33話「我々に――奉仕させろ!!」(改)
会議場。 今日は本来、地球の命運を決める――
人類史に刻まれるはずの重大会議だった。
……少なくとも、議事録の表紙にはそう書かれる予定である。
「――だから言ってるでしょ! そんな存在を受け入れたら、女性の権利が脅かされるのよ!!」
最初に声を張り上げたのは、反対派の女性閣僚だった。
「脅かされる女性の権利って何よ。ほら、言ってみなさいよ!」
即座に、別の女性が噛みつく。
「女性の社会的価値や役割が奪われるでしょ!!」
「はぁ? 何言ってんの? むしろ私たち、楽になるじゃん。 介護も育児も一人で背負わなくてよくなるし、 彼女たちのおかげで女もガンガンキャリア積めるでしょ?」
「楽になるって何!? それって男に媚びるような真似を――!」
「媚びる? 彼女たち、自分の本能で奉仕したいって言ってたじゃん。 選択の自由、奪わないでもらえますか~?」
「それとこれとは別でしょ!!」
「何が別なの? また得意の論点すり替え? 要は彼女たちに嫉妬してるだけでしょ!! 顔もスタイルも勝てないもんね!!」
「そんなことありません!! 私たちは女性の立ち居場を守るための、 高尚な意見を言っているだけです!!」
「半べそで言っても説得力ないんですけどー?」
――完全に火に油だった。
怒号、嘲笑、ため息。 言葉は刃物のように飛び交い、 論理はとっくに机の下に落ちている。
もはや話題は、
社会構造
法制度
倫理
人類の未来
などではない。
誰が正しいかでもなければ、 何が最善かでもない。
「どっちがムカつくか」 「どっちが許せないか」
世界で最も高度な外交会議場は、
**ただの「女同士の喧嘩の現場」**へと成り下がっていた。
そのときだった。
イギリス首相のオリヴァーが、 ずれ落ちかけた眼鏡を慌てて押し上げながら立ち上がる。
「き、君たち、やめなさい! ここは落ち着いて話し合いを――」
言い終わる前だった。
「うるさい!!」
鋭い一喝。
「はぁ? あんたらの味方してあげてるのに、何文句言ってんの!?」
完全な流れ弾だった。男たちは即座に沈黙。 議場は女性たちの舌戦で揺れ、怒号が飛び交う。 テレビクルーもネット中継班も、息を飲むしかなかった。
そんな中―― ただ一人だけ、場の温度と無縁の涼しい声が響いた。
「あらあら、元気があってよろしいわねぇ」
フランス大統領、エミリーは、 騒然とする議場をよそに、優雅に紅茶を傾けていた。
「奥様ぁ、この紅茶どうかしら~? 地球に来てから、自家栽培した茶葉なのよ~♡」
声をかけたのは、アンドロイド――ノワール。
「あら、これ……あなたが栽培しているの?」
エミリーはカップを鼻先に寄せ、ふっと目を細める。
「香りも味も上品で、素敵ねぇ。お土産に、少しいただけないかしら?」
「いいわよぉ。色々育ててるから、好みの茶葉があったらプレゼントしちゃう~」
「あら嬉しい。ノワールちゃん、いい子ね?」
「奥様、あたしアンドロイドだから人間じゃないのよぉ?」
「あらあたしとしたことが失礼なこと言ってごめんなさいねぇ?」
「奥様とあたしの仲じゃなぁい♡」
――議場の修羅場とは、完全に別世界。
その様子は当然、世界中に配信されていた。
『大統領仲良くなりすぎwww』
『空気違いすぎて草』
『オカマとママ友感すごいwww』
バラエティ班では、ミントたちや慎、ヴィオラが和やかに取材に応じる。
マーヤはベンチに座り、彼らを監視しつつ、イライラするセイラを観察していた。
「セイラ……そろそろ動きそうやなぁ」
思わずニヤつくマーヤ。
そして―― 場面は、再び会議場へ。
「うちはねぇ、アリスちゃんみたいな方に来てほしいわぁ」
エミリーが、のんびりと言う。
「うち、子供いないから。娘ができたみたいで、楽しそうですもの」
「ご希望に添えるかは分かりませんが……」
アリスは丁寧に微笑んだ。
「奉仕種族は、みんな良い子ですから」
「良い子だけど、元気すぎるのが困るところよね~?」
ノワールが肩をすくめる。
「あら、元気なのはいいことよぉ? アリスちゃんも、ヴィオラさんも、とっても良い子だもの」
エミリーは朗らかに笑う。
「うちの旦那に来てくれる子も、きっと良い子よ」
会議場の混乱は、 彼女たちの間には一切届いていなかった。
アリスは、ふと違和感を覚え、
セイラへ視線を送ろうとした――その瞬間。
「――黙れ!!!」
一喝。会議場が瞬時に静まり返る。
セイラの瞳は氷のように光っていた。
「いつまでもダラダラと、くだらん議論を続けおって……」
低く、鋭い声。
「私は、飽きた!」
「く……くだらないですって!?」
「飽きったって……」
「確かに飽きたけども……」
「同調するなよ……」
ざわめきが広がる中、 セイラは一歩前に出る。
「議論はここまでだ! 地球人たちよ! 我々を受け入れるか拒否するか、今決めろ!」
「聞け! 我々は拒否されれば、この島を撤収してすぐに出て行く!」
エミリーが小さく呟く。
「あらあら、それは困るわね…… せっかく仲良くなれたのに、お別れなんてつらいわぁ」
首脳陣も女性陣も、アリスもセイラも互いに顔を見合わせる。
だがセイラはすぐに表情を引き締め、さらに告げた。
「だが貴様ら、よく考えろ! 我々が地球に来た時、いかなる攻撃も通じなかったことを!」
「ど、どういうことだ!?」
「何かするつもりなのか?」
「決まっているだろう?」
セイラは、にやりと笑った。
「拒否されれば――我々は、地球人の男性を全て貰っていく」
各国首脳陣の抗議が嵐のように飛ぶ。 だが、セイラは一切動じない。
「地球の男どもよ、聞け!!」
一拍。
「いや――」
その声は、甘く、冷たい。
「ご主人様たちよ、聞け!!」
――画面いっぱいに、セイラの顔が映し出される。
「我々に……奉仕させろ!!」
全国中継。ネットもテレビも、一瞬で固まった。




