31話 「世界中が祝福した日」(改)
リング中央は、異様な光景になっていた。
さっきまで武力デモンストレーションの余韻が残っていたはずの場所が、今や――どう見ても、結婚披露宴の空気だ。
歓声。拍手。祝福の叫び。 国籍も思想も関係なく、人類は今、ひとつの方向に盛り上がっている。
その中心で、セイラはマイクを手に、いつも通り淡々と告げた。
「約束通りペアリングするといい。これだけ大々的に宣言したんだ、止める人間もいないだろう」
一瞬の静寂。
そして――爆発。
『やれやれー!!』 『おめでとー!!』 『世界初だぞー!!』
ネットも報道陣も、完全にお祭り状態だった。 実況席ではアナウンサーが声を張り上げ、カメラはリングを逃さない。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
アリスが必死に割って入ろうとするが、両腕に絡みつく存在があった。
「やったねー! よかったね、ヴィオラちゃん!!」 「羨ましー!!」
ミントとルルナだ。完全に祝福側である。
物理的にも精神的にも包囲され、アリスは頭を抱えた。
「……誰か止める人はいないんですか……」
実況席からも熱い声が飛ぶ。
「古田です!! 私は今、猛烈に感動しております!! 若い二人が幸せになってくれることを願っております!!」
場内の熱気はさらに上がる。
マーヤが力いっぱい叫ぶ。
「地球人初のご主人様や!! ヴィオラー!! 幸せになるんやでー!!」
首脳席の女性たちも、もはや遠慮はなかった。
イタリアのソフィアが立ち上がる。
「早くペアリングしろー!!」
オーストラリアのゾーイが続く。
「幸せにしなさいよー!!」
スウェーデンのイングリッドは両手を広げた。
「あたしも恋がしたーい!!」
隣で見ていたイギリス首相オリヴァーは、困惑気味に小声で言う。
「……君たち、彼女たちに批判的だったのでは……?」
返答は、容赦なかった。
「それとこれとは別です!!」 「男のくせに野暮なこと言ってんじゃないわよ!! だからモテないのよ!!」 「恋する乙女は無敵です!!」
男性陣は一斉に黙り込む。 リング上を見ることしか、許されなかった。。
そして、ペアリングの瞬間が近づく。
ヴィオラは三浦慎を真っ直ぐに見つめ、声を低くする。
「じゃあ、ペアリングするからあんたの体液よこしなさいよ」
慎は一瞬ひるみ、赤くなりながらもぎこちなく手を差し出す。
「じゃあ……握手で……」
ヴィオラは眉をひそめて、不満そうに問い返す。
「キスしてくれないの?」
ネットのコメント欄は大騒ぎだ。
「キスしろ!」 「世界的瞬間だ!」
といった書き込みが飛び交い、報道陣もシャッターを切り、マイク越しに声を上げる。
慎は照れくさそうに笑い、真面目に答える。
「うん、もっとゆっくりヴィオラとは進んでいきたいからさ。まずは握手で」
ヴィオラは、
「はぁ、締まらないわね!!」
そう言いながらも、自然と笑みが零れていた。
その目には、隠しきれない嬉しさが宿っている。
慎は深呼吸し、力強く言った。
「これからよろしくね? ヴィオラ」
ヴィオラも応じ、手を伸ばして慎の手を取る。
「ええ。一生奉仕してあげるから覚悟しなさい? 返品は効かないんだからね!!」
二人の手が触れ合った瞬間――
指先から柔らかい光が流れ込み、二人の間に小さな紋章が浮かび上がった。
紋章は淡く輝き、掌にじんわりと温かさが広がる。
カメラはその光を逃さず捕らえ、世界中のモニターに映し出された。
会場中が息を呑み、続いて歓声と拍手が湧き起こる。
報道陣のキャスターも声を震わせる。
「歴史的瞬間です……! ペアリングが成立しました!」
アリスは目を細め、静かに呟く。
「やはり、地球の男性ともペアリングができるのですね……」
セイラは、わずかに口角を上げて答える。
「色々あったが、奉仕種族の希望が見えたな」
リング上の二人は目を合わせる。
紋章の光はやがて落ち着き、掌に小さな痕跡を残す――確かな証として、二人の間に宿った印。
外の世界では祝福の嵐が吹き荒れる。
SNSではハッシュタグがトレンド入りし、ニュースでは特集が組まれる。
軍の参謀たちは興奮冷めやらぬ中、真剣に意見を交わす。
文化人も、この出来事の意味を論じ始めた。
だがこの瞬間だけは、ただ――未来を誓う二人のものだった。。
その笑顔は、討論や憶測とは無縁の、純粋な「これから」を誓う笑顔だった。
小さな紋章の光が、二人の手の中でまだ淡く揺れている。
世界中の視線が注がれたこの瞬間は、やがて人々の記憶に残る一幕として刻まれるだろう。
こうして、奉仕種族と地球人の新たな関係は、
ひとつの小さな光とともに、幸福の中で静かに幕を閉じた。




