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30話 第三試合開幕・暴走と告白(改)

リング上の空気は、目に見えないほど張り詰めていた。


軍人・SP連合軍の面々が、円陣を組むように集まり、怒号と焦りが交錯する。


「無理だ、勝てるわけがない!」 「相手は怪物だぞ! 人間じゃない!」 「一度仕切り直す! 作戦を立て直すんだ!」


だが、その混乱をあざ笑うかのように―― 観戦しているネットは、さらに荒れていた。


『はよ始めろ!』 『地球代表弱すぎ!』 『ヴィオラ出せ!』


コメント欄はすでに火事場。 もはや理性よりも、“もっと見せろ”という欲望が支配していた。


そのとき――。


「――このままでは、一方的でつまらん!!」


低く、よく通る声が会場を切り裂いた。


ステージ袖から、マイクを片手に歩み出てきたのはセイラだった。


一歩、また一歩。 リングへ向かうその足取りは、ゆっくりで、堂々としている。


いつもの冷静沈着な表情は消え、 代わりに浮かんでいるのは――獰猛な笑み。


それは、まるで美しい獣。


理性と本能の境界線を踏み越えた者だけが浮かべる、危険な微笑だった。


ざわ……。


観衆が息を呑む。 だが恐怖より先に、別の感情が胸を打った。


――美しい。


ネットも、同時に沈黙し、そして爆発する。


『……え、綺麗』 『怖いのに美人すぎる』 『獣系ヒロインきた』 『これは惚れる』


セイラは、そんな視線を意にも介さず、淡々と言った。


「興ざめになるから黙っていたが……」 「ナナたちは、我々奉仕種族の中では弱い方だ」


その一言が、軍人・SP連合軍の心臓を直撃する。


――あれで? ――あれが、弱い?


「……あ、あれで……弱い方だと……?」


「奉仕種族の女は……化け物か……」


どこかで、誰かが呟いた。


セイラは満足そうに口角を上げる。


「ヴィオラ、リングに上がれ!」


「……はぁ? なんであたし?」


ヴィオラは腕を組んだまま、露骨に不機嫌そうな顔をする。


そう言いながらも、彼女は軽やかにリングへと足を踏み入れた。


その瞬間、セイラが続ける。


「ここからは、“地球人は武器あり”だ」


――ざわっ。


セイラが懐に手を入れ、取り出したもの。


拳銃。


本物だ。


それを――ためらいもなく、リング中央へ放り投げた。


カラン、と乾いた音が響く。


観客席が凍りつく。


「こ……これは!?」 「まさか本物!?」


「ふざけるな!!」


『ガチ銃!?』 『おい!? 死ぬぞこれ!!』


実況席で、マーヤがポテチをかじりながら目を輝かせる。


「またおもろいことになってきたなぁ~♡」


首脳席では、アリスが頭を抱えた。


「セイラさん……やっぱりやらかしましたね」


佐藤総理が立ち上がり、怒鳴る。


「おい!! 早く止めろ!! やりすぎだ!!」


高橋が即座に頷き、藤原とSPたちが走り出す。


アメリカ大統領ドナルドは豪快に笑った後、真顔になる。


「WWEでも見れないEntertainmentだが……」 「これはNot funnyだ。止めろ」


フランス大統領エミリーも青ざめて命じる。


「お願い、誰か止めて……」 「Oui, madame!」


だが――。


イタリア首相ルカが冷静に言った。


「おいおい、距離を考えろ」 「今から行っても、間に合わんぞ」


それでも、誰も引き下がらない。


「だからって、黙って見ていられるか!!」


ただ二人だけ―― ロシアのヴィクトルと、中国の李は、黙って成り行きを見ていた。


奉仕種族の“本当の戦闘能力”を、見極めるために。


その騒動の中、リングの端から声が飛ぶ。


「危ないよ! ヴィオラ! やめたほうがいいよ!」


三浦 慎だった。


「なに? 心配してくれてるの?」


ヴィオラが振り返る。


「当たり前だよ!!」


「あたし、得体の知れない宇宙人よ? それでも?」


「宇宙人とか関係ないよ!」


その瞬間、ヴィオラがニヤリと笑った。


「ふ~ん……これはある意味チャンスかもね」


「笑ってる場合じゃないよ~!!」


セイラは、躊躇する軍人たちに業を煮やした。


「撃てないなら私が撃とう。ヴィオラ、いいな?」


「はぁ!? なんであたしがそんな“めんどくさい”ことしなきゃいけないわけ?」


「め、めんどくさいって言った!? 今の聞いたか!?」


『#めんどくさいで済ます女』 『#新語大賞確定』


セイラは愉快そうに目を細める。


「ほう、条件を付ければやる気になるのか?」


ヴィオラは、指を伸ばす。


「そうね……」 「じゃあ、あたしが全部の弾を避けられたら――」


その指が、一直線に指し示す。


「そこの男と、ペアリングさせなさいよ」


指差されたのは、もちろん――三浦 慎。


「えっ!? また僕!?」


「その条件、飲もう。……少年、いいな?」


「え、ぼ、僕はもう少年って歳じゃ……」


「どうなんだ!!」


「えっと、その……」


三浦は、言葉を失い――


そして、世界中のネットが、同時に爆発した。


『ヴィオラの公開告白きたあああ!!』 『慎くん受けろ!』 『プロポーズ会場ここですか!?』


ほんの数分前まで、銃だの止めろだのと悲鳴が飛び交っていた会場は、 まるでスイッチでも切り替わったかのように一変した。


張りつめていた緊張は霧散し、 空気は一気に恋愛バラエティのそれへと傾いていく。


報道陣が率先して火をつけた。


「慎!! 受けてやれ!! 女の子が告白してんだぞ!!」


男性スタッフが叫べば、 女子アナや女性スタッフは両手を口に当てて黄色い声を上げる。


「キャー! 青春!」 「世界配信で告白とか強すぎる!」


今回は、完全に女性陣まで参戦だった。


イタリアのソフィアが立ち上がり、拳を突き上げる。


「ほら! 女の子が告白してるのよ!? さっさと答えなさいよ!!」


オーストラリアのゾーイも負けじと声を張り上げた。


「男なら腹くくれコラ!! 逃げんな!!」


さらにスウェーデンのイングリッドまで席を蹴って立ち上がり、


「そうよそうよ! 男見せなさいよ!!」


と、完全にヴィオラ応援団に回る。


「や、やめたまえ君たち!!」


イギリス首相オリヴァーが眼鏡を押さえながら必死に制止する、


「落ち着け!! はしたない!!」


と続いたドイツ首相マティアスの一喝は、逆効果だった。


「うるさい鉄仮面爺!!」 「セクハラ爺!!」 「むっつり爺!!」


容赦のない罵声が飛ぶ。


「うわあああん!!」


オリヴァーとマティアスは、同時に崩れ落ちた。


アリスはその惨状を見ながら、ため息をついた。


「……地球人社会、混乱中ですね」


――そして、視線は再びリングへ。


三浦 慎は、目の前の少女を見つめていた。


無表情で、尊大で、どこか不器用な奉仕種族の少女。


「ヴィオラは……僕でいいの?」


恐る恐る投げた問いに、ヴィオラは鼻で笑う。


「はぁ? あんた以外の男はこのヴィオラ様がごめんよ!」


その言葉に、慎の胸の奥が熱くなる。


顔を上げ、はっきりと叫んだ。


「うん!! 僕、ヴィオラとペアリングするよ!!」


「それでいいのよ!!」


ヴィオラは満足そうに頷いた。


セイラが口元を歪めて笑う。


「どうやら、答えは出たようだな」


「セイラちゃん! 危ないからダメよぉ!!」


甲高い声とともに、アーシグマ・ノワールがリングに乱入した。


「跳弾防止の壁、ちゃんと置いてちょうだい!!」


ノワールが指を鳴らすと、リングの周囲に透明な壁が展開される。


『そっちかい!!』


会場とネットが、見事なまでに同時ツッコミを入れた。


セイラは眉をひそめる。


「偽物だと思われたら侵害だ。……確認しておくか」


バン! バン! バン!


壁に弾痕。


誰もが理解した――本物だ。


「残り十二発だ、いいな?」


セイラが淡々と告げる。


ヴィオラは肩をすくめた。


「早く撃ちなさいよ」


銃声が響く。


ヴィオラは軽やかに跳び、 くるりと宙返りして弾をかわす。


おおおおお!! と歓声。


十一発目――回避。


十二発目――完璧な軌道。


だが――。


バンッ!!


衝撃音とともに、ヴィオラの身体が吹き飛んだ。


会場もネットも、テレビも一斉に叫ぶ。


『えっ!?!?!?!?!?』 『やばいやばいやばい!!』 『撃たれたあああ!!』


慎は我を忘れてリングへ駆け出す。


「ヴィオラ!! ヴィオラァ!!」


抱き起こし、涙声で叫ぶ。


「早く!! ヴィオラを助けてよ!!」


慎の視線が、セイラを射抜く。


セイラは腕を組んだまま。


「いい表情だ……ヴィオラが選んだだけあるな。だが少年、勘違いするな」


「なんでだよ!!」


「ヴィオラ、ふざけるのも大概にしろ! 愛しのご主人様候補が泣いてるぞ!!」


ヴィオラが、むくりと起き上がる。


「なによ~。せっかく世界中が見てるんだから、ちょっと盛り上げてあげただけじゃない」


「ケガは!? ケガはないの!?」


「そんなに心配しなくても大丈夫よ」


そう言って、ヴィオラは口から何かを吐き出した。


転がったそれを拾い上げた軍人が、青ざめる。


「こ、これは……弾丸だ……!」


「歯で受け止めたのか……!? 信じられん……」


「奉仕種族って本当は戦闘民族なんじゃ……」


「確かにサ※ヤ人っぽいですけど……」


そのとき。


アリスがマイクを持って前に出る。


「ご安心ください。満月を見てお猿さんになったり、尻尾が生えたりはしません」


そう言って尻を向けかけた瞬間――


「アリスちゃんダメ~!! 女の子がそんなはしたないことしちゃメッ♡!」


アーシグマ・プライムが飛び込んできて、ギリギリで阻止。


アリスは顔を真っ赤にして、


「し、失礼しました……」


と照れ笑い。


――その笑顔に、世界中の男が恋に落ちたという。

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