。
つられるように、笑い出す者が続出する。
モニター越しには、SNSの反応が次々と流れ込む。
『セイラ様、アリス先生に怒られるの巻www』
『なんだこれ……怖いと思ったら爆笑に変わった』
『アリス先生に怒られたい人生だった……』
『マーヤさん巻き添えwww』
『世界会議が学級会みたいになってるwww』
ネットも、テレビ視聴者も、大爆笑。
なぜ笑っているのかわからない。
キョトンと見つめ合う、アリスとセイラ。
「……なぜ、笑っているんでしょう?」
「さぁ……」
地球人たちは思った。
彼女たちは、未知の異星人ではない――
泣いて、笑って、失敗する、ただの同じ人間なのだと。
なら、こんな騒がしい隣人がいても、いいじゃないか、と。
その時、イギリス首相オリヴァーが、笑いながら眼鏡を直した。
「我が国は――彼女たちを受け入れます」
「初正座はきついからな。うちもだ」
アメリカ大統領が肩をすくめる。
「我が国もだ」
ドイツ首相が頷く。
「え、うちも? 大丈夫かな?」
日本の佐藤総理が振り返る。
「たぶん……?」
「多分、大丈夫です」
高橋と藤原の、曖昧な返事。
数国の拒否国はあったが、ほとんどの国が受け入れを表明した。
大勢は、決まった。
フランス大統領エミリーが、優雅に微笑む。
「アリスちゃん、セイラちゃんも反省してるし、もう許してあげましょう?」
「あっ……はい……」
状況を把握しきれないアリス。
「我が国も、もちろん受け入れますよ」
笑顔で宣言するエミリーに、アーシグマ・ノワールも声をかけた。
「雨降って地固まるね、よかったじゃな~い?」
こうして――
奉仕種族の地球受け入れは、正式に決定した。
そして最後に、エミリーが付け加える。
「ねぇ、アリスちゃん。この後、お部屋の見学、できるかしら?」
まだやってたんかい――と、地球中が総ツッコミを入れた。




